聖女様のお着替えシーン
それはつまり、私が聖女騎士を続けることを容認するということか?
「お咎めなしということで?」
「ああ、良い。細かいことは気にするな。今日はお開きだ、寝る」
酔いが回って眠たくなったらしく、聖女は急にスイッチオフした。
「私はもう寝るぞ。いま、ペペを呼んだ」
ペペというのは、聖女が可愛がっている獣人メイドだ。
獣人といっても獣の割合が強く、見た目はほぼ丸々熊だ。熊にしては小柄なのと、常に二本足歩行をするところや、獣臭さが全くないところ、簡単な仕事ができるところは人間っぽい。話すことはできないが、簡単な人間の言葉が分かる。
素直で従順、飼い主に良く懐き、真面目に与えられた仕事をこなす。ある意味、人間より優秀だ。
聖女が特注で作らせたというメイド風デザインのスモックをすっぽりかぶったペペが部屋へやって来た。
聖女の住む塔の最上階には、このだだっ広い聖女の部屋の他に、ペペ用の部屋と聖女騎士の部屋、物置部屋、トレーニングルーム、シアタールーム、家庭菜園室があり、聖女は魔力で各部屋と通信することができるのだ。
ペペは人見知りで、新参者の私に警戒している。びくついている。
「大丈夫だよ~。おいで~、ペペ」
聖女がソファーから立ち上がり、ペペに向かって猫なで声で呼びかけると、警戒しながらもノシノシ歩いて近寄ってきた。
まるで神聖なものを捧げるような手つきで、両手のひらに乗せているのは、パジャマだ。聖女の着替えである。
聖女はおもむろにローブを脱ぎ捨てて、下着一丁になると、受け取ったパジャマに着替え始めた。
男の着替えシーンは見慣れているが、私が見慣れているのは逞しくて筋肉隆々の褐色マッチョな肉体だ。
女のように色白く、見るからにすべすべとした、しかし膨らみのないつるりとした聖女の胸板が目に入り、思わず慌てて目を逸らした。
見てはいけないものを見てしまった感が強い。ピンク色……。
「あの、聖女様。人前で堂々とお着替えはちょっと……」
「人前? ああ、お前のことか。良いではないか、別に女同士――あ、お前の目には私は男だったな。まあ良いではないか。男として四年も騎士団でやってきたなら見慣れたものだろう」
「まあ、それは……」
彼らは貴方みたいに艶かしい身体してなかったですけどね。
聖女は私の注意を軽く流し、ペペに付き添われて、キッチンへ向かった。
前任者(青びょうたん)の引き継ぎによると、この部屋で自炊することはないため、キッチンの流し台は料理の為ではなく、洗顔や歯磨きの為にある。洗面所は洗面所でちゃんと別にあるのだが。
聖女はそこに置いてあるヘアバンドを着けた。そのまま歯磨きを始める雰囲気だったので、私は失礼することにした。
「聖女様。では私はこのまま下がらせていただきますね。お話を聞いて下さり、ありがとうございました。失礼いたします。また明日」
聖女騎士の仕事はあくまでも護衛であり、聖女の身の回りの世話や部屋の片付けなどは別の担当がいるため、しなくて良いと聞いている。
飲み散らかしたテーブルの上が気になりはしたが、しなくて良いと言った雑用に聖女騎士が手を出すと聖女は怒るらしいので、放って置くことにした。
それは護衛の仕事ではないと言ってくれるのは有難いが、騎馬ごっこの馬になったり、空気銃で撃たれるのも本来は護衛の仕事ではないと申し上げたい。
ああ、先が思いやられる就任初日だったが明日から頑張ろう。
全ては出世のため。自分の団を持つためだ。




