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決意を胸に

「ジン。なんで目が赤くなってんだよ」


「目にゴミが入ったからだ」


「ふーん。そう言うことにしておくよ」


 にやけながら俺の事を見つめてくるセリーナに、思わず目を逸らす。セリーナの事だ。俺の嘘なんてすぐに気がつくだろう。


 俺は、テンデルという飛竜を借りる為、セリーナと大通りを歩いていた。日が沈み始めているというのに、大通りは人々が往来しており、活気に満ちている。

 その大通りから外れて、人気のない道を歩き続けていく。それと比例して、建物の数も減少していった。


 しばらく歩くと、セリーナの足がピタッと止まる。


「ここだ」


 そこには大きな建物が一つ。大きな小屋がいくつも並んでおり、「リューエル」という看板だけが立てられていた。

 中からは、「キュー」と僅かながらではあるが、鳴き声らしきものが聞こえた。


 俺とセリーナはその建物へと足を踏み入れた。


「おーい。いるかー」


 この店の主人を探しているのだろう。セリーナが建物の中を見渡すが、そこには人影がない。


「はいはーい。いますいますー。今行きますよーっと。……ってセリーナ。どうしたのー?」


 奥のドアからのんびりしたような声が聞こえ、そこから一人の女性が現れる。長く艶やかな銀色の髪を背中に伸ばし、質素な服装を身につけて、驚きの表情で俺達を出迎えた。


「リューエル……こっちに来て」


「どうしたのー?」


 こいこいと、手で招くセリーナに対して、リューエルは笑顔で応じる。リューエルの背丈は俺とさほど変わらない。俺の方が少し高いくらいだ。会話からして、年齢はさほど変わらないようだ。しかし、セリーナとリューエルを交互に見ると、少し歳が離れた姉と妹だと錯覚してしまう。


「しゃがんで」


「んー?」


 セリーナの言われるがまま、リューエルは長い足を折り畳む。お互い頭の位置が揃い、同じ視線の高さになる。ジーッと見つめてくるセリーナ。相変わらず笑顔のリューエル。


「んーー!」


「きゃっ!」


 急に抱きつくセリーナに、リューエルは可愛らしい悲鳴を上げた。


「抱きつくたびにいつも思んだよ!なんでこんなに柔らかくて温かいんだよ!肌だってこんなにスベスベしてて気持ちーし!」


「ちょっとー。辞めてよー。人が来たらどうするのよー」


「別にいいだろうよー。仲いいって思われるだけだっての」


 自身の肌とリューエルの肌を擦り合わせて気持ち良さそうにする。リューエルも言葉では嫌がってはいるが、セリーナを遠のけようとしていないあたり、そこまで嫌ではなさそうだ。


「ジン。お前もやってみたらどうだ。気持ちいいぞ」


「やるわけないだろう」


 セリーナからの提案を一蹴。

 

「それでー。ただ抱きつきに来たわけじゃないでしょー。何か用でもあったのー?」


「あ、そうそう。名残惜しいが、一旦リューエルの肌から離れるとしよう」


 そう言って、お互いの距離をとった。

 抱きついてシワがついてしまったドレスを手で伸ばして、


「テンデルを借りにきたんだ。私じゃなくて、こいつがな」


 俺に視線をやるセリーナ。


「あー。なるほどねー。まぁ、ここに来るってなったらそれしかないよねー」


「どうだ?活のいい飛竜はいるか?」


「そうねー。ちょっと着いてきてねー」


 リューエルがゆっくりとした足取りで歩いていく。俺とセリーナもそれに続く。


 ドアを開くと、通路がまっすぐ続いていた。

 通路の窓から差し込む夕日が眩しい。

 しばらく進むと、一つのドアがある。


「ここがテンデル達が暮らす小屋ですよー」


 ゆっくりとドアを開くと、「キュー」と今度はしっかりと飛竜の鳴き声がしっかりと耳に届いた。


 全長はおおよそ五メートル。白銀の翼に、同じく白銀の鱗が全身を覆っており、両腕両足はどんなものでも切り裂くであろう爪を持っている。赤い瞳に、鋭い眼光は見るもの全てを恐怖させる。


 その小屋は、一匹のテンデルが十分にくつろげるくらいのスペースが確保されていた。テンデル同士で楽しそうに話しているように見える。中には、夕暮れにも関わらず、眠りについているテンデルもいた。


「これだけのテンデルを一人で?」


「まぁ、そうですねー」


 俺の問いにリューエルが首肯する。ざっと見たところ、この小屋にいるテンデルは三◯匹ほど。それを一人で管理しているのだ。賞賛の拍手を送りたい。


 それにしても多いな。

 一匹一匹、確認していく。


 キャルメット山に行くのだから、かなり質の良いテンデルでないと。あそこは、天候も荒れやすいため、並の飛竜では、目的地に着く前に体力が尽きてしまう恐れがある。真剣な眼差しで、俺はテンデルと向き合った。


 一匹、また一匹と選別していく。

 すると、


「キュー?」


 俺は一匹の飛竜の前で立ち止まった。

 

「なぁ、こいつって……」


「お、気がつかれましたかー。この子、瞳の色が金色なんですよー。瞳が金色のテンデルって結構珍しくてー。でも可愛いですよねー。赤い瞳のテンデルって、なんか幾多の闘いを経てきたって感じでかっこいいんですけどー。金色の瞳のテンデルは、可愛いんですよねー。見ててキュンとなるんですよねー」


 物凄く饒舌に喋り出したリューエル。

 テンデルが好きだというのが、伝わってくる。


「確か、金色の瞳のテンデルは幸運を呼び込むとかなんとか言われてなかったか?」


「そうだよー。でも、あくまで噂。信じるか信じないかはその人次第ー。行商人さん達はそういうの結構信じる人多くて、いっつも言い争いが起こっているんだよー」


 俺はそのテンデルをじっと見つめる。

 対して、そのテンデルも金色のつぶらな瞳をこちらに向けてくる。


 鋭い眼光を持つ赤い瞳のテンデルとは対照的に、クリクリっした可愛らしい印象を与えてくれる金の瞳のテンデル。


「キュアー!」


 バサバサと翼をはためかせている。

 その音に眠っていたテンデルも、ビクッと身体を震わせた。


「どうした?」


「キュア!キュアー!」


 問いかけてはみるものの、テンデルの言葉なんぞ分かるわけもなく。


「この子。ジン君の事が気に入ったみたいね」


「キュア!」


 どうやらそのようだ。

 金の瞳の飛竜は、俺に近寄ろうとするが柵のようなものが俺と飛竜を隔てている。邪魔だと思ったのか、それを壊そうと頭突きを繰り出すが、当然頑丈。


「キュア〜」と頭の痛みに耐えるような切ない鳴き声を漏らした。


「名前ってあるのか?」


「あるわよー。この子の名前は、クヴィネア」


「クヴィネア。いい名前を持っているな」


「キュアー」


 クヴィネアは嬉しそうに喉を鳴らした。


「ジン。いつ頃に出発する予定なんだ」


「明日。これはもう決めた事だ。これ以上、ここに長居をしても天音にとって良くないからな。できれば昼頃までにここを出たいと思うんだが……」


「任せてー。明日までにクヴィネアを完璧な状態に仕上げておくからー」


* * * * * * * * * * * * * * * * *


 リューエルとの打ち合わせを終えた俺達は、大通りを歩いていた。すっかり日は沈み、人も少なくなっていた。


「ジン」


 隣を歩くセリーナの呼び声に、俺は視線を移した。


「天音はこの世界に来て良かったと思った日があったのだろうか」


 セリーナの表情は、どこが悲しげで寂しげに見えた。


「まぁ、限りなくないだろうな」


 この世界に召喚された時から、天音は天音という存在を否定され続けた。多分、前世でもそうなのだろう。

 

「限りなくってどういう事だ?」


 俺の言い方に疑問を持ったセリーナが俺を見上げた。


「天音がカジル村で、アテンや村人達に見せた笑顔。それは、決して作った笑顔じゃなくて、心からの笑顔だと俺はそう思う」


 この世界に現れた時から、見てきた俺だからこそ、そこは自信を持って言い切れる。


 その笑顔をカジル村だけじゃない。インベリッテや他の王国でも出来るように。その時、初めて天音も思うのではないか。だからこそ、俺は力を振るう。仲間の力を借りて。最初に約束したあの言葉を実現させるために。


「天音に言ったんだよ。出会って最初の頃に」


「なんて言ったんだ?」


「いつか、この世界に来て良かったと思わせてやるって」

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