聖女様と一緒に
聖女塔の人の出入りはわりと激しい。
百人の住人がいて、生活の基盤は塔内に整っていても外出の機会は多い。業者の出入りもある。
その流れに紛れて、私とフィオナは外へ出た。
普段の私たちはいかにも聖女、いかにも騎士というステレオタイプの服装をしているため、それを着替えるだけで随分違った。
施設点検の作業員のようなユニセックスな作業着と帽子を身に付け、何食わぬ顔で門を出たときには激しく興奮を覚えたが、涼しい顔を貫いた。
切符を買い帝都発の列車に乗り、途中で一度乗り継ぎをして、昼下がりにコレスニの街へ着いた。
下り立ったホームの指定場所へ行き、目印の紫のポケットチーフを胸に差した男を見つけた。向こうもすぐ私たちに気付いたようで、男は帽子を取り会釈をした。
「ジュリアンさん、お待ちしていました」
「父がお世話になっております。ええと……」
「アールと呼んでください。早速ですが行きましょう。すぐ近くに馬車を待たせてあります」
アールの案内で馬車に乗り、郊外の一軒家に辿り着いた。
「父親の仕事関係者か?」「父親がいるのは病院ではないのか?」とフィオナが逐一聞いて来たが、その都度、適当に誤魔化した。
何とか上手く誤魔化して、連れ込んでしまえばこっちのものだと、私の頭の中は下衆い考えでいっぱいだった。
そうしてやっと連れ込めた隠れ家で、フィオナは不信感をあらわにした。
「ジュリー、父親はどこにおるのだ」
私はばっとその場に両手両膝を着き、フィオナに頭を下げた。
「申し訳ございません、聖女様。私の父が怪我をして重体だというのは真っ赤な嘘です。ここに父はいません。はるか遠くのド田舎で、今日も元気に張り切って巡回警備に当たっているでしょう」
「どういうことだ、何故そのような嘘を。説明しろ。私をどうするつもりだ。事と場合によっては、今すぐ魔力を回収するぞ」
フィオナはじりっと後ずさりした。
塔を出るために魔力を全てダミー人形へ預けて来たのだ。丸腰状態なのだ、怖いに決まってる。
私はゆっくりと顔を上げ、フィオナに懇願した。
「お待ちください。ご説明します。私がこのような嘘をついたのは、ディアナ様からお手紙をいただいたからです。お二人の事情は全て聞きました。ディアナ様はもうじきこの世を去り、貴方にかかっている術は解ける。聖女塔にはもういられない上、実は男であることがバレれば、皆を騙していたことを罪に問われる。そうなる前に、聖女塔から逃げてほしいとディアナ様は望み、私にその願いを託されたのです。貴方を連れて逃げ、術が解ける日まで隠れていてほしいと」