最高のスィーツ対決2
わたしは寮に帰ったら早速スイーツ作りを始めたわ。
でもアイは心配そうな顔をしている。
「あのパティシエにビシッと言った時は気持ち良かったですけど、アイビス様はスィーツ作りなんて出来ましたっけ?」
わたしは胸を張ってアイに言ったわ。
「スィーツなんて作れるわけ無いでしょ」
「じゃあ、どうやって……」
「まかせといて!」
もちろん勝算がないわけじゃない。
スィーツは作れなくても調理を専門にしている人に任せてしまえばいい。
具体的には寮の調理人だわ。
寮の料理人と言ってもこの寮は将来的には学園を訪れる外国の国王なんかの賓客を収容する宿泊施設。
そこに勤務する料理人は超一流なのは間違いない。
それにわたしには切り札があった。
「アイ、メイドのメアリーを呼んで来て」
「メアリーに作らせるんですか?」
「違うわ」
「じゃあ、誰に作って貰うんですか?」
「この寮の調理人を紹介してもらうの。アイはわたし専属のメイドだからこの寮の調理人なんて知らないでしょ?」
「わかりました。少々お待ちください」
そして、メアリー経由で紹介されたのがこの寮の料理長である『キュイジーヌ』さんだった。
キュイジーヌさんは深く頭を下げた。
「アイビスお嬢様、ご用はなんでしょうか?」
「キュイジーヌさん、この学園の城下町のスィーツ店のパティシエとスィーツ対決をすることになってね……。手伝って欲しいのよ」
「それなら任せて下さい。自慢のスィーツがあります」
そういって持って来たのはフルーツパフェだった。
透明な豪華な器にこれでもかと新鮮でジューシーな十数種類の果物を乗せ生クリームを乗せたスィーツだわ。
「これは美味しそうね」
「おいしそう。これはおいひいれす! もぐもぐ!」
アイはわたしが声を掛けなくても一瞬で完食していた。
「グッ! 毒なしです!」
毎度の事なので何も言うまい。
わたしも食べてみたけど、ほっぺたが落ちるってこういうことなのね。
ジューシーさと甘さが奏でるハーモニー。
最高の調和がそこに存在していた。
でもこれはダメだ。
「美味しいけど、これはダメです」
それを聞いてキュイジーヌさんは青ざめた。
「なんでですか、お嬢様! 素材のフルーツもミルクも完璧なものを用意したはず……。まさかミルクを採った牛の年齢ですか? そうなんですね!」
どこぞの料理マンガじゃあるまいし、そこまでこだわらないわ。
「さっき言い忘れたんだけど、新作スィーツじゃないとダメなのよ」
「そうなんですか」
キュイジーヌさんはほっと胸を撫でおろした。
「でも、私はこの寮の料理人なので新作とはほど遠い、王道のスィーツしか作れません。お嬢様、新作スィーツのアイデアはございますか?」
「それなら任せて!」
わたしの持っている最大の武器はリルティアの発売後のスィーツの歴史の流れを知っている事。
スイーツのロードマップを知っているわたしに敵はいない。
タピオカときたら次はナタデココ。
きっとパティシエは新作スイーツとしてナタデココを持ってくるはず。
それならば更に先のスィーツを出せばいい。
ナタデココの更に先のブームをわたしは知っている。
それは……。
「生キャラメルよ!」
それを聞いてキュイジーヌさんは目を丸くした。
「固形のはずのキャラメルが生ですと! 全く想像がつかないんですが!」
「任せて!」
わたしはキュイジーヌさんにレシピを教えて生キャラメルを作った。
肝心のミルクはパフェに使った新鮮なミルクだから完璧だわ。
わたしは早速生キャラメルの包みを解いて口にする。
さすが寮一番のシェフが作る生キャラメル。
頭が痺れるほど甘くて、噛み締めるとミルクが口の中一杯にあふれ出る。
そして口の中一杯に広がるキャラメルの味。
甘みの少ないナタデココ相手なら完勝だわ!
これは北海道お土産の生キャラメルを超えたわね。
つまみ食いをしたアイもあまりの美味しさと甘さに頭がやられて呆けているからこれは完璧に間違いない。
早速、メアリーに試食させてみた。
すると開口一番「地味ですね」と一言。
さらにメアリーは続ける。
「スィーツって味が重要ですけど、それ以上に目を楽しませるモノじゃないですか。それを考えると見た目が普通のキャラメルで大抵のスィーツに見た目で負けています。一言で言うと地味です」
甘さばかりを考えていたわたしにメアリーのスィーツレビューはぐさりとわたしの心に突き刺さった。
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