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【完結】LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~  作者: 東雲飛鶴
第三章 女騎士さんの家庭の事情

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第12話 魔王、ほらを吹く

「アキラ……聞いてたの……」


 テラスの手すりに寄りかかっていたロインと父親は、晶の声で振り返った。

 テンダー卿は、会釈をした。


「私は遠い過去、ほんのひととき、ここではない別の世界にいた――」


 晶はやや低く、芝居がかった口調で語り始めた。



 ――みささとは、異世界に存在する女神の一柱であり、かつて自分が心酔した女性であると。


 その世界で自分は、女神の傍らで、女神の似姿を数多く描き、物語を作り、人々に女神の素晴らしさを伝える伝道者であった。


 しかしある時、その幸せは失われてしまう。


 とある魔神のはかりごとのために、自分は元の世界に送り返されてしまった。

 もう戻ることが出来ない、遠い場所にいる女神を想い、心を痛める日々が続いた。


 最近になって、近隣の人間が自分たちに宣戦布告をしてきた。

 女神のことで塞いでいても、家臣が心配するばかり。

 それならば、と、気を紛らわせるために、人の遊びに付き合うことにした。


 ……それが、先の戦争である。


「私が人との遊びにも飽きて、女神のことも記憶から薄れ始めた頃、私の前にロインが現れたのだ」


「女神……、私が……」


「あまり家臣が聞いて気持ちのよい話でもない故、モギナスをはじめ誰にも語ったことがなかったのだ。

 だが、それが愚かな私の過ちだった。奴が知っていれば、ロインに迷惑を掛けることもなかったのに……。

 申し訳ないことをした。ロイン。そしてテンダー卿。」


「……そんな話されても、何て言えばいいか……わかんないよ、私」


「一つだけ言えるのは、女神みささはもう、遠い過去の思い出という事だ」


 晶は全力で遠い目をした。


 魔王による告白を、人間の親子はどのような心持ちで聞いていたのだろうか。

 本物の魔王ではない自分には、伺い知ることは出来ない。

 しかし、ロインたちの露程も自分を疑ってはいない目を見ると、このハッタリは成功したように思える。


 この世界の魔王観がどのようなものかは知らないが、自分の知る限りのなけなしの魔王的存在を脳内からダウンロードし、死ぬ気で大芝居を打ったつもりだった。


(大丈夫……かな)


 人前で芝居をするなんて、高校の文化祭以来である。

 自信などなかった。

 だが、魔王補正でなんとか信用してもらえたようだ。


「誰にも言ったことのない、秘密の話をしてくれてありがとう。ホントは話したくなかったんでしょ? ……ごめんね、アキラ」


「父君も不安がっておられるので、お話ししたまでのことだ。気にすることはない。それよりも、信じて頂き感謝する」


(うわあ……罪悪感パねえ……。でも半分ぐらいは本当だから)


「他の世界とか、女神とか、正直私にはよく分からないが、陛下の真摯なお気持ちは伝わりました。

 私は、娘の幸せを願う、ただの一人の親に過ぎませんが、せめて娘を悲しませるようなことだけは……。どうか、どうかそれだけはお許しください」


 テンダー卿は、晶の前に跪いた。


「パパ……」


「貴公の願い、聞き届けた。ご息女のことは私が責任を持ってお預かりする。

 なお、このような事情ゆえ、私とご息女との婚礼について、あまり騒がぬよう、周りの方々にお取りはからい願いたい」


「承知しました、陛下」


「それから、ロイン……」

「な、なに?」


「…………………………」


「なによ」

「なんでもない」

「なにそれ」

「じゃ、じゃあこれで!」


 多分きっと絶対、顔が真っ赤だ。

 これ以上ここにいたらボロが出るのは時間の問題。 

 言うだけ言って、晶は早々に大使館から退散した。

 一人で。



 ☆ ☆ ☆



 翌朝のお茶の間。

 当然ながら、勝手に先に城へ帰ったことを咎められる、城主・晶。


「なんで昨日、先に帰っちゃったのよー」

「ごめん……。だってボロ出そうだったから」

「陛下は堅苦しい場が大の苦手ですからねえ。ちゃんとフォローしときましたから」

「でさ。モギナス、お前」

「なんでございましょう、陛下」

「どーして俺とロインを、そこまでくっつけたいわけえ?

 周りのやつと一緒んなってコソコソやってただろ。さすがの俺でも分かってるぞ」

「いやいや、そのようなことは。オホホホホ……」

「きもちわるい」

「ロイン嬢? きもちわるい? きもちわるいですって? キーッ!」

「だーかーら、朝っぱらからケンカすんな、お前ら」

「先に帰っちゃうアキラが悪い」

「うっせ、パパとママをこっちに呼んだモギナスが戦犯だろうが」

「モギナスが全部悪い」

「たしかにモギナスが悪い」

「キ~~~~~~~~~~~~~ッ! 二人ともひどい!!」


 ちらと互いを見る、晶とロインの表情は、普段よりも柔らかかった。


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