アテンの想い
一旦、俺は天音を家で待機するように言った。
理由は二つ。
一つはアテンと二人で話をするためである。
天音にはまだ心を開いていないようだからな。二人であれば多少は、素直になって話をしてくれるかもしれない。
もう一つはさっきの視線だ。
そいつが俺か天音、どちらか狙っているか分からない。だが、アテンと話をするためには二人で話をする必要がある。だとすれば、天音を家で待機させるのが一番と考えた。
「やっぱり……ダメですか?」
「悪いな。どうしてもあいつと二人で話がしたいんだ」
天音は残念そうな表情を浮かべる。
家で待機させるとはいえ、魔力を持たない天音を一人にさせるのは不安だな。
「≪肉体強化≫」
身体能力を底上げする魔法を天音にかける。
「≪透明化(ファルテナ≫」
さらに天音の姿を見えなくさせる魔法を重ねがける。
これで天音の姿は、俺以外誰にも認知させないようになった。仮に認知されたとしても≪肉体強化≫によって、多少は戦えるようにはなったはずだ。
「今、天音の姿は見えていない。襲われる心配はないだろうが、それでももし何かあったら、これを力いっぱい握ろ」
俺は小さな石を渡す。
「これは?」
「魔力石だ。それを握ると≪肉体強化≫の魔力が反応して、使用者の俺に魔力が伝わるようにしてある」
これで、とりあえずは天音を一人で家に待機させても安心はできる。
だが、油断は禁物だ。
「じゃあ、行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
天音と言葉を交わし、俺はアテンがいるであろう場所へと向かう。
広場に設置されている砂場だ。
案の定、アテンはそこにいた。
「よう」
「うん…」
今日も砂の城を作っているかと思ったのだが、
「何をやっているんだ?」
「見たものを形にする練習」
ほう、≪再現≫か。
アテンは≪重力操作≫で砂を操作し花瓶を作ろうとするが、中々上手くいかないようだ。
俺は花瓶に少し触れる。
「見ていろ」
花瓶から手を離し、俺は花瓶を再現する。
そこには、美しい花瓶が現れた。
「すごい……」
何かを創る時は、≪創造≫と≪再現≫の二種類の魔法が存在する。
≪創造≫は、使用者の想像力によって様々な物を創れる魔法。≪再現≫は、見たことのある物質をそのまま創り出す魔法だ。
想像だけで創り出せる≪創造≫は誰にでも使いやすい魔法なので、あまり≪再現≫を使う魔導師はいない。
しかし、精密に創りたい時は≪再現≫を使うのが好ましい。
この場合、≪再現≫の方が有効なのだが、どうやらアテンは≪再現≫が苦手のようだ。
「アテン。お前の砂の城はあくまで≪創造≫で創った物だ。だが、その魔法で創られた物は壊れやすい。何も込められていないからな。実際に存在するものを創ろうとするには、それについて理解していなければならない。記憶を読み取る事が大切なんだ。花瓶であれば、形、触った感触、それに込められた想い、それら全てを理解し、魔法に込めるんだ」
アテンには少し難しかったか?
「とりあえず花瓶に触れてみろ」
アテンは言われるがままに花瓶を触る。
「なんか冷んやりしている……。それにザラザラしてる……」
「それも≪再現≫の魔法に込めるんだ」
花瓶に触れ、形を確かめた後、アテンは≪再現≫を使う。
俺ほどではないが、先ほどとは比べ物にならないほど綺麗な花瓶が出来た。
「やれば出来るじゃないか」
「ジンのおかげ……」
アテンははにかむように言う。
「これなら……」
「どうした?」
「なんでもない……」
アテンが首を横に振る。
「アテン。話がある。話せるか?」
「いいよ」
俺とアテンは近くにあるベンチに腰掛ける。
「さっき、お前の母親に会ってきた。イーテルナ症候群という病気らしいな」
「ジンだったら……治せる?」
アテンは少し期待するかのような表情を浮かべる。
「いや、魔力を与えるだけでは、その場しのぎになってしまう。やはりどうしても根本的に解決しないと回復はしないだろう。治療法はまだ解明されていないしな」
「そう……」
「アテン。何か隠していることはないか?」
「えっ……?」
あてんが困惑したように声を漏らす。
「なんでそう思ったの?」
マキナがアテンの事を心配していたからとは言えないな。
「なんとなくだ」
「何もないよ……」
俺にも話したがらないか。
「これはマキナに聞いたんだが、時々帰りが遅いらしいな。どうしてだ?」
「お母さんから聞いたんなら、理由も聞いたはずだよね。魔法の練習をしてたって」
「別にそんな時間まで練習する必要はないと思うぞ」
「……」
アテンは黙り込む。
「……少しでもお母さんに楽させてあげたいから、今の内から魔法の練習して、いい魔導師になりたいんだ……」
しばらくして、アテンは口を開いた。
これがアテンの本心だろう。
「……分かった。ありがとう」
「うん」
アテンは立ち上がり、走り去っていく。
さっきのアテンの言葉は、嘘ではない。
だが、全てを話しているわけではないと思う。
アテンはまだ何かを隠している。
俺は立ち上がり、広場を後にする。
次に俺が向かったのは、
「ジンか。どうしたんじゃ?」
ビジャの仕事場である。
ビジャは何やら書類をまとめていた。
「最初の女の子が行方不明になったのは少し前だと言っていたな。それはいつだ?」
「……確か三週間前だったはずじゃ」
なるほど、だとすれば。
「ビジャ。今日の夜、その森には誰も近づかせるな。推測だが、今日、行方不明者が出るはずだ」
「なんじゃと!!」
ビジャが驚きの声を上げる。
「安心しろ。今日でそれを断ち切ってやる」




