籠の中の鳥とその番人
フィオナは部屋の窓から空を眺めていた。
私には見えないという鳥、フィンルフを飛ばし終えてからずっとそうしていたのだ。
送り先はカーティス皇子だろうか。
くるりと振り向いた。
「知らないのか? 鳥籠の中の鳥の番人だ。対、侵入者じゃない。対、私だ。今のところ、私は帝国にとって有益な存在だが、それを維持するための見張りだ。まあ平たく言うと、私がここから逃げ出さないように。何か異変があれば一番に対応に当たる、それが聖女騎士の本来の役目だ」
自嘲気味にフィオナが答えた。
「なるほど。逃げ出すご予定はありますか?」
籠の中の鳥と言われれば、まさしくそうだ。
聖女は基本この塔内で過ごし、自由に外出できない。
下界に下りるのは半年に一度程度、国儀で呼ばれるときだ。
聖女騎士の私も然りだ。
こんなに息詰まるとは、実際暮らしてみてよく分かった。まだ一ヶ月というのに。
騎士宿舎も閉塞的で規律が厳しいため大変だったが、外の空気は好きなだけ吸える。
私は二年という任期があるが、フィオナに任期はない。一生この鳥籠の中で暮らさねばならないのだ。
「私は逃げぬ。言っただろう? 私はチヤホヤと皆に甘やかされて生きたいからな。この塔の外では生きられない、箱入り娘だ」
男だけどな。
それにフィオナはきっと外でも生きていける気がする。本人が謙遜するほどか弱くはない。
「でもいつもそうやって、遠くを眺めていらっしゃいますよね」
遥か遠くの誰かに想いを寄せるように。
フィオナは時おりひどく淋しげで、この塔のてっぺんに君臨しているのに、この塔の誰よりも不幸そうに見える。
「私用での外出は、願い出ても叶わないのですか? どこに行かれても、私が必ずお護りしますよ。専属護衛とは本来そういうものですよね」
「その昔、どこぞの聖女が他国の王子と恋に落ち、自国を捨てて他国の聖女となったことがあるのだ。そういうことが二度と起こらぬよう、聖女は厳しい監視下に置かれるようになったのだ」
まあ私は恋愛などしないけどな、とフィオナは言った。まるで自分に言い聞かせるように。
「全人類の恋人ですもんね」
「ああ、そうだ」
ふと思った。
その全人類には私も含まれるのだ。
この聖女は私の恋人でもある。