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【完結】LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~  作者: 東雲飛鶴
第三章 女騎士さんの家庭の事情

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第10話 女騎士さん、心配される

 その日の晩、ロインと両親、そして魔王・晶とモギナスは、城下にある大使館の晩餐会に招かれていた。


「似合ってるな、それ」

「ああ……ドレス? 褒めても何も出ないけど」

「いや、普通に褒めただけで、はなから期待なんかしてねえよ」

「っていうか、騎士団の制服の方が良かったんだけど」

「マイセンに止められたんだろ?」

「……せっかくサイズ調整までして用意してたものを、着ないわけにもいかないでしょ」


 これだから、この女はやりにくい。

 晶は晩餐会が始まる前から疲れていた。


 晶が魔王として、公式の場に出るのはこれが初めて。

 事前にあれこれレクチャーされているとはいえ、いつボロが出ないかと不安で仕方がない。出来ることなら誰かに代わって欲しい。


「大丈夫です。ちゃんと私がフォローしますから、陛下は大船に乗ったつもりでいらして下さい」

「う~ん……」


 女子でなくとも不安である。

 そもそもこいつ、モギナスが余計なことをしなければ、こんな大それた事態に発展することなどなかったのだ。

 今回は、晶もガッツリと被害者である。


 それにしても……。


 晶はふと気付いた。

 大使館内の人たちが、自分を遠巻きに見ていることに。


 普段は全く意識してはいないものの、自分は、たった一国で数カ国を相手に、何十年もの間戦争をやってきた魔族の王である。

 よくよく考えれば、恐ろしく思わない方がおかしい。


 ましてや終戦からたった一年である。

 急に仲良くしろと言っても、親の代からの恐怖を今すぐ捨てろと言うのはムリ、友好関係を築くには、何世代かかかってしまうのかもしれない。


 そう思うと、晶はさびしい気持ちになった。


「畏怖の対象、か……。俺だって人間なのに」


 ロインは、自分をあまり恐れない。――特別なのか? ヤケなのか?


「陛下、お時間です」


 モギナスが声をかけた。


「わかった」


 魔王・晶は漆黒のマントを翻し、宴会場へと向かった。



 ☆ ☆ ☆



 新米騎士・ロインは不服だった。

 どんどん外堀を埋められて、身動きが取れなくなっていく。

 これではまるで、己が政略結婚のコマではないか。


(冗談じゃないわ、こんなの)


 一息つこうと、テラスに出ると先約がいた。


「なんだ、パパか」


 一躍時の人となったテンダー卿が、ワイングラスを片手に、憂鬱そうに城下町を眺めていた。


「ロインちゃん、ホントにあの魔王と結婚しちゃうの?

 パパ魔族と親戚になるとか怖いよ……」


「ないない。というか、魔王の城にいるのは、ちょっとした事故なのよ。

 なんというか……えっと……、魔法事故」


「なんで事故だと魔王と同居なの、パパさっぱりわかんないんだけど」

「……ここだけの話、特にママには絶対言っちゃだめだよ。いい?」

「わかった」

「手違いで、私に魔法が掛かって、この城下町から出られなくなっちゃったのよ」

「mjd。……魔族、なんて非道な。

 というか、魔王様に気に入られたんじゃないの? 違うのかい?」


「だから事故だっつってんでしょ。

 それで、魔法を解ける人がいないから、仕方なく居候してるってカンジで……。 あっちも悪いと思ってるから、まあ、なんというか客人扱い? みたいな。

 パパたちがこっちに引っ越してきたのも、そのお詫びみたいなもんよ」


「じゃあ、パパは魔族の親戚にならずに済む、いやいや、ロインちゃんは魔王のお后にならずに済むってわけか。

 でも良かった。元気そうだし、うちより贅沢させてもらってるみたいだし。今日のドレスやアクセサリーだって、それすっごい高いと思うぞ。

 ……じゃなくて、可愛そうに。でもパパ近所にいるから、なんかあったらすぐ公館来るんだよ」


 これってぶっちゃけ魔王のスキャンダルなんだけど、ホントに娘のことしか考えてない男だなあ、とロインは少々呆れた。


「でもさ、パパにとっては、私があいつと結婚した方が都合いいんじゃない?

 戦勝国の王室の親戚になるからって、いろんなヤツがパパにすり寄ってるじゃない。これって、遠回しにだけど、お家断絶が免れるチャンスでしょ?」


「まあ……。でも、正直パパそういうの、ヤなんだよな。

 実は、娘たちの代で家が消えるなら消えるで運命だった、ムリなことはしないでおこう、そう思ってたんだよ」


「パパ……」


「でもママはちょっと……な。娘のお前たちには言ってないけど、結局うちには男児が一人も産まれなかっただろ? それでママは実家からの風当たりが強いんだ」


「そうだったんだ……知らなかった」


「お前と魔王様のことで、ママや周りが盛り上がっちゃう気持ちは分かるんだ。でもそれでお前が苦しむんなら、やっぱりパパは反対だ。

 今まで周りからずっとうるさく言われてたけど、娘たちに婿を取れだの強制したこともないし、家を継がせるためだけに養子をとったりもしなかった。

 だって、ママも可愛そうだし、利用するためだけにもらわれてくる子供や、政略結婚する婿も可愛そうだ。お前だって、そんな子が家族になったら、どう付き合えばいいかわからないだろ?」


「ちょっと……複雑かな」


「そういうの、パパの代で終わりにしたいと思ってる。

 戦争も終わって、これから新しい時代が始まるんだ。だいたいそういうのもう古いんだよ。

 昔の習わしに縛られるのは、もうパパだけでいいだろ?」


「パパってそういうキャラだったっけ?」


 テンダー卿は悲しそうな顔で娘を見ると、


「だってお前、大きくなったらパパのこと邪険にしたり、女学校からちっとも戻って来なかったりで、話なんか聞いてくれなかっただろ」


「ああー……」


(ごめんなさいごめんなさいそれはママのせいです)


「で、お前はどうなんだ? しばらく一緒に暮らしてみて、あの魔王とはウマが合いそうか?

 お前が気に入ったんなら、パパは覚悟決めて魔族と親戚になってもいいよ」


「……正直、まだよく、わかんない」

「まだわからない、ということは、即アウトってことでもないんだな」

「なんというか……うまく説明出来ないんだけど……、ちょっと事情が複雑で……」

「事情、ね。確かに異種族婚は事情が複雑だな」

「そういう意味じゃなくて。……一目惚れした、ってやつが、ちょっと」


 ロインは口ごもった。


「ムリに言わなくてもいいよ。パパは近所からお前を想ってるから。ヤバくなったら俺のところに逃げればいい。命かけて守ってやるから」


「さすがに負けるでしょ」

「そういう覚悟だってこと。身も蓋もないこと言わないでよ、ロインちゃん」

「ごめん」


 一呼吸おいてロインは言葉を続けた。


「あいつが……魔王が一目惚れ、っていうの、半分合ってて半分違うっていうか……。

 よく知らないけど、あいつがすごい好きな『みささちゃん』って子と私が瓜二つらしくって。大使の護衛任務でここに来た時、偶然あいつに見られたの。

 あんまり似てるもんだから、あいつ、街中で興奮して大騒ぎして。

 それを横で見てた宰相のモギナスが早とちりして、魔王に命令されてもいないのに、私を誘拐したの。

 で、その時に私が逃げられないように、隷属の魔法をかけてしまった……。というわけよ」


「戦犯はモギナス卿か!!」

「というか……、魔王とモギナスの共犯かな。

 あとで魔王にみっちりお仕置きされてたよ、モギナスのやつ」

「して、その『みささちゃん』というのは、どこにいるんだ? その子を連れてくれば問題なさそうだが……。まさかもう、亡くなってるとか」


「それについては、ご理解を得るのは難しい話だ、テンダー卿」


 二人の背後から、魔王・晶が声をかけた。


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