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どっちが好きなんですか?

「ナインさん!天音ちゃんとお買い物に行ってもいいですか!?」


 モモの豊満な胸を天音に余すことなく押し付け、抱きしめながらナインに聞く。天音は顔を赤くし、抵抗虚しくされるがままだった。天音は押し付けられているモモの胸を見る。

 天音にはない暴力的とも言える二つの膨らみ。天音の中では、羨ましいと嫉妬という二つの感情が入り混じっていて、


「天音ちゃん。殺意が感じるというか、なんか怖いよ」


「なんでもないですよ……」


 天音から滲み出る何かから危険を感じ取ったモモ。天音は何やら拗ねたようで、プイッとそっぽを向く。それを見たナインが苦笑いを浮かべながら


「天音くんがいいというのなら……」


「モモ。案内してやってくれるか」


「ジンくん?」


「耳の痛い言葉は飛び交ってたが、以前と違って天音は気にしていないようだったからな。それにもしかしたら、今後インベリッテに足を運ぶ機会が増えてくるのかもしれない。この王国のことを知っておくことも大事だからな」


 村での生活も慣れては来たが、やはり王国と比べると劣る部分が多々ある。それは、村で生活を始めてから感じてきたことだった。


「了解!天音ちゃん。どうかな?」


 モモが捨てられた仔犬のような目を天音に向ける。こんな目を向けられては行かない。とは言えない。だが、天音にとっては、誘われたという事実が一番重要なのである。天音は笑顔を浮かべて、


「是非行きましょう!!」


「決まりね!ヒルデさんもカンナさんも一緒に行きますよね!どこに行きましょうか!?」


 気分が高揚しているモモが女性陣二人に声をかける。どうやら一緒に行くのは決定事項らしい。


「わたしらも強制かよ」


「いいじゃないですか。記念、ということで」


「……分かったよ」


「やったっ!」


 気の進まない様子のヒルデをカンナが宥める。しばらく考えたあと了承したヒルデを見て、モモがガッツポーズをした。


「ジンさん」


 振り向くと、天音が顔を赤くしてモジモジしている。


「あの、ジンさんって胸の大きい女性のほうが好きなんですか?」


 勇気を振り絞るかのように天音は言った。俺だけに聞こえるような小声だが、それに一人だけ反応した人間がいた。


「そりゃそうさ!男はいつだって胸の大きい女性に惹かれる……。そんな運命(さだめ)に生まれるものなのさ。男という生き物は……」


 アレスが手を顔の前まで持ってきて、何やらポーズを取り出した。小声で話していたというのに、何という地獄耳。


「アレスさん。何バカなこと言ってんですか」


「そろそろほんとにシバかれたいようだな」


「アレスさんって何でこうも学習しないんでしょうかね」


 女性陣が「今日もか……」と呆れたように首を横に振った。辛辣な言葉がアレスの胸を抉る。


「いや……。だってそうですよね!ナインさんだって胸の大きい女性の方が好きですよね!」


「そうだなー」


「なんで棒読み!?」


 何とか味方を作って対抗しようと試みるが、ナインに軽くあしらわれるアレス。この場にアレスの味方をしようとする者など一人もいないようで、


「アレスさん。もう二度と私の半径五メートルより内側に足を踏み入れないでくださいね」


 モモがアレスを軽蔑するようにそう言った後、後退りして距離を取る。アレスは胸の大きい女性が好きだと言った。つまり、それは自分だと思ったのだろう。実際この場にいる全員もそれは認めていることだ。


「アレス」


 ヒルデがアレスの元へと歩いていき、肩に手を置いた。憐れむような目を浮かべており、アレスに優しく言った。


「お前は一生、女に嫌われる運命なんだ。諦めろ」


「そんな目で言わないでくださいよ……」


 ヒルデの変に気を使った優しさが、アレスの心をさらに抉る。これを機にデリカシーのなさを治してもらいたいものだ。


「よし!」っと元気の良い掛け声と共にモモが自身のデスクへと向かって歩いていく。デスクには書類らしきものがいくつも見受けられ、モモはそれを片付けていく。


「天音ちゃん!ちょっと待っててね!この書類片付けたら今日の仕事は終わるから!」


「モモちゃん。普段の事務作業のときもそれぐらいの熱量を持ってやってくれたら私も助かるんですけどね」


「全くだ」


 意気揚々と書類に向き合うモモを見て、カンナは苦笑い。ナインは同意を示すかのように頷く。モモは事務作業があまり得意ではなく、現場でこそ力を発揮する人間なのだ。

 事務作業する時のモモの顔は、まるで生きた屍のような顔をしており、仕事が捗らないことが多い。モモが貯めた仕事は、基本的にナインとカンナが処理している。


 そんなモモが熱心に取り組んでいるということは、それだけ天音と遊びに行けるのが嬉しかったということだろう。

 天音が元気になって嬉しいと感じるのは、俺やカジル村の住民だけではないのがよく伝わった。


「さて、俺達も仕事を再開するか。ジン、天音くん。さっきの応接室で待っててくれ。しばらくしたら、モモがそっちに来るだろうから」


「分かった」


「失礼します」


 俺は頷き、天音と共に特務室を後にした。モモが来ると言っていたが、あの書類の量とモモの集中力を考えたら一時間弱、と言ったところか。熱心に向き合っていたとはいえ、それも長々と続くわけもない。もう一〇分したら集中も切れて、駄々をこねるに違いない。


「ジンさん。あの質問の回答を聞きたいんですけど……」


 廊下を歩いてしばらくしたところで、天音が先ほどより声のトーンを上げて俺に尋ねてくる。この場には、俺と天音の二人しかいない。変に言い逃れをしようとしても、帰って機嫌を悪くしてしまうかもしれない。


「そうだな。大きいか小さいか、どちらが好みかと言えばーー」


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