聖女様とも無礼講
「学校では入れなかった剣術クラブですが、女でも入門できる剣術道場が新しくできたと噂に聞き、見学に行きました。見てすぐに習いたいと思いましたね。母は最初反対しましたが、地元の良家のご令息が何人か通っていたので、彼らにお近づきになれるのならと目の色を変えて私を送り込みました」
その結果、私は水を吸収するスポンジのごとく剣術を覚え自分のモノにし、鍛練し、腕を磨き上げて彼らよりもうんと強くなった。
お近づきになるどころか、男よりも強い女として敬遠されるようになったのだ。
終いには、手合わせしてくれる相手が先生しかいなくなってしまった。
「なのに公式な試合に私は出られませんでした。理由は『女だから』出場資格がなかった。悔しかったが、仕方のないこと。しかし剣の先生が言いました。ここは田舎だから遅れているが、帝都には女性騎士もいて華々しく活躍しているんだと。ここで腐って終わるには勿体ない、君にその気があれば帝都へ行ってみると良いと」
それを聞いたときには、俯いて立ち止まっていた足元にぱあっと明るい道が拓けて見えた。
剣を持つことが職になる。騎士として世間から認められ活躍できるなんて、夢のようだと。
「だって好きなことを仕事にできるって、最高じゃないですか」
「ああ、分かるぞ。私もこうやって珍味を摘みに酒を飲んだり、お取り寄せ名湯の入浴剤たっぷりの風呂に浸かって、人気作家の新刊を読んだりするのが好きだから、聖女をやってやってるんだ。聖女の魔力を使えば、水場でも本がふやけることはないしな」
聖女の入れてくる茶々に突っ込みどころは沢山あるが、いちいち突っ込んでいては話が進まないので軽く流した。
「あー、いいっすね。お気楽で」
お互いアルコールが回ってきて饒舌になった分、態度は軟化した。聖女様に対してこの態度は失礼なのは百も承知だが、この聖女と話していると畏まっているのも段々馬鹿らしくなってくる。
まあお酒の席での無礼講ってことで。
「それで、女性騎士の存在を知った私は色々調べて、女性騎士になるためには、まずは帝都にある騎士養成学校へ入らなければならないと知りました」
「帝都立フィンハイム騎士養成学校か? 名門だな。お前なかなか優秀じゃないか」
「ええ、私はとっても優秀ですよ。フィンハイムの新入生218名の内、18名しかいない女生徒の一人でしたからね。他の17名も皆、私のように叶えたい夢のために猛勉強をして、血豆が潰れるほど剣を握って来た者ばかりだと思っていました。しかし内実は、親のコネで入ってきた者ばかり。彼女たちの『叶えたい夢』も私とは違っていました。フィンハイムにも貴族や良家のご令息がわんさかいましたからね。彼らに取り入って、ゆくゆくは結婚したいと、将来の旦那探し――婚活ですね。モンスター討伐の実地訓練が楽しくて仕方なかった私とは、そもそもモチベーションの方向性が違っていました」
「モンスター討伐の実地訓練? 騎士学校でそんなことするのか? モンスターなど今どき出ないだろ。偉大なる聖女フィオナ様の結界で街は守られてる」
「人の居住地には出ませんが――偉大なる聖女フィオナ様のお陰でね――人里を離れるとウヨウヨいるじゃないですか。少数チームを組んで、それを討伐しに行く実地訓練があるんです。やっぱ実戦はいいですよ。バッサバッサ化け物を斬って。あれは楽しかったなあ。騎士学校のカリキュラムの中で一番楽しかった。討伐したモンスターの素材を業者へ売って、その売り上げ金を孤児院へ寄付するんですが、うちのチームが寄付金NO.1で表彰されましたよ」
「お前、急にイキイキしてきたな。そんなにモンスター討伐が好きなら、騎士などならずに冒険者ギルドに登録して、魔物ハンターになれば良かったんじゃないか?」