物語の始まり
物語は唐突に始まった。
記憶がないのだからこれが新しい物語の書き出しである。
格好良く言うことが正しい気がしたがその物語は楽しいものだろうか。
評価されるのは面倒だ、と彼は歩き続けることだけを考えることにした。
召還機。
旧世代の遺物で用途も分からないまま放置されていたが、稼働していると知っている者は現存していない。
街の外れ、遺跡と呼ばれている石造りの建造物。
地下に眠るツタの張り巡らされた機械はまた別世界から何かを呼び出そうと微動し始めていた。
振動が大きくなり熱が放出される。
何本も繋がっているパイプがぷしゅぷしゅと気の抜けた音を出しては中に流れている熱気に合わせて蠢く。
ひんやりとしていた空気は徐々に加熱し、30度を越えない程度で活動が緩やかになった。
代わりに丈夫の丸く湾曲した部分がぱちぱちと放電し始め、次第に大きな音を立て部屋中に反響する。
自動操作されている制御ディスプレイに「OK」の字が無数に並び、それを皮切りに機械の中にある円盤の回転数が急激に上がった。
それに比例して雷は光へと変わり、遂には暗闇が行き場を失うほどにまばゆい光が地下に殺到した。
稼働し始めてから10分程度、召還機は沈黙した。
仕事の結果として、ひとりの青年が仰向けに横たわっていた。