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アナザー・ワン  作者: コスモス
第一■■■ 神域の魔法使い
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第七話 宣告

 目を覚まして最初に映ったのは、白色の天井だった。

 自分に敷かれているものへ視線を向ける。

 夢の世界のベッドとはさすがに比べられないが、寝るには十分な毛布と布団。

 普段、レックが使っている寝床ではない。


 夢の世界からの脱出は成功したようだが、元の世界ではない。

 やはりここは、水晶で見た──レックが最初にいた世界なのだろう。


「良かった……」


 ──えっ?


 ポツリと零した自分の言葉に、レックは困惑の色を示す。


 ──良かった……?元の世界に戻れなかったことが良かったと思ったのか……?


 当初の目標と自分の意志の矛盾に苛む。

 しかし、今はそんなことを考えている余裕はない。


 ──夢の世界から脱出できて『良かった』ってことだよな……。うん、きっとそうだ。

 

 自分に言い聞かせるようにそう考える。


 明け方の薄暗い部屋を確認しようと、体を起こす。


「ん……?」


 すると、何者かが寝息を立てながら椅子に座っていることに気づいた。


 ナイルと同じような青色のローブ。

 窓から差し込む光に照らされ、神秘的に光る水色の髪。

 レックと同じくらいの年頃の少女が、無防備に眠っていた。


 特に、目を引くのがその髪の毛の長さ。

 正確にはわからないが、椅子に座っている状態でも、だらりと床に垂れてしまうほどに長い。


 よく観察してみると、床からさらに上へ折り返し、額に着けた白いヘアバンドのような物に折り返した髪を通して固定し、髪先がまるで王冠のように頭の上に立っていた。

 彼女の身長を考えると、その長さは三メートル程か。

 髪で体を覆う姿は、さながら結婚式で花嫁が(まと)うウェディングベールのようだった。


 レックは夢の世界で、この世界が一体どのような世界なのかゾンと相談したことがある。

 現実世界におけるどこかの国、未来か過去の世界、完全に別の異世界etc.


 レックとゾンが出した第一候補は過去の世界であったが、この少女の現実離れした容姿を見た瞬間、レックはここがどこなのかすぐに察した。


「ここは異世界……。異世界転移……あんまり想像したくないけど、異世界転生をした可能性が高い……。これは魔法の存在にも期待……いや、まだそう言い切れない。他にも何か手掛かりを……」

「あ」


 夢の世界のテンションで、考察を始めていたレックは、唐突に何者かの声を聞いた。

 声の方向。つまり、椅子に座っている少女のほうを見ると、パッチリとした大きな蒼い瞳と目があった。


 まるで時間が止まったように、お互いを見つめ合うレックと少女。

 蛇に睨まれた蛙のように金縛りに合うレックに対し、少女はハッとわれに返ると立ち上がり、急いだ様子で一つしかない部屋の扉へ向かった。


「お姉ちゃん!」

「ま、待って!」


 レックは手を伸ばしながら呼び止めるが、意にも返さず少女は扉の向こう側へ行き、扉を閉めてしまった。


 再び静寂に包まれる部屋の中で、レックは手を伸ばした状態で静止する。

 先ほどまでさまざまな思考を巡らせていたにも関わらず、今は完全に頭の中が真っ白になってしまっていた。


 しばらくすると、扉の向こうがドタバタと慌ただしく音を立て始めたかと思うと、再び扉が開く。


「いやー、ごめんねー。こんな時間になるまで寝てるもんだから、アタシも寝ちゃってて」


 先ほどの少女とは違う女性が電気を付け、そう悪びれながら部屋に入ってきた。


 少女と同じ極めて長い水色の髪と、少し隈があるがパッチリとした蒼い瞳。

 青いローブを身に(まと)い、身長も少女やレックよりも少し高い。

 髪の毛は白いリングで後ろにまとめて下ろし、少女と同じように地面付近で折り返し上げた後、再び白いリングに通し、髪先が頭の上に立つ形になっていた。

 それとは別に、もみあげも同じようなに白いリングで固定していた。


 少女のベールのような特殊な雰囲気ではないものの、やはりこの女性もただ者ではないと、レックは思った。


「おっとっと、そうだった。そういえばナイルが言ってたっけ。混乱してるだろうから、ちゃんと説明してやれって。全くー、人使い荒いんだから」


 完全に豆鉄砲を食らった鳩状態のレックに、女性は思い出したようにそう言う。


「アタシの名前は【クトラ】。安心して。ここにいれば安全だから。確か名前は……レック君でよかったかな?」


「あ、はい……。よろしくお願いします……」


「さて、どうしよっか。いろいろやらないといけないことがあった気がするんだけど、寝起きでまだ頭が回らない……あ! そうだ! レック君に確認しないといけないことがあるんだった!」


 もみあげのリングをいじるクトラは、何かを思い出したように手を叩いた。


「レック君、今何歳?あ、っていうか年齢ってわかる?」


「えっ!? はい、分かりますけど……」


 一体何を聞かれるのか、と身構えていたレックは、その問いに拍子抜けした。

 とは言え、これの結果次第で、向こうの対応が変わるのかもしれない。

 かと言って、嘘を言っても仕方がない。レックはひとまず、正直に答えた。


「十四歳……ですけど」


「おー! いいね! 十四歳! 【ハイラ】と一緒だ。これは運命感じちゃうねー。──だけど、君にとってはあんまりよろしくない結果になっちゃったかもね」


 クトラは、これまでのにこやかな雰囲気から一転する。

 空気は一気に冷め、まるで人が変わったようなクトラにレックは戦慄する。


 彼女は、(まと)っていた青いローブを翻す。ナイルの物と同じ、丸い枠に黒い天の文字を見せつけ、無機質にこう言った。


「【四天王】、【水天】たるクトラが命じます。成人となったレックには、【魔界戦線】で戦うため、【選別の儀】を行ってもらいます」

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