表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/65

服を買いに

 俺は、天音に案内してもらいながら村の様子を見ていた。


 天音は、軽やかな足取りで歩いていく。

 インベリッテにいた時よりも歩く速さが速いような気がするが。


 インベリッテのように、大勢の人々が行き交うような様子がない。あるのは、畑仕事をしている夫婦と、子供達が遊んでいる姿しか見受けられなかった。


「あ、ここです」


 天音の足がある店の前に止まる。

 小さな服屋だが、外見は気を遣っているのだろう。とても綺麗だった。


 中に入ると、メガネをかけた女性が出てきた。おそらく店主だろう。


「あら、見ない顔だね。新しい住人かい?」

 

 女性店主が尋ねてくる。


「あぁ、今日からこの村に引っ越してきてな。服がないので買いに来たんだ」


「そうなのね。私はルミナっていうの。よろしくね」


「ジン・クルシュガーツだ。よろしく」


「鈴ノ木天音です」


 簡単に自己紹介を済ませる。


「小さな店だけど、まぁ見ていって。私は奥で少し仕事しているから、なんかあったら呼んで」


 ルミナは奥の部屋へと入っていく。


「それじゃ、見ていきましょうか」


「あぁ」


 俺達は、店の中を見て回る。

 中は質素だが、しっかり清掃されている。

 スタンドに何着もの服が掛かっており、すぐ近くには鏡が置いてある。


「これなんてどうでしょう?」


 天音が水色ののワンピースを手に取る。ワンピースに白色のドット柄が描かれており、爽やかな印象を与える。


「一回着てみればいい。あそこに試着室があるから」


「そうですね。少し行ってきます」


 天音は水色のワンピースを持ち、試着室へと向かい、カーテンレールを閉める。


 三分後ーー


 シャーっとカーテンレールの音がした。


「……どうですか?」


 天音が恥ずかしそうに聞く。


「とてもよく似合っているぞ」


「そうですか?えへへ」


 嬉しそうにはにかんだ。

 モモから貰った桃色のワンピースも似合っていたが、水色の方が天音には似合っている。

 天音の透き通るような色白の肌が水色のワンピースを引き立てているような気がする。


「それじゃあそれを買うか」


「はい、あ……」

 

 何かを思い出したかのように声を漏らす


「私、お金持っていないです」


 なんだ、そんなことか。


「安心しろ。それぐらい俺が出す」


「……いいんですか?」


「あぁ、これは天音へのプレゼントだ」


「ありがとうございます」

 

 天音は満面の笑みを浮かべた。


「ジンさんも何か欲しいものはないんですか?」


「いや、特にはないな」


 休みの日はいつも上下黒の服に、黒か白色のジャケットで過ごしていたからな。これ以上、特に着たい服っていうのもない。


「そうですか。だったら着てみて欲しい服があるんですけど」


 案内されるままに俺は天音の後ろを歩く。


「これです」


 天音が手にしたのは、灰色のシャツと、紺色のパーカーだ。


「ジンさんにすごい似合うと思うんです」


 そこまで言われれば、着ないわけにはいかないだろう。


「試着してくる」


 俺は試着室へと向かい、渡された服を試着する。そういえば、誰かに服を選んでもらうというのは初めてかもしれないな。

 試着を済ませ、天音に見せる。


「とっても似合っています!ジンさんはやっぱり寒色系の服が似合いますね!カッコいいです!」


 珍しく天音が興奮気味の様子だった。

 女性はファッションが好きだとは聞いていたがここまでとはな。


「カッコいいか?」


「はい!とっても!」


 こうやってカッコいいと言われるのも悪くないな。


「じゃあ、これも買うか。せっかく天音が選んでくれた服だしな」


 俺と天音はそれぞれ購入する服を持った。


「すまない。服を買いたいんだが」


 奥の部屋からルミナが出てきた。


「ありがとうね。良ければまた来てね。可愛いお嬢さんもいることなんだし。材料さえあればオーダーメイドもできるからね」


「オーダーメイド……」


 天音が言葉を漏らす。


 自分好みの服を作れるらしい。服好きな天音にとっては嬉しいことなのだろうな。


 俺はルミナに金を渡して店を後にする。


「おお、ジンに天音よ。二人でデート中かの?」


 外に出ると、ビジャがいた。


「服を買いにな。あんたは何をしているんだ?」


 どこかへ行ったと思えば服屋の目の前にいる。村長はやることがないのか。


「ただの散歩じゃよ」


 やることはないんだな。

 

「ちょうどいい。少し聞きたいことがあるんだ」


「ふむ、良いじゃろう。では、あそこの小さな広場でどうじゃ?」


 ビジャが指差す方向には、子供達が楽しく遊んでいる。


「あぁ、問題ない。天音も来るか?」


「はい。特にやりたいこともないですし」


 荷物を持っているが、そこまで長話をするつもりはない。そこまで邪魔にはならないだろう。


「では、向かおうか」


 俺達は話をするため、広場へと向かった。

何もない中でのさらに何も無い回。

平和ですねー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ