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問い

「意外と綺麗にしているんだ」


 我が家に入るや否や、驚いたような表情でそう言った。リビング、水回りとテクテク軽い足取りで歩いていく。家の隅っこを人差し指でスッと拭き取り、


「ここ、掃除が甘いぞ。もっと丁寧にやるんだな」


 セリーナは綺麗好きである。思い出せば学生時代、掃除に手を抜いていた生徒を見かければ罵声。ほんの少しでも汚れやゴミが残っていれば罵声が飛んでいた。


 だが、セリーナの見た目が見た目である。中にはセリーナに怒られたい(主に男子生徒)も大勢いて、あいつらは魔法でボロボロにされていたな。にも関わらず、天使からの祝福を受けたかのような幸せそうな表情をしていたのを思い出す。

 

 それを見た不快な顔したセリーナが魔法を喰らわせ、喰らった男子生徒達はまた笑顔になる。まさに最悪な悪循環である。


 俺はキッチンへと向かい、お湯を沸騰させる。


「確か……ローズティーで良かったよな?」


「ほう。あたしの好みを覚えていたか」


「あの時は毎日淹れさせられたからな」


 しばらくして、沸騰したお湯をポットに入れローズペダルを加えて蒸らす。カップに注ぐと、バラの優雅な香りが鼻をくすぐる。


「いただこう」


 カップを手に取りスッと喉に通す。

 俺もカップにローズティーを注ぐ。ローズティを飲むのは初めてだがーー。


 一口。微かに香る薔薇の香りと下に残る薔薇の味。紅茶と溶け合った風味がまぁなんともーー。


「甘い」


 正直言って甘すぎる。申し訳ないが、自分から進んで飲もうとは思わないな。俺と反対側に座るセリーナは、薔薇の香りを楽しみながらまた一口。


「ローズティーの良さを分からんとは。ジン。お前もまだまだガキだな」


 カップから口を離し、怪しげに笑った。茶を楽しむセリーナの姿は、気品さと可憐さを兼ね備えた育ちの良いお嬢様を彷彿とさせる。


 カタっとカップを皿に置き、セリーナは一呼吸入れた後、


「まぁ、聞きたい事が二つほどあってな。転生者……天音という少女を引き取ったそうだな。魔力をほぼ持たないという。転生者としては、かなり珍しいケースだな」


「あれは≪転生(アステル)≫の魔法術式に欠陥があったからだ。なるべくしてなった結果だ。天音からしたらいい迷惑だろう」


「面白い。一度会ってみたいものだ」


 まだ見ぬ少女に心を膨らませるセリーナ。

 天音を見て、セリーナがどのような反応をするのだろうか?


「そしてもう一つ。ジンよ。何故魔導師団を辞めた?やはり……あの出来事か原因か?」


 ある程度察しがついているが、確認をするかのようなセリーナの質問。


「あぁ、それがどうした?」


「お前が魔導師団……いや、≪零≫を辞めればこの先のインベリッテは誰が救っていくと言うんだ。お前はこの国の英雄になるべき人間なんだよ」


「たった一人……たった一人の女の子を守れなかった人間が英雄になる資格なんてない。あの時に……あの瞬間から魔導師としての俺は死んだんだ」


 思い出すだけで反吐が出るほどの嫌な思い出である。忘れない。忘れるわけがない。あの二年前の出来事を俺は決して忘れない。


 あの時の俺は、俺自身の魔法に溺れていた。

 魔法が優れていればなんでも許される、結果を残せば誰も文句は言わない、という愚かな主観を持っていた俺。


 そんな俺を変えてくれたたった一人の少女。口うるさくて、他人にも厳しくて、そのくせ他人からどう思われているか不安になって、落ち込みやすくて、自分よりも他人を優先できる心優しい少女。


 初めて俺が俺自身の為ではなく誰かの為に使いたいと思った少女。


「だが、それはお前だけのせいではない。お前はなんでも抱え込みすぎなんだ。あの子と同じように」


「あいつは俺の目の前で腹を貫かれて死んだんだ。それに助けることすらできなかった。俺のせいで死んだんだ」


「違う。それは違うぞジン」


 必死に否定するセリーナ。


「セリーナは俺に≪零≫に戻れってそう言いたいのか?」


「あぁ、絶対にお前の力が必要だ。必要なんだよ」


「俺がいなくても≪零≫の奴らは優秀だ」


 本当にそう思っている。俺がいなくてもナインを中心とすればなんの心配もないだろう。「でも……」とセリーナは、


「強大な力の前には、如何なる集団も踏み躙られる。今の≪零≫は、絶対的な≪光≫がいない。ジン。お前ならそれに……」


「セリーナ」


 俺は名前を呼び一言。


「少し疲れたんだ。だから休ませてほしい。それじゃあ駄目か?」


 俺の切実な言葉を聞いて、セリーナがハッとする。


「別に協力しない訳じゃない。助けが必要なら言ってくれとも言ってある。だが、自分のペースでやらせてほしいんだ」


 セリーナが期待してくれているのも知っている。ここに来る前、≪零≫の奴らと別れる寸前に見たあいつらの顔も忘れない。表面上は笑顔で取り繕っていたが、ほんの少しだけ悲しさを滲ませていた。ここにいてほしい。というのを悟られないようにする、あいつらなりの気遣いだったのだろう。


「すまない。お前の気持ちを考えずにあたしの想いをお前にぶつけてしまった。教え子の気持ちを考えられないなんて、教師失格だな」


「教え子を心配して、会いに来てくれるだけで立派に教師しているさ」


「お前にそんなことを言われる日が来るとはな」


 お互い笑う。


 そんな中、俺はーー。


 ーーなぁ。

 心の中で問いかける。


 ーー俺はどうすれば良かったんだ?教えてくれ。

 誰も答えるはずのない心の奥底で、俺は一人その答えを問うていた。

今回はジンが苦悩する回となりました。

本当であれば俺TUEEEで非の打ち所がない主人公にしようと考えていたのですが…。

思い出したくない辛い過去を描く事で人間らしさを表現できるかと思い、作りました。

こんな未来が見てみたい、という要望などがありましたら言ってください。

仕事もやりながらなのであれですが、ifルートとして……。

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