女としての生き方とは?
最果ての魔女の魔法で男に見えるようになった私は、また数ヶ月かけて帝都へ戻り機会を待った。
再び騎士団へ入るためには、二つのルートがある。帝都立騎士養成学校フィンハイムへ再び入学し、すべての課程を修め直すルートと、年に一度の騎士団員募集を待って、入団テストを受けるルートだ。
前者のルートを辿れば、幹部候補のエリートコースだが、まずフィンハイムへの再入学が難しい。
後者はいわゆる下働きの兵隊募集のため、出世コースではないが、体力と剣の腕があれば入団できる。
私は募集時期を待って入団テストを受け、当然だが合格した。
「下からのやり直しか。大分不利だったろう」
ピラミッドの頂点に君臨しているようなフィオナから傲慢な口調で言われると、素直に同情と受け取れない。正直ムッとした。
「いえ。フィンハイムを優秀な成績で出ようが、女である時点で最も不利ですから。それに比べれば、下からスタートしても叩き上げで上に行ける男のほうが有利でしたよ。危険な任務にもバンバン行かせて貰えますから、上へアピールする機会も多かったですし」
胸を張って答えるとフィオナはその傲慢そうな顔つきを変えた。
「ジュリー、お前……男前だな」
これは素直に嬉しい。
「ええ、よく言われます」
男になってからの四年間で言われ慣れた言葉だが、女の私が見えているフィオナに言われると余計に誇らしく思えた。
「男として騎士団に入り直して、分かったことがあります。女でいた頃に、常に男と張り合っていた私に対し、『女扱いしない』と断言してくれる級友や教官、上司や同僚はいましたが、やはり私は女だった。彼らは手加減していた。女とは本気でやり合わない、いざとなれば男の自分が守るのだと、無意識レベルでそう思い込んでいた。私のほうが強いにも関わらず。私が女である限り、同じ土俵に立つことは叶わなかった」
今は違う。女であることを免罪符に容赦されることはなく、向こうから火花をバチバチ飛ばして張り合ってくることもあれば、ただただ敬服されることもある。
女であった頃にも男の後輩はいたが、先輩として同じことをしても、受け取られ方がまるで違うのだ。端から舐められることがなくなった。
「私は逆だな」とフィオナが言った。
「女だから仕方がないなと目をつぶってもらえるのが良いのだ。殺されそうなほど怒らせたときも、瞳を潤わせて少し上目遣いをすれば許されるからな。皇帝も皇太子も皇子も所詮男だからな、チョロいもんだ」
開いた口が塞がらなかった。
いま何て言った、この聖女。
「可愛いは正義だぞ。ああ、だがお前には効かないのか。残念だな」
「聞き捨てなりません、聖女様。あなたのような女……じゃないですけど――『女』を武器にする人がいるから、迷惑を被るんです」
「そう喧喧言うな。優しくされたいだけではないか。私は優しくされて甘やかされて生きたいのだ。それを咎める権利はお前にはないだろう?」