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魔力

 宮殿にいた人々が割れんばかりの歓声をあげていた。


「遂に……遂に成功したぞ!」


「これでこの国も安泰だ!」


 中には泣き出す人間もいた。


 ≪転生(アステル)≫は、膨大な魔力を消費するにもかかわらず成功率は十◯%を切る。少なくとも俺はこの魔法が成功したところを見たことはない。


「おお!凄く可愛い!」


 アレスが身を乗り出しそうな勢いで少女を見つめた。


 短く整えられた黒髪のショートカットに同じ黒い瞳。年齢は十四といったところだろか。色白で可愛らしい少女だ。


 その少女は突然の出来事で自分の置かれている状態に理解が出来ず、周囲を見渡していた。


「え……ここは……どこ?」


 王が少女の元へと歩み寄る。


「初めまして。ここはインベリッテ王国の宮殿でございます。私はインベリッテ王国の王、アジム・ジェイガスと申します」


「は……はい。初めまして。私は鈴ノ木天音って言います」


 少し落ち着きを取り戻したのか、少女は自己紹介をした。また、随分と珍しい名前だな。


「鈴ノ木様。単刀直入にいいます。貴方をこの世界に招いたのは我々と共に戦っていただきたいからです」


 少女は目を丸くしている。何を言っているのか理解できなかったのだろう。


「……戦う?」


「はい」


 王は頷く。


「このインベリッテ王国は、他国に比べ戦力が劣っています。魔導師団期待の星と呼ばれていた少年も魔導師団をもうすぐ抜けてしまい、さらに戦力が落ちるのです」


 王は恨めしそうに俺の方に視線を移す。

 

「ジン。王様の眼が怖ぇよ」


 隣にいたアレスが呟く。


 その眼には、今まで尽くしてきてやったのに何故辞めるんだという想いが込められていると感じた。


「このままではインベリッテ王国は他国との戦争に破れ、植民地となるでしょう。どうか貴方の力で我らを救ってください!」


 王が少女に懇願するかのように言う。


 隣にいたアレスだけでなく警備に当たっていた魔導師達がキュッと唇を噛む。


 宮殿魔導師団の実力はかなりのものだろう。

 だが、≪転生(アステル)≫によってこの世界に招かれた者は魔導師団達を凌駕するほどの力を持っているのだ。まさに一騎当千だろう。


 そんな人物が一人でも国にいれば戦争に負けることもないだろうな。


「そんな急に戦争とか言われても……私、魔法とかよく分からないし」


「ご安心ください。我々が貴方を全面サポートいたします。その前に少し確認したいことがありますので……。あれを持ってきなさい」


 一人の魔導師が絨毯と水晶を持ってくる。

 絨毯の真ん中には星のような魔法陣が描かれている。

 

「これは……?」


 少女が尋ねる。


「これは魔力量を測る魔道具です。絨毯の真ん中に描かれている魔法陣の上に乗ってもらうことで水晶に魔力量を数値化することができます」


 宮殿にいた人々は帰る気配がない。

 彼女の魔力量をどうしてもこの眼で見ておきたいのだろう。


 魔導師達によって準備は着々と進められた。


「鈴ノ木様、準備ができましたので魔法陣の中に立ってください」


「分かりました」


 少女は魔法陣の上に立つ。


「転生者の魔力量ってどれぐらいなんだろうな?」


「きっと俺ら凡人とは比較にならないほどの魔力量だろ!」


 人々が盛り上がる。


 魔導師団に入団するためには最低でも五万は必要だ。隣にいるアレスの魔力量は十◯五万。まぁ、魔導師団の中でも優秀と言える魔力量だ。


「ジンの魔力量ってどれぐらい?」


「細かい数値は覚えていないが、昔測った時は三◯万を超えていた覚えがある」


「ふーん。でもあの子ならジンの魔力量なって軽く超えるでしょ」


 などと話していると、準備が済んだのか魔力測定が始まろうとしていた。


 絨毯に描かれている魔法陣が輝く。水晶に数値が映し出された。


 魔導師たちがそれを見て何やらざわざわしていた。


「なんであんなに騒ついてるんだ?」


「桁違いの魔力量に驚いているんだろう」


 そして魔導師が宮殿内にいる全ての人に聞こえるように言った。

 

「……1です……」


 宮殿内がシーンとする。


「測定ミスなんじゃないのか?もう一回やってみろ」


 王の指示で魔導師達が再度準備を行う。


「もう一回準備しますので少し待ってください」


 王が少女に説明する。


 準備が整い、少女が再度絨毯の上に乗り魔力測定が行われた。


「……0です……」


 魔導師の弱々しい声が宮殿に響いた。

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