道にいたもの
三題噺もどき―さんびゃくごじゅうなな。
ほんの少し、冷たい風が、さらりと撫でた。
青空が広がる下で、友達と歩いている。
前に2人、隣に1人。
周りには田畑が広がり、秋の実りをたらしている。
「――ちゃん、はよぉ」
「はぁい」
正直、行きたくはなかったのだが……子供ながらにも付き合いというものはある。
ほとんど巻き添えみたいな形で、今に至っている。
「あっちやろ?」
「そーそー」
前を歩く2人を見ながら、なんであんなところに行きたいのだろうと、疑問がふつふつと沸いてくる。
―今日は平日ではあるのだが、学校の都合で午前中だけの授業だった。4時間目までを終え、給食までしっかりと食べてから下校した。もちろん掃除もして。
「ほんとにおるんかなぁ」
「おらんやろぉ」
……そう思うのなら行かなきゃいいのに。
―昼から暇になり、時間を持て余した私たち。教師には帰宅したら家にいなさいと言われていた。しかし、それに素直に従うような子はあまりいない。かく言う私も言いつけを破った身なので、何も言えない。これから向かう先への恐怖と、約束を守れなかったと言う罪悪感でどうにかなりそうだ。
「――ちゃん、聞いてる?」
「え、あぁ、うん。」
小さな歩幅で、道を進んでいく。
内心穏やかではないので、どうもぼうっとしてしまう。
会話は聞こえてはいるが、反応が一瞬遅れてしまう。
「でも、こんな時間に行ってもさ……」
……こうでも言えば、今からでも引き返そうと思わないかなとか、そんなことは思っていない。なんとなく、ふと、口から洩れただけだ。
もちろん、帰りたいと言う気持ちはあるが、どこかに行きたいと言う思いもあるにはあるのだ。これだけ嫌がっているようでも。
「夜は行けんからなぁ」
「そうよなぁ」
まぁ、確かに。夜に子供だけでというのは、どうやっても難しいだろう。
何もない町ではあるが、何かが起こらない町とは言えない。
そのあたりの常識があるなら、あんなところに行こうなんて言わないで欲しい……。
断れない性分の私は、誘われてしまえば行くしかない。
心の底から行きたくないと言えないあたり、私もどうかしているかもしれないけど。
「……こわいん?」
「…いや、えっと……」
すぐ隣を歩く友達が、少し嫌な笑みを浮かべて訪ねてきた。
彼女は、私がこの手ものものは不得手だと気づいているはずなので、ホントに意地が悪い。
それでも興味が皆無かというわけでもないので、断り切れないことも気づいていたりするんだろうか。だから誘ってきたのか?
「へーきやって」
「…うん」
数秒までの笑みは消え、にこりと可愛らしく笑う。
この子はこういうところが、恐ろしい。将来女優にでもなれるんじゃないか?
演技かどうかは知らないが、その切り替えは子供ができていいモノじゃない気がする。
「……?」
「どしたん?」
にこりと笑った彼女の後ろで、何かが動いた気がした。
何かがゆれたような……風だろうか。
いや、でも何か黒い、影のような……細い……
「きゃぁ!!」
「――!!」
不審に思い、目を凝らしてみようとした瞬間。
前を歩いていた友達が悲鳴を上げた。それに続いて、地面に落ちる音。
何事かと思い、視線をずらすと。
そこに、蛇がいた。
「――」
いや、蛇自体は見慣れたものではあるのだ。それがいること自体は別に何とも思わない。
庭先にいたりもするぐらい、蛇という生き物自体は身近なものだ。
しかし、目の前に現れたそれは。
「――」
蛇を見たことがあるにしても、せいぜい細く小さなものばかり。
だけど、そこにいる蛇は。
もしや、人を丸のみでもできるのではないかという程の大きさで。
道を塞ぐようにとぐろを巻いている。
のたりと、重そうに頭を上げ、こちらをじっと見ている。
「っか、かえろ!!!」
「う、うん!!!」
どちらにせよ道は進めない。
驚いた表紙にしりもちをついてた友達を立ち上がらせ、手を取り合って駆ける。
来た道を真っすぐに。
振り向くこともせずに。
「――」
自分たちの足音ばかりで、何かが這いずるような音は聞こえなかった。
あれは、追ってくるものだと思っていた私は、内心ほっとしつつ、駆け続けた。
家の玄関が見えてくるまで、必死に。
「――はぁ、っ」
「もう、だいじょうぶ、?」
門扉の中へと入り、扉を閉め、ようやく息をつく。
足を止め、息を整え、走ってきた道を見てみる。
そこには、広がる田畑があるだけで。
いつの間にか陽が落ち始めた夕日に赤く染められていた。
「――ちゃぁん!!」
「――!?」
突然かけられた声にびくりと体が跳ねる。
声のした方へと視線を向けると、そこには隣を歩いていて、ここまでかけてきたはずの友達がいた。あの意地の悪い笑みを浮かべた、あの友達。
「――?」
彼女は、隣に、いや、ここまで一緒に来たはずでは?
しかし、その彼女は全く違う道からこちらへ向かってきた。
確かに彼女の家は、そちらの方向だが、私たちが走ってきたのは反対側の道だ。
「どこいってたの?」
―宿題しよって言ってたのに~。
ひらひらと手を振りながら玄関の前までやってきた。
「ぇ?どこって……」
ついさっきまで、一緒に……。
お題:青空・蛇・巻き添え