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【完結】LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~  作者: 東雲飛鶴
第五章 兎耳の薬師と古の存在がやって来ました

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第17話 兎耳と何かとお茶の間

 翌朝。

 お茶の間に魔王・晶が入って来た。

 朝食の時間までまだ間があり、人気はない。


「ふぁ~……、腹減った。おやつの残りでもねえかな……」


 茶器のワゴンを物色する晶。

 普段なら、茶菓子の一つや二つ見つかるのだが、運悪くこの日はからっぽだった。


「くそー……。コンビニでもありゃあなあ……。いっそ作ってもらうとか?

 いやいやいや……。

 そんなことより、今腹が減ってんだよ俺は……。うーん……」


「どうぞ」

 ……と、女の声。


 目の前に差し出された皿。

 ピンク色のかまぼこのような、餅のようなものが乗っている。


「お、すあまか。サンキュー……ん?」

「どうぞ」

「……………………んなバカな」


 ――ありえないありえないありえない。

 この世界にすあまなんてあるわけないんだ。

 っていうか、なんでここにウサ耳が、ウサ耳がががががが――


「食べないのですか?」


 晶は壁まで全力で後ずさった。


「ななな、なに、そ、それ。なな、なんで、ここにいるんだ」


 ヤモリのように壁に張り付き、晶は震え上がった。

 ウサ耳――薬師のラパナは一瞬で距離を詰め、晶の目の前に現れた。


「貴方は空腹だと言った。だから私は、おやつを出した。なぜ食べないのですか」


 口調は淡々としているものの、表情からは不快感が見て取れる。


「お前を恐れているのだ、ラパナよ。皿を床に置き、部屋の反対側へ移動するのだ」

「ど、どっから声が!?」


 晶は涙目になりながら、1㍉でも遠ざかりたい一心で、必死に壁に張り付いた。


「恐れるな、人の子よ。我々はお前に危害を加えるつもりはない……」


 明らかに薬師とは別の、人の声帯から発せられたと思えないような声が、すぐ近くから聞こえた。

 晶は相変わらず縮み上がっている。


「余計に怯えているじゃないか。人のことは言えないぞ」


 むくれ顔でそう言うと、ウサ耳を揺らしながら、彼女は皿を床に置き、部屋の向こう側へスタスタと歩いていった。


 薬師と晶はしばらく睨み合いを続けている。


「どうしたのだろう。離れたのに、あの者はおやつを食べないぞ」

「儂にもよくわからぬ……。もうしばらく観察してみるがいい」


 ウサ耳薬師は小さくうなづいた。


「あの……。もう一人の、見えない人。どこにいるんだ」


 晶は、何とかそれだけ言うと、恐る恐る皿を拾った。


「ラパナの杖の中だ。体が大きいので、部屋に入れぬから、間借りをしておる」

「はあ……。そうですか」

「お主、腹が減っているのだろう? 遠慮せずに食すがよい」

「はあ……」


 だが、差し出したのがあの薬師である。

 口に入れたくない度MAXだ。


 目の前でじっくり見ると、すあまのように見えるが、ちょっと違う。

 極彩色の小さなチップや、ラメが混ぜ込んであり、食べ物というよりは、まるで女児向け消しゴムのようなファンシーさだった。


(日本ならともかく、こっちでこんな色とか絶対ヤバい)


 向こう側の壁に寄りかかり、じっとりとした目で晶を見るウサ耳薬師。


「どうしても食べないとダメ?」

「食べれば貴方の望みが叶う。拒否をする理由がわからない」

「わからないと言われましても……なんと説明すればよいのか……」


 薬師は困った顔で杖にボソボソと話しかけた。


「私は何か間違っていたのか? これは我が国の兵士に支給されている携行食なのに……」

「恐らく人の子は、これが食べ物であると知らないのだろう」

「ならばどうすればよい?」

「しばし待て。読んでみる……ん?」

「どうした?」

「……人の子がいない」

「あれ……いない」


 晶のいた場所には、ぽつんと菓子を載せた皿が残るだけだった。

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