到着
「よっと」
クヴィネアがキャルメット山に向け、飛びだってすぐ、俺は鞍から手を離し立ち上がった。
青い空に白い雲。テンデルに乗るのも久々というだけあって気分が高揚する。
「ジンさん!?危ないですよ!早く座らないと!」
立ち上がった俺を見て心配した天音が、堪らず大声で俺に言う。だが、俺の行動に対して反応してくれる天音を見て、俺は少し安堵した。
クヴィネアは、空気を切り裂くような物凄いスピードで飛行している。確かにそのまま立ち上がれば、風圧によってあっという間に彼方へと吹き飛ばされてしまう。
そう、そのままであれば。
俺は今、俺自身と天音、そしてクヴィネアに≪風殺し(エイメア)≫という魔法を行使している。
この魔法を使う事で、高速で動こうと、強風の中だろうと、風の影響を無効化するという魔法だ。
テンデルのような飛行能力が高い生物ほど、風圧を受けやすい。風の影響を受けなければ、数百キロ離れたキャルメット山も、三十分あれば到着するだろう。
「お前も立ってみるといい。風は俺の魔法で全て弾いている。バランスを崩しさえしなければ落ちることはない」
「で……でも」
「ほら」
「きゃっ」
天音の細く、小さい手を取って天音を身体を支えてやる。
「座るより、立ってみる景色の方が綺麗だろう」
俺達がいたインベリッテはとうの昔に超え、視界には栄えた他国や、美しく覆い茂っている山々、神秘的な湖など。
「綺麗ですね」
視界に捉えている美しい景色を、上空から見下ろしながら天音は呟いた。俺自身、飛竜に乗ることは多かったが、こうやって景色を楽しむということはしたことがなかったな。
「今度、一緒に行くか」
「え?」
俺の一声に、天音が無機質ではあるが、少し驚きを交えた声で応じる。
「カジル村に籠ってばっかじゃ、俺も退屈だしな。それに、天音にはこの世界のいろんな場所を知ってもらいたい」
「そう……ですね」
こういった機会を設けることはできていなかったからな。まぁ、村に引っ越してからいろんなことがあって時間がなかったというのもあるのだが。
「自然と触れ合えて、たくさんのお弁当を持ってなら……」
こういった状態でも、食いしん坊なところは変わっていないんだな。
「キュア!キュアキュア!」
クヴィネアが喉を鳴らす。自分も構って欲しい、という感情の現れなのだろう。
俺は、クヴィネアの逞しく大きな背中をそっと撫でる。すると、「キュ〜」今度は気持ちよさそうに、もっと撫でて欲しいと言いたそうな甘えている声を発する。
自分が、俺達の足代わりをやっているのに自分だけ仲間外れにされているのが、寂しかったのだろう。
「どうだクヴィネア?お前もくるか?」
「キュア!」
元気な返事が返ってきた。
心なしか、クヴィネアの飛行スピードが上がっているような気がする。
「天音も撫でてやってくれ。クヴィネア喜ぶぞ」
天音は俺の言われるがまま、そっとクヴィネアの背中を撫でる。
「硬い……。ニャーチみたいな柔らかな感触と全然違う……。でも……ずっと撫でたくなる」
猫のふさふさの毛並みとは違って、クヴィネアのような飛竜は、生き抜くために全身硬い鱗に覆われているからな。クヴィネアも撫でられてとても嬉しそうだ。
「だったら今度、三人で行くか」
「はい」
「キュア!」
三人で出かけるという約束を今、ここでする。
視線を移すと、ある山が見えた。
深く、不気味な木々が生い茂り、そこの麓に僅かではあるが、明らかに歪な形をした建物が見えた。
「あそこか。クヴィネア」
俺の指示と同時にクヴィネアが着陸態勢に入る。
俺達の目的地、キャルメット山に建つ迷宮の、攻略開始である。
活動報告で、書き溜めをすると言っていたのですが、迷宮に潜り込んでからの内容から書き溜めを行うことにしました!
「面白い」と思ったら、ブックマーク、評価のほどよろしくお願いします!
励みにもなりますし、モチベーションにもつながります!




