砂の城
翌日ーー
俺は原因を突き止める為、少女が行方不明になった森にいた。
「私はアテン君の所に行ってきます!」
朝食後、天音はそう言い残し出かけていってしまったのだ。
俺も森に行く用があったのでまぁ、丁度いいか。
≪静寂の森≫より木々が生い茂っている為、森の中にはあまり陽光が差し込まない。奥に進み続けても同じような道が続く為、何か目印でも付けない限り、迷子になる可能性も高いだろう。
≪魔法感知≫を発動させながら、森の奥まで進めたところで、俺は歩みを止め視線を落とした。≪魔法感知≫が反応したからだ。しかし、地面には何もない。
「≪復元≫」
右手に魔法陣を展開させ、地面に触れる。
すると、地面に魔法陣が浮かび上がっていく。
「≪擬態生成≫か」
≪擬態生成≫は、限りなく本物に近い人間を作りあげる魔法だ。パッと見れば気がつくことはないだろう。
だが、≪擬態生成≫によって作られた人間は外見が似ているだけであって、記憶まで完全に似せることは出来ない。
また、使用者の魔力を栄養としているので食事も一切必要ないのだ。
≪擬態生成≫を極めた者ならば完全な人間に似せる事も出来るが、この村にそんな人間がいるとも思えない。
つまり、村に戻ってきたと言ってる行方不明者は≪擬態生成≫によって作られた偽物ということだ。
問題はその魔法を誰が使ったのか。
行方不明者は無事なのか。
この二点が以前、分からないままなのだ。
まぁ、今日でこれだけ分かっただけでも良しとするか。
俺は、踵を返してカジル村へと戻る。
その帰り道、昨日の広場でアテンが一人で遊んでいた。
「あ、ジンさん」
天音が立ち上がり、俺に声を掛ける。
「少しは仲良くなれたか?」
天音は首を横に振る。
「そうか」
俺はアテンの近くに歩み寄りしゃがみ込む。
昨日と同じ、≪重力操作≫で砂の城を創っていた。
「よく出来ているな」
「うん……」
「だが、もっと大きいやつを作れるぞ」
俺も≪重力操作≫で、砂を城を創り上げる。
しばらくすると、アテンが創っていた5倍以上の大きさの城が完成した。窓や門などの細部にもこだわっている。これは芸術品として売れるほどのものだろうな。
「凄い……」
アテンが感嘆の声を漏らす。
「いずれお前も出来るようになるさ」
アテンは≪重力操作≫を使用する際、魔力のコントロールが上手くいっていない。余分に魔力を使ってしまっているせいで、大きな城を創れることが出来ていないのだ。
魔力を精密にコントロール出来れば、あれぐらいの城はすぐ創れるだろう。
「じゃあ……」
アテンは魔法陣を展開する。
出てきたのは、手を繋いだ三人の家族だった。右端に母親、左端に父親、その間に小さな子供が楽しそうに笑っている。
「家族……」
アテンが呟く。
父親は死に、母親は今病気で寝込んでいるんだったな。これは、アテンが望んでいた未来の一つだったのかもしれない。
「今度……大きな砂の城の創り方……教えて」
恥ずかしそうに言う。
「あぁ、良いぞ」
「ありがと……」
アテンはぎこちない笑みを浮かべた。
あまり笑ったことがなかったのだろうな。
「バイバイ。えっと……」
「ジンだ」
「バイバイ……。ジン……」
アテンはどこかへと去っていった。
「アテン君。私にはまだ心開いてくれていないのに……」
天音が悲しそうな表情を浮かべる。
「気にするな。たまたまアテンの興味に合っただけだ。天音にだって、アテンと仲良くなれる何かがあるかもしれないぞ」
「……そうですね」
天音が俺に向かって歩こうとすると
「うわっ!」
段差があったのだろうか、躓いて転んでしまったのだ。
「痛ってて……」
天音の膝小僧から少し血が出ていた。
「大丈夫か?とりあえずまずは膝についた砂を落とさないとな。どこか水のある場所は」
俺は広場を見渡すが、そういった場所はない。
仕方ない。
家に戻ってから止血するか。
「あの、ジンさん」
「なんだ?」
「傷、もう治っています」
天音の膝小僧を見ると、傷は既になくなっていたのだ。




