聖女騎士、一ヶ月目の素朴な疑問
聖女騎士となって一ヶ月が過ぎた。
感想は「とにかく暇」だ。
前任のレイノルズ中尉からも聞いていた。聖女フィオナのワガママに付き合うことが仕事で、他には特にする事がないと。
半年に一度程度、国儀関係に呼ばれ聖女の外出があるが、そのときには聖女騎士以外にも大勢の護衛がつくため、特別することはないそうだ。
じゃあ私は何のためにいるのだろう?
そもそも聖女に四六時中ついている護衛って特に要らない気がする。
高い高い聖女塔の一階には、門番として飼っている聖獣がいるし、精霊のトラップも仕掛けてある。そして例の螺旋階段地獄が待ち受けているため、聖女の許可なしには庶務部までも上がって来られないのだ。
聖女塔の住人は聖女騎士以外は女だが、優秀な魔法使いはいるし、はっきり言って私の出る幕はない。
お飾りの専属護衛と言う点では、お飾りの客寄せパンダだった女騎士時代と変わりがないが、こちらは将来の出世が約束されているのだ。我慢のし甲斐がある。
レイノルズ中尉も「小娘のワガママに付き合うだけの仕事」と言っていたが、この一ヶ月付き合ってみて分かったのは、フィオナはそれほど嫌味な人間ではないということだ。
偉そうな態度は取るが、実はよく気が利いて、サバサバしていて、階下の者とも気さくに話すし、意外と人気がある。
フィオナが聖女塔の住人に会うと「誕生日おめでとう」と声をかけることが頻繁にあったため、冗談の挨拶かと思ったら、本当に相手の誕生日だった。
つまり、百人近くいる侍女の名前と顔と誕生日を全て記憶しているということだ。
ワガママで生意気な小娘だとレイノルズ中尉から散々聞かされていたため、初めから色眼鏡をかけてフィオナを見ていた私の目が曇っていたのだ。
それを外して見ると、フィオナは聖女としての器量をきちんと備えていると思えた。
三歳で神に選ばれてから今まで、ずっと聖女なのだから、当然と言えば当然だ。
では何故あれほどレイノルズ中尉はフィオナを嫌っていたのか。
中尉は貴族出身で、騎士学校を卒業しエリート街道を歩んできた挫折知らずだ。
自分より身分の高い者には低姿勢だが、平民出身の、しかも女であり年下のフィオナに顎で使われることが相当腹に据えかねていたのではないだろうか。
その点私は平民出身で元々女だし、エリートコースを一旦下りて、叩き上げコースからのしあがってきた人間だ。
フィオナに使われるくらいで折れるプライドは持ち合わせていない。
しかしあまりにも暇なので、同じように暇そうにしていたフィオナに聞いてみた。
「聖女騎士って別に要らなくないです? もし敵が現れたとしても、聖女様の絶大な魔力で何とかなるでしょうし、階下には上級魔法使いもいるわけですし。そもそもここまで上がって来れる侵入者がいませんし。私は何のためにいるのでしょうか」