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精霊の力

 僅かではあるが、アテンの体力と魔力が回復していく。突如として、天音の手に宿った光がアテンを癒しているのだ。


「これは……精霊の力じゃ」


「精霊……?」


 ビジャが頷く。


「精霊とは、遥か昔に人間界を豊かにするために当時、五聖神と言われていた精霊女王が作り出したと言われる生命体じゃ。精霊が宿ったものには何か特別な力を得ると言われている。だが、人間に宿ることは決してないと言われておるのじゃ」


「何故ですか?」


 マキナが言う。


「これはあくまで推測なんじゃが、人間は感情を持っているからじゃ。人間ならば、一度くらい自分の欲求を満たす為に力を使おうとする。その者の魂は汚れている。神が作りし生命体がその魂には宿ることはない。精霊は汚れていない、澄んだ魂を求めていると言われているのじゃ」


「じゃあ、精霊は私の魂は澄んでいるって判断したことですか?」


「魂が澄んでいると言って、精霊が宿るわけではない。人間も精霊も同じく生きている。お互いが持つ波長が合わなければ、精霊の力を使うことはできないのじゃ」


 アテンの魔力がほんの少しだが安定してきている。

 呪いの効力が弱まってきているのだ。


「アテンにかけられていた呪いが弱まっている。これも精霊の力なんですか?」


 ビジャが頷く。


「魔族にとって精霊は天敵。神が作った生命じゃからな。魔族の禍々しい魔力と精霊の神々しい力は相反している」


 弱まっているとはいえ、まだ予断は許されない状況だ。


「ハァ……ハァ……」


 天音は苦しそうな表情を浮かべていた。


「天音、少し休んでろ」


 天音は首を横に振る。


「大丈夫です。アテン君を助けることができるんです。まだいけます……」


 アテンの体内に精霊を送り続ける。


「……お姉ちゃん……」


 天音の事だろう。

 アテンは顔を横にして言う。


「大丈夫」


 アテンに心配させまいと天音は笑ってみせる。


 俺は≪治癒(エミテル)≫の魔法を天音にも使ってやる。


「ありがとうございます」


「絶対助けるぞ」


「はい」


 アテンの治療から一時間が経過した。

 現在、アテンにかけられた呪いの八割は除去することができた。だが、それでもアテンの容体は回復するどころか、悪化している。


「ハァ……ハァ……」


 天音にも限界が近い。

 

「お姉ちゃん。もう大丈夫だから……。このままだったら、お姉ちゃんが死んじゃう……」


 自身の中に持つ魔力を使うのと違い、精霊力は精霊に直接干渉しなければならない。おそらく、体力の消費量は魔力消費の比ではない。

 それに加えて、天音はいきなり精霊の力を使用して、身体が追いついていないのだ。


「大丈夫……大丈夫だから……。私を信じて……」


 天音の手に力を入っていない。

 天音の手に宿っている光も段々と弱々しくなっている。


「ありがとう……。僕……初めて会う人と話すのが苦手で……お姉ちゃんが話かけてくれても、どう話せばいいか分からなくて……ごめんなさい。

本当は……お姉ちゃんともっと……お話したか……った……」


 頬に涙を流し、最後の力を振り絞るかのように言い残したあと、アテンは静かに目を閉じた。

 

「アテン君を……絶対……助ける……から」


 天音は力が入らない手でアテンの手を握り続ける。


「嘘……。嘘よ……」


 マキナが信じられないような表情を浮かべて首を横に振る。


「……まだだ。微かではあるが心音がする」


 恐ろしく、弱々しい心音。

 だが、まだ死にたくないという想いが呪いに必死に抗っているのだ。


 俺はアテンに≪治癒(エミテル)≫、≪解毒(グルニ)≫を使い続ける。


「言ったよな。もう二度と、俺が守りたいと思ったものを死なせないと。お前は絶対に死なせない」


 天音もアテンの手を握り続ける精霊力を送り続ける。


「アテン君……。私も……もっと君と話したいよ……。だから……死なないで……。生きて!」


 瞬間、天音の手の光が強くなった。

 これまでとは比較にならないほどの輝きが寝室を覆った。


 天音の体力は限界を超えていたはずだ。


「精霊が、天音の想いに応えたんじゃ」


 その光景を見たビジャが言った。


「精霊は、想いの強さで真価する。天音のアテンに生きて欲しいという想いが精霊に届き、天音に更なる力を与えたんじゃ!」


 アテンの中にある呪いが精霊力によって打ち消されていく。


 それと同時にアテンの心音がトクン、トクンと大きくなっていった。


 精霊力はアテンの脳、手、足、様々な場所に行き渡り、アテンの弱りきっていた魔力を回復させていっている。


 アテンの中にある呪いを完全に解くことができた。


 しばらくして、アテンがゆっくりと目を開ける。


「お母さん……」


「アテンッ……!」


 マキナはアテンを抱きしめた。


「良かった……本当に……」


 天音はそう言い残し、バタッとその場で倒れてしまった。

 

前回、今回と天音がメインのお話でした。

もうそろそろ一章が終わりを迎えます。

皆様が読んでくださるお陰で、小説を書くモチベーションに繋がっています。

これからも皆様に楽しんでいただけるような作品を書いていければいいなと思います!

それでは皆様!良いお年を!

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