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アイビスの帰省③

「竜現れたですって!」


 竜と言えばリルティアで登場するモンスターの中ではブレスと噛みつきの絶大な攻撃力と鉄よりも固い防御力絶大の鱗を持つ最強クラスのモンスター。


 生半可な攻撃は一切通用せず、返り討ちにあう。


 乙女ゲーの『リルティア王国物語』だとルートによってはラスボスとして登場する敵なの。


 その竜がなんで1年生の夏休みに登場するのよ……。


 こんなの勝てるわけ無いじゃない。


 でも、わたしの隣にはやる気満々の脳筋がいた。


「アイビス様、アイがあの竜を倒してきます」


 アイはそう言うと身を屈めて渾身の力で地面を蹴り、とんでもない大ジャンプをした。


「ちょっと待って。あんなのに勝てるわけ無いじゃない!」


 わたしの警告を聞く前にアイは飛び上がっていった。


 そしてアイは空の霞を突き抜け竜にしがみ付くとボコスカ殴り始めた。


 あれ?


 意外といい感じで戦えてる?


 空からは竜の鱗がパラパラと落ちてきていた。


 竜はアイだけで倒せるかも……。


 ミノタウロスたちはアイの戦いに見入って空を見上げていた。


 わたしは足の止まっているミノタウロス村の住民に避難指示を出す。


「命が惜しかったら竜との戦いなんて見てないでさっさと逃げる逃げる!」


 それを聞くと住民たちは避難を再開する。


 上空を見るとアイは竜の鱗を引っぺがしながら殴りまくっていたわ。


 固い竜の鱗を剥がしてしまえば防御力は激減で、アイの攻撃も普通に通るわね。


 いい作戦だわ。


 それに竜の身体にへばり付いてるので竜の噛みつき攻撃もブレスも届かない。


 これは勝てるかも。


 そう思っていたわたしがいました。


 ブレスも噛みつき攻撃も届かないと悟った竜は次なる手段に出た。


 尻尾攻撃だ!


 アイは背後からの竜の尻尾攻撃の不意打ちを受けて「あ~!」と悲鳴を残して、お空のお星さまとなってどこかへ飛んで行ってしまった。


 あの感じだと突き飛ばされただけで大けがをしてることは無いと思うけど、ずいぶんと遠くに飛ばされたみたいですぐには戻って来れなさそうね。


 わたしも逃げないと……、と思ってたんだけど少し遅かった。


 竜は今度はわたし目掛けて降りてきた。


 鼻をビクつかせ辺りを見回した後、わたしがミノタウロスミルクを持っているのに気が付いたらしく話し掛けて来た。


「人間! そのミノタウロスミルクを我に寄こせ!」


 そんなこと言われてもこれはアイスの材料だから渡すわけにはいかない。


「無理!」


「なぜだ! 我はこの森の王、竜王だぞ!」


「こっちにも渡せない事情があるのよ!」


「ならば力ずくで奪うまで!」


 竜はドラゴンブレスの構え。


 竜は大きく息を吸い込んだ。


 これはヤバイ。


 ヤバすぎる。


 灼熱のドラゴンブレスを食らったら骨ひとつ残さずに燃やされ尽きるわ。


 わたしは意地を張ってミノタウロスミルクを渡さなかったことを激しく後悔した。


 その時……どこからか聞こえる救世主の声!


「アイアンロックシールド!」


 声の主はわたしに覆いかぶさり、一瞬で障壁を張りドラゴンブレスからわたしを守ってくれた。


「アイビス様、だいじょうぶですか?」


「ありがとう、助かりました」


 わたしを助けてくれた恩人の顔を見ると知っている顔でわたしは驚いた。


「ビ、ビリーくん?」


 わたしを助けてくれた恩人はビリーくんでした。


 *


 ビリーくんと障壁と言う狭い密室にてわたしに覆いかぶさる感じで地面に壁ドンの体勢になっている。


「こんな狭い障壁しか張れなくてすいません」


 ビリーくんが障壁の魔法を使えたなんて意外だわ。


 わたしは素直に褒め称える。


「ビリーくん、魔法を使えるようになったのね。凄いわ」


「使えませんよ」


「え? じゃあこの障壁は?」


「護符ですよ」


「護符なの?」


「はい」


 ブレスが効かないと悟ったドラゴンが外からガシガシと爪で引っ搔いてるけど、全然障壁が破られる気配はない。


「ドラゴンにも耐えられるこんな固い障壁を張れる護符なんて聞いたこと無いわ」


「僕が開発した護符ですからね」


 そう得意気に語るビリーくん。


 ビリーくんはリルティアには無いはずの道具使いのジョブになっていた。


 ビリーくんて地味キャラだけど物凄い努力家でそこが好きなリルティマニアも少数だけどいる。


「アイビス様に護符を貸してもらってから護符の面白さに目覚めたというか、僕でも強い魔法を使える護符の可能性に興味を持ったんです」


 そうなんだ。


 ビリーくんは語り続ける。


「これは絶対に壊せない強度を持つ障壁です。ただ、この護符は開発中で色々と欠点があるんですよね。一つは障壁の狭さでして、もう一つは効果時間が短い事ですね」


 この狭い空間で二人で居ると、地味なビリーくんでも意識してしまう。


 ビリーくんもなんか申し訳なさそうにしてる。


「こんな狭い障壁の中で女の人に覆いかぶさるような体勢をしてすいません」


「ビリーくんは謝ることはないの。わたしを助けてくれようとしたんでしょ?」


「確かに助ける為に覆いかぶさったんですけど、これって恋人がする壁ドンて体勢ですよね?」


「か、壁ドン?」


 ビリーくんがとんでもない事を言うので思わず声が裏返った。


 ビリーくんは続ける。


「恋人でもないのに、こんな綺麗な人に壁ドンをしてしまってすいません」


「綺麗!?」


 またもや声が裏返り。


 容姿を褒められたのなんて初めてだったから思わず顔が赤くなってビリーくんのことを見てられなくなった。


 やめてよ、そんな告白みたいなことを言われるとビリーくんのことを意識しちゃう。


 わたしはこの胸の高鳴りをごまかす為に別の話題を振った。


「この障壁の効果時間はどれぐらい?」


「大体1分です。もうそろそろ切れる時間かな?」


 えっ?


 それってめちゃくちゃヤバいじゃん。


 いま障壁が消えたらドラゴンに燃やされちゃうよ。


 そして無慈悲にも障壁は消えてしまった。


 ドラゴンに燃やされる!


 そう思ったんだけど、目の前にはドラゴンはいない。


 辺りを見回してもイケメンが一人立っているだけだった。


 どうやらドラゴンは障壁の硬さに根負けしたのか退散したようだ。


 ところでこのイケメンの人は誰?


 ミノタウロス村に人間とは珍しいわね……。


 イケメンは頭を下げて自己紹介を始めた。


「我は『竜王ドラゴニア』。先ほどはいきなり殴られたので怒りに我を忘れて申し訳なかった。そのミノタウロスミルクを少しでいいので譲って頂けないだろうか?」


 どうやら目の前のイケメンは先ほどまで大空を飛んでいた竜だった。


 そして竜王ドラゴニアの名前に聞き覚えがあった。


 竜王ドラゴニアってガチのラスボスじゃん!


 なんでラスボスが現れるのよ?


 しかもミルクが欲しいって……どうなってるの?

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