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久しぶりに見た顔

 三日後ーー


 俺は、寝室のベットで座っていた。


「スゥ……スゥ……」


 隣では、天音は規則正しい寝息をたてている。


 アテンの呪いが解けた後、精霊の力を使い果たしてしまった天音はその場で倒れ込んでしまい、三日経った今もこうして眠りについている。


 精霊の力を使った代償だろうか。

 こればかりは天音にも分からない。


 そういえば、この村に来てから天音が身体が軽いとか言っていたな。今となって考えてみるとこの時から精霊術師として目覚めていたのかもしれない。


「お前のおかげで、アテンを助けることができたよ。ありがとう。アテンもお礼を言いたいだとさ」


 天音の髪の毛を撫でる。

 天音は起きる気配がない。


 俺は立ち上がり寝室を後にし、玄関のドアを開く。

 今日は俺に用がある人間がこの村に来ているという連絡をビジャから受けていた。


「おはよう」


 黒髪の少年が家の前に立っている。

 アテンだ。


「あぁ、おはよう。マキナの様子はどうだ?」


「うん。少しずつだけど良くはなっているって」


「そうか」


 あの後、マキナはインベリッテ医療病院に入院した。腕利きな医者が多い病院が多いだけあって、マキナの容体も回復していっているようだ。また、イーテルナ症候群を治療するための研究も早急に行われており、何人かの魔道士達が≪聖凛の花≫を採取しに行っているそうだ。


「お姉ちゃんは?」


 アテンが尋ねる。


「まだ目覚めない」


 あの日から天音の事を気にかけてくれている。


「もし、天音が目覚めたら真っ先にお礼を言ってやってくれ。きっと喜ぶだろう」


「うん」


 アテンは頷いた。


「それと……」


 指を指す方向に一人の人物がいた。


「久しぶりだな」


「まだ二週間も経っていないがな」


 見慣れた上下黒色の服に、魔導師団≪零≫の証である星形の胸章を身につけた黒髪長髪の男。


 ≪零≫の絶対的リーダー。ナイン。


「この村での生活には慣れたか?」


 ナインは俺の肩をポンポンと叩きながら言った。


「慣れるどころか、これでは≪零≫の時と同じだ。全く休めた気がしない」


 俺は軽く溜息を吐いた。


「なんとも災難だったな。それにしてもサーペンの生き残りがいたとはな」


 ナインが顔を顰める。


 あの後、ガビデルの身柄はインベリッテ魔導師団に渡った。


 何故、サーペンが今になってまた勢力を上げてきたのか。

 

 お前達の後ろにいるのは本当に魔族なのか。


 などの魔導師団からの質問に対して、ガビデルは頑なに口を開こうとしないそうだ。


「おそらくだが、魔族に呪いをかけられているんだろう。魔族という言葉を発すれば呪いが発動し、死んでしまうというな」


「その可能性が高いだろう。サーペンの昔の事を聞けば楽しそうに喋る癖に、魔族の事を聞いた瞬間、何も話さなくなる。だが、それより……」


 俺は頷く。


「なぜ、魔族がサーペンに力を貸したのか。魔族の気まぐれとは思えない。必ず裏があるはずだ」


「今、魔導師達がサーペンのアジトを探している。以前潜伏していた場所も探したが、既にもぬけの殻だった」


 サーペンは常にアジトを転々としている。

 そして、足跡を消すのも上手い。

 そう簡単に見つけることはできないだろうな。


「行方不明者の居場所は?」


「それなら心配ない。お前達がいた森から少し離れた洞窟に監禁されていた。全員無事だったと連絡が入った」


 見つかった場所はこの村から数キロ離れた洞窟。目隠しをされ、手足は魔力が込められた縄で縛られていた。だが、捕らえられただけで全員容体に問題はなかった。


「捕らえた人間で何かしようとしていたのか?」


「さぁな。だが、捕らえられていた一人が言っていたことがあってな」


 俺は耳を傾ける。


「これで、やっと願いが叶う。魔王が長い眠りからようやく目覚めると。そう言っていたそうだ」


「魔王……」


 俺は口にする。

 魔王。魔界の統率者。神話の時代、人間界にありとあらゆる災害をもたらしたもの。


「魔族がサーペンの前に現れたのも、魔王の復活と何か関係があるのかもしれないな」


「あぁ。それにはまず情報収集だ。俺達は魔族の事について知らなさすぎる。それに国の対応も見直す必要だってある」


 ナインがハァっと溜息を漏らす。

 情報収集については、≪零≫の連中であれば問題はないだろう。優秀だからな。

 しかし、問題は国の対応の方だ。今の現状、魔導師達がなんと言おうと、王の一言で全てが決まる。こんな国、遅かれ早かれ他国に追い抜かれ、飲み込まれてしまう。国民の声に耳を傾け、国民と共に歩いていける王こそ、国として強くなっていける。


「王の事は、王自身の問題だ。お前達がなんと言ったところでそれは変わらない」


「全く、世話のやける王様だ」


 ナインはポリポリと頭を掻く。

 そんなナインに俺は同情した。


「アテンの件についてはどうなった?」


 今回の事件、アテンも少なからず関係している。アテンにも処分が下されるはずだ。


「安心しろ。一ヶ月間、魔導師団の監視が付くだけだ。行方不明者達の身に何かあれば、処分はもっと重くなっていたのかもしれないがな」


「そうか」


「だが、あの子も子供だ。この先、人間との出会い、環境次第でもしかしたら、道を踏み外し今度は人を殺してしまうかもしれん。あの子だけじゃない。この世界に生きる子供全てだ」


 ナインは空を見上げる。

 

「ジン。あの子の事はお前に任せるぞ。絶対に道は外させるな。あんな屑どもに未来ある子供を汚されるな」


 ナインのその眼は殺気そのもの。

 子供に対してではない。その子供を傷つけようとしたガビデルに対して向けたものだろうと悟った。


 思い出す。≪零≫に居た時の頃だ。

 戦争で親を失い、泣きじゃくる子供達を見る度にナインは殺気だった眼をしていた。


「どうして戦争というものが存在するのだろうか。国の為か?国の為ならば、愛する者を失ってでも闘えというのか。こんなことをして一体誰が喜ぶというのか」

 

 ナインは子供達に歩み寄る。

 殺気だった眼は、いつの間にか子供を慈しむ優しい眼へと変わり、接していた。


「ジン。俺はインベリッテに戻る。まだ、やらなければいけない事があってな」


「そうか。だが無理はするなよ」

 

「俺が無理をしないと、誰が≪零≫をまとめるんだよ」


 ナインは笑う。


 あいつはいつもそうだ。自分の事は後回しで、常に誰かの事を優先している。このままではいずれ潰れてしまう。本人が大丈夫というのなら、大丈夫だと思うのだが。


 踵を返し、ナインはインベリッテへと向かおうとする。


「なぁ、ジン」


 俺の名を呼ぶ。


「どうした?」


「……いや、なんでもない。たまには≪零≫のみんなにも顔を見せてやれよ。心配しているからな」


「あぁ、機会があればな」


 俺は優しく微笑んだ。


 そんな俺を見て安心したのか、ナインも微笑み、今度こそカジル村を後にした。

更新遅くなってしまいました!

すみません!

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