二人の冒険者
かくして私たちは最果ての魔女に会うための冒険に出た。
どちみちモンスターを倒さなければ進めない旅だ。出発前に冒険者ギルドに登録することにした。
倒したモンスターは素材に変わる。魔術や魔道具の材料となるのだ。
ギルドに登録しておけば、手数料は取られるが各地の買取り業者を手軽に利用できるので便利だ。
大量の荷物を持ち歩くための魔道具はあるが、荷物はできるだけ少ない方がいいし、頻繁に換金できた方が安心だ。
前回の旅ではそんな知恵がなく、魔法の収納袋にも入りきらなくなった素材は捨て置いて行く羽目になった。
何しろ癒し手のいない旅だったため、薬草や回復ポーションの類を大量に持ち歩いていたのだ。
今回はフィオナがいる。優秀な癒し手だ。
聖女だったときほどの魔力はないが、中級魔法使い程度の治癒魔法と防御魔法が使える。
フィオナがいれば鬼に金棒だ。
ちなみに冒険ギルドに登録する際に、私たちがお尋ね者であることがバレないかヒヤヒヤしたが、身分証の提示や犯罪歴の照会などは何もなかった。
冒険者には犯罪者まがいの荒くれ者が多いため、その辺はザルなのだろう。
犯罪者まがいどころか、紛れもなく犯罪者である私でもするっと通り抜けられた。
登録書に記名するときは流石に偽名を使ったが。
フィオナは「フィリップ」と名前を書いた。
後で聞くと、フィオナの本名だった。
「聖女として召還されたとき、私たちは自分自身のことは忘れていたが、お互いのことだけは覚えていたからな。ディアナが教えてくれたのだ。私の本当の名はフィリップだと。フィルと呼んでいたそうだ」
「フィル……」
「ああ。ジュリーもそう呼んでくれ。私のことはフィルと」
確かにそうだ。誰から見ても男になったのに、いつまでもフィオナと呼んでいては変だ。
「フィル」
かなりくすぐったい気持ちになった。
そして私たちはコンビを組んで冒険に出た。
生まれて初めて、聖女の結界の外へ出たフィルは大興奮だった。
モンスターを初めて見たときには、ぎゃあぎゃあ悲鳴を上げてうるさかったし、初めて私の剣さばきを見たときにも、きゃあきゃあうるさかった。
「ジュリー、お前はほんとに凄いな! めちゃくちゃかっこいいな。惚れ直したぞ」
上気した頬を桃色に染め、息を弾ませて駆け寄って来たかと思うと、ぐちゃぐちゃの死骸から素材を剥ぎ取っている所を見て、青ざめて嘔吐したりと忙しい。
「フィルがいてくれてすごい助かってるよ。今回の冒険は随分楽だ。楽だし、楽しい」
それに良い素材がどんどん集まって、換金できて、思った以上に稼げるのだ。
「別にこのままでもいいかなと思い始めたよ。モンスター狩りは楽しいし、良い金にもなるし。女だろうが男だろうが、山にずっと籠ってモンスターを殺ってるだけなら、別にどっちでもいいかなって。滅多に他の人間に出くわさないしさ」
最果ての魔女の館を目指し、山に入って三ヶ月目。
肩を並べて焚き火に当たり、焼いた肉を食べているときにフィルへ言った。
「えっ」とフィルが声を上げた。
「もう魔女の所へは行かずに、男に見える魔法がかかったままの状態でずっと暮らすということか?」
「うん。フィルには普通に私が見えてるんだし、他の人間にほとんど会わない生活なら、別にこのままでもいいかなってね。フィルも言ってただろ、私とずっと冒険者をやって暮らしたいって。フィルも随分、モンスターハンターが板についてきたしな」
そういって隣を見た。白かった肌は日に焼けて小麦色に、薄っぺらくてひょろっとしていた身体にはしなやかな筋肉がついて、以前より逞しくなったフィルがいる。
「私以外の者に見えぬのはいいが……両親はどうなのだ? お前の姿が男に見えることは知っておるのか」
「親? いや、言ってない。実家には手紙を送って、帝都で女騎士として充実した日々を送っていると知らせてあるからな。全く疑っていないよ。まあ、年齢的にも色々諦められてるんだろうな」
「なら、やはり急ごう。最果ての魔女に会って、早くジュリアに戻してもらうのだ。そうせねば、お前の家族に挨拶に行けぬではないか」
「フィルが私の家族に挨拶? 何で」
「何で? 夫婦になったのだから家族に挨拶せねばならぬだろう。 私の家族はディアナだけだったがーーペペもだがーー、お前の家族は健在なのだから、挨拶に行くのが筋であろう」
フィルの言葉に目を剥いた。えっ、いま何て言ったんだ。
「夫婦になったって……私とフィルが?」
「ああ。何だ、まさか違うと言うのか? 寝床を共にし、生計を共にし、生涯を共に暮らそうと誓ったのに、まさか夫婦ではないと言うのか。私はお前にとって何なのだ。ビジネスパートナーなどど言うつもりか? 愛していると言ったのは嘘だったのか?」
アメジスト色の瞳を見開き、必死の形相で捲し立てるフィルに、心底驚いた。
そんな風に思ってくれているとは知らなかった。
「愛してますよ。そりゃもうめっちゃ愛してます。けど夫婦ってのは、いつの間にかなってるんじゃなくて、女としてはこう、ちゃんと言って欲しいんですよね。結婚しようって言葉で。海の見えるレストランとか、夜景の綺麗な高い塔のてっぺんでとかで、こう、指輪の箱をパッカーン開きながら」
女というものは形にこだわるのだ。
流されるままに事実婚とか、男はそれで良いかもしれないが。
「分かった」とフィルがきりっとした顔つきで頷いた。
「まずは最果ての魔女に会って、魔法を解いてもらい、それから海の見えるレストランか夜景の綺麗な高い塔のてっぺんでプロポーズする。パッカーンするための指輪と箱も買いに行かなくてはな」
フィルのこういうところも大好きだ。




