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盗賊

 俺達はインベリッテ王国から南に位置している小さな村落に向かっていた。

 周囲には川が流れており、子供達が楽しそうに遊んでいる。


「大丈夫か?」


 横で歩いている天音に声をかける。


「はい……。大丈夫です……」


 強がってはいるが、息は既に上がっている。歩き始めてから二◯分と少し。特に急いで着く必要もない。


「少し休憩するか?」


「あ、ありがとうございます」


 そこにあった丁度良い岩に腰掛け、タオルを手渡す。

 

「前世でも体力はあまりない方だったのか?」


「はい、マラソン大会ではいつも最下位でした」


 天音が滴る汗をタオルで拭う。


「マラソン大会?」


 初めて聞く言葉だな。


「はい、一年に一回にある行事なんです。各学年男女別に学校が決めたコースを誰が早く走れるか競うんですよ」


「ほう」


 中々面白そうな大会じゃないか。そのような大会が行われるような事があれば、ぜひ一度やってみたいものだ。


「それじゃあ、行きましょう」


 天音が腰掛けている岩から立ち上がろうとした。


「痛っ!」


 太腿を押さえている。


「攣ったのか?」


「はい……」


 痛みに顔を歪めながら言う。


「大丈夫か?伸ばすぞ」


 俺は、攣っている方の足を伸ばしてやる。

 

「ありがとうございます……」


 ーーしばらくして、治ったのか天音は攣った方の足全体をマッサージしていた。


「攣った直後はあまり、動かさない方がいい。無理に動かすとまた、攣ってしまう可能性があるからな」


「すみません……」


 天音は申し訳なさそうに言う。


「今後は少しずつ運動しないとな」


 おそらく運動不足だろうな。マラソン大会とやらは最下位だったと言ってたし、普段はあまり運動しないタイプだったのだろう。本来の≪転生(アステル)≫が行われていればこんな事も起きなかっただろうが、起きてしまったことに文句を言っても仕方がない。


「はい……」


 今回は天音に無理をさせて歩かせるわけにも行かないな。


「天音。失礼するぞ」


 片手を天音の背中に回し、反対の手を膝の裏に抱え、一気に持ち上げた。


「へ?ふわあぁぁ!」


 可愛らしい声を上げる。


「あ、あの……」


 天音が小声で呟く。


「どうした?」


「えっと……重くないですか?」


 顔を赤くしながら消え入りそうな声が呟いた。


「安心しろ。天音はとても軽い」


 思ったことをそのまま言う。


「そ……そうですか……」


 少し安心したのか、ホッとしたような表情を浮かべた。


「それではこのまま行くぞ」


「えぇ!?このままですか!恥ずかしいですよ……」


「別にいいだろう。無理して歩かせるわけにもいかないからな」


「それはそうですけど……」


 赤く染めた頬をより一層赤くして俯いてしまった。


「しっかり捕まってろよ」


「はい……」


 天音は肩越しに腕を首の後ろに回し、反対側の腕に捕まった。


「せっかくだ。少し風になってみる気はないか?」


「え?」


 天音が声を漏らす。


 ビュン!

 

 風を切る音を残し、俺はものすごいスピードで走って行く。


「はやっ!」


 あまりのスピードに天音が驚く。


「天音。風や音は来ていないか?」


「はい。そういえば来ていないです。これだけのスピードで走っていればかなりの風圧が来ているはずなのに」


「≪魔法壁(ヴィレアス)≫で風圧を弾いているんだ」


 ≪魔法壁(ヴィレアス)≫は、主に相手の攻撃から身を守る為に使用するのだが、こういった使い方も出来るのだ。


 数分後、俺達はある森へと到着した。

 木々が生い茂っており、不気味さが漂っている。


「ここは?」


「ここは≪静寂の森≫と呼ばれていてな。ここはその名の通り、魔物が一匹たりとも存在しない、とても静かな場所だ」

 

 魔物がいない為、襲われる心配がないので天気が良い日には、散歩をしている人も多くいるそうだ。


「ヒルダが言う村落に行く為にはこの森を通らなければ行けないんだ」


「そうなんですか……。でも魔物とかいないんだったら問題ないですよ。あと、足はもう大丈夫なので降ろしてもらっても大丈夫です」


「そうか」


 俺は優しく天音を降ろす。


「それじゃ、行くか」


「はい」


 俺達は森の中に足を踏み入れる。


「……なんか不気味ですよね。逆に静かすぎて」


 しばらく歩いて後、天音がそう呟いた。


「怖いのか?」


 薄気味悪さはあるが、これぐらいの森ならば大したことはない。


「そんなわけないじゃないですか!」


「嘘つけ。震えているだろう」


 俺は天音を近くに抱き寄せる。


「あっ……」


「これならば恐怖も紛れるだろう」


 天音は何も答えず俯いてしまった。

 俺達はひたすら≪静寂の森≫を歩いて行く。


 俺は、そこで歩みを止める。


「ジンさん?」


「おい、隠れていないで出てこいよ。こっちはお前らの殺気でとうの昔から気がついているぞ」


 木々から続々と人が湧いて出てくる。人数は一◯人くらいか。おそらく盗賊だろう。ボロボロの服を身につけており、手にはナイフを携えている。


「へえー。俺達の≪気配隠蔽(ネルゲン)≫に気がつくとは、兄ちゃん中々やるねぇ」


「だが、こっちは一◯人。どう見ても俺らがが有利としか思えないんだよな」


「安心しろ。金目のものをそこに置いていきゃ命だけは取らないでやるよ」


「兄ちゃん、中々いい女連れてんじゃねぇか。その女もついでに置いていけ。今夜は楽しくなるぜ!」


 盗賊達が何やら騒いでいる。

 

 盗賊の視線に気が付いたのか、天音は俺の背中に隠れていた。


「おい、俺達はこの先の村落に用があるんだ。退いてもらえると助かるんだが」


「だから金目のものと女を置いてけって言ってんだよ!話聞いていねぇのか!」


「今、退いてくれるんだったら痛い思いはせずに済むぞ」


 すると、盗賊達から奇声と笑い声を上げる。


「ギャハハハハ!おい、兄ちゃん!状況理解できてねぇのか!二体一◯だぞ!お前らが負けるに決まってるだろうが!」


「兄貴、あいつらどうしましょうか?」


 取り巻きが言う。

 兄貴?あのでかい図体のやつか。


「男は殺せ。女は傷つけるな。今夜の楽しみが台無しになっちまうからな」


 再び盗賊達が奇声を上げる。


 一応、忠告はした。別に倒しても問題ないだろう。


「天音、少し待ってろ。すぐに片付ける」


 折角だ。久々にこいつを使うとしよう。

 俺は黒曜石の石に魔力を注ぎ込み、黒皇魔銃インペルタルへと姿を変える。


「ほう。中々面白いもの持ってるじゃねぇか。あれも後で売れ捌くとするか」


 もしかして、これの放つ魔力に気がつかないのか?インペルタルの魔力を抑え込んでいるとはいえ、分からないとなると魔力が天音ほどではないが、乏しいのだろうな。


「お前ら!やっちまえ!」


「ウオオォォォー!!」


 盗賊達が雄叫びをあげて、俺達に向かってくる。


 仕方がない。

 俺は、インペルタルに魔力を込めてただの魔力弾を放った。


「ぐぅっ!」


 魔力弾を喰らった盗賊の一人がバタッと倒れ込んだ。


「おい!大丈夫か!?」


 近くにいた盗賊が声をかける。


「あ、あれ?」


 魔力弾を喰らった盗賊はスクっと立ち上がる。


「なんだよ。驚かせやがって」


 そう言って俺に向かおうと足を踏み出そうとした。しかし、奴は動くことは出来なかった。


「か、身体が動かねぇ!どうなってんだ!?

おい!何をしやがった!?」


「魔力弾を放っただけだが?」


「ふざけんなっ!」


 俺は他の盗賊にも魔力弾を撃ち込む。

 魔力弾を受けた盗賊達はたちまち動けなくなってしまった。


 これがインペルタルの固有能力≪魔力支配≫である。≪魔力支配≫は、インペルタルが持つ魔力より魔力が劣っている持ち主の場合、相手の魔力を支配することで相手を動かなくさせるのだ。


「≪静寂の森≫なのにすっかりと騒がしい現場になっちまったな」


「くそ!待ちやがれ!」


 盗賊達が何やら言っているが、もちろん聞く耳を持つわけがなく、俺は背中に隠れている天音に優しく言う。


「あいつらが動けなくなっている内にここを抜けるぞ」


 ≪魔力支配≫も永遠ではない。しばらくすれば効果が切れてまた動き出してしまう。あいつらの相手をしてやるほど俺とて暇ではない。


「はい……」


 俺と天音は盗賊達の間をすり抜けて行く。


「おい!待て!」


 盗賊達の負け犬の遠吠えが≪静寂の森≫に響き渡った。

主人公を引き立てる盗賊達……。

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