「可愛い」は作れる?
もうしばらく用はないので引っ込んで良いとフィオナに言われ、自分の部屋へ帰った。
気分を害したようだ。
少し言いすぎたと反省したが、かといって、瞳を潤わせて上目遣いで「ごめんなさい」できる私ではない。
可愛いは正義、か。
無意識で可愛いのはそうだと思う。例えば騎士団宿舎で飼っていた賢い犬や、ボランティアで教えていた剣の教室に習いに来ていた子どもたち。
フィオナのベッドで死んだように眠り続けていたぺぺも可愛かった。
もっと言えば、ぺぺを抱き枕にして幸せそうに寝ていたフィオナだって可愛かった。
ずっと寝ていればいいのに起きると可愛げがない。
いや、一番可愛げがないのは私だ。それは確かだ。
それにしてもどうして聖女が男なんだろう?
昨日からずっと考えているが分からない。
聖女と言うからには女でなくてはならない、だから術を使って女に成り済ましているのだとフィオナは言ったけども。
そもそも、どうして神が男であるフィオナを聖女としてお選びになったのか、という疑問だ。
間違えちゃった?
神がフィオナのことを女だと間違えたんだろうか? 神なのに?
神が間違えることもあるんだろうか。
フィオナが女と見まがう風貌だから?
それとももしかしたら、神様も急に男女平等意識がお芽生えになって、別に『聖女』だからといって女に限らなくてもいいんじゃないかと、意識改革をなさったのかもしれない。
今期は男から選んでみようかと。
それならそれで、そうしてみたよと全人類にも伝えていただきたいものだ。
私たち人間は、前例のないことに独断で対応することが不得手なのだから。
うーん、そもそも『聖女』はどうやって選ばれてどう周知されるのか。本人はどう自覚するのか。
その辺りのことを私は何も知らないことに気付いた。聖女騎士とは何か、どういう仕事をすれば良いかは研修や引き続きを受けて知っているが、聖女そのものの成り立ちや歴史については漠然としている。
これは駄目だ。勉強してちゃんと知って置かなくては。
「聖女様、下の図書館で本を借りてきても宜しいですか」
「ああ、行ってこい」
フィオナに声をかけると、快く了承してくれた。もう怒っていないようでホッとした。
「ついでに私が借りていた本を返しておいてくれ」
ドサドサっと渡されたのは、若い女性向けのファッション雑誌だった。
いまトレンドのネイルがどうだの、男を落とす『あざと可愛い仕草』特集だのという見出しが表紙に踊っている。
そんなものを勉強して何になるのかと呆れた。