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聖女様には女しかなれない

聖女は高い高い塔の最上階に住んでいる。塔は下から上まで全てが部屋で詰まっているのではなく、最上階から真ん中、真ん中から一階まではぐるぐると螺旋階段で繋がっている。

これを歩いて移動しようと思ったら、目眩と筋肉疲労で途中で挫折する長さだ。


そもそも塔内は聖女の魔力による空間支配が働いているため、聖女の許可を得ていない者が塔に侵入した場合、永遠にこの螺旋階段を回り続ける地獄に陥る。

反対に、聖女の許可を得ている者は螺旋階段を使わずにして、塔内を楽に移動できるのだ。

ぐるぐるの螺旋階段の中心を通っている、通称「聖女塔の箱」という定員三名の空間に入れば、瞬間移動で真ん中の階と一階まで行くことができる。

聖女の魔力はやはり凄い。

凄いので、多少ワガママになるのは仕方がないことだと皆諦めている。


「下までひとっ走りして」と仰せつかった私は、聖女の箱に乗り、塔の真ん中にある「庶務部」へ行き、窓口の女性へ伝えた。


「あのー、聖女様が祝宴を開きたいので用意をと仰っています」

「あー、またですか。分かりました。そちらの椅子にお掛けになって、少しお待ちください」


祝宴の用意とはもっと大袈裟なものかと思ったが、少し待つだけでいいらしい。

お掛けになってと言われたベンチに腰を下ろし待っていると、庶務部で働く女性たちがチラチラ私を見ている。

ちなみに聖女の住むこの塔には「聖女騎士」と呼ばれる専属の護衛一名(私)以外には、女性しかいない。清廉な女の園である。


その中で最も美しいのは聖女様だが、聖女に仕える「聖女塔の住人」も皆美人揃いだと有名だ。

美しい聖女に相応しい、美しい女を揃えているのだと聞いていたが、あの聖女様、実は男だしな。美人を側に置きたいだけじゃないか。


「お待たせしましたぁ♡ジュリアン様ぁ♡」


先ほどの女性とは違う、語尾にハートマークが付いた女がやって来た。

つい先ほど就任したばかりの私のファーストネームを呼べるとは、なかやかの遣り手である。

私は女だが、男に見える魔法がかかっているため、このような女性からあからさまな好意を向けられることは慣れっこだ。


最果ての魔女が「どうせなら、ものすごくイケメンにしてあげるわねぇ。強いだけじゃ出世できないんだからあ。見てくれも大事ぃ。イケメンになったら人生イージーモードよん」などと言い、私をものすごくイケメンにしたからである。

黙っていても女性がチヤホヤしてくれるため、イージーモードと言えばイージーモードだが、モテない男どもからやっかまれるという弊害もある。


「はい♡ジュリアン様ぁ、これどうぞ♡」


エルザと名乗った女が手渡してきたのは、ウイスキーボトルとグラス、イカの珍味にナッツの盛り合わせが乗ったトレーだった。


「えっと、これが聖女様がご所望の『祝宴の用意』でしょうか?」


「はい♡これさえあればフィオナ様はご満悦ですぅ♡」


はい了解です。

あの聖女様、中身は完全にオッサンじゃないの?

見た目は麗しかったけどさ。私とは逆で「女に見える術がかかっている」らしいけど、術がかかっていなくても「女と見まがう美しさ」とやらだった。だからすぐには男だと分からなかったのだ。


最初に足のでかさに違和感を覚え、声に違和感を覚え、喉仏で男と確信するまでは女性だとばかり思っていた。まあ先入観も強かったのだろう。聖女様は女だという先入観。

本人も言ってたしね。「女」と付くからには聖女は女に決まっているだろうと。


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