最高のスィーツ対決3
生キャラメルは地味か~。
凝れるとしても包装だけで一皿に載せたスィーツとしては全く通用しないわね。
少なくてもナタデココにはデザートとして絶対に負ける。
生キャラメルと似たもので生チョコってのもあって今でも生き残ってはいるけど生キャラメルと同じくスィーツとしては弱いわね。
ワッフルは今でも現存しているけど、スィーツとしては微妙だわ。
むしろ限りなく主食に近いスィーツよ。
こう考えるとスィーツって既に完成されたもので、新風を吹き込むのはむづかしい。
ぶっちゃけ、生キャラメルの先の歴史は知ってるけど、広告代理店主導で見た目優先や可愛さで流行したものばかりだから全然美味しくないし、今では殆ど生き残ってないのよね。
エッグタルトとかマカロンなんてブームの頃はあれだけ騒いだのに今はほとんど見かけないもの。
アイにアイデアを出してもらうかな……。
「アイ、なんかいいスィーツない?」
「スィーツですか?」
「そう、アイが食べたいスィーツはないかな?」
「アイはアイビス様が作ってくれるものなら、ホットケーキでもロールケーキでもフルーツサンドでも家宝として拝ませて頂きます」
「そんな物、拝まないでよ。すぐにカビるわ」
でも、今アイが言ってくれたデザート……この状況を脱出するヒントになったわ!
*
そしてパティシエとの勝負の日になったわ。
ウィリアムが審査員で、この勝負を取り仕切るみたい。
「では、パティシエ『コフィティア』とアイビスとの最高のスィーツ勝負を行う! 両者いいな!」
「はい」
「はい」
「では先攻コフィティア、スィーツを提出せよ!」
「はっ! これが私の超新作スィーツです!」
目の前に出てきたのは予想通りナタデココ。
わたしはほくそ笑む。
勝ったわ!
思わず心の中の声が出そうになる。
ウィリアムは早速、ナタデココを食べる。
「ほー、これはなかなか。この前のタピオカよりもよりもずっと味が濃くて甘くてそれでいてすっきりとしたシロップが掛かっていて美味いな」
「ありがとうございます」
パティシエはちらっとわたしを見て勝ち誇った表情をしていた。
その表情はわたしのスィーツを見るまでよ。
「では後攻アイビス、スィーツを提出せよ!」
「これが本当のスィーツという物よ!」
わたしがスィーツを提出すると明らかにパティシエは動揺していた。
「こ、これは!」
*
アイが言ってたホットケーキとロールケーキは、パンケーキと名前を変えてクリームをたっぷり乗せたデザートとしてファミレスでの定番デザートとして今でも売っているし、ロールケーキはクリームを大増量して今でもコンビニで売っているわね。
どちらも定番商品として愛されて今の日本に定着してるわ。
飽きない味。
これが定番商品のキーワードよ。
ぶっちゃけパンケーキもロールケーキもクリームを鬼盛にしただけの商品で商品コンセプトはほとんど一緒ね。
今回はロールケーキのほうがインパクトがあるのでロールケーキを作るわ。
パンケーキはホットケーキにクリームを乗せただけだろってウィリアムに突っ込まれそうだし。
で、作ってみた。
もちろん料理長のキュイジーヌさんの監修の下にね。
新鮮なミルクをたっぷり使ったクリームを柔らかいスポンジケーキで巻く。
メアリーに試食させると「美味しいけど……」と浮かない顔をしている。
「言いたいことはわかるわ。地味なのね」
「はい、地味です」
「でも、これならどう?」
わたしは秘策をだす。
「こ、これは!」
わたしはクリームたっぷりのロールケーキに生キャラメルシロップと生チョコシロップをお好み焼きマヨネーズの様に糸状にして掛ける。
それはスィーツのハーモニー。
生クリーム×生キャラメル×生チョコ。
おまけに粉砂糖も掛けて、口直しのミントの葉をひと添え。
この絶対的な超カロリー軍団に立ち向かえる女子はいない。
アイもメアリーも試食と共にロールケーキに蹂躙された。
「なんですか? この甘さは!!」
「甘い! アイビス様の抱擁ぐらい甘い」
二人とも食後に呆けていたのでこのスィーツ勝負は貰ったわ!
*
わたしのロールケーキを見てパティシエは一瞬で負けを悟った。
「この爆カロリーには勝てない……」
口にしたウィリアム王子の判定は?
…………。
固唾を飲んで見つめるわたしとパティシエ。
ロールケーキを口にしたウィリアム王子が突然むせ始めた。
「ゲホゲホ! み、みず~!」
水を飲み干したウィリアム王子が一言。
「こんな甘いもの食えるか~!」
究極の甘味を追い求めたせいでウィリアム王子には大不評。
「じゃ、勝負は?」
「アイビスの負けに決まっているだろう」
突然転がり込んできた幸運で勝利のパティシエ。
ウィリアム王子が審判なのを忘れていた……。
女子受けは良かったけど、甘すぎる物が苦手のウィリアム受けは最悪だったわ。
パティシエも一言。
「試合に勝って、勝負に負けたとは正にこのことね……」
肩を落として帰って行ったパティシエであった。
*
その翌日、パティシエがロールケーキの商品化権を買い取って秋には『アイビスロール』と名付けられたロールケーキが王都で大ブームとなったのは後の話である。




