聖女とサシ飲み始めます
渡された『宅飲みセット』を手に最上階へ戻ると、聖女は聖女専用椅子から移動し、応接ソファーセットの上座にどかりと腰を下ろしていた。
「おー来た来た、早く始めるぞ。ここに座れ。サシ飲みしようぞ」
バシバシと斜め横の席を叩き、上機嫌で私を呼び寄せる聖女に内心ため息を吐いたが、「恐れ入ります」とかしこまった返事をしてそこへ腰を下ろした。
「本当は美女を両隣にはべらせて飲みたいところだが、お前の事情を聞きたいから、他の者は呼ばぬ」
ウイスキーボトルを開けながら聖女が言う。
「聖女様、それは私が致します」
「いや、いい。お前の就任祝いだと言っただろう。私が注ぐ」
ショットグラスを二つ並べ、聖女は琥珀色の液体をなみなみと注いだ。
見かけによらず、なかなかの酒豪らしい。
「ジュリアン・リグビーの聖女騎士就任を祝って、乾杯」
聖女が音頭を取り、ショットグラスを突き合わせた。
「ああ、でも本名違うんだろ? 本当の名を言え」
「……ジュリアです」
「ジュリアだからジュリアンか。ははっ、安直だな」
言われると思いました。
「で、ジュリアはどうやってジュリアンになったのだ? 面白そうな話だから酒の肴に聞かせろ。最近退屈しておったのだ」
「別に面白い話ではございませんよ」
「それは私が決める。話の内容によっては不問にしてやろう。お咎め無しにな」
「お咎めがあるんですか、話の内容によっては」
「当たり前であろう。お前は性別を偽り、本来なれるはずのない聖女騎士の職につき、私に近づいたのだからな。詐欺だぞ。厳罰に処して然るべきことだぞ」
痛いところを突いてきた。
最果ての魔女に魔法をかけてもらってからの四年間、 周りを騙してきたことは否定できない事実だ。
その分誰よりも努力してきた自負はあるが、仲間さえ欺いているという負い目は消えない。
「ではお話致しますので、ご判断ください。しかし聖女様ご自身はどうお考えですか。性別を偽り、聖女をなさっていることに」
「おいおい、勘違いするなよ。私の代わりに聖女フィオナが務まる者がいるか? いるなら連れてこい、代わってやる。お前の代わりはいくらでもいるんだぞ」
ぐぬぬ。悔しいがこの聖女の言うとおりだ。
申し訳ございませんと頭を垂れ、私は自分の話をすることにした。
どうせ全部聞いた上で断罪するのだろう。
この何もかもに恵まれた、男なのに私より美しい聖女には分からない話だ。