聖女騎士、就任二日目の朝です
就任二日目の朝、部屋を訪ねると聖女フィオナはまだ寝ていた。
飲み散らかしたテーブルは綺麗に片付いているので、早い時間に清掃担当者が来たのだろう。
フィオナはクイーンサイズのベッドで、シンプルな生成り色のパジャマに身を包み、ペペを抱き枕代わりにして寝ている。
ペペの見た目はほぼリアルに熊だが、毛並みはビロードのようだから手触りがいいのだろう。
抱きついて気持ち良さそうな顔で寝ているフィオナをじっと観察した。
赤い糸で結ばれた、運命の相手……か。
う~ん、全くピンと来ない。
年下だし?
多分最初は体にかかっていたが蹴飛ばしたのであろう羽毛布団が捲れ上がって、少し丈の短いパジャマから出ている手足は、やはり妙に艶かしい。でかいけど細いんだよなあ。
ご飯ちゃんと食べてんのかな。
そっと布団をかけ直したところ、目を覚ました。意外と繊細なのか。
灰色がかった紫の瞳が私を捉え、しばらくぼーっと見ている。
「ああそうだ。ジュリアだ」
「おはようございます、聖女様。ジュリアンです、お間違えなく」
のそのそとベットから出てきたフィオナが「間違えておらんぞ、ジュリアだろ」と言った。
「今はジュリアンです。聖女様以外の皆の目には私は男性ですから、女性の名で呼ばれては変です」
「そうか。ではジュリーと呼ぶ。それなら良いだろう?」
なんだソレとは思ったが、面倒くさいので良しとした。
「どうぞ」
フィオナは大きな欠伸をして、のそのそと部屋の中を移動し、洗顔やら着替えやらを済ませ、下から運ばれてきた朝食を食べ始めた。私はここへ来る前に早々と下の食堂で朝食を済ませている。
「ジュリー、ずっと突っ立って見てるつもりか? その辺に適当に座れ。気になるだろ」
フィオナに言われて、ソファーの端っこに腰を下ろした。
聖女専用椅子はNGだし、フィオナが食事中の食卓に着くのも何か違うしなと。
朝食を終えたフィオナが歯磨きを済ませ、こちらへやって来た。
ちなみにペペはまだベッドで寝ている。
「なあジュリー、昨日の話の続きだが。男になるまでの経緯は分かった。男になってからの四年間の話を聞きたい」
ソファーにどさりと腰を下ろしたフィオナが言った。
「どうしてですか?」
「暇だからだ」
「家庭菜園室の水やりは? 聖女様の担当なのでしょう?」
家庭菜園室では、フィオナが趣味で集めた様々な薬草が育てられている。
水やりのときに魔力も与えているため、他の者にフィオナの代わりは出来ないのだ。
「後で行く。今はお前の話が聞きたいのだ」
「分かりました。でも昨日も言いましたがそれほど面白い話ではありませんよ」
聖女騎士の仕事とは一体何だろう。
前任者の青びょうたん――もとい、レイノルズ中尉は言った。
「小娘のワガママに付き合うことだ」と。