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家庭教師のお礼

 わたしはアイと共にビリーくんのところに顔を出し、家庭教師のお礼をしに行ったけど忙しいようでなかなか応接室に現れない。


「使いの者を送ってすぐに来るようには言っているんですが、ビリーの奴なかなか来ないですね……」


 ビリーくんの父親のマイケルさんは領主の娘のわたしを待たせているのに息子のビリーくんがなかなか現れないので冷や汗をダラダラ流している。


「また実験にのめり込んでいるのかもしれないな……」


 そう言えばこの前も実験がどうのこうの言っていたわね。


 どんな実験をしているんだろう?


 少し興味が有る。


「ここで待っていても時間の無駄なのでわたしからビリーくんの所に伺いますわ」


 わたしはアイを連れて屋敷の離れにある実験場を訪れた。


 実験場ではビリーくんが麦の穂と格闘していた。


「なかなか来ないで、なにやってるのよ……」


「その声はアイビス様か」


 見るとビリーくんは麦の穂から一粒づつもみ殻を取り外し、もみ殻から中身の種を取り出しいる。


「脱穀しているの?」


 麦の穂から種を取り出すのなんて、脱穀機を使えばあっという間に終わるのになんて無駄なことをしているんだろう?


「いや、調査だ」


「調査?」


「今年の夏は長雨で気温が低かったせいか穂の実入りが悪いと報告を受けていたので麦の穂の中身を調べて育成率の調査をしていたんだ」


「そうなんだ。で、結果はどうだったの?」


「まだ全ての穂は調べて無いんだけど、確かに悪いな。これを見てくれ」


 そう言ってビリーくんが見せてくれた小皿の小麦の種はやせ細っていた。


「3年前に僕が近隣の小麦畑の作付け品種を高収穫品種に切り替えたんだけど、その品種が特に冷害に弱いみたいだったんだ。従来品種はここまで冷害に弱くないようなので失敗したよ」


 ビリーくんは高収穫品種と従来品種の組み合わせで、冷害が来ても来なくても最高の収穫を得られるように研究をしているとのことだった。


「ビリーくんがこんな研究をしてるなんて意外だわ」


 お金にしか目が無い商売人の息子で陰険糞眼鏡と呼ばれるビリーくんが飢饉(ききん)のことを考えてこんな研究までしているとは知らなかった。


 意外過ぎるよ。


「領民が飢饉にならないように実験していたなんて、ビリーくんを見直したよ」


 でもビリーくんは否定した。


「あくまでもお金儲けのためだよ」


「これがお金儲けのためになるの? 領民のためじゃないの?」


 ビリーくんが説明をする。


「僕が追い求めてることは収穫であり収益で、あくまでも儲けだよ」


 余計なことを言わなければいい人で済んでたのに……そんなことだから陰険糞眼鏡呼ばわりされるんだよ。


 そしてビリーくんは心の中の思いを付け足した。


「冷害になっても収穫が落ちなければ領民が飢えることも無くなって結果的には領民の為になるかもしれない。金儲けの二次的な効果だな」


 きっとビリーくんは領民たちのことも考えて実験をしていたんだけど、わたしに面と向かって領民の人助けの為と言うのは恥ずかしかったんだろう。


 わたしはそう思うことにした。


 *


 わたしがビリーくんと話を一区切り終えるとアイがわたしの(そで)をつんつんしてくる。


「アイビス様、このお礼の品はどうします?」


 お父様に聞いたら要らないので好きにしていいと言われた、屋敷の宝物庫から持って来た剣だった。


 使ってないので所々錆が浮いてくすんでいるけど高名な剣士から貰った剣らしくて磨けばいい切れ味になりそう。


 ビリーくんに渡すけど、あまりいい顔をしない。


「売ってお金になる宝剣ならともかく剣を(たしな)まない僕が実用剣を貰っても使うことは無いから要らないな」


「でも入学試験の実技試験で剣を使うんじゃないの?」


「僕はこっちで実技試験を受けるつもりさ」


 そう言ってビリーくんは魔法で指先に炎を灯した。


「それよりもアイビス様のメイドのアイは上流貴族クラスを狙っているんだろ?」


 アイは頷く。


「出来ればアイビス様と同じ上級貴族クラスのクラスメイトになりたいと思っています」


「それならば剣と魔法を使えないと厳しいと思うぞ」


「そうなの?」


「お付きの者で(あるじ)とクラスを共にしたいものは多いからかなりの競争率と聞いている。下級貴族の出身なら座学と魔法と剣の実技も満点近くないと上流貴族クラスに入るのは厳しいと聞いた。その剣はアイにやるから、その剣で剣技の研鑽(けんさん)を積んでアイビス様を守ってくれ」


 ビリーくんは領主家の娘であるわたしに当たり前のことをしただけだと言って家庭教師のお礼を受け取らなかった。


 ビリーくんのことをゲームでは陰険糞眼鏡呼ばわりしてたけど実は意外といい人なのかもしれない。

読んでくれてありがとうございます。

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