これからどうしますか
それから一週間ほどして、ディアナが亡くなった。
聖女が崩御し、次期聖女が任命されたというニュースは瞬く間に広がり、コレスニの街にも届いた。
しかしそれよりも早く、フィオナはディアナが息を引き取る瞬間を感じ取り、ディアナの死を知った。
嗚咽するフィオナの肩を抱き寄せ、それから二人でディアナの冥福を祈って黙祷した。
その夜はディアナとの想い出話を訥々と語るフィオナに一晩中付き合って、お酒を飲んだ。
ディアナを失ったフィオナは何だか普通になった。
実際フィオナの保有していた魔力は大きく失われ、今は普通の魔法使いくらいの魔力持ちになった。
もうあの聖女塔で飼われていた聖獣も、フィオナをフィオナだとは分からないだろう。上級魔法使いたちも然り。
だからもう追っ手に見つかる心配はないだろう。
聖女特有だった絶大な魔力は失われ、ディアナのかけた術も解けて、フィオナは綺麗で浮世離れした雰囲気は残るものの、ただの普通の男となったのだ。
私の目にはずっと男だったフィオナだが、これからはもう誰の目にもフィオナは男だ。
いや違うな、女のように綺麗で身体の線も細いため、間違えられることはよく有りそうだ。
一週間、隠れ家でじっと息を潜めて生活していた私たちだが、街へ出ることにした。
アールの主人が用意してくれた屋敷には本当に色々な物が揃っていて、クローゼットにはあらゆる衣類が新品のままハンガーにかかっていた。全て男物だ。
それらでフィオナをコーディネートして、なるべく普通に見えるよう試みた。
「うーん、髪か。どうします、切ります?」
フィオナの髪はふんわりした猫っ毛で、薄ピンク色で肩までの長さだ。
色白で優しい顔立ちのフィオナによく似合っていて好きだが、どうしても聖女のイメージを引きずってしまう。
「いや切りたくないな。ディアナの面影を切り捨てるようで、まだ切りたくない。そのうちお前が切ってくれ」
フィオナが答えた。
「分かりました。切らなくてもいいと思いますが。お似合いなので。結びましょうか」
フィオナの髪を櫛ですき、耳の上からを取って結び、ハーフアップにした。
綺麗な形の耳が見え、ドキリとした。
うん、なかなかいいんじゃないかな。
荷物を纏めて街へ出て、列車に乗ってさらに帝都から離れようとフィオナと話し合った。
私たちは逃亡者だ。
なるべく遠くへ逃げるにこしたことはない。
「今までの聖女が二人いたことを世間は知りませんし、その一人が逃げていることは公表されていませんから、一般人の目はそう気にする必要はないでしょう。例えジロジロ見られることがあっても、それは貴方が綺麗で珍しいからです。田舎に行くほどそうでしょう。ですから、ジロジロ見られても焦らないようにしてください」
「ああ。美しくて困るな」
「問題なのは私の方でしょう。国を裏切り、要人を誘拐して逃げた犯罪者として、全国に似顔絵と共に指名手配されている可能性があります。それがきっかけとなり通報され、私ごと貴方まで捕まるかもしれない」
「何だ。その問題なら簡単に解決するではないか」
「え?」
「ジュリアンもジュリアに戻ればいい」