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殺人という甘美な誘惑  作者: まきりょうま
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地下世界

なぜ人を殺してはいけないのか?むしろ、殺人は善ではないのか?

第1話 青森に住む彼女


太一は大学卒業後、自動車電話を扱う会社に就職した。時代はまだ、バブル時代の残り香が漂っていた。とくに、中小企業は採用に熱心だった。太一は、大手企業の就職試験を全て落ちた。彼は仕方なく、何の興味もない業界に身を投じることにした。

しかし時代は、激しく移り変わった。すぐに携帯電話が現れた。太一の会社も、この新規事業に参入すべく着々と準備をしていた。太一が就職してすぐに、会社は自社製品販売に踏み切った。市場の評価はとてもよかった。あれよあれよという間に、彼の会社は携帯電話が主力商品になった。

太一は、この移動通信という技術を身につけようと、必死に勉強した。彼はもともとは、文系の人間だった。でも彼は、挫けず食いついた。次第に太一は、分厚い専門書や、まだ実用化されていない新技術の論文まで目を通すようになった。

たちまち太一は、社内でも有数の技術専門家になった。入社当初は営業部門だったが、すぐに企画部に異動となった。次の新製品について、市場の動向を見ながら作戦を練る仕事だ。開発部門と連携し、売れる商品の開発に知恵を絞った。

加えて太一は、とても人付き合いがよかった。彼自身は、あまり酒を飲まなかった。でも、誘われたら最後まで付き合った。相手が同僚、先輩、上司、役員と、誰でも太一は変わらなかった。日付が変わろうと、気にしなかった。それが人と酒を飲む礼儀だと、彼は「のっぽさん」から教わった。

さらに太一は、とても話題豊富だった。話題が仕事の愚痴ではなく、政治や文学や哲学や音楽になると彼の出番だった。誰もが、太一の知識にびっくりした。彼はそちらの世界でも、会社で一目置かれる存在になった。

大手電話会社が、太一の会社を買収した。そして傘下に携帯電話会社を設立し、太一の会社のメンバーはみんなそこへ移った。会社の技術が評価されたのである。太一は、入社試験で落ちた会社の社員となった。そして二十代後半で、企画部門の主任に昇格した。

出来過ぎの人生だった。でもそれは、太一のたゆまぬ努力の結果でもあった。ちょうど時代は、インターネットとWindows95 に代表される大規模ネットワークの時代へと移行しようとしていた。太一はこれも、徹底的に追求した。やがて太一はシステム部門に移り、自社事業に必要なシステムの開発に携わるようになった。トントン拍子で出世し、彼は33歳でシステム課の課長になった。


だが太一の心を、いつも濃い闇が覆っていた。社会で充実した毎日を送っても、時折サッと漆黒の闇が彼を包んだ。それは、「贖罪」の意識だった。どれだけ時間が経過しても、その思いが消えることはなかった。

「最近、青森はいつ行った?」と、のっぽさんは太一にたずねた。

「二週間前の土日に、行ってきました」

希美(のぞみ)ちゃんは、元気だっだかい?」

「いや・・・、それが・・・」と太一は、答えに言い淀んだ。

「どうした?」

「今度の職場でも、また事件のことがバレてしまって・・・。希美ちゃん、すぐ退職しちゃったんです」

「そうか」のっぽさんは、さっと厳しい顔に変わった。その表情のまま、いつものように、しばらく考えこんだ。

のっぽさんは、もう六十代半ばになっていた。彼は努めていたレストラン経営の会社を定年退職した。そのあと彼は、自己資金で焼き鳥屋を開業した。場所は、勤めていたレストランのすぐそばだ。なんでも、前の経営者が後継者を探していたそうだ。のっぽさんは、わずかなお金でその店を引き継いだらしい。

希美ちゃんは、太一が大学時代に親しく付き合った友達の妹だ。太一は20歳のときから20年間、毎月必ず彼女に会いに行った。

太一は希美ちゃんに、恋をしていたわけではない。彼を突き動かしていたのは、恐怖だった。希美ちゃんの兄は、少女を何人も惨殺した。あまりの猟奇的犯行に、20年経っても話題にのぼるほどだ。希美ちゃんは、加害者の妹だった。彼女は死ぬまで、その十字架を背負って生きる。だから太一は、青森に通った。彼は、最悪の事態を恐れた。

「彼女は今も、青森を出る気はないのかい?」と、のっぽさんは聞いた。

「はい」と、太一は答えてため息をついた。「その話は、若いころからずっとしているんですが・・・。でも、子供のころからの友達と離れたくないそうです。誰も知らない街で一人になって、自分がバラバラになるのが怖いんだそうです」

店が暇なときは、のっぽさんは仕事を全て部下に任せた。カウンター席に座った太一の、真向かいに彼は立った。そしてずっと、二人で話し込んだ。金曜日や休日前なら、二人は2時で店を閉めて別の店に行った。とはいえ、太一とのっぽさんは飲んでもバカ話はしなかった。いつも話題は真剣で、重苦しいものばかりだった。ちょうど、今夜のように。

「前にも、話したと思うけど」と、のっぽさんは言った。「重要なのは、希美ちゃんがお兄さんの勢力圏から脱出することだ。それに成功しないと、どこにいっても事態は変わらない」

「その通りなんです。でも・・・、それができない。20年経っても」

「そういうことなんだな」のっぽさんも、諦め顔でうなずいた。

問題をややこしくしているのは、太一の親友(川島という名前だった)が、妹に性暴力をふるったことだ。それはお兄さんが高一、希美ちゃんが中一のときから始まった。それは単なる性行為ではなく、とてもサディスティックなものだった。ライター、カッター、ナイフ、釘、花火などが使われた。その傷痕が、今も彼女の身体中に残っている。

太一は一度、その傷を見せてもらったことがある。背中いっぱいに広がる、無数の傷痕を。太一は、直視するのが難しかった。しかし同時に、逃げちゃいけないと考えた。彼は彼女の傷痕を、しっかりと事細かに記憶した。希美ちゃんは、まだ結婚していない。彼女ももう、三十七になる。

「なぜ、川島があんなことをしたのか、私は未だに理解できないんです」

太一はそう言って、焼酎のお湯割りを煽った。それから、煙草に火をつけた。彼は一日に、四十本煙草を吸った。完全な、ヘヴィ・スモーカーだった。

「おいおい、その話はもう何度もしたじゃないか」と言って、のっぽさんは微笑を浮かべた。「繰り返しになるけど、潜在的にサディスティックな欲望を持つ人は多い。職場内のいじめ、パワハラもあるし、学校、部活動、軍隊にいたるまで、サディスティックな行為は日常的なことだ。共通項がある。する側が、圧倒的に優位な立場にあること。対等な力関係では、こんなことは起こらない。誰かが俺を傷つけようとしたら、俺は必死で抵抗するからね」

「わかります。抵抗できない、弱い相手を選ぶってことですよね。相手を服従させて、爽快な気持ちになるんでしょう」

「サディスティックな欲望を持つ人にとって、その実行は甘美な誘惑だ。いつかやりたいと、ずっと時が訪れるのを待ってるのさ」

太一はまた、煙草を取って火をつけた。煙を吐きながら考えた。俺は希美ちゃんを救えなかったな。心から、そう思った。思いつくことは、全てやったと思う。でも彼女は、川島を振り切れなかった。

川島のお父さんは、とても厳格な方だったそうだ。旧日本軍の軍人かのように振る舞い、川島を子供の頃から徹底的に鍛えた。体罰も、日常茶飯事だったらしい。だがそれは、圧倒的に強い立場の弱いものいじめになりかねない。

 川島が希美ちゃんに、それから被害者の少女たちにしたこと。それは、川島が彼のお父さんのように、弱い者を支配することだった。そうして川島家に、最悪の事態が訪れた。川島は、連続殺人のあとに事故死した。川島のお父さんは、事件後しばらくして自ら命を絶った。

希美ちゃんはお母さんと、親戚の家に身を寄せた。彼女は高校を中退してしまった。事件のあと、彼女は学校に行けなかったからだ。太一はまた、深いため息をついた。

「なあ、難しい話は一休みしよう。音楽を楽しもうぜ」と、のっぽさんは言った。

自分でマイクを持ち、彼は端末を操って選曲した。すぐに yes の roundabout が始まった。こんな曲をカラオケで歌うのは、のっぽさんくらいだろう。スピード感と緊張感あふれる曲に、太一は気分を持ち直すことができた。

次は、King Crimson の 21st Century Schizoid Man。のっぽさんは、カウンターの奥からアルト・サックスを出してきた。彼は歌いながら、サックスも吹きまくった。のっぽさんの歌と演奏が、この焼き鳥屋のウリだ。それ目当ての客が集まり、曲が終わると店中が大盛り上がりだった。

太一に、こんなことはできない。一生、のっぽさんに追いつくことはないだろう。だが、と彼は思った。私は私に、できることをやるだけさ。太一は、とてもタフな男に成長していた。


第2話 失踪した少女


始まりは、紛失した携帯電話の問い合わせだった。それは、月曜の午前中のことだった。

「太一さーん」と、オペレーターリーダーの女性が太一に泣きついた。

「どうしたの?」

「紛失の問い合わせなんですけど、そのお客さんが自分の娘の話ばかりして。そのうえ、泣いて泣いてどうしようもないの」

「なるほどね。いいよ、代わるよ」と太一は答え、点滅している保留ボタンを押して電話に出た。

「はい、お電話代わりました。私、若倉太一と申します。遺失物捜索課の責任者です」

「ひいっくっ、ひいっくっ、・・・」電話口の女性は、感極まっている真っ最中だった。

「お客さま、お客さま?」

「ひいっ、ひいっ、・・・、すっ、すみません。取り乱してしまって・・・」と、ようやくその女性は話し出した。

「まず、落ち着きましょう。時間は、気になさらないでください」と、太一は彼女に話しかけた。

「ひいっくっ、ひいっくっ、・・・」

太一は、ネクタイを少し緩めた。長期戦で構わなかった。五分も待つと、女性の泣き声は徐々に鎮まり、やがて聞こえなくなった。

「弊社の携帯電話を紛失されたとのことですが、もしかするとお子様の携帯が無くなったのですか?」そう、太一は聞いてみた。

「そう、そうなんです。というか・・・、娘もいなくなったんです・・・」

 なんだか、ややこしい話になってきた。

「差し支えない範囲で、もう少しご事情を教えてくださいませんか?」

「あのっ、昨日から、娘が家に帰ってこないんです」

「なるほど」

「あのっ、うちの娘は、外泊なんかしない子なんです。帰る時間を、必ず連絡する子なんです。おかしいんです。絶対に、おかしいんです!」

 それからその女性は、またしばらく泣き続けた。太一はまた、彼女の興奮が治まるのを辛抱強く待った。

「警察には、通報されたんですか?」と、太一は聞いてみた。

「もちろん、連絡しました。昨日の夜に。今日の朝、警察署にも行きました。でも、取り合ってくれないんです。『友達か、彼氏の家に泊まっているんだろう』とか言って、何もしてくれないんです!」

 まあ警察は、事件性がなければ動かないだろうな。遺体が見つかったとか、大量の血痕があったとか。

「探偵事務所にも電話したんです。でも、調査に着手するだけで何十万も要求されて・・・。家には、そんなお金ありません」

 興奮したその母親は、そこで一息ついた。荒い呼吸を、整えているみたいだった。

「島田さーん」と、太一はさっきの女性オペレーターを読んだ。「携帯の電話番号は聞いてるよね?」

「はい」と、彼女は答えた。

「山崎!」と、太一は怒鳴った。「この番号の、現在地点または最終発信地点を調べろ」

「はあ」と、山崎は気のない声で答えた。

「至急だ!一分で調べて、持ってこい!」また、太一は怒鳴った。山崎は、怒鳴らないと動かないタイプである。

「もしもし、お母さん」と私は母親の女性に、できるだけ落ち着いて優しく話しかけた。

「はい・・・」

「今、お子さんの携帯の現在位置、または信号の最終発信地点を調べてます。お子さんは、なんというお名前ですか?」

「佐奈江です」

「サナエさんですね。サナエさんは普段、携帯でゲームをしたり、友達とメッセージをやり取りするのはお好きでしたか?」

「はい。あの・・・、もう中毒かと思うくらい、いつも携帯をいじってました」

「そうですか・・・」太一は、小さなため息をついた。「率直に申し上げます。始終使っていらっしゃると、現時点でバッテリーが切れている可能性が高いです」

「出ました」と山崎が言って、プリントアウトしたA4の紙を持ってきた。それは地図で、紙の中心はJR飯田橋駅前だった。その線路脇に、情報発信地点を示す「◉」が大きく表示されていた。

「山崎、これは何日何時時点だ?」

「昨夜の、23時です」

「これ以後、信号は受信してないんだな?今日の、今の時間まで」

「はい、そうです」

「お母さん」と、私は彼女に話しかけた。「サナエさんは、昨日の23時に飯田橋駅前にいたことまでわかりました。理由は不明ですが、それ以後携帯の信号は受信できていない。バッテリー切れかもしれないし、電源を切ったかもしれない」

「そんな・・・。そんな遅くに、そんなところで遊んでいる娘じゃないんです」

「お母さん、弊社の登録によると、お住まいは八王子ですね」

「はい、その通りです」

「サナエさんは、普段何時頃家に帰られますか?」

「いや、それが・・・」と、意外なことに母親は困った声を出した。

「どうされましたか?」

「あの・・・、実は佐奈江は、普段まったく外出しないんです」

「失礼ですが、いわゆるひきこもりの方ですか?」

「はい、そうです」と彼女は認めた。「高校を卒業した後、専門学校に進学したのですが・・・。9月くらいからまったく学校に行かなくなってしまって・・・。だから、昨日外出するのが、1ヶ月ぶりぐらいだったのです」

 さて、困ったな。太一は、知恵を絞った。我が課は、なくなった携帯を探す部署である。今回の場合、それはいなくなったサナエさんを探すこととイコールだった。

「サナエさんは、パソコンはお好きですか?」

「はい、家にいるときはずっとパソコンをいじってます。真夜中まで、ずっとです」なるほど。

「サナエさんに、仲の良いお友達はいらっしゃいますか?お母さんの知っている範囲で」

「何人かは、わかります」

「では、こうしましょう。お母さんはこれから、サナエさんの友達全員と連絡を取ってください。サナエさんが、友達と一緒なら結構です。一緒じゃなかったら、サナエさんと飯田橋駅のつながりについて、心当たりを聞いてください。そしてわかったことを、私までご連絡ください」

「わかりました」と、その母親は答えた。

「時間がかかっても結構です。ありうる可能性は、全部潰していきましょう」と、太一は言った。「我々は、携帯電話の信号を分析して、サナエさんの居場所を探します。お互い役割を分担していきましょう。それで、よろしいですか」

「わかりました。よろしくお願いします。御社だけが、頼りです。本当に、よろしくお願いいたします」と、その母親は言った。


「これじゃ、人探しじゃない!」と、オペレーターをまとめる役の女性が言った。太一は今回の件について役に立つメンバーを四人呼んだ。みんなで、ミーティング席に座っていた。

「これ、警察の仕事ですよ」と、私より年配の中年男性が言った。彼は電話通信のエキスパートだった。

「みんな、俺たちの仕事は何だ?」と、太一は右手に持ったシャーペンをクルクル回しながら言った。

「な、なくなった携帯を、探すことです」と、まだ二十代の若者が言った。こいつは、コンピュータのプログラムにやたら詳しかった。

「そうだな。なくなった携帯を見つける。そして、持ち主のお客さまへ返す。それが俺たちの仕事だ」

「それは、そうですが・・・」もう五十代後半の部下が言った。彼は販売部長まで昇格したが、自部門の売上を改竄して水増ししたため降格となった。そして今は、私の部下になっていた。

「携帯をなんとしても見つけて、顧客満足度を向上させるんだ。俺たちは、お客さまに対して最前線に立っている。俺たちがしくじれば、お客さまはもう当社の製品を買わない。他社を選ぶんだ。それをしっかり自覚して、この仕事に取り組め!」

 みんな、「仕方ねえなあ」という顔をしてうなずいた。さて、それでは仕事だ。

「さあこの状況で、サナエさんの携帯の場所をつかむ方法を考えろ」と、太一は言った。

 太一に命じられた四人は、両手で頭を抱え込んだ。太一は腕組みをして目を閉じ、誰かが発言するのを待った。部下に考えさせるのが、課長の仕事である。自分で何でも、決めてはいけない。


 昨年、太一は致命的なミスを犯してしまった。彼はシステム課長として、全社のPC総入れ替えに取り組んでいた。肝心の機種は、親会社の調達部門が絞り込んだ三機種から一番スペックの高いものを選んだ。あまりに当たり前の選択だから、太一は上司に相談もしなかった。

しかしそのメーカーが、折り悪く全社員の携帯を当社から競合他社へ鞍替えした会社だった。PC入れ替えが始まると、営業の役員から太一の部門の役員へ「なぜ、このメーカーを選んだのか?」と、質問が飛んだ。役員会で、太一の部門の担当役員は、しどろもどろになった。会議終了後、彼は自分が受けた屈辱を部下の部長にぶつけた。上司に突然怒られた部長は、さらに怒りを増幅させて太一にぶつけた。

「スペックが一番高いんですよ。将来を見据えて当然の選択です」と、太一は平然と主張した。

「それは、君の権限じゃない」と、部長は怒りに満ちた表情のまま答えた。

 じゃあ、商売上の恨み辛みで機種を選定するのかよ。アホか、と太一は思った。しかし、役員も部長もこの恨みを忘れなかった。かくして太一は、翌春に遺失物捜索課に課長として異動となったのである。

 遺失物捜索課は、一言でいってダメ社員の巣窟だった。各部門で、失格の烙印を押された社員がこの課に異動となった。なくした携帯の、問い合わせを受けるくらいなら誰でもできる。この課は全部で、20人も在籍していた。仕事に対して、明らかに人員オーバーだった。だが太一も、落伍者としてここに送り込まれたわけだ。けれど太一は、少しも気にしてなかった。

iPhoneの登場により、時代はいわゆるガラパゴス携帯からスマートフォンへと移行した。当社は急いで、google社のAndoroid携帯を発売した。私なら、ガラケーの技術を生かしてTron OS を使ったスマートフォンを開発するんだけどな、と太一は思った。だが彼は、企画部門にはいなかった。会社の決定に従うしかない。

 もう一つ、重要な変化があった。スマートフォンの技術により、電話会社(通信キャリア)にとって顧客の生活は丸見えになった。ある人がどこにいて、スマートフィンで何をしているのかだいたいわかる。電話しているのか、LINEのようなショートメッセージをやり取りしているのか、YouTube を見ているのか、昨日の見損ねたドラマを見ているのか、OnLineゲームで誰かと対戦しているのか。その人の恋人も当社ユーザーであれば、二人がいつどこで会ったかもわかる。相手が別の当社ユーザーとラブホテルに入れば、浮気していることもわかる。もちろん、お客さまを絞って徹底的にデータを分析すればの話だが。

 太一がこの課に着任して真っ先に手がけたのが、スマートフォンを紛失したユーザの行動を「見える化」することだ。彼は直前までシステム課に属していたから、当社の大型システムの仕組みを熟知していた。そこから得られるデータがどんな形式で、何をキー(主キー=プライマリーキー)にしているかを完全に把握していた。

 これまでの遺失物捜索課は、問い合わせのあったスマートフォンの現在位置か最終信号発信位置をお客さまに伝えるだけだった。課のみんなが、自分は落ちこぼれ社員だと自覚している。やる気は、ゼロである。おまけに前任の課長も、まったくこの仕事に意欲をもっていなかった。太一への引き継ぎ事項は、ほぼゼロだった。「毎日席に座って、コーヒーでも飲んでればいいよ」と、彼は真顔で言った。太一はそいつを、本気でぶん殴ろうかと思った。だが、すんでのところで踏みとどまった。

 太一が取り入れたのは、お客さまの行動分析である。スマートフォンを失くすまでのその人の行動を、本人の了解を得た上でデータ分析する。スマートフォンを失くすケースの半分強は、酔っ払ったときだ。酔って家に帰って、翌日スマートフォンがないことに気がつき、太一のところに電話が入る。

 もちろん、最近のアプリは「iPhoneを探す」に代表されるように機器の場所をおおよそ示してくれる。だが、所詮は数万円の機器のGPS(人工衛星を利用した測位システムのこと)だ。誤差が大きい。でもお客さまは、そこまで頭が回らない。

 例えば、最後の信号発信地が失くした日の浜松町大門の交差点だったとしよう。でもそのお客さまは、その日にそこに行っていないとしよう。お客さまはパニックである。

 そこで最後の信号発信に至るまでの、数時間前からの信号発信位置を分析する。太一は複数のシステムから得られるCSVデータを、エクセルのシート一枚ずつに貼り付けた。そして別の真っ白なシートに、エクセル関数を使って各シートのデータを集計した。時間を横軸に、緯度・経度を縦軸に一枚の表にまとめた。

 太一は、プログラムに強い二十代の男を呼んだ。彼は、名前を白田明と言った。彼は有り余るほどの知識と才能を持ちながら、与えられた仕事にまったく興味を示さないという欠陥があった。入社後に開発部門に配属されたのに、彼は与えられた課題を放って、就業時間中に自分の趣味のプログラムばかり書いていた。それで今、彼はここにいるわけだ。

「明!」と、太一は強い口調で言った。そして彼に、自分の作った表を見せた。「これが、何かわかるな。わかったら、これをgoogle map と組み合わせろ。お客さまにわかりやすい地図を作るんだ」

「はいっ!」と、明は勢いよく返事をした。要は、接し方なのである。

 明はものの一時間で、太一の課題をクリアした。さらに彼は、自分のアイデアをブレンドした。信号発信ポイントごとに、吹き出しを入れてコメントが入力ができるようにしたのである。

 さて続いて、お客さまの「行動目的」の追求である。単に「失くした」だけでなく、どんな状況で、どんな目的を持って行動していたかを知ることだ。さっきの例でいくと、お客さまは横浜市金沢区に住んでいたとしよう。その人の目的は、品川で京急に乗り換えて家に帰ることだ。だがその晩、三時間ばかり有楽町のあるポイントに留まっていたことがわかる。話をよく聞くと、「中華料理屋で、学生時代の仲間と紹興酒をたくさん飲んだ」と言う。楽しくてベロベロに酔って、山手線か京浜東北線に乗ったのだ。

 もうわかると思うが、お客さまのスマートフォンがあるのはJR浜松町駅の落し物係である。そのお客さまは、おそらくトイレに行きたくていったん電車を降りたのだろう。その時にホームかトイレかで、スマートフォンを落としたのだ。もちろん、本人は酔って覚えていない。大門交差点との誤差は、50m強。許容できる範囲だ。

 JRは、スマートフォンの落し物を受け取ると電源を切ってしまう。失くした人がみんな電話をかけるので、とてもうるさいからだ。現在の信号が受け取れない理由も、これで説明がつく。私が原案を作り、明が仕上げたエクセルファイルは今や当課の全員が使っている。だいたいの問い合わせは、このファイル一つで解決する。

 

 さて、目下の問題はサナエちゃんだ。彼女の行動を例のエクセルファイルに落として分析すると、彼女が八王子駅からまっすぐ飯田橋に向かったことがわかる。四ツ谷駅で中央線快速を降り、総務線各駅停車で飯田橋駅に行き、そこで降りた。

 彼女が行方不明である以上、行動目的は聞けない。

「彼女はまず間違いなく、23時に誰かと会うために行動してますね」と、五十代後半の部下が言った。彼は樺島昭和まさかずという名だった。一度不祥事を起こしたとはいえ、彼は豊富な人生経験から物事を解釈した。さらに一度は部長まで上がったのだから、当然頭脳明晰だった。

「サナエさんは、飯田橋駅付近をウロウロしています。数値を読むと、少量のパケットの送受信を繰り返してます。誰かと、頻繁にメッセージ交換してますね」と、電話通信のエキスパートが言った。彼は、山田哲男。もう50才になるところだ。彼は、典型的な職人だった。腕はいいが、コミュニュケーション能力が著しく低い。ちょっと目を離すと、同僚とすぐケンカを始める。その癖が治らないため、彼もここにいる。

「最近の子って、はっきり待ち合わせ場所を決めないんだよね。現地に着いてから、スマホでやりとりすればいいと思ってるから」

 と、三十代のオペレーターリーダーの女性が言った。彼女の名は、内山紗里奈。彼女はストレートの髪をショートカットにした、勝気な性格の美女だ。メイクも、服のセンスも申し分なし。おまけに、頭の回転も早い。だが彼女も、問題があった。すぐ上司に、反抗するタイプなのだ。頭がいいから、上司のバカさ加減をすぐ見抜く。さらに、思ったことをすぐ口にしてしまう。だからどこの部署に行っても、すぐ課長と犬猿の仲になる。困ったもんである。

太一が彼女に取った作戦は、完全平等である。若いオペレーターと話すのも、五十代の男と話すのも、彼女と話すのも一切変えない。おそらく、彼女は驚いたと思う。これまでの上司は、最初は彼女の美貌に鼻を伸ばしただろうから。

 太一は、部下たちの意見を聞きながら何度もうなずいた。みんなの意見が出揃ったところで、彼は口を開いた。

「ひきこもりの彼女が、なぜ意を決して飯田橋まで人に会いに行ったんだろう?」

 太一の問いかけに、しばらく誰も答えられなかった。太一は、話を続けた。

「ひきこもりの人は、他人と接することが怖くなった人たちだ。パソコンやスマホで、バーチャルに話すのはいい。だが、生身の人間と会うのは相当の勇気を必要としたはずだ。サナエちゃんに、そこまで決意させたものはなんだ?」

「それを知るには、彼女のPCの履歴を見るしかないんじゃない」と、紗里奈くんが言った。

「それだな」と、太一は答えた。


第3話 殺人サイト


 太一は、サナエさんのお母さんに電話をかけた。

「突然で恐縮ですが、本日ご自宅に伺うことは可能でしょうか?」

「ええっ?どうして、ですか?」彼女は、明らかに当惑していた。

「サナエさんの、お部屋にあるパソコンを見せていただきたいのです。その中に、昨夜彼女が飯田橋駅まで行った手がかりがあるかもしれないと思うのです」と、太一は説明した。

「あの、そこまで考えてくださって・・・、申し訳ございません・・・、本当に

・・・」太一にそう言われて、彼女はうって変わって恐縮した。

「お母さん。残念ですが、今の時点では警察は動かない。でも、時間は刻々と過ぎている。一分も無駄にできません。当社は、準備できています。いつ頃、お邪魔すればよろしいでしょうか?」

「いつでも、構わないです。私は、ずっと家に居ります。みなさまをお待ちしています」

「かしこまりました」

 太一は受話器を置くと、紗里奈くんと明を指名した。

「さあ、今すぐ八王子に行くぞ」


「あの・・・、課長。ここまで、しなきゃいけないんでしょうか?」

 電車の中で、明が恐る恐る太一に話しかけた。

「当たり前だろう。俺たちは、『遺失物を捜索する』役目を任されてるんだ。やるからには、徹底的にやる。そして、失くなったものを見つける。今回見事にサナエさんのスマホを見つけて、このお母さんがそのことを友達に話したと想像してみろ。当社は、顧客サービスに優れた携帯会社だと話すよ。彼女たちの友達に、おしゃべりな人がいたらなお結構だ。口コミで、当社の評判はぐんぐん上がる。ジャニーズを高額でCMに使うより、ずっと効果的な宣伝だ」

「太一さんには、もう何も言わないよ。わかりました」と、紗里奈くんは言った。彼女は太一を、決して課長と呼ばなかった。敬語も使わなかった。これが彼女のスタイルだ。太一は放っておいた。

 私は出がけに、山田さんと樺島さんに指示を出した。

「山田さん、サナエさんの飯田橋付近のデータ通信の内容を細かく分析してください。メッセージだけか。通信が途絶えるまでの、通話履歴を確認してください。。また、パケット量からアプリがある程度特定できないか。通信が取れなくなったのは、電源をOFFにしたからか?それとも、地下など当社の圏外に移動したからか?データから、できるだけ細かく分析してください。私が帰社したら、結果を報告してください」

「樺島さん、あなたは飯田橋駅に行ってください。彼女が歩いたと思われる周辺をくまなく歩いてください。データ地点との誤差は、約100mと見ておいてください。それから、23時時点で空いている店があったら、二十歳くらいの少女を見かけなかったか聞いてみてください」

「わかりました。現場主義ですね」と言って、樺島さんは笑った。彼は元一流の、営業マンである。現場の大切さを、よくわかっている。

 とはいえ、実は太一にもまだ何のアイデアもなかった。昨夜の夜から、二十歳の少女が行方不明だ。強盗、あるいはレイプにあって、殺されたって可能性もある。都会のど真ん中だ。何だって、起こり得る。

 だが殺人者は、よく犠牲者の携帯で友達にメッセージを送る。殺害後、何時間も経ってから別の場所で発信し、アリバイを作ることが多い。今回のケースはそれに当てはまらない。サナエさんは自宅からまっすぐに飯田橋駅に向かっている。アリバイ作りの痕跡はない。あるいは、これから発信があるか?

「ねえ。太一さんは、何で結婚しないの?」紗里奈くんが、まったく違う話を始めた。

「そりゃ、不細工だからに決まってるだろう。簡単な話だよ」

「太一さんは、不細工じゃないよ」

「おい、そりゃ嘘だよ」

 紗里奈くんは、ニコニコしながら太一を見ていた。彼女はまだこの部署に異動して、三カ月だった。人事担当者から、「問題児を引き取ってくれ」とはっきり頼まれた。もともと、額に傷のあるメンバーの部署である。私は、快く引き受けた。

 彼女はすぐに、才覚を発揮した。オペレーターのリーダー役を任せると、すぐに彼女は仕事を覚えた。そして、部下たちの信頼をあっという間に勝ち取った。彼女は優れた人物なのだ。並みの上司では、彼女に敵わない。それで軋轢が生じる。さて私は、彼女のお眼鏡に叶うのか?太一には、わからなかった。

「おい、明。せっかくの機会なんだから、紗里奈先輩と話せ」と、太一はバトンを明に渡した。明は、一瞬にして真っ赤になった。そして下を向いてしまった。典型的な、女性が苦手なタイプだ。まるで昔の自分を見るようだ、と太一は思った。

「明くんも可愛いよ。母性本能をくすぐるタイプ。そして、システムの才能!君の作ったファイルのおかげで、オペレーターの女の子はみんな本当に助かったよ。みんな、君に感謝してるよ」

「あ、あれは、課長が作ったんです・・・。私は、課長の指示通りにしただけです・・・」と、明は床を見つめたまま小さな声で答えた。今の彼に、紗里奈くんほどの美女と目を合わせる勇気はない。傷つくのが怖いのだ。

「いや、あれはお前が仕上げたんだ。俺は、アイデアを用意しただけ。自信を持っていいぞ」と、太一は言った。でも明は、ずっと首を振っていた。


 八王子駅に着くと、タクシーに乗った。電話をくれたお母さんは、小林さんといった。太一たちは、小林家へと急いだ。近づくにつれ、緊張感が高まってきた。少し怖いくらいだ。

 小林家は、建売住宅が立ち並ぶ典型的な郊外の住宅だった。お父さんは今も、都内のどこかで働いているだろう。娘がいなくなっても、彼は会社に行かなくてはならない。どこかバカげた話だ。

 チャイムを押すと、四十代半ばの品のいい女性が現れた。彼女は痩せていて、顔も細かった。髪もストレートで、そのせいかさらに痩せて見えた。その上彼女は、目の下にクマを作り顔の肌も荒れていた。ずっと、泣いていたせいだろう。太一のギアが、一段上がった。

 まずダイニング・ルームのテーブルに座り、お互いの情報交換をした。太一は、これまでつかんだ事実を全て話した。サナエさんの足取りを示す資料もお母さんに見せた。

「それで、お母さんの方は、何かわかりましたか?」

「実は・・・、それが・・・」

「どうされました?」太一は、答えを急かした。

「連絡の取れた友達はみんな、この一年以上佐奈江と付き合っていないと言うんです・・・」

「そうですか」

「飯田橋駅にも、まったく心当たりはないそうです」

「はい」

「それから・・・」と、お母さんは口ごもった。「佐奈江は、高校を卒業してから人が変わったそうです・・・。娘の友達は、みんなそう言うんです・・・」

「どう、変わられたんですか?」

「佐奈江は、宗教団体に入ったそうなんです。それで友達を熱心に勧誘したらしくて・・・。みんな佐奈江の勧誘を嫌って・・・。それで、疎遠になったそうです」

「宗教ですか」

 太一は手元の資料を見返した。そこでやっと、サナエさんが佐奈江と書くことを理解した。

「そんなこと・・・、私、全然知りませんでした・・・」と言って、お母さんは絶句した。

「佐奈江さんは、一年以上部屋に閉じこもってらっしゃたんですか?」

「はい・・・」と、お母さんは弱々しく答えた。太一はお母さんに、言いたいことが山ほどあった。でも、全部飲み込むことにした。

「佐奈江さんの部屋を、見せてくれませんか?」

「わかりました」

 彼女の部屋は、二階の南側だった。限られた敷地の建売住宅らしい、狭い急な階段を太一たちは登った。

 お母さんが部屋を開けると、異様な部屋に太一たちは対することになった。締め切ったカーテン。壁一面を覆う濃い紫色の布。その上に飾られたムンクの「叫び」の模造画。それから、ピカソの「ゲルニカ」。その他、太一も知らない不気味な絵画。とても、二十歳の少女の部屋ではなかった。

 部屋の左端をベッドが占め、右側に机があってデスクトップPCが置かれていた。これが、唯一の手がかりだ。OSは、Windows10だった。

「明、ログインしろ。管理者権限でだ」と、太一は彼に言った。

 明はノートPCをカバンから出し、佐奈江ちゃんのデスクトップPCにUSBで接続した。彼は、PCを起動させた。彼は佐奈江ちゃんのPCのキーボードを起動直後に叩き、現れた白黒の選択画面から自分のPCを選択した。明はプログラムを、マシン語から理解している。普通の人にはわからない言葉だ。

 現代のプログラマーは、GUIグラフィカル・ユーザ・インタフェース上でプログラムを書く。だが、完成したプログラムは「コンパイル」という段階を経てマシン語に変換される。コンピュータはマシン語を使って動く。日常我々がパソコンを使っている場合、こんな過程は一切気にする必要はない。

 だが起動時においては、マシン語の理解が必要だ。太一の指示で明が試みているのは、OSオペレーティング・システムの起動前にこのPCの修理屋としてログインすることだ。彼はノートPCに数行コマンドを打ち込み、修理屋として接続することに成功した。

 ログイン画面が表示された。明はすでにこのデスクトップPCのシステム権限を得ており、難なくログインした。

「佐奈江ちゃんの、ユーザデータにアクセスしろ」と太一は言った。

「そ、それは、IDとパスワードがわからないと無理です」と、彼は弱気なことを言った。

「アホか!解けよ。お前、プロだろう」と、太一は言った。

 人はまず、自分と一切関係のないパスワードは選ばない。名前、生年月日、記念日、電話番号、今の恋人、昔好きだった人、ペットの名前、・・・。

「お母さん、何かペットは飼ってらっしゃいますか?」

「へえっ!?」お母さんは突然の質問に、素っ頓狂な声を出した。「はい、犬を飼ってます」

「お名前は、なんですか」

「ワ、ワンダです」

ワンダも、重要な候補だ。人は先にあげた、身近な言葉や数字を組み合わせてパスワードを作る。無意味な文字の羅列は、本人が覚えられない。際限ないように聞こえるが、システムに詳しい人なら有限な可能性である。思いつく全ての組み合わせを、すべてPCにぶつければいいだけの話だ。管理者権限でログインすれば、何億回だって試せる。あらゆる組み合わせを試すプログラムを書き、さらっと流せばいい。人間にとって無限に思えることが、機械にとっては一瞬の簡単な仕事だ。

 明は一分も経たないうちに、佐奈江ちゃんのログインIDとパスワードを解いた。命令しておきながらだが、すごい才能である。

「ブラウザの履歴を確認しろ!直近一週間でいい」太一は明に指示した。

 彼女が主に使っているのは、Chromeであることがすぐにわかった。その履歴を、太一たちとお母さんは見た。

「なに、これ!?」紗里奈くんが、悲鳴に近い叫び声を上げた。なぜなら、その履歴はことごとく残忍な名前のサイトだったからだ。

「一番、直近の履歴を開け」太一は、明に命じた。サイトが画面に表示されると、それは「未来のサイコ・キラー」と題された2ちゃんねるの掲示板だった。


「小学六年生の女の子の、手と足を切断したい」

「生きたまま、だよね?」

「もちろん!」

「まず、指から落とそうぜ。一本ずつ(^_^)」


そんな会話が、延々と続いていた。佐奈江さんは出かける直前、このサイトを見ていたわけだ。紗理奈くんが青ざめ、両手で口を押さえていた。

「昨日の午後から夜にかけて、佐奈江さんを飯田橋に誘う書き込みはないか?」

太一たちは、昨日に遡って「飯田橋」という単語を必死に探した。しかし、何度見返しても見つからなかった。

「こいつら、狂ってるよ」と、うかつな紗里奈さんが嫌悪感を隠さずに言った。お母さんの前なのに。でも、仕方がない。彼女にはまだ、人生経験が不足しているのだ。

太一たちは、履歴を過去へ向かって確認した。現れるのは、有名な凶悪犯罪者を扱ったサイトばかりだった。切り裂きジャック、アンドレイ・チカチーロ、ジョン・ゲイシー、アルバート・フィッシュ、チャールズ・マンソン、・・・。それらのサイトは、彼らの犯罪を賞賛するコメントで溢れていた。同時に、新しい情報を付け加えたり、自分自身の残虐な嗜好を披露し合ったりしていた。

さてと。そろそろマズいな、と太一は考えた。振り返って佐奈江さんのお母さんを見ると、彼女はショックのあまり今にも泣き出しそうだった。

「お母さん」と、太一は努めて冷静に話しかけた。「若い人が、こういう犯罪者に興味を持つのはよくある話です。知識のひとつだと考えてください。実際私も、この手の犯罪者の本はたくさん読んでいる。若いころにね」

太一が犯罪者に詳しいのは、本当だった。彼は親友の川島に近づこうとして、古今東西の殺人鬼の本を読みまくった。おそらく川島も、同じことをしていたはずだからだ。彼は生前、「美学」という言葉をよく使った。それは、殺人を意味していた。

でも太一は、川島に近づくことができなかった。どれだけ残虐な犯行を詳細まで知っても、彼の心はまったく動かなかった。例えばいま、隣には紗里奈くんがいる。太一は彼女の、髪の毛一本引っ張ることも拒否する。頭皮から離れた髪の毛は、その命を失ってしまうから。それは、絶対に許されないことだ。太一にとって。

太一はむしろ、犯罪者の不幸な人生に興味を惹かれた。幸せな人生を送った、犯罪者なんていなかった。一見恵まれた生活を送っているように見えても、彼らの人生には欠落、亀裂、欠陥があった。彼らは、それにずっと苦しんだ。もちろんそれが、直接犯罪に繋がるとまでは言わない。だが、重要な要素であるのは確かだ。

「明、どうする?」と、太一は彼にたずねた。

「一年分、ブラウザの履歴をダウンロードします」と、彼は答えた。「会社に持ち帰って、飯田橋に関係するものを調べます」

「いいね。キャッシュ・ファイルも忘れるなよ」

「もちろんです」と、明は言った。

キャッシュ・ファイルとは、よく見るサイトを素早く表示するために過去の画面表示をPCに保存するファイルだ。同時にこのファイルは、サイトごとのIDとパスワードも記録してある。IDとパスワードを求められるサイトで、自動的にそれが入るようにする。これをもらえば、彼女のネット・サーフィンの状況がわかる。

しかしこのままじゃ、空振りに近いと太一は思った。八王子までわざわざ来て、手がかりは何も見つかっていない。これではスマホは、佐奈江さんは見つからない。そう思っていたときだった。

「佐奈江さん、このサイトを頻繁に閲覧してますよ」と、明がボソッと言った。

画面を睨むと、背景は黒だがまるで google みたいな殺風景なサイトが表示されていた。Iris とだけ中央に書いてあり、その下にIDとパスワードを求めるボックスが表示されていた。

明がIDに最初の一文字を打ち込むと、すぐに既定のIDとパスワードが入った。その下に「Down」と書かれたボタンを、明はクリックした。画面はすぐ、次のページに遷移した。みんな緊張しながら、PCの画面に見入った。

また真っ黒な画面に Iris と表示され、その下に「子羊たちよ。お前のすべてを告白しなさい」と書かれ、さらに下に入力を促す長方形のボックスがあった。

「課長、どうします?」と、明が聞いた。

まず間違いなく、犯罪関係のサイトだろう。しかもこれは、対話形式のプログラムだ。このサイトを作ったプログラマーは、ユーザの質問を何千通りも考えその答えを用意している。用意していない質問が入力されると、「意味がわからない。もう一度説明して」などと言って、ユーザを自分の既知の質問に誘導する。

「人を殺してみたい、と打て」と、太一は言った。

「えええっ!?」紗里奈くんが大声を出した。

「いいんだ、やれ」と、太一は明を急かした。明は質問を入力し、またその下の「Down」をクリックした。Down か。こいつを作ったやつは、とことん暗いな。

「うふふ、困った子ね。どんな風にするの?」Iris は、質問してきた。

「首の下から下腹部まで、ナイフでまっすぐに切り開きたい。もちろん、生きたままで」

佐奈江さんのお母さんと紗里奈くんは、画面を見ずに太一を見ていた。驚きで、声も出ないようだった。

「あら、悪い子ね。丈夫なナイフを用意しなさい。でないと、骨に引っかかって上手く切れないから」

こいつは我々を、佐奈江さんだと思っている。つまり佐奈江さんは、日常こんなやり取りをこのプログラムとしてたのかもしれない。太一は、結論を急いだ。

「飯田橋で、人を殺したい」

「あら、昨日行かなかったの?」と、Iris は返してきた。

やった、と太一は思った。他の三人も、「うわあ!」と声を上げた。だが、ここからが肝心だ。

「眠ってしまった。今日、これから行きたい」と太一は、明に指示した。

「ダメな子ね。今日こそ、行きなさい」

「場所を教えてほしい。忘れてしまった」

「おバカさんね。千代田区富士見x丁目xx番xx号、森山ビル5階よ」と、Iris は言った。

よし。太一は、すぐ樺島さんに電話をかけた。電話が繋がると、すぐに Iris から教えてもらった住所を伝えた。

「遠くから離れて、この森山ビルの写真を何枚も撮ってください。それを私に送ってください」

「了解。わかりました」と彼は答えた。きっと退屈していたに違いない。

「写真は目立たないように、撮ってください。ビルに、一人で近づかないで。これからすぐに、私が行きますから」そう言って、太一は電話を切った。

「お母さん。心配でしょうがないでしょうけど、あなたは家で待機してください」と太一は言った。

「それから、紗里奈くん。明。君たちはもう、今日は直帰でいいよ」

「ええっ、あたしも飯田橋に行くー」と、彼女は口を尖らせて言った。

「ダメだ」と、太一は即座に否定した。「あまりに危険過ぎる。こっから先は、俺と樺島さんで対応する。いいね!」


第4話 生贄


 紗理奈くんと明は、太一の命令を聞かなかった。一緒に飯田橋まで行くと言ってきかない。まあ、ここまで来たら結果が気になるよな。太一は諦めることにした。

 佐奈江さんのお母さんからは、彼女の写真をもらった。「この一年の写真はないんです・・・」お母さんは悲しそうに言った。ひきこもりになったら、写真は撮らないだろう。受け取った写真は、高校の卒業式のものだった。佐奈江さんは、肩までかかる髪を自然なままに伸ばしていた。洒落っ気はなく、顔も無表情に近かった。お母さんに似た面長の顔に、細い目。低い鼻に大きな口。お世辞にも綺麗な顔立ちではなかった。

 私はその写真を、樺島さんに送った。

「この女の子は、まだ見かけてないですね」と、彼は言った。

「二年近く経ってるので、今は印象が違うかもしれません。注意して見張ってください」と、太一は言った。

 さて、これからどうするか?指定されたビルで、何か見つかるか?わからない。だが、やるしかないだろう。

「太一さん。犯罪者に詳しいってホントなの?」中央線快速の中で、紗理奈くんが聞いてきた。

「ホントだよ」

「なんで?」

「事情があって、大学時代徹底的に調べた。でも、得たものはゼロだったね。全然楽しくなかった」

「よかったあ」と、彼女は安堵した様子で言った。

「快楽殺人っていう世界がある。マルキ・ド・サドなんかがその典型だ。サドは知ってる?」

「サドはわかるけど、その人は知らない」と、紗理奈くんは答えた。いいんじゃない。この世に、知らなくていいことは多い。

「ねえ、佐奈江ちゃんは、なんであんなサイトばかり見てたんだろう?」と、彼女は聞いた。明も、太一の言葉を待っていた。

「一言で言えば、逃げ場所かな。専門学校で挫折した彼女は、隠れる場所を必要としたんだろう。ある人は六本木に繰り出して、ドラッグなんかに手を出す。他の人は、慢性的なアルコール中毒になる。また別の人は、日本を出て世界を放浪する。佐奈江さんの場合、それが犯罪者の世界だったということかな?」

「そうなのかなあ?」紗理奈くんは、納得がいかないようだった。

「どんな残酷な話を知り、その残酷なことを実行すると想像してもね、想像と現実は、天と地の差がある。社会と上手くやれない子供は、社会への復讐として犯罪者の世界に惹かれる。でも現実に犯罪を犯す人はほとんどいないんだ」

「佐奈江ちゃんは、想像の世界で満足してたってこと?」

「かもしれない。でも、さっきのAIとの会話から推察すると、彼女は飯田橋で何か刺激を得ようとした可能性がある」

「可能性って?」

「残虐なことを、自分の目で見たかったかもしれない。飯田橋で、誰かが誰かを傷つけるところを」

「あの Iris って、AIでしょうか?」

紗理奈くんは黙ってしまった。その代わりに、明が太一に質問した。

「俺も、専門家じゃないけど」と、太一は断った。「質問に対応する回答を、たくさん用意してるだけのシステムじゃなさそうだ。質問者の言葉を記憶して、自分のバリエーションを増やす自己学習型に思える。もしそうなら、結構金がかかるシステムのはずだ。一般の企業は、あんなものをユーザに提供したりしない。そこからは、まだ謎だな」

 四ツ谷駅で各駅停車に乗り換え、飯田橋に向かった。駅について改札を出ると、樺島さんが出迎えてくれた。時間はもう、20時を回っていた。家へと急ぐ人、これから食事や酒を楽しむ人で、駅の周辺はごった返していた。

「こっから、先はダメ」と太一は、また紗理奈くんと明に言った。「そこのコーヒー・ショップで待ってなさい。明は、佐奈江さんの閲覧履歴を分析しろ。気が付いたことがあったら、後で俺に報告しろ!」太一は怒り気味に、二人に命じた。それぐらい凄まないと、二人は言うことを聞きそうもなかった。

 太一の剣幕にビビってる明と、くじけず不満げな紗理奈くん。そんな二人をその場に残して、太一は樺島さんと目的のビルに向かった。

 森山ビルは、都内のビルにありがちな古い鉛筆みたいなビルだった。耐震構造なんか、一切考えてない。ただ縦に、やたら長っぽそいビルだった。築40年は経っていそうだ。一階はハンコ屋。もちろん、もう閉店していた。二階から上は、貸事務所のようだった。

「念のため、手袋をしましょう」と、太一は言った。

「課長、本格的ですね」と、樺島さんは笑った。近くのコンビニで軍手を買い、二人とも両手につけた。それから、ビルの中に入った。

 一階の郵便ポストを見ると、二階から四階までは本業の見当がつかない会社名が並んでいた。でも五階のポストには、表札がなかった。空き事務所に思えた。

 太一は、エレベーターを使わなかった。細い非常階段を登った。五階に到着することを、「敵」に悟られたくなかった。「静かに登りましょう」と、太一は樺島さんに声をかけた。彼は何も言わずに、ニヤニヤ笑っていた。肝が座っている証拠である。

 五階に上がると、部屋は一つしかなかった。鉄製の重そうなドアがあり、やはり表札はなかった。そっとドアノブをひねってみたが、当然鍵がかかっていた。

「課長、任せてくださいよ」と、樺島さんがちょっと変な笑い方をした。

 彼はその場にしゃがんで、自分のカバンから15cmくらいのとても細い棒を二本出した。それは両方、太さ2〜3mmほどだと思う。樺島さんはそれを、ドアの鍵穴に差し込んだ。二本の棒を駆使して、カチャカチャと鍵穴を探った。二分くらいして、彼は鍵を開けてしまった。この人、普段何やってんだ?

「佐奈江ちゃんのためですから」と、彼は言い訳をした。でも彼の表情は、達成感で満ち溢れていた。

「ありがとうございます」と、太一は素直にお礼を言った。

 さて、行くぞ。太一は慎重にドアノブをひねり、物音を立てないようにドアを少しずつ少しずつ開いた。人が通れるまで開けると、まず自分が中へ滑り込んだ。玄関に電灯はついていなかった。だが、奥の部屋から漏れる淡い光が、ここまで届いていた。太一は玄関に完全に入ると、続いて樺島さんを招き入れた。

「私は前、樺島さんは後ろを見てください」

 太一と樺島さんは背中をくっつけるようにして、ゆっくりと中へ進んだ。太一と樺島さんは、玄関で革靴を脱いだ。土足で上がったら、足の大きさと靴跡でバレる可能性がある。太一は、その可能性も消すつもりだった。部屋の構造は、いかにも会社事務所といった態だった。まず仕切られた受付スペースがあり、その奥に事務所があった。物音は一切なく、人の気配もなかった。奥からの光は、とても微かだった。

 太一と樺島さんは、ジリジリと部屋を進んだ。やがて光が漏れるドアの前にたどり着いた。ドアノブをひねると、今度は鍵がかかってなかった。太一は、またそおっと扉を開けた。

 部屋の中は、まるでお洒落なカウンターバーみたいな暗さだった。部屋の四隅の薄暗い照明が、かろうじて室内を照らしていた。

 まず目についたのは、フロアの床いっぱいに描かれた魔法陣だった。その世界の人にとっては、悪魔を召喚するための図だ。さらに室内には、様々な拷問器具が並んでいた。手枷、足枷、釘の飛び出た椅子、水車のようなもの、十字架、その他用途のわからない装置。また、壁にかけられた複数の鞭。鞭は、革製のものから、鋲がついたものまであって自慢げに飾られていた。まるで現代の、魔女狩りの現場のようだった。

 魔女狩り。この暗黒の歴史についてご存知ない方のために、簡単に説明しておこう。絶対的なキリスト教社会であったヨーロッパでは、教義から外れた異端者は拷問され処刑された。古代ローマから、近現代に至るまで。そのうち、身近に魔女がいる、という民間信仰が生まれた。魔女とされるものは、女でも男でも構わない。昔の狭い社会において、異能の才能を示す者。また協調性のない者は魔女とされた。さらに、権力闘争のため、相手の財産目当てにも魔女狩りは利用された。

 キリスト教徒がこんなことを考えるのか、と驚くほど残虐極まりない拷問道具が考案された。魔女の嫌疑をかけられたものは、拷問に耐えきれず魔女であることを認めた。もはや、死んだほうがマシだからだ。魔女狩りは、驚くべきことに欧米で19世紀まで記録がある。なくなったのは、本当に最近のことだ。

 この部屋の主人は、間違いなくそっちのやつだと太一は思った。

「ドアに注意して、見ていてください」と、太一は小声で樺島さんに言った。

「任せてください」と、樺島さんは答えた。なんだか、楽しそうだった。

 一歩一歩進んだ。なんとなく、魔法陣を踏むのは避けた。すると部屋の奥に、コの字型に引っ込んだ場所があった。なぜかそこにだけ、際立って明るいスポットライトが二つ当たっていた。不審に思い、太一と樺島さんはそこへ向かった。

 まず壁に、赤い巨大な十字架があった。それはあまりにも大きく、天井まで届いていた。そしてその十字架に、少女が縛られていた。彼女は、全裸だった。

 その少女は、両手を開かれて十字架の左右に腕を固定されていた。皮の手錠をされ、十字架に磔になっていた。両足も開かれ、両足首にも革製の戒めがされていた。足が左右に引っ張られ、彼女の最も隠したい場所が露わになっていた。目にはアイマスクがされ、口もピンポン球みたいな物で塞がれていた。

 彼女の裸の身体には、生々しい無数の傷跡があった。ミミズ腫れもあれば、内出血しているところもあった。刃物ではっきりと切られてカサブタになった跡もあった。そんな傷が、全身に広がっていた。太一は、息を飲んだ。

 彼女の陰毛は、綺麗に剃り落とされていた。ヴァギナには、ヴァイブレータが刺さって静かに動いていた。彼女は私たちが来たことに、まったく気づかなかった。彼女は頭を左に傾け、磔にされたまま眠っていた。

「助けるぞ!」太一は思わず、大きな声を出した。それを聞くか聞かないか、樺島さんは彼女のもとへ走った。

 太一は、少女のアイマスクと口のピンポン球を外した。彼女は目を閉じたままだったが、佐奈江さんだとすぐわかった。樺島さんは、彼女を拘束する手枷足枷をあっという間に解いた。ヴァイブレータもさっと抜いた。やたら手際のいい男だ。営業マンより、違う人生の方が彼の才能を活かせただろう。

「逃げよう!」

 太一の言葉よりも早く、樺島さんは自分のコートを彼女にかけた。朦朧として、まだ明かりに目の慣れない彼女を、太一たちは事務所の中から玄関へと連れて行った。佐奈江さんは目覚めたようだったが、足元も覚束なかった。薬を仕込まれてるのかもしれなかった。彼女はずっと、何も言わなかった。階段を慎重に降り、ビルの外に出るところで太一は左右を見た。防犯カメラを確認すれば、こっちの面は割れる。サングラスとマスクでも、しておくべきだったな。太一は、少し後悔した。

 しかし、全裸にコートを羽織っただけの女の子連れだ。街をウロウロするわけにもいかない。太一たちはすぐタクシーを拾った。八王子の彼女の家まで、まっすぐ送ることにした。

 まず、お母さんに「佐奈江さんを見つけました。これから彼女と帰ります」とだけ伝えた。事情を説明したら、大変なことになる。とにかく、すぐ帰るとだけ伝えた。

 紗理奈くんと明にも、佐奈江さん発見だけ伝えた。そして、早く帰れと言った。彼らにも、詳しい事情は明日でいいだろう。

 樺島さんは、タクシーに同乗した。「許せないですよ。こんなの」と、彼は吐き捨てるように言った。彼には娘がいる。確か、大学生だ。他人事ではないだろう。

「樺島さん。この世には、いろんな暴力がある。私は大学時代、人殺しと接する機会がありました。彼は親友でしたが、本当に少女を強姦して殺しました。彼の影響で、私は人生が変わったと思います」

「そう、だったんですか・・・」

 樺島さんはそれだけ言って、言葉を失った。

 私だって、十字架を背負っている。太一は、そう考えた。自分では、選びようがなかった。大学に入って川島と出会い、すっかり意気投合した。二人には、「女にモテない醜い男」という共通項があった。太一も川島も、この残酷で無慈悲な一般社会に耐えた。太一は耐えるだけだったが、川島はもっと先へ進んだ。彼が到着したのは、人であることを放棄する場所だった。

 佐奈江さんは、タクシーの中でずっと眠っていた。やはり、薬かもしれない。あるいは、ショック状態かもしれなかった。彼女は樺島さんの肩に寄りかかり、目を閉じてゆっくり呼吸していた。樺島さんは全身を硬直させ、彼女の体重を受け止めていた。彼は佐奈江さん見つめ、怖いほど張り詰めた顔をした。太一はその様子を、助手席からたまに振り返って確かめた。

 生贄、という考え方がある。聖書に限らず、古い時代の宗教は神に生贄を捧げる。動物はもちろん、人間の場合もある。これは世界共通だ。生贄の価値が高いほど、神に捧げる意味は大きくなる。

 佐奈江さんは、生贄になる寸前だったのではという気がする。宗教家に限らず、人は形式にこだわる。私服で結婚式をするやつはいない。ウェディング・ドレスを着るだろう。

 あの事務所は、佐奈江さんを神(あるいは悪魔)への貢物にしようとしている最中だったのではないか?床に魔法陣を描き、独自の宗教観をこねて、生贄の儀式を行う。同じ価値観を持った人々を集めて、盛大に行うわけだ。

 もちろん、こんなことは推測に過ぎない。だが川島について考え抜いた太一は、今回の騒動は巨大な出来事の一部と思えた。その理由の一つが、 Iris だ。話してみて分かったが、あいつは簡単じゃない。よく、チェスや将棋や囲碁でコンピュータが人間に勝ったというニュースを聞くが、あれは勝負に勝つこと(報酬=得点)を目的として、過去のゲームを片っ端から記憶するタイプのプログラムだ。当然ながら、その開発には莫大な金がつぎ込まれている。資金力を持つ企業は、Iris に金を払わないだろう。あまりに倫理に反するし、何の宣伝効果もないからだ。

 あるいは Iris の後ろに、生身の人間が隠れていることもあり得る。例えば Facebook の自動チャットシステムは、予想外の質問に対しては社員が答えている。 Iris の陰で、指令を出しているやつがいるのかもしれない。それも複数人で。

とにかく、わからないことだらけだ。もっと情報を集めないと何も言えない。とにかく佐奈江さんは見つかった。それだけは収穫だ。とにかくお母さんのところへ連れ帰り、真っ先に病院に行くことだ。それが最優先事項だ。

 現時点で、警察は動くだろうか?無理だな、と太一は思った。彼女の傷痕を見せても、「彼氏とケンカでもしたんだろう」ぐらい平気で言うやつらだ。まったくあてにならないと思う。

待てよ。そういや、肝心の佐奈江さんのスマホは見つかってないぞ。まあ、いいか。肝心の、持ち主が見つかったんだから。太一はタクシーの窓から中央線沿線に暮らす、何百万人もの人々の家々を眺めた。それは全て猛スピードで、彼の視野を通り過ぎて行った。一人一人は、ちっぽけな存在に過ぎない。だがそのちっぽけな誰かを、何よりも大切に思う人たちがいるのだ。太一は、口をきつく結んだ。

今夜は、全ての序曲に過ぎなかった。


第6話 55


 事務所に戻ると、太一はすぐ樺島さん、山田さん、明を呼んだ。これに紗理奈くんを加えて、この事件の執行部だ。

「過去一年間、契約中なのに通信を一切していない顧客を探す。その顧客の自宅に連絡を取り、携帯を紛失していないか、しているならばその捜索協力を申し出る。遺失物捜索課として、新たなサービスの開始だ」と、太一はみんなに説明した。

「そ、そんなことして、どうするんですか?」と、すぐ明が聞いた。

「当社の携帯をもう使う気がないなら、解約手続きを勧める。そして、ここからが重要だが、利用者が行方不明ならその捜索協力も申し出る」

「な、なんでですか?」山田さんは驚きで、まさに目を剥いていた。彼を横目に見ながら、紗理奈くんは苦笑していた。彼女は何も言わなかった。

「お客様と携帯に、どこまでも責任を持つんだ」太一は、わざと不明瞭な答え方をした。

「わかりました。やりましよう!」と樺島さんは、強く言った。

「過去一年分なんて、膨大な計算量になりますよ」と、山田さんが不安げに言った。明も、その通りだと言いたげにうなずいた

「明。エクセルじゃもう無理だ。MSアクセスで、データベースを作れ。当社の顧客から通信量ゼロの人をピックアップしろ。年齢は、三十歳以下だ。ピックアップしたら、その顧客情報を一人ずつ表示する画面を設計しろ。自宅電話番号、年齢、住所、最終発信の前二ヶ月の通信量、その詳細。そして最終発信地点だ。

 データは私が取り寄せる。山田さん、あなたは明にデータ分析のアドバイスをしてください」

 渋々という様子で、明は山田さんと席に戻った。そして二人で相談して、データベースの設計を始めた。

「課長、私は何をすればいいですか?」と樺島さんが太一にたずねた。

「顧客がリストアップされたら、電話でコンタクトを取ります。紗理奈くん。オペーターの女性たちのうち、半分にこの仕事を指示して。樺島さん、そのあとがあなたの出番です。その顧客の家を直接訪問します。事情を聞き出し、携帯捜索の手がかりをつかみます。連絡の取れない、あるいは特別な事情のある家庭もあるでしょう。樺島さんしか、できない仕事になると思います」

「わかりました。私は、交渉役ってことですね」と、樺島さんは笑った。「コンピュータは無理だが、その仕事なら私に向いてる」

「なるべく、法には触れないでくださいね」太一は念を押した。昨日のように、住居不法侵入を繰り返されたら困る。

「ハハハ、わかりましたよ」と、彼は苦笑して答えた。

 紗理奈くんは何も言わずに席を立ち、さっそくオペーレーターの女性陣たちに指示を始めた。もともとこの課は、仕事量に対して人が多すぎる。電話応対をするオペレーターが10人。それから太一のようなスーツ組が、紗理奈くん含めて10人。おまけに太一と明が仕事を効率化したから、さらに暇になった。

 太一は現在のシステム課長に、過去一年間の全データ抽出を依頼した。

「三〇分くらいかかるよ」と彼は答えた。

「それで、十分」と太一は答えた。その間に、明にデータベースを組ませればいい。

 太一はようやく、席についた。そして両手で顔を覆い、机に両肘をついた。弾き出される結果に、彼は一人恐怖した。この世に失踪する若者なんて、いくらでもいるさ。そう自分を慰めることもできた。でものっぽさんの言う通り、今の若者はスマホを手放さないだろう。あれがなければ、友達とも繋がれないし情報も得られないのだ。その通信量が、ゼロということは・・・。

「太一さん、大丈夫?」

 顔を上げると、紗理奈くんが目の前に立っていた。彼女は顔をちょっと歪め、不安そうな様子を隠さなかった。

「大丈夫。次の作戦を練ってた」と、太一は答えた。彼は努めて笑顔を作った。その様子を見て、紗理奈くんはパッと表情が明るくなった。彼女はくるりと身体を反転させて、また無言でオペレーターたちのそばに戻っていった。紗理奈くんは、本当は優しい女性なのだ。何かで病んだ野良犬に、同情できる人なんだ。

 さて。別の人間が太一の立場なら、絶対にこんな問題に手を出さない。どうしたらいいかわからないし、出世のポイント稼ぎにもならない。だが太一は、逃げるわけには行かなかった。自分がたどってきた人生のために。希美ちゃん、そして川島。この二人が、太一のエネルギー源だった。

「課長、出ました」明がそう言ってノートPCを片手に、山田さんと彼の席へ走ってきた。太一はすぐ、樺島さんと紗理奈くんを呼んだ。

「該当者は、55人です」と、明は淡々と言った。

 55人。太一は、唇を強く噛んだ。これは、自分で対処できる人数じゃないぞ。太一はできることなら、今すぐのっぽさんに電話したかった。でも彼は開店準備で忙しい時間だ。それはできない。

 大事なことは、リーダーが狼狽えないことだ。トップが迷ってしまうと、部下たちはもっと迷う。太一は55人という人数に、一瞬考えただけでその重みに耐えた。それから、すぐに部下たちへ質問をした。

「この人たちの、住所は?」

「日本全国に、散らばってます」と、明は答えた。彼は自分のノートPCを、テーブルのモニターにつないだ。映し出されたリストを見ると、北は北海道から南は鹿児島まであった。

「山田さん、この人たちの最終発信地点は?」

「それが・・・」と、彼は言い淀んだ。「見事なほど、大都市圏に集中してます。札幌、東京、大阪、福岡。みんな最後の通信更新は、大都市圏の街中です。ほんとにみんな、共通しています」

「山田さんがさっき指摘していた、通信終了直前の大量パケット通信は?」

「あ、それは、調べてませんでした」と、山田さんは言った。

「すぐ、調べてください」と、太一はちょっと強く命じた。「全員です」

「紗理奈くん」と、太一は彼女へ顔を向けて言った。「この55人、全員の自宅にコンタクトを取って。明はリストをエクセルに落として、ファイル共有してみんなが書き込めるようにして。コンタクトの時間、コンタクト者と契約者の関係、会話内容、話した時間をリストに入力して。一度繋がらなくても、一時間待って掛け直す。これを繰り返して」

 紗理奈くんは、すぐに全てを理解した、大きくうなずいて、彼女はオペーレーター席に戻った。かなり厳しい表情で、彼女は部下たちに指示をした。

「明はコンタクト結果を、データベースに取り込めるように用意して」

明も走って、席に戻った。

「樺島さん」と、そばに残った彼に話しかけた。太一は無理にでも、落ち着いて見せようとした。「55人です」

「はい、課長」とだけ、彼は答えた。肝の据わった彼も、さすがに動揺が隠せなかった。顔が紅潮し、少し汗をかいていた。

「樺島さんと私の恐れていること。それが、みんな杞憂であればいいと思います。でも、確認しなくてはならない。樺島さん。この間に、シャツと下着の替えを買ってきてくれませんか?」

「はっ?」彼は、太一の言葉が飲み込めなかったようだ。

「今晩から、樺島さんに出張指令を出します。行き先は、オペレーターが集めた情報を分析した結果で決めます。あなたには、一番危険と思われる場所に行ってもらう。助手をつけます。一人では危険だ。出張中も、一人で行動することは極力避けてください」

「わかりました」彼はそう言ったが早いか、すぐに事務所を飛び出していった。早速買い物だ。

五人のオペレーターが、55人のリストと格闘していた。自宅の電話では、なかなか連絡が取れない。携帯なら、すぐ繋がるのだろうが。当社は申し込み時に、第二連絡先として自宅電話しか聞いていなかった。しばらくして、ようやく最初の一人と連絡が取れた。紗里奈くんが通話内容を、太一の机のスピーカーにモニターした。

「こんにちは。義男様は携帯を失くされたのでは、と心配になってお電話いたしました。義男様は、今ご在宅ですか?」

太一と樺島さんは、テーブルのモニターの表示された義男さんの情報を見た。樺島さんは下着を購入して戻ったところだった。義男さんは、まだ16才だった。山田さんも、モニターに近づいてきた。遅れて明もきた。

「義男はいないよ」と、電話に出た女性はぶっきらぼうに答えた。

「かしこまりました。義男様は本日、何時にお帰りのご予定でしょうか?」

「あいつは帰ってこないよ」と女性は抑揚のない声で言った。「ていうか、もう半年帰ってない」

課長席の周りにいるメンバーは、義男さんの最終通信地点と日付を確認した。明がPCを操作し、太一、樺島さん、山田さんは画面を食い入るように見つめた。義男さんの信号は、11月の上旬を最後に途絶えていた。場所は札幌、ススキノのすぐそばだった。彼の住所は、釧路市。

大都市とは、不思議な場所だ。たくさんの人が行き交っているのに、誰も他人のことなど気にしない。むしろ他人と接触することを避ける。だから、なんだってできる。ターゲットを、闇とネオンの光の下に引き摺りこめば。

二時間かけて、リストの半分くらいの人と連絡が取れた。だが、無事を確認できたのは一人だけだった。中学校三年の女の子で、スマホを失くしたことずっと両親に黙っていた。子供らしくて笑ってしまった。

あとは全員、行方不明となっていた。高校生から社会人まで。男も女も半数だった。太一は紗里奈くんに二時間の残業を命じ、オペレーターたちも同様とした。本来の遺失物受付サービスが17時半で終了すると、十人全員をこの仕事に投入した。20時時点で連絡が取れたのは、35人。本人は一人もいない。話ができたのは、母親か兄弟姉妹だった。

ここで連絡は終了にした。出来上がったリストを、ミーティングテーブルのモニターに映して、太一は樺島さん、山田さん、紗里奈くん、明を呼んだ。そして全員で、リストを睨んだ。

まずはっきりしたのは、家族たちがことごとく持ち主の行方不明であるのに悲しんでいないことだった。あからさまに、持ち主の悪口を言い連ねる者もたくさんいた。つまりこの携帯の持ち主たちは、家族から嫌われていたのだ。

太一も子供の頃、父親の暴力と姉との不仲のせいで家を飛び出した口である。今だに、家族とは疎遠だ。他人事ではなかった。

「どうしましょう?」

樺島さんが、切羽詰まった表情で太一に聞いた。彼は行動を起こそうとウズウズしていた。だがこのリストを前に、どうすればいいのかアイデアがないようだった。

「どうすればいいと思う?」と、太一はみんなに問いかけた。考えさせること、それが大事だ。必死に考えてこそ、人は強くなれる。

「最終発信日時が、一番古い人からあたりましょう」と、山田さんが口を開いた。「55人全員はまだ調べ切れてませんが、みんな一様に最後の通信で動画を見ている。そして、スマホの電源を切っている」

「正常終了してるってことですか?」と、明が山田さんに聞いた。

「うん。位置情報サービスを停止する信号が出ている。つまり位置情報を利用する、すべてのアプリが終了したということです。スマホのOSがシャットダウンされたと思われます」と、山田さんが説明した。

「自分で電源を切ったか、出会った相手がスマホを受け取って切ったか、ね」と、紗里奈くんが言った。「そして、あの飯田橋のビルみたいなところに連れてかれた・・・」

「一年近く前から通信がない人は、今さら調べても手ががりがないんじゃないだろうか?」と、樺島さんが疑念を示した。

「そうかもしれません。だが私たちが心配しているのは、当社の顧客の安全です。古い順に当たりましょう」と太一は言った。

それから彼は、机で所在なげにしているあと七人の部下を呼んだ。樺島さんを加えて、二人ずつ4グループに分けた。

「樺島さんと吉元くん。あなたたちは、関西地方を担当してください」

尼崎の顧客に電話をかけたら、明らかにヤクザものの男が電話に出た。大阪のおばさんも、屁理屈をこねてガラ悪く絡んできた。別に、彼らが悪いわけじゃない。生活が、人生が厳しすぎるのだ。

北海道、関東、九州。チーム分けが終わると、太一は出張命令を出した。

「この出張は、帰りの日は決まってない。何か手がかりをつかむまで帰ってくるな。各チームは進捗状況を、逐一樺島さんに報告しろ。そして指示を受けろ。私はすべてを、樺島さんから聞く」

「はいっ!」と、樺島さんが一番大きな声で返事をした。彼はすぐ、吉元くんを連れて新幹線に乗ると言い出した。

「今から出れば、ギリギリ新大阪に着けます」

樺島さんの気合が、みんなに伝染した。各チームが相談して、今後のスケジュールを立てていた。後は、放っておけばいい。樺島さんがすべてやる。

さてと。太一は大急ぎで荷物をまとめ始めた。必要な資料をカバンに詰め、春用の薄いコートを羽織った。彼は急いでいた。一刻も早く、のっぽさんに現状を相談したかった。


 会社を出て、のっぽさんに電話をした。

「これから、一時間弱でそちらに行きます」

「わかった。今、メールで送ってもらったリストを読んでいるところだ。一時間以内に考えをまとめるよ」と、のっぽさんは言った。お店は、大丈夫なんだろうか?

 XXX駅で降り、歩いて五分ののっぽさんの店に向かった。店の扉を開けると、馴染みの店員の他に、新しい若者がカウンターの中で働いていた。

「いらっしゃい。こっちに来てくれ」と店の奥から、のっぽさんが声をかけてくれた。店の一番奥には、小さな個室の四畳半の部屋があった。普段はその部屋は使わない。だが今夜の彼は、その中に座って太一を待っていた。襖を全部開けて、手招きをした。

「まあ、一日お疲れ様。とりあえず、飲み物と食べ物をざっと頼んでよ。疲れて、お腹も空いてるでしょ?」のっぽさんは、太一たに優しく話しかけた。

 太一は、生ビールのジョッキを頼んだ。おつまみは、すぐできるものにした。のっぽさんは、もう瓶ビールを飲んでいた。

「今日から、一人アルバイトを頼んだんだ。ちょうど近くの居酒屋が売上悪くてね。一人貸してって頼んだら、即OKだった」

「だから、のっぽさんは仕事する気ないんですね」と、太一は言った。

「そう、俺は休みだよ」と彼は笑った。「学生みたいなもんさ」

「のっぽさんのレストランに、すごい美少女がいましたね。レジ係の子ですよ」と、太一はのっぽさんに昔話をした。

「工藤くんだね」と、のっぽさんは懐かしそうに言った。「実は彼女から、何度も『付き合ってくれ』って言われたよ。そのたび、やんわり断ったけど」

「彼女は私にとって、この世で一番恐ろしい人だった」

「何!?」と、のっぽさんはたまげた顔をした。「そんな話、初めて聞いたぞ」

「そうでした」と言って、太一は頭をかいた。「工藤さんは、あまりに美しかった。そして、私を完全に無視してた。彼女の目に、私は入らなかったのかもしれない。彼女の視界に立って、彼女を怒らせたくなかった」

「I won't stand in your way だな。まさに」と、のっぽさんはさらりと答えた。「でも誰だって、怖い人はいるぞ。タイプは、様々だけどね」

「すいません。つい、学生の頃の気分になりました」と、太一は謝った。

「いいんじゃないの。昔話は、いつ愉快なものさ」と、のっぽさんは笑った。「工藤くんとは、ずっと連絡を取り合ってたんだ。彼女が二十代後半になったら、俺にそっくりの男を見つけた!って連絡してきた。その人と結婚して、今は二児のママだよ」

 レジ係の美少女も、自分なりの幸せをつかんだということか。太一もそれを聞いて、清々しい気分になった。

 飲み物と食事が運ばれてきた。ささやかに乾杯をし、まずはつまみを食べた。精神的に疲労する一日だった。とにかくエネルギーを摂って回復しなくては。太一は野菜炒めをムシャムシャ食べた。のっぽさんだけ、瓶ビールを手酌で飲みながらニコニコしていた。彼は、ぬか漬けのキュウリだけポリポリ食べていた。

 ひと段落ついたところで、のっぽさんが口火を切った。襖も、ピシャリと閉めた。

「さて、本題に入ろうか」

「はい」と、太一は答えた。

「俺はこの問題を聞いて、仕事してる場合じゃないと思ってる。だから、助っ人のアルバイトを雇ったんだ」と、彼は言った。のっぽさんはMacBookを開き、太一がさっき送ったリストを睨んだ。いつのまにか彼は、とんでもなく真剣な顔をしていた。

「北海道、関東、近畿、九州に、うちの課から調査員を送ります。でも、プロじゃないですから断片的な事実しかつかめないでしょう。次にやるべきことは、その集まった断片をつなぎ合わせる作業です。そして、ストーリーを描くことです」

「同感だ」と、のっぽさんは言った。「最終発信地点は、みんな街中というか繁華街なんだな?」

「全部調べられてませんが、連絡のついた35人はそうです」

「彼、彼女らは、家族と上手くいってなかったんだな」

「そうです」

「格好の標的だ」と、のっぽさんは言ってリストから目を外した。彼は、狭い四畳半の部屋の壁を睨んだ。そこには、何の変哲もないカレンダーが飾られていた。でものっぽさんは、それに経過した時間の重みを感じているようだった。

 厳しい表情を崩さず、のっぽさんは長い沈黙に入った。でも、太一は慣れっこだった

「通信途絶直前の、動画配信について太一はどう思う?」と、のっぽさんは聞いた。

「おそらくカリスマ的指導者が、説教をする動画だと思います。ヒットラーの演説みたいなものです。それを見せて、ターゲットに最後のドアを開けさせるんだと思います」

「興味深い意見だ」と、のっぽさんは言った。

「佐奈江さんの例のように、やつらは床に魔法陣を描くような連中だ。ある意味、子供っぽい。自分たちが作り出した、無邪気な宗教に酔っている」と、太一は付け加えた。

「そして街中の、ビルの一室に誘い込む」と、のっぽさんは言った。

「そういう手でしょう」

「若者たちを集めるのは、Iris だ。あいつは、人に殺人の誘惑をするんだよな?」

「そうだと思います。人生の途上で転げ落ちてしまったうちの何人かは、その解決を殺人に求める。それは彼らにとって、解くことの出来ない魅惑的な謎だからだと思います」

「その通りだろう」と、のっぽさんは短く答えた。しかし彼はまた、それ以上は言わなかった。表情を崩さず、ずっと先のことを考えているように見えた。

「新しいことは古いことにある、という言葉が俺は好きだ」と、のっぽさんは言った。「Iris に関わっている連中は、いわゆる新興宗教みたいなことをやっていると思う。太一が指摘した通り、魔法陣を描いて全裸の少女を鞭で打ったり、切り刻んだりする。神に生贄を捧げる儀式だ。こういう事例は、過去の密教的な宗教を調べればいくらでも出てくる。また、キリスト教の異端教徒処刑においても、似たようなことが行われている。できる限り残酷に、無慈悲に処刑が行われる。それが歴史的事実だ」

「おそらくそうだと、思います」と、太一は答えた。「やつらは、過去のいろんな書物や出来事から学んで、それを切り貼りして自分の教義を作る。そして、その通りのことをする。それに美しさと性的興奮を感じる。

おそらくやつらは、Iris で人を集めて、生贄の儀式をしてる。首や手足を切断して、神に捧げてる」

 太一が話していることは、みんな川島から学んだことだった。彼はまず性的欲望を、実の妹に向けた。しかも、とてもサディスティックに。妹に拒絶された彼は、今度はその欲望を見知らぬ少女たちに向けた。その行動において、彼は自分なりの「美学」を構築した。それがどんなにバカげていようと、本人は真剣だったのだ。このことは、世の中で繰り返し起こる猟奇的殺人事件に共通する。残虐非道な犯人は、なんらかの自分の物語を作り犯行に至る。

「俺も、太一の予想に賛成だ」と、のっぽさんは言った。「おそらくこいつら徒党を組んでる。インターネットを通じてね。そして、 Iris にしゃべせてる。そういうことになるのかな?」

「そうだと思います」

「俺たちの予測が全て当たりなら、史上稀な大量殺人事件かもしれない。ならば、明日からどんな手を打つ?」と、のっぽさんが太一にたずねた。

「さっきの四チームが、家族と面会し事情を聞きます。それから、なくなったスマホを探します」

「見つかるか?」

「川や水路に捨てられたらおしまいです。でも、中には道端に捨てたやつもいるかもしれない。それは誰かに拾われ、JRか私鉄か警察の遺失物集積所に眠ってます。それをできる限り見つけたい」

「それで?」

「彼らのスマホが見つかったら、充電して電源を入れます。会社の事務所から、それに接続します」

「パスワードは?」

「解きます。優秀な部下がいるので、できます」

「それから?」

「起動させたら、彼らが使っていたアプリを片っ端から調べます。LINEからTwitter、Webの閲覧履歴。そこから彼らが誰とコンタクトを取っていたか、どんな話をしていたかがつかめます。それを分析して、次のアクションを決めます」

「なるほど。いい作戦だ」と、のっぽさんは言ってくれた。

 太一たちは明日、死体に行き着くかもしれなかった。だが太一とのっぽさんの考えは一致していた。死んでしまった人は、帰ってこない。だがこれ以上、人を死なせないことだ。今すぐに、こんなことは止めなくてはいけない。

「絶対的権力は絶対に腐敗する、という言葉がある」

「政治学ですね」と、太一は返した。

「そうだ。今回にも、これは当てはまる。犯罪をバレずに繰り返すと、犯人は必ず脇が甘くなる。慎重さを失うんだ。そして、証拠を残してしまう」

 太一はのっぽさんの言葉に、思わず天を仰いだ。川島もそうだったからだ。彼はまず、獲物に非行少女たちを選んだ。家に帰らなくても怪しまれない対象だ。だが彼は続いて、進学塾から帰る女の子にまで手を出した。だんだん手口が荒くなっていった。

「明日ご家族と面会したら、許可を得てPCを送ってもらいましょうか?」

「そりゃ、いいアイデアだ。是非やってみようよ」と、のっぽさんも賛成した。

「わかりました」と、太一は答えた。しかし、問題があった。

明が得意とするのは、Windowsである。Mac OS X や Linux は多分詳しくないだろう。昔の付き合いで、システム開発会社の人間を雇うか?

ここで、OS(オペレーティング・システム)について、簡単に説明しておこう。OSとは、機械であるコンピュータとアプリ(アプリケーション)を橋渡しするためのソフトウェアである。OSは、CPUやメモリやハードディスクやLANポートやプリンターとアプリをつなぐ。

例えばインターネットを見る場合、人はブラウザというアプリ(インターネット・エクスプローラー、google クローム、ファイアフォックス、safariなど)をクリックして起動させる。そして、お気に入りのページなどを開く。するとOSはブラウザからの要求を、物理的な機械が理解出来る言葉に翻訳する。CPUが指定されたアドレスのデータ要求を行い、LANポートがその命令を外の世界へ流す。

次に要求された情報が、どこかのWebサーバーからパケットの行列となって届く。CPU は 以前話したTCP/IP のプロトコル(ルール)に従い(これも、厳密にはアプリだ)、パケットが全部届いたか確認する。間違いなく届いていれば、CPUはパケットをメモリ上に展開し、OSへ仕事が完了したことを伝える。OSはさらにブラウザへ連絡し、メモリ上に目的のページのデータが揃ったと言う。そこまで準備が出来て初めて、ブラウザは画面に描画を始める。

 コンピュータ黎明期は、システムとOS(オペレーティング・システム)の区別はあまり意識されなかった。システムとはその計算装置、コンピュータの筐体まで含めて一つのシステムと捉えられた。だが、IBMが先頭になってその概念を書き換えた。同社は、自社が販売する巨大コンピュータにOSを組み入れたのである。これを汎用機と言う。

これは、どういうことか?利用者はもう、機械から準備してシステムを作る必要がなくなった。IBM のOSに合った、ソフトウェアだけをを開発すれば良くなったのである。軍事目的でも、JRの予約システムでも、顧客情報管理でもいい。大幅なコストダウンだ。IBM のOSは、1960年代から世界を席巻した。

そこへ、アメリカのAT&T 社が UNIX という独自OSを開発する。これは無償で大学、研究所に配布された。仕様も公開されていたため、莫大な数のプログラマーが改良、改善、強化に携わった。こうして UNIX は、一躍OS界のトップに躍り出た。Mac OS X や Linuxも、実はUNIXの改良型だ。Windowsも、今は違うがMSーDOS時代はUNIXの真似だった。

やはり、システム・プログラマーを雇う必要があるかもな。その前に私は明に電話してみた。彼はまだ会社にいた。

「お前、UNIXはわかるか?」

「あたり前じゃないですか。私は、LINUXのベータ版の改良からこの世界に入ったんですよ」

私の心配は、まったく的外れだった。彼はまだプログラムを改良して、最終発信地点の精度を上げようとしていた。

「終電までには帰れよ」と、太一は言った。でも若いときは、徹夜で仕事できるんだよな。今の明は、それぐらいのエネルギーを放っていた。

「新しいことは、常に既知のことだ」と、のっぽさんは言った。

「はい」と太一は返事をした。

「驚かないことだ。よく見れば、すでに知っていることのはずだ」

「わかりました」

今度は少し早めに、太一はのっぽさんの店を出た。


第7話 屠殺


最初の成果は、北海道チームによってもたらされた。そのチームは、自民党重鎮の息子と剣道塾の息子のペアだった。この二人は、ありとあらゆることにやる気がなかった。どんな仕事を任せても、必ず二、三箇所致命的な間違いをする。そして間違っても、平然として全く反省しない。そういうタイプだ。

二人は朝10時に羽田空港を出発し、のんびりと釧路空港に降り立った。お互い、会話はなかった。二人とも、この相手とは合わないとわかっていた。政治家のコネで会社に入った仕事のできない男と、一見しっかりしていそうで実は手抜きばかりする剣道家。どうしようもないチームだ。でもそんな彼らに、有意味な仕事をさせるのが太一の務めだ。政治家は内藤、剣道塾は田口と言った。

二人は携帯を紛失したと思われる、釧路市に住む少年(義男君)の家を目指した。空港でレンタカーを借りて三十分くらい、市内に入るとすぐ彼の家はあった。二階建の賃貸アパートが、数棟並んでいた。県道から一番奥の棟の、左端一階が彼の部屋だった。飛行機を降りてすぐに、義男君の家に電話をかけておいた。ほぼ約束の時間に到着したので、内藤と田口は車を停めて家へと向かった。義男君の姓は、池本だった。

内藤が、池本家のドアをノックした。インターホンは、見当たらなかった。しばらくすると、扉が少しだけ開いた。三十くらいの、少し不機嫌そうな表情の女性が顔を出した。

「こんにちは。MMM社の遺失物捜索課のものです。お忙しいところ、お邪魔してすみません」と、内藤が努めて明るく挨拶した。こいつは、外面だけは良く見せようとする。すぐに、正体がバレるのだが。

「どうぞ」と、女性は短く言って家の中に消えた。内藤と田口は、無言で顔を見合わせてから家の中に入った。

部屋は、狭かった。台所に小さなテーブルが置かれていて、その隣が八畳間。部屋はそれだけ。一階なので、狭い庭が窓の外に見えた。その狭い家の中に、何人もの少年少女たちがいた。彼らは何をするでもなく、家のあちこちに座り込んでいた。みんな中学生や、高校生に見えた。今は当然、学校で授業がある時間のはずだった。だが彼らは、どこにも行く気がないようだった。

三十の女性は、台所前のテーブルの椅子に座った。内藤と田口は、彼女に名刺を渡して挨拶した。彼女は座ったままそれを受け取り、ポンとテーブルの上に投げた。

「それで、義男のことで話があるんでしょ」と、彼女はつまらなそうに言った。

「はい、そうなんです」と、内藤が答えた。内藤と田口は、少し迷ってから彼女の向かいの椅子に座った。

「義男さんの携帯が、長い間通信がない状態です。基本料だけは発生していますので、ご事情を伺いに参りました」と、今度は田口が事情を説明した。

「たったそれだけ?そのために来たの?釧路まで?」女性は、本当に驚いていた。

「はい。それで、義男さんの最後の通信が、札幌だとわかりました。昨年の11月です」と田口は続けた。

「札幌?」

「ええ。ススキノのそばです」と内藤は言って、彼女に最終信号発信地点を示す地図を見せた。「お心当たりは、何かございませんか?」

「ないね」と、彼女はぶっきらぼうに答えた。「ここは、釧路なんだよ。札幌なんて、滅多に行かないね」

「あの失礼ですが、あなたは義男さんの・・・」と、内藤が言いかけた。

「姉だよ。年はだいぶ離れてるけどね」と、義男さんのお姉さんは言った。彼女は、地図から目を切った。「義男は、そう、11月に家を出て行った。それ以外、連絡もないね」

「ご心配では、ありませんか?」と田口が聞くと、「全然だね」とお姉さんはすぐ答えて笑い出した。

「むしろ、せいせいしたよ。あいつの顔を、見なくて済んでね」

内藤も田口も何も言えずにいると、お姉さんは話を続けた。

「気持ち悪いんだよ、あいつ」と、お姉さんは言った。「罠を仕掛けてね、鳥を捕まえるんだよ」

「はい?」田口が、間の抜けたあいづちを打った。

「鳥を捕まえたらね。義男は、脚やしっぽや羽をハサミで切るんだ。生きたままでね」

内藤も田口も、言葉がなかった。

「羽も脚もなくなったら、今度は腹を割くんだよ。鳥はまだ生きてるのに。あんなやつ、いない方がいいよ」お姉さんの表情が、とても不機嫌になった。気分が悪そうにも見えた。これ以上、この話をする雰囲気ではなかった。

パソコン回収の話をしたが、断られた。みんな使うから困ると。二人が明に電話をすると、「インターネットの、キャッシュファイルだけ送ってくれればいい」という話になった。お姉さんにPCを起動させてもらい、ブラウザのオプションを開いた。

「パソコンのユーザーは、使い分けされてますか?」内藤が、明に指示された通りの質問をした。

「いや、分けてないよ」とお姉さんは言った。これはつまり、義男さんのインターネット閲覧履歴が他の人と一緒に手に入ることを意味する。

内藤が明の指示通りにファイルを手に入れ、メールで明宛に送信した。とりあえず、これで仕事は終わりという気がした。でも田口が、ついお姉さんに聞いた。

「この子供たちは、どうして昼間からあなたの家にいるんですか?」

「知らないよ。私だって」と、さらに不機嫌になってお姉さんは言った。「義男のつながりで、どんどん集まるようになったんだよ」

「でも、その義男さんはもう半年もいないんですよね?」

「だから、知らないよ!」

お姉さんは、本気で怒り出した。これでは、内藤も田口も何がなんだかわからなかった。しかし彼らのポリシーは、「こだわる」とか「疑問を解く」とかいう言葉と無縁だった。彼らは全てにおいて、いい加減な人生を送ってきた。だから、わからないこともそのままにした。


お姉さんにお礼を言ってから、二人は池本家を出た。アパートから、道路の路肩に停めたレンタカーに戻った。そこで思い出したように、田口が樺島さんに電話をかけた。そして池本家での、一部始終を報告した。

「お前ら!玄関から目を離すな!」田口は、樺島さんに怒鳴られた。「車を目立たない場所に停めろ。人の出入りを見張るんだ。動きがあったら、すぐ電話しろ!」

怒鳴られた田口は、仕方なくアパートの中へ車を進めた。池本家の玄関が、かろうじて見える街路樹の脇に車を止めた。そして二人で、じっと玄関を見つめることになった。

「これじゃ、まるで張り込みじゃん」と内藤が言った。

「ホント。警察だよ」と、田口がボヤいた。彼は樺島さんに怒鳴られたので、とても不愉快だった。

「若倉さんが来てから、いろいろめんどくさくなったよな」と、田口が言った。

「まったくだな。紗里奈なんか、若倉さんに隠れて威張りくさってるし」と、内藤が返した。

「居づらくなったな」

「早く、異動になんねえかな」

相変わらずこの二人は、そろって勤労意欲がゼロだった。楽な職場なら、それがベストなのだ。

家から、15歳くらいの男女が出てきた。二人とも、池本さんの家にいた子たちだった。内藤も田口も、二人の顔を覚えていた。子供は、嘘がつけない。二人の顔は、恐怖に歪んでいた。

二人は玄関から出て、アパートの隣にある細い道に立った。そして少年が、携帯を出した。彼は数分、誰かと話した。少女は少年に寄り添って、不安そうに彼を見上げた。そんな様子を、内藤と田口は県道の路肩から眺めた。

そこへ車が現れた。軽のワゴン車だ。色は、濃い赤だ。車は少年少女の前に、急ブレーキを踏んで停まった。二人はすぐ。車の中へ乗り込んだ。赤い軽自動車は、すぐ発進した。

「樺島さんへ、電話してくれ!」田口は急いでエンジンをかけながら、内藤に頼んだ。田口は、その軽自動車を追うつもりだった。そう言われると確信した。

「一台車を挟んで追え。でも、絶対に逃がすな!」

樺島さんの指示は、田口のほぼ予想通りだった。だが、内藤はついてこれていなかった。

「おい、追っかけてどうすんだ?携帯が見つかるわけじゃないだろ!」内藤がそう訴えた。

「知らねえよ。だけど、言われた通りにするしかないだろ」割り切って、田口が答えた。

軽自動車は、すぐに釧路市外へと出た。湿原などの観光地ではなく、名所の少ない南西へと車は進んだ。次第に車は少なくなり、車を一台挟んで尾行するのは不可能になった。そこで内藤と田口は、車間距離を100m以上取って、赤い軽ワゴンを追った。

次第に左右に住宅はなくなり、寂しくなった草原地帯を二台の車は走った。ワゴン車は、かなりスピードを出していた。北海道らしいずっと直線の道を、100km近くで車は進んだ。それから前の車は、急に右へ曲がった。そこはとても細い、森の中の道だった。対向車と、すれ違いするのも難しそうだった。道はすぐ砂利道になり、山を登り始めた。左右の山肌には、細い針葉樹ばかりが、さも寒そうに身を寄せあっていた。田口は、砂利道になったところで車を停めた。

「どうする?」と、内藤が聞いた。

「こんな山道をついていったら、さすがに尾けてるとばれる」と、田口が言った。

「なら、どうする?」内藤は、全然自分で考えていなかった。

「こんな林道は、どうせしばらくしたら行き止まりになるよ。だから、あいつらは引き返してくるしかない」

「なるほどな」

「五分立ったら、ゆっくり登ろう。あとのことは、それからだ」

二人はきっかり五分停車してから、スピードを落として山道を登り始めた。日が傾きかけ、道が北側に回るとびっくりするほど暗くなった。時計を見ると、もう17時近かった。山の中は、着実に夜の準備を始めていた。

十五分ぐらい登ったところで、赤い軽ワゴンを見つけた。それは、砂利道の路肩に傾いて停車していた。内藤と田口は、わざとスピードを落とさず通り過ぎた。三分くらい先まで進んでから、静かに車を停めた。二人は、ドアもそっと開け閉めして外に降りた。そして、もと来た道を歩いて戻った。

二人とも、口を閉じていた。足音も出来る限り小さくした。ゆっくりゆっくり、でも気持ちは焦りながら、軽ワゴンのところへ戻った。いつのまにか二人とも、これから何が起こるか気になってきた。その何かを、自分の目で確かめたくなった。

軽ワゴンの前に立つと、二人は耳を澄ました。するとすぐに、人の話し声が聞こえてきた。なんと言ってるのかはわからないが、少し言い争うような早口の会話だった。

山道のすぐ下に、小さな川があった。声はそのささやかな川の音に混じって聞こえてきた。方向は上。声の主は、川の上流にいるようだ。

「行くか」

「そうだな」

二人とも、肝は座っている方だった。未知への怖れよりも、好奇心が勝った。二人は道から川岸に降りて、身をかがめた。その格好で、声のする方角へ向かった。

「俺は知らねえ」

少年の一人が、そう怒鳴るのがはっきり聞こえた。

「今さら、そんなこと言うな!」

少年より年上の男が、彼を諭すように言った。川のそばに、男の子が二人、女の子が一人いた。もうすぐそばまで来た二人は、三人に堂々と歩み寄った。

「何が、問題なんだ?」

内藤が、三人に話しかけた。田口は足元に、手ごろな棒を見つけた。1m50cmくらいの棒を広い、右手に握った。

三人の若者たちは、まさに凍りついた。まさか、こんなところに人が来るとは、思いつきもしなかったようだ。息をのんだまま、黙って内藤と田口を見た。目に怯えが混じっていた。誰も口を開かなかった。

「黙っててもいいけど」と、田口が言った。「それじゃ、帰さないよ」

田口はさっき拾った棒を、両手で握った。そして自然に構えた。若者たちは一目で彼が、鍛えられた剣術家だとわかった。

居心地の悪い、沈黙が続いた。少年二人は、ずっと下を向いていた。ふと少女が、首をひねって後ろを向いた。内藤も田口も、自然に少女の視線の先を見た。そして二人とも、度肝を抜かれた。

 河原に、1mくらいの高さの岩があった。その岩は、なぜか中央が深くえぐれていた。まるで、雪で作った「かまくら」のようだった。その内部に、人工的な石板が敷かれていた。下から、大中小と三段。石を敷くことで、浸水を避けているようだった。さらに念入りに、石板の前に観音開きの扉も取り付けてあった。

 今、その扉は左右に開いていた。中の石板の上に、骸骨が三つ並んでいた。一番左端のそれは、髪の毛が残っていた。内藤と田口は、即座に思った。「めんどくさい」と。

「違うんです。私、違うんです」少女が、大声で叫び出した。

「おい、お前も何言ってんだ!」一番年上の少年が、また怒鳴った。

「なんでも、いいけどさ」と内藤が、嫌そうな顔で言った。「黙っててくれる。キンキンうるさいんだよ」

「おい、お前。樺島さんに電話しろよ」と、田口が内藤に言った。

「ええっー!?」内藤は、露骨に嫌な顔をした。「また、俺か?」

「俺はこいつらを、見張ってるんだよ」と田口は言って、構えた棒を少し振って見せた。

「警察に、すぐ電話しろ!」骸骨を見つけたと話すと、樺島さんは即答した。

「そりゃ、そうだよな」と、内藤も納得した。

「警察に、とっとと引き継ごうぜ。その方が、面倒くさくない」と、田口も納得した。この二人は、善悪で物事を判断しなかった。面倒くさくない方が、正しい選択だった。

 三つの骸骨の両隣に、透明の瓶が一つずつ置かれていた。それは円柱形の同じ瓶で、中にビー玉が入っていた。内藤が警察に電話をしている間、田口はなんとなくその瓶を見ていた。すると、少し変なことに気がついた。ビー玉の数が左右で違うのだ。右の瓶の方が、左よりずっと上まで入っていた。

「ねえ。そのビー玉、なんで左右の数が違うの?」

 少年たちは、顔を見合わせた。今の彼らは、どう振る舞ったら自分の罪が軽くなるか?それが、一番の関心事だった。

「左が 220個、右が 284個入ってるんです」と、少女が答えた。

「なんで?」

「それが、きまりなんです」

「ふーん」田口は、もう興味がなくなってきた。

「Iris に、そうしろって言われたんです」少女は、自分のせいではないと言いたげだった。

 そのころ、樺島さんも窮地に陥っていた。


 樺島さんの相棒は、吉元といった。彼はまだ、25才である。将来これからの若者が、なぜこの遺失物捜索課にいるのか?その理由は、彼の攻撃性にあった。

 吉元は、相手が自分より弱いと、態度が豹変する。彼の同期の、大人しいタイプ。一年、二年下の後輩。彼らに、吉元は牙を剥いた。とは言っても、吉元はいじめや、暴力を振るうわけではない。プライベートに立ち入るわけでも、相手の欠点を責めるわけでもない。ただ、厳しすぎるのだ。

 仕事上の、言葉の暴力だった。吉元と一緒に働くと、彼より弱い者は心の病になるか、退職してしまった。上司たちはみんな、吉元を指導した。でも彼は、自分は間違っていないと引かない。手を焼いた会社側は、彼を遺失物捜索課に送り込んだ。

 吉元は、先輩や年上には逆らわない。冷たい目をして、大人しくしている。だから、樺島さんがパートナーならば問題はないはずだった。

 ホテルから、まず尼崎に向かった。昨日ヤクザ者が、電話に出た家だ。一番時間がかかりそうなので、樺島さんは一番最初その家に向かった。朝一番に電話をかけると、大人しそうな女性が出た。彼女は、これからの訪問を承諾してくれた。樺島さんは、その女性の元気のなさが気になった。旦那さんがヤクザで、DV被害者の奥さんかなと、彼は想像を巡らせた。

 電車の中で、吉元は一言も話さなかった。彼は無表情で、窓の外をつまらなそうに眺めていた。いったい、こいつは何を考えているのか?樺島さんは、ため息をついた。

 尼崎の駅を降りて、10分ほど歩いた。目の前に、古い作りのマンションが見えてきた。3階建で、間取りの広そうな建物だった。目指す家は、三階。信田さんという方だ。樺島さんと吉元は、エレベーターに乗った。三階で降りて信田さんの家に着くまで、吉元は無言を貫いた。

 とても痩せた二十代の女性が、応対してくれた。彼女は言葉少なに、樺島さんと吉元を家に招き入れた。二人は応接間で、コーヒーをご馳走になった。

「信田茂さんの携帯が、しばらくご利用がございません。基本料のみを、お支払いいただいております」と、樺島さんは切り出した。「茂さんと、本日お会いできませんか?」

 茂さんは、大学生だった。神戸にある大学に、通っているそうだ。

「そうですか」と、痩せた女性が乾いた調子で言った。彼女は、25才くらいに見えた。黒髪をストレートに胸まで伸ばし、質素なグレーのワンピースを着ていた。顔も細く、目は切れ長だった。でも彼女の目には、光がなかった。あらゆることに、興味を失ったみたいだった。それきり、痩せた女性は何も言わなかった。

「茂さんは、本日何時にお帰りになりますか?」樺島さんは、質問を少し変えてみた。

「・・・ぐううううう・・・」

 突然家の奥から、大きな唸り声が聞こえてきた。それは、しばらく続いた。

「・・・うううううう・・・」

「ちょっと、失礼」そう言って、痩せた女性は立ち上がった。彼女は、ー応接間を出ていった。しばらくすると、パチン、パチンと叩く音が聞こえた。その音に合わせて、「ううっ、ううっ」という苦しげな声がした。

 いつのまにか、応接間に小さな女の子が現れた。まだ、5、6才だろうか。彼女はベージュのニットに、紅色のスカートを履いていた。とても可愛い洋服だった。それなのに、その女の子の目は死んでいた。顔から感情というものが、剥がれ落ちていた。

「おじさん」と、女の子は言った。

「こんにちは。なんだい?」と、樺島さんは笑顔で答えた。

「早く、帰った方がいいよ」と、彼女は言った。抑揚の一切ない話し方だった。

「え?どうしてだい?」

「おじさんたちも、人殺しになるから」と、女の子は答えた。

 わけがわからなかった。樺島さんと吉元は、顔を見合わせた。さすがに吉元も、表情が変わった。彼は納得できないと、顔をしかめていた。

 痩せた女性が、部屋に戻ってきた。彼女と顔を合わせたくないのか、小さな女の子は部屋を出て行ってしまった。痩せた女性の、表情は変わらなかった。でも少し、髪が乱れていた。顔も、紅潮していた。

「ペットが、騒ぎまして・・・。失礼しました」と、彼女は行った。

「いいですね。大型犬ですか?」樺島さんは、鳴き声から想像して聞いてみた。

「・・・」

 奇妙な沈黙が続いた。樺島さんの質問は、宙に浮いたままやがて消えた。痩せた女性は、なぜか笑って見えた。

「茂さんは、何時にお帰りになりますか?」樺島さんは、もう一度聞いてみた。

「私には、わからないの」と、女性は急に興奮気味に言った。「ママに、聞かないと・・・」

「ママ、ですか?」女性の異様な様子に、樺島さんは驚いた。でも、彼は仕事を続けた。「それでは、ママ様はどちらかにいらっしゃいますか?」

「パチンコ」と、女性は短く答えた。

「かしこまりました。では、パチンコからお帰りになるのは?」

「午後早く、ですね。負けたらですけど」と、女性は言った。「出ちゃったら、夜まで帰らない」

「わかりました。では、15時にまた伺います」樺島さんは、いったん引き上げることにした。


「変ですよ、あの家」と、吉元は訴えた。彼は典型的な、運動不足体型だった。全身丸々と太り、身長よりも身体が大きく見えた。

「変だな」と、樺島さんは答えた。「変だから、息子の携帯が放っとかれるんだろう」

 辺りは、完全な住宅街だった。昼食を取る場所も、コーヒーを飲める店も、コンビニすらもなかった。二人は自販機でジュースを買い、小さな公園のベンチに座った。公園は、無人だった。主人のいない遊具たちは、仕方なくじっとしていた。

「どこまで、やるんですか?」吉元は、明らかに迷っていた。

「どこまでも、ないだろう。俺たちは契約者である信田茂さんと会って、契約の継続か解約かを確認するんだ」

「そんなの、建前でしょう!」と、吉元は言った。「樺島さんも太一さんも、茂さんに何かあったと思ってるんでしょ?だから契約にかこつけて、犯罪を暴こうとしてるんだ」

「ほう。何でそう思う?」樺島さんは、ニヤッと笑って吉元を見た。

「さっき聞いた泣き声、あれは動物じゃないですよ・・・。多分、人間だと思う・・・」

「なんだ?お前、怖いのか?」樺島さんは、吉元の目をじっと見た。「怖いなら、夕方まで公園で遊んでなさい。俺は、仕事をしてくる」

 吉元は、もう何も言わなくなった。


 15時きっかりに、二人は信田さん宅を再訪した。幸い、ママは帰宅していた。もう一人、若いヤクザ風の子分も一緒だった。ワンピースの痩せた女性が、またお茶を出してくれた。

 ママは、一言でいってボスザルだった。年齢は50歳以上、100kgくらいの巨漢で、髪も爆発したようなヘアスタイルだった。金髪で、派手な化粧をしていたが、肌の衰えは著しかった。クスリ常習者だろうと、樺島さんはあたりをつけた。彼女は、激しい敵意をもって樺島さんを見つめた。

「茂が、何だって言うの!」ママは、最初かけんか腰だった。

「茂さんが、最近当社の携帯をご利用になられていません」と、樺島さんは落ち着いて言った。

「ここに、茂さんの信号最終発信地のデータがあります。場所は神戸の・・・」

 吉元は、珍しく働いた。地図を広げ、茂さんの最終確認地点を指差した。

「聞いてねえよ!そんなこたあ!」隣の若いヤクザが怒鳴った。彼は立ち上がりかけたが、ママが片手を上げて制した。

「茂はね。もうここにいないよ。自分で、出ていったんだ」と、ママは言った。

「失礼ですが、あなたは茂さんのご家族でしょうか?」

「いや、古い友人だよ」と、ママと呼ばれる人は答えた。

「???」樺島さんも吉元も、ますます頭がこんがらがった。そこへ、痩せた女性が拍車をかけた。

 彼女はみんなにお茶を出した後、部屋を出ていった。でもすぐに戻ってきて、部屋の角に立った。彼女は、微笑を浮かべていた。いや、無理に笑っていた。次第に彼女は、ママのすぐ後ろに移動した。それから急に、意を決したように両手を振りかぶった。

 ママとヤクザは、背後の彼女に全く気づいていなかった。もちろん樺島さんと吉元は、彼女を見ていた。振りかぶった彼女の頭上に、鍬が掲げられたところも。それが振り下ろされ、鍬の刃がママの脳天に突き刺さったところも。


 ジャッ。


 そんな音がした。おそらく、頭蓋骨を砕く音と、脳細胞が潰れる音だ。血が真上に、噴水のように上がった。痩せた女性と、若いヤクザはママの血を浴びた。でも上へ血が飛んだおかげで、テーブルを挟んだ樺島さんと吉元は無事だった。

 一発目で、ママは絶命していた。けれど痩せた女性は、二発目、三発目と鍬を振るい続けた。彼女は、楽しそうだった。ママの頭部を破壊することが、ゲームのステージクリアの条件かのように。樺島さんと吉元は、立ち上がって逃げた。二人は、壁に貼り付いた。ジャッ、ジャッ。この奇妙な音が、部屋の響いた。ママの血や肉片が、周囲に飛び散った。

 若いヤクザが、すくっと立ち上がった。彼は気の毒なほど、うろたえていた。彼は、何も言わずに逃げ出した。この場にいて、巻き添えになりたくないのかもしれない。彼は走って、玄関から出ていった。

「うふふふ」痩せた女性は笑って、やっと鍬を壁に立てかけた。ママはソファに、でんと座ったままだった。だが彼女の頭部は、鼻から上が破壊されていた。というより、顔の上半分が消滅していた。両目もつぶれたか、どこかに飛んでしまった。

 樺島さんも吉元も、呆気に取られていた。目の前に起こったことは、まるでホラー映画の一場面みたいだった。あまりに脈絡がなくて、現実味がなかった。

「うわっ」

 樺島さんが、慌てた声を出した。ママの血が、足元まで流れてきた。彼も吉元も、急いで押し寄せる血から逃れた。

「茂に、会いたいんですよね?」痩せた女性が言った。

「あ、あ・・・、は、はい」さすがの樺島さんも、つっかえながら答えた。

「どうぞ」と、彼女は言って部屋の外へ向かった。

 樺島さんと吉元は、血を踏まないように部屋を出た。三人は、風呂場に向かった。そこへ近づくと、さっき聞いた「ううう・・・」という唸り声が聞こえてきた。

 痩せた女性が、バスルームのドアを開けた。まず、異臭が鼻をついた。腐臭ではなく、便の匂いだ。肥溜めのような臭さだった。

 鼻を押さえながら、二人は中を覗いた。バスルームには、毛むくじゃらの、大型動物がうずくまっていた。黒い首輪が、バスルーム内の手すりに繋がれていた。樺島さんも吉元も、それが人間だと気づくまでだいぶ時間がかかった。髪の毛も髭も、伸び放題の男だった。彼は裸だったが、身体痩せ細り皮膚も赤黒く変色していた。男の足元には、便が散乱していた。

「茂です」と、彼女は微笑みながら言った。「でももう、頭がイカれちゃってます。話はできないと思いますよ」

「そうですか。お話は、よくわかりました」と、樺島さんは答えた。「ひとつ、教えてもらっていいですか?」

「はい。どんなことでしょう?」

「なんでママを、殺してしまったんですか?」

「Iris です」と、女性は答えた。「Iris が、今日やりなさいって」

「・・・」

「もうひとつ、聞いてもいいですか?」と、吉元が言った。

「はい、どうぞ」

「警察、呼んでいいですか?」

「どうぞ。全部、済みましたから」と、彼女は答えた。彼女の表情は、とても清々しかった。


 初日から、あまりに壮絶な結果だった。太一は現実の、あまりの酷薄さに狼狽した。紗理奈くんや明に、事実を伝えてよいかを迷ったほどだ。いや、待て待て。それどころじゃないぞ。今日の夕方、この事件について記者会見になるぞ。社長が、事件を説明しないといけないぞ。

 太一は、A4一枚で説明資料を作った。急いで部長に連絡するとともに、部下たちを再編成して、4人のチームを二つ作った。一方のチームには、説明資料をもとに事実を伝えた。口頭で、補足もした。こちらのチームに、明と山田さんを入れた。

もうひとつのチームには、何も伝えなかった。こちらに、紗理奈くんを入れた。

「俺が席を外している間、4対4でゲームをやってくれ。説明する側と、質問する側だ」と、太一は説明した。

 彼は、さらに二人部下を指名した。質疑応答を、ホワイト・ボードにメモする役だ。二つのチームは、ボードに書かれた内容を確認する。確認して、さらに突っ込んだ議論をする。

「両チームの質問と回答を、ホワイト・ボードに書き出してくれ」と、コールセンターの一人に頼んだ。

「君は、ホワイト・ボードをエクセルに打ち込んで」これは、別の女性に頼んだ。

 これで、急ごしらえのQ&A になる。これを社長に渡す。

 準備を終えてから、太一は席を立った。A4 の資料を片手に、部長の席に向かった。廊下に出ると、樺島さんから電話があった。九州チームも、死体を発見したそうだ。この事件は、明日に回そう。太一はそう考えながら、唇を噛んだ。

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