女ってやつは
「あなたを置いては逃げられないとフィオナが言うなら、あなたがフィオナを連れて逃げてください。フィオナがその気になれば、そこからすぐ出られるでしょう。あなたの協力があれば、一日程度の時間稼ぎもできます。その間に私が指定する隠れ家まで逃げ、私が死ぬのを待ってください。私が死ねばフィオナは誰が見ても男、別人になれます。それ以上追われることはありません。新しく自由な人生を歩み出せるのです。
どうかフィオナを連れて逃げてください。
お願いします。
出世が何だと言うのですか。あなたを大事に思っている人間一人の命が懸かっているのですよ。
それを見捨てて出世しても、さぞ心が痛むでしょうね。
聖女騎士とは本来、聖女を護り抜く存在でしょう?
フィンハイムで学ばれた騎士道精神をお忘れですか?
フィオナを愛していないのですか?
出世のために踏みにじっても良い相手ですか?
私に協力していただけるなら、すぐに伝聞鳥へ返事を持たせてください。
詳しい作戦をお伝えします。
もう一人の聖女 ディアナより」
フィオナを連れてここから逃げろ?
めちゃくちゃ言ってきやがるな、この姉は。
私を何だと思っているのだ。
聖女騎士になるために、騎士団で出世するために、私がどれほど苦労して、努力してきたか。
これだから女ってやつは。
すぐ情に訴えて、ネチネチとした言い回しで相手の急所を突いて、罪悪感を持たせて都合よく操ろうとする。
大切な者を守るためなら、何だってやるのだ。
『せいぜい私を踏み台にして、出世するがいい』
私の身の上話を聞いて、傲慢そうに言い放ち、聖女騎士を続けることを認めてくれたフィオナを思い出した。
フィオナを笑顔にするためなら、私は苦手なジョークだって言うし、ピエロにだってなれる。
最後まで読み終えた手紙が、私の手の内からさらさらと砂のように零れて消えた。
視線を感じて振り返るとベッドの上に伝聞鳥がいた。
その足元には、どこから出したのか、紙とペンがあった。
早く返事を書けという顔をして、こちらをじっと見ている。




