聖女の過去とこれから
もしかしてフィオナが誰の目にも女に見えるようになったのはこの時なのか?
双子の姉、ディアナにかけられた術だったのか……。
「すると大人たちが見間違いだったと言い始めました。男じゃない、この子も女の子だ。あれ本当だ、どうして見間違えたんだろうと皆が口々に言うのを見て、私は驚きました。私が見る限り、弟は弟のままだったからです。でもとにかく助かったと思いました。女の子に見られた弟は、捨てろだの殺せだのともう言われなかったからです。私と同じように綺麗に調えられて、ローブを纏い、二人で魔力測定を受けました。
結果は二人とも同等に、歴代の聖女の半分の魔力を保有していました。つまり二人で一人前。大人たちは私たち二人を共に『聖女』と認定し、二人で助け合うようにと言いました。双子の聖女とは珍しいが、素晴らしいことだと褒め称えました」
さっきは「双子は不吉だ」と言っていたくせに?
手紙を読みながら、苦々しい気持ちが広がっていく。フィオナが殺されなかったことだけが救いだ。
これまで存在さえ知らなかったフィオナの姉に心底感謝した。
「私も九歳まではそちらの塔で、フィオナと一緒に暮らしていました。私は身体が弱く、年々悪くなっていくため、静養所へ移されました。と言えば聞こえが良いですが、人質です。私とフィオナは六歳のとき初めて逃亡を試み失敗し、九歳のときにも逃亡を試み、失敗しました。私たちは引き離されました。私は静養所に入れられ、現在ほぼ寝たきりです。
成長したフィオナはそこから逃げ出すことができます。一人ならもうとっくに逃げ出せています。私が足手まといで、人質となっているため、それが出来ずにいました。
しかしようやくフィオナを解放できる日がやって来ます。私はついに自身の余命を悟りました。私はもうじきこの世を去ります。
私がかけてしまった、フィオナへの術も私の死と共に解けるでしょう。あのとき三歳の私が無我夢中で発動させてしまった術によって、フィオナはずっと女として、聖女として生きてきました。そうするよりなかった。弟が殺されないためにそうするよりなかった、助けたのだと子供だった私は信じていましたが、私がフィオナの人生を狂わせてしまったことは明白です。
私が死ねば、フィオナはもう自由です。二人で一人前の聖女は、片方を失えば半人前。聖女職は続けられませんので、解任されることになります。お役目は次期聖女へと引き継がれるでしょう。
しかし大きな問題があります。
半人前とは言え、聖女の魔力は絶大です。聖女職を退いた後も、皇族の支配下に置かれることはすでに決定しています。
そうなった場合、カーティス皇子がフィオナの身請けをしたいと御所望なのです。
フィオナが女性ならばそれは有難いお話ですが、フィオナは本当は男で、私の死と共に術は解けます。
正体が皆に知られる前に、聖女塔から逃げてほしいのです。本当は男であるのに皆の目を騙して聖女をしていたこと、カーティス皇子の求愛に応じられる身ではないこと、それらが明るみになり、断罪される前に逃げてほしいのです」