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女騎士でした


自室へ引っ込み、シャワーを浴びて着替えをした。洗面所の鏡の前で歯を磨きながら、まじまじと自分の顔を見た。

最果ての魔女がかけてくれた魔法に私自身はかからないため、鏡に映って見えるのは本当の私だ。


少し赤茶けた金髪は癖毛で、毛先がくるくるしている。女騎士だった頃には毎日長い髪を編み込んで纏めていたが、男になってからバッサリと耳下で切った。驚くほど洗髪が楽になった。

実物の私がどうであろうと、皆の目には「イケメンに見える」魔法がかかっているのだから、別に男らしい外見に寄せる必要はない。髪を短く切ったのは、単に私が切りたかったからだ。軽くて楽。

それに自分で言うのも何だが、ボーイッシュでよく似合っている。まあ誰に見せるでもないけど。

と思っていたが、あの聖女様。あの聖女にだけは、この鏡に映る本当の私が見えている。


やはり偉大なる聖女フィオナには、最果ての魔女の魔法も効かないということだ。

しかし、その偉大なる聖女フィオナの術が私に効かないのは何故だろう。

誰の目にも女に見える術がかかっているという聖女フィオナだが、私には男に見える。

男にしては随分中性的な風貌だが。


ん、そういえばそうだよな。

フィオナだって別にわざわざ女の見た目に寄せる必要はないのに。

肩まで伸ばした髪はふんわり内巻きに、ドレープのきいた絹のローブをゆったりと纏っている。顔や身体の輪郭をはっきり出さず、ふんわりした柔らかな印象を持たせている。


単にフィオナの好みなのだろうか。

私が好きで髪を短くしているのと同じで、フィオナも好きでそういう格好をしていると。そう考えるのが自然だろう。


「けど性格はそう女っぽくもないんだよなあ……」


どちらかと言えば豪快。酒豪だし人前で平気で脱ぐし、大雑把ぽくもある。

「細かいことは気にするな」と私を不問にしてくれた。


『では女騎士になれば良かったではないか。何故わざわざ男に?』


フィオナの疑問はもっともだ。

女騎士に憧れてそれを目指したのなら、何故女騎士にならなかったのかと。


勿論なったさ。養成学校を卒業して騎士団に入り、晴れて憧れの女騎士となった。

二年頑張った。

しかし二年が限度だった。

皇族儀式のパレードに参加したり、剣技パフォーマンスを披露したりと、騎士団の華としてもてはやされるのは、若い女騎士に限った。

二十歳目前となると、そろそろ結婚しないのかと寿退職をほのめかされ、早くその席を後輩へ譲れと急かされるのだ。

同期の男たちは出世をほのめかされる頃だというのに。

私の方が優秀なのに。


フィンハイムを主席とまではいかないが五本の指に入る成績で卒業した。

騎士道をみっちり学び、騎士としての教養を身につけ、礼節を重んじ、剣技を磨き、婚活に必死な他の女たちを尻目に頑張ってきたのに。

いざ女騎士になってみると、そんなものは全部無駄だったと知らされた。


私の憧れた『凛としてかっこいい女騎士』とは、男社会が作り上げた只のお飾りだった。

危険な任務には就かせてもらえず、パレードやパフォーマンスで華を添えるための存在。

「女性も登用する先進的な騎士団」を宣伝し好感度を上げるための、客寄せパンダだ。


騎士学校時代に私が馬鹿にしていた婚活女子たちはちゃんとそれを知っていて、見事に客寄せパンダをこなし、青田買いしていた婚約者と良い頃合いに結婚して辞めていった。

私に憐れみの視線を送りながら。

私は負け組と呼ばれた。


ふざけんな。ほんとふざけんな。

お前ら全員見返してやる。

胸の内で呪いの言葉を吐いて、私は上司に辞表を提出した。


その足ですぐ旅に出た。

何でも願いを叶えてくれるという最果ての魔女に会うために。


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