盾
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盾。
それは古来より使われてきた、武器の一種である。
その役目は、剣、槍、弾等を防ぐこと。そして、盾を持つ者の所属を示すこと。さらに近年の海外作品では投擲や打撃による攻撃手段としても用いられている。
盾は時代と共に形を変え、世界中の兵士を守ってきた。
今も。
◆
「フー、フー」
うら若き少女の、吐息を多く含む声。それが、長方形の……およそ公民館の会議室ほどの面積を持つ、コンクリート造りの部屋に響く。
その声は、金属が軋む音と、滴が垂れる音と共に。
窓一つ無い部屋。さながら牢獄。
しかし、その無機質で閉鎖的な空間は、この部屋の主である少女が望んで求めたモノなのだ。
少女……在束珠美は、日光を嫌った。正確には、日光に含まれる紫外線を嫌った。
彼女は日焼けが嫌いなのだ。彼女は、自身の肌が黒くなるのを嫌がった。
しかし、この部屋において、彼女はほとんどの時間を全裸で過ごす。よって、部屋から窓が消失するのは当然のことである。
少女は、部屋に設置された金属棒にぶら下がっていた。俗に言う鉄棒。
懸垂。
彼女には欠かせない習慣である。
鉄棒だけではない。
ベンチプレス、ランニングマシン、平均台……そして、数々の自作の運動設備。これらの器械類を置くため、この部屋面積が必要だったのだ。
少女が重力に逆らい、両腕で全身を持ち上げる度に、その腕の中に詰め込まれた筋肉が隆起し、緩やかな肉の山脈を形成する。純白の肌から滲み出る汗が、山脈の間を川のように伝い、コンクリート打ちっぱなしの床にポタリポタリと落ちていく。
少女は、丹念に、丹念に、育てているのだ。
己の、筋肉を。
少女の視線の先には、フィットネスジム並みの大きさの鏡。そして、鍛え上げられた自らの肉体。筋肉の動きを見るために、彼女は全裸で過ごすのだ。
彼女は慢心せず、なおも……究極を目指す。
「フンっ、フンっ!」
そのうち、少女は下半身を正面に持ち上げ始めた。腹筋運動だ。
現在、午前6時。
少女の追求は、まだ終わらない。
◆
「ふうーっ、気持ちよかった!」
朝の運動を終え、部屋直通のシャワールームで汗を流したあとは、着替えの時間だ。今日は平日。登校のため、制服に着替える必要がある。
ショーツ、ブラジャー、シャツ、厚めのタイツ。慣れた手付きで身だしなみをととのえていく。
そして仕上げは……手袋と目出し帽。
彼女は。
日焼けが。
嫌いなのだ。




