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レイクシアのダンジョン3

「アイ、乱戦用の必殺技を出すぞ!」


「わかった」


 チャールズ王子とアイは必殺技を出すらしい。


 必殺技ってなんなのよ?


 二人は片手を繋ぎマスタースケルトンの群れに飛び込む。


 それは比喩ではなく、手を繋ぎながらジャンプして敵に飛び込む。


 そして、二人は両手を繋いだまま空中でバレエの様に舞って……、いや手裏剣の様にくるくると回ってマスタースケルトンを蹴りまくる。


 それは『死の舞踏』。


 乙女ゲームのリルティアの中で、チャールズ王子ルートに進んだマリエルがラスボスイベントで見せた必殺技。


 マスタースケルトンの凄まじい悲鳴があがるから、わたしたちだけどころかリッチ迄思わず見入ってしまったわ。


 リルティアの中ではスカイダイビングの体勢で両手を繋いで二人でいちゃ付いてるだけのグラの甘々なシーンだったけど、イベントシーンが終わると魔王軍の群れを全滅させていたという技。


 傍から見てどんな技か初めてわかったわ。


 チャールズ王子とマリエルの二人が手を繋いで空中で回転しながら、魔王軍の雑魚の群れを蹴り倒しまくって全滅させていたというとんでもない技だったの。


 この『死の舞踏』はリルティマニアの中でも時々議論になる技で、物理的に無理だと主張する意見が優勢だったけど、実際に見せられるととんでもない技だけど十分成立していてわたしは開いた口が塞がらない。


 開いた口が塞がらないのはわたしだけじゃなく、ウィリアム王子もフランシスカも、そしてリッチまでもあごが外れるぐらい口あんぐりだ。


 マスタースケルトンの群れを粉々に粉砕したチャールズ王子が得意気に語る。


「な、アイ。俺の思った通りに上手くいったろ? アイとなら絶対にうまく行くと思ったんだ」


「うまく行った」


「俺をもっと評価してくれ」


「えらいえらい」


 王子の頭をなでるアイ。


 平民でメイドの身分のアイが王子の頭をなででいいのかと思うけど、チャールズ王子は喜んでいるからいいんだろう。


 チャールズ王子は真顔になってアイに迫った。


「アイ! 俺のことを見直したなら、俺と付き合ってくれ!」


「それは無理」


「なんでなんだよ? 今俺のことを褒めてくれただろ?」


「それはそれ、これはこれ。アイは既にアイビス様のモノだから無理なのです」


 膝から崩れ落ちて悔しがるチャールズ王子。


「くそー! まだ俺の努力が足りないのか! いいぜ! やってやろうじゃないか! 絶対にアイが惚れる男になってやるぜ!」


 振られたのにやる気を出しまくる前向きなチャールズ王子であった。


 *


 チャールズ王子の騒ぎに見入ってしまってたわたしたちとリッチ。


 改めて仕切り直しだ。


「行くぞ!」


「ああ」


 先に攻撃してきたのはリッチだった。


 リッチは範囲攻撃のメガドレインを使ってきた。


 体力と魔力を吸い上げる闇属性の魔法だ。


 ウィリアム王子がフランシスカをかばおうと身構えたが、フランシスカは対抗策でホーリーフィールドで無効化した。


 ホーリーフィールドとは闇属性の魔法を無効化する神聖魔法だ。


 闇魔法が使えなくなったリッチは大幅弱体化。


 (はた)から見てもリッチが弱ってるのがわかる。


 フランシスカが闇魔法を使えなくなったリッチを見下した。


「これでどう? この前は初手でメガドレインを食らっていきなりピンチになったけど、もうその手は食わないわよ」


 これでリッチは闇属性の魔法を無効化されて、残るは土魔法と物理攻撃しかない。


 前にフランシスカとリッチが戦った時は手持ちの魔法が効かずに逃げるしか無かったが、完全に立場が逆転した。


 リッチはフランシスカの魔法を見て感心した。


「神聖魔法を使えるようになったのか」


「そうよ。これでも今は聖女見習いですからね」


「簡単に倒せる雑魚と思ったら、そうでもなさそうだな。ならば我も本気を出さないといけないな」


 リッチは闇魔法が使えないことを悟り、闇の闘気を身にまとう。


 素早さと攻撃力倍化のアビリティだ。


 防御力こそ弱いままだが、攻撃力には定評のあるリッチの攻撃が倍に跳ね上がった。


 治癒魔法使いのフランシスカがリッチの攻撃を受けたらタダでは済まない。


 リッチも勝ちを確信しているようだ。


 ウィリアム王子がフランシスカをかばうけど、リッチはそれをすり抜けてフランシスカに迫る!


「死ねい!」


 だが、フランシスカは避ける余裕がない。


 まずい!


 わたしは最速で着弾する炸裂(バースト)の魔法を唱えたけど、間に合わない!


 フランシスカはリッチの攻撃を受けて無残に転げた。


 と、思ったんだけど……。


 フランシスカに攻撃が当たった途端、(まばゆ)い光が放たれて逆にリッチを襲った。


「ぐはぁ!」


 眩い光はリッチを(ひる)ませた。


 きっとこれはアンデッドによく効く『聖なる護符』の効果ね。


 アンデッドが相手とわかってたら普通は用意するわよ。


 わたしは用意し忘れたけど……。


 それだけでは攻撃は終らない。


 わたしの炸裂の魔法が直撃だ。


 頭から胴に掛けて大きくリッチの身体を(えぐ)り取っていた。


 上半身の右半分を抉り取られたリッチは狼狽(うろた)えていた。


「お主、なにをした! とんでもない魔法を使いおったな?」


「なにを使ったって、詠唱無しで最速で使える初級魔法の炸裂だけど?」


「なんだと? 最弱の炸裂でこの威力だと!」


 炸裂で瀕死になったことで、明らかに動揺しまくるリッチ。


 明らかに分が悪いと思ったリッチは地面に潜って撤退を始めていたけど……。


「逃がさないわよ!」


 フランシスカは次の行動に移っていた。


聖なる(ディバイン)(ライト)!」


 天空から射す聖なる光。


 ダンジョンなのにどこから光が射してるの?とか細かい事は気にしない。


「ぐはー!」


 着弾したディバインライトは地面ごとリッチを綺麗にこの世から消し去っていた。


 アイがわたしに駆け寄ってくる。


「さすがアイビス様! 一撃でリッチを倒しました。物凄い威力の魔法です!」


「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、わたしの魔法じゃ倒しきれなくって、フランシスカがリッチにとどめを刺したんだけどね」


「でも、アイビス様はすごかったです! アイビス様がリッチを瀕死にしたお陰で弱いフランシスカの攻撃でもとどめを刺せたのです」


 アイの頭の中ではわたしがリッチを倒したことになってるらしい。


 そして現れる宝箱!


魔法(マジック)指輪(リング)ですよ」


 アイが宝箱に駆け寄り宝箱を空けると、アイの言うように宝箱の中からはマジックリングが出てきた。


 この指輪は常時魔力を回復する割と使えるレア度の高いアイテムだわね。


 時価2000万ゴルダぐらいかしらね。


 王都の城下町に小さな家が買えるぐらいの値段はしてたと思う。


 宝物が出た場合は売却してパーティーで山分けにするのが普通なんだけど、アイの意見は違った。


「このリングはアイビス様にあげていいですか?」


「いいんじゃね? 俺魔法使えねーし」とチャールズ王子はアイの案に同意。


「欲しいけど、私は敵討ちを手伝って貰った身だから貰う権利は無いわ」とフランシスカも辞退。


 ウィリアム王子は「今回は魔法使いのアイビスが貰うのが相応しいな」とアイの案に賛成だ。


 パーティー全員一致でマジックリングをわたしが貰うことになった。


 やったね!


 乙女ゲーのリルティアではマジックリングが中々出なくて手に入れるのに苦労したんだよね。


「それではマジックリングはわたしからアイビス様への婚約リングと言うことで……」


「おいおい!」と総ツッコミされるアイだったけど……。


 油断してた。


 アイがわたしの指に嵌めようと宝箱から指輪を持って来ようとしたら……。


「なっ!」


 アイがわたしに掛け寄ろうとしたが手遅れだった。


 わたしは背後から現れたゴーストに捕まり地中へと引き込まれた。


 *


「アイビス!」


 ウィリアム王子が叫ぶ!


 チャールズ王子も突然のことで狼狽えてる。


「あれはなんだ? なんで地面の中にアイビスが引き込まれる?」


 フランシスカは正体を知っていた。


「あれはアウレリア、このダンジョンで死んだはずの私の親友」


「なんだと? アウレリアはリッチに食われて消えたんだったんじゃないのか? それにしても、護衛の騎士はなにをしていた!」


「すいません!」


 ウイリアム王子は騎士の不甲斐なさに怒りつつも次の手をどうすればいいか、頭の中で整理しているようだった。


 一番狼狽えていたのはアイだ。


「油断していた……。アイはあんなに注意してたのに……」


 アイビスがアウレリアに連れ去られるという予想外のことが起きて顔面蒼白のアイであった。

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