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304/309

304・はじめての たんじょうびかい

|д゜)シンイチとリュウイチが1才になりました。


「誕生日?」


「誕生日、とな?」


自宅である屋敷、その食堂で夕食中、

私は家族にその事を告げると、


アジアンチックな童顔の妻と―――

欧米モデルのような顔立ちとプロポーションの

妻が聞き返して来て、


「あー、そろそろシンイチとリュウイチが

 1才になるもんね」


黒髪ショートの、赤い瞳を持つ娘が察し、


「うん。

 それと、レイド君とミリアさん、

 ギル君とルーチェさんのところの子供たちも、

 だいたい同じくらいの日に産まれているから。


 まとめて児童預かり所で、誕生日パーティー

 みたいな事をしようかなって」


私の言葉に、メルとアルテリーゼ、ラッチが

うんうんとうなずく。


シンイチとリュウイチはそれぞれの母親の元で、

まだ意味がわからないのかキョトンとしていて、


「シンイチとリュウイチが生まれた日を

 祝おうって事だよー」


「それを、児童預かり所のみんなと一緒に

 やろうという事じゃ」


母親2人が息子たちに告げると、


「あー」


「うー」


『良い事をする』という事は伝わったのか、

赤ちゃん言葉で返事をした。




「ザハン国からの特使が?」


「はい。

 例のタクドルという男が、数名の部下と共に」


ちょうどその頃……

ラーシュ陛下はウィンベル王国王都・

フォルロワで、王宮内の自室で報告を

受けていた。


「こんな冬に、よく船を出せたものだ」


「一番波の静かな日を狙って出航して来たのでは

 ないでしょうか」


使いと思われる男性が見解を述べ、


「それで極秘・非公開での会談を望んで

 おりますが―――

 いかがいたしましょう」


「そうまでして来たのならば会わないわけにも

 いくまい。


 各大臣や関係各所に連絡を」


まだ30代前半と思われる、ブロンドの短髪の

国王は、配下にそう命じた。




「お久しぶりでございますわぁ。

 ラーシュ陛下」


とある一室で、リーゼントのような髪型をした、

他国の官僚は(ひざまず)く。


「前置きはいい。

 それで、何か問題でもあったのか?」


「話が早くて助かりますわぁ♪

 あ、詳細はこれに」


そう言ってタクドルは一通の書面を差し出す。

ラーシュ陛下はそれを一読すると、


「……メナスミフ自由商圏同盟が二分しそうに

 なっていると。


 しかし、我が国や同盟国は相互の内政干渉は

 しない方針だ。

 そもそも、まだ交易すらしていない国の

 面倒ごとを持ってこられても困る」


国王は一応、正論で答えるが、


「しかし、こうなったのはウィンベル王国他、

 こちらの同盟諸国への対応を巡っての

 事なんですよぉ。


 これは大いに関係あるのでは?」


そう返されたラーシュ陛下は眉間に

シワを寄せる。


「こちらにどうしろというのだ?」


そこでタクドルはいったん天井を見上げ、


「実はこの際―――

 寛容策(かんようさく)に応じられない反対派を、

 一掃(いっそう)しようという動きがありましてね。


 もともと大所帯で、様々な国の参加を認めて

 来ましたが、この機に問題を抱えている国々を

 処分しようと。


 そう融和派(ゆうわは)は見ているようです」


それを聞いた国王はフー、とため息のような

長い息を吐いて、


「あわよくば、その処分をこちらに手伝って

 もらいたいと……

 そう言いたいのかな?」


「本音を言えばこんな状況で、こちらとやり合う

 事なんて無理ムリむっりー♪

 という事を伝えたいんでしょうねぇ。


 それで、こちらの苦境を伝え、

 もし暴走する連中がいたとしても、

 それは自由商圏同盟全体の意図では無い、

 と―――


 でまあラーシュ陛下のご指摘通り、こちらが

 勝手に動いて何とかしてくれないかなあ、

 という望みもあるのでしょう。


 高望みにも程がありますけど」


タクドルも呆れ気味に話す。


「しかし、我が国に話を持ち込んで……

 どうにかなると思っているのか?」


「わたくしはこの目で辺境大陸の実力を、

 嫌というほどわからせられましたしぃ?


 それに先年、我がザハン国の跳ねっかえり

 どもも、たった3人の前に大艦隊が敗れ去り

 ましたからねえ。


 ま、あれを戦闘というものであればですけど」

(■292話

はじめての ひょうけつせんじゅつ

■293話 はじめての かんちがい参照)


他国の官僚の言葉を、ラーシュ陛下は脳内で

いろいろと分析し、


「別に魔族やフェンリル様は、こちらに

 従属しているわけではないのだぞ?


 確かに魔族領や、フェンリル様のおられる

 国と国交・同盟を結んではいるが―――


 もしまた彼らが介入するとなれば、

 こちらの制御下ではない。

 どうなるかこちらでもわからんのだ」


言外に、『どうなっても知らんぞ』と

圧力をかけ、


「それに、メナスミフ自由商圏同盟が

 内乱状態になった場合は?


 その時は、うかつに第三者が手を出せる

 状況ではなくなっていると思うのだが。


 そんな不安定なところと、交易や同盟を

 結ぶ意味もなくなるのでは?」


さらに理詰めでタクドルに問いかける。


「やはり、このままでは介入は難しい

 ですわよねぇ……」


さしもの彼も、弱気の表情になる。


「とはいえ―――

 そちらの融和派とやらが敗れ、

 他種族に不寛容な勢力が台頭するのも

 本意ではない。


 まったく新年早々、厄介なものを持ち込んで

 くれたものだ」


「まぁ、わたくし自身への指示というか命令は、

 あの書状をお渡しするだけでしたから。


 その後、こちらがどう動くのかを見て、

 いろいろと決めるんじゃないでしょうか」


そこでラーシュ陛下は『う~む』とうなり、


「これがクアートル大陸や、同盟諸国からの

 要請なら動けるのだがな。


 逆に聞くが、その融和派とやらはこちらに

 助けを求めるつもりは無いのか?」


「対立が決定的になれば、それも考えられると

 思うんですけどぉ……」


「ああ、そうだな―――

 現時点では、反対派に反発する材料を

 与えるだけか。


 だがこちらとしても、『別にウチは

 助けてくれとは言ってませんけど?』

 と後になって言われるのもなあ」


そこでお互いにいったん息をついて、


「まあこちらで検討しておこう。

 それで、君はいつまでここに?」


「あ、別に返事を聞いてこいとまでは

 言われておりませんので。


 また天気の良い日を選んで出航します。

 事が良い方向に動くよう願っておりますわぁ」


そこでウィンベル王国とザハン国との極秘会談は

終わり……

王国上層部が悩む日々がスタートした。




「みなさん!

 誕生日おめでとー!!」


「「「おめでとー!!」」」


大人の掛け声に、子供たちが一斉に返す。


ここ、公都『ヤマト』の児童預かり所において、

その月に生まれた子供たちをまとめて、

お祝いするイベント『お誕生日会』が開かれ、


様々な種族も集まり、盛り上がりを見せていた。


「早いモンだな。

 チビたちが産まれて、もう1年経つのか」


アラフィフの筋肉質の男性―――

ジャンさんがお酒に口をつけながら語り、


「ホント、あっという間ですわね」


ここの所長である、薄い赤色の髪をした、

五十代くらいの上品そうな婦人……

リベラさんがしみじみと話す。


「もうミレーヌも1才ッスか」


「言葉もしゃべり始めたんですよ」


褐色肌の青年と、丸眼鏡の女性―――

レイド君とミリアさんが娘を抱きかかえながら、


「双子だったからどうなる事かと思ったけど」


「シンさんのおかげもあってか……

 特にどうという事もなくて、気付いたらもう

 1才ですものね」


焦げ茶の細身の青年と、亜麻色の髪を後ろで

三つ編みにした女性夫婦―――

ギル君とルーチェさんが、それぞれ男の子と

女の子を抱いて見つめる。


「そっちはまだしゃべらないのか?」


そう言ってギルド長とリベラさんが、ルード君と

ルフィナちゃんに近付くと、


「ほらルード、じぃじだよ」


「ルフィナ、ばぁばって言ってごらん」


両親の言葉に双子は反応し、


「じーじ」


「ばーば」


それを聞いた2人は満面の笑みを浮かべる。

完全に孫を見る祖父母のそれだ。


「おー、もうしゃべられるんだ」


「すごいのう。

 ウチのところのシンイチとリュウイチは

 まだまだじゃぞ?」


そこへ私の妻たちも会話に参加し、


「それはウチもですね」


「ドラゴンの血が半分入っていますから、

 成長が遅いというのは十分考えられる

 事ですが……」


お揃いの白銀の長髪を持つ夫婦―――

パックさんとシャンタルさんも今回の

お誕生日会に姿を見せており、


そしてお二人の子供は、12・3才ほどの

シルバーの長髪をした少女、レムちゃんに

抱かれていて、


「リクハルド君もですか。

 でも、シンイチの方は人間のはず

 なんですけど」


そう私が疑問を口にすると、


「ええと、まあそれは……

 シンさんの子供でもあるからでは

 ないかと?」


「まあ、そうですね―――」


「シンさんの血も受け付いで

 おりますから……」


レムちゃんの言葉に、パック夫妻もふいっと

目をそらしながら続けて、


「どういう意味ですかっ!?」


私が反発して声を上げると、みんなが

苦笑し、やがて笑い声が広がる。


「まーまー。

 それだけお前さんが特殊って事だよ」


「何ひとつ()り成しになって無いん

 ですけど!?

 むしろ強化されてる!?」


ジャンさんの言葉に思わず言い返すと、


「でも、お子さんは2人とも健康なんでしょう?

 それが一番ですよ」


リベラさんが大人の意見でまとめてくれる。


「それに、成長が遅いってんなら―――

 言い訳に使えるかも知れないしな」


ふとギルド長の話が別ベクトルに向いて、


「んー?

 どゆこと?」


「成長が遅いと何か良い事でもあるのか?」


メルとアルテリーゼが首を傾げる。


「まあよ。

 公都の冒険者ギルド支部の支部長として、

 ドーン伯爵とも時折(ときおり)顔を合わせているんだが、


 シンイチとリュウイチ、あとリクハルドか。

 今のうちに婚約者に出来ないかという相談が

 後を絶たないらしい」


彼の答えにレイド夫妻が反応し、


「え?

 そりゃやっぱり、シンさんの子供だから

 ッスか?」


「でも赤ちゃんのうちに、なんて」


そう2人が疑問を(てい)すると、


「だってそりゃあなあ。

 もし婚約者ともなれば、自動的に実力的には

 ゴールドクラス級の両親と……

 ドラゴンまでついてくるんだぜ?


 何が何でも縁を結びたいだろうよ」


「あー、それは確かに」


「これ以上ないくらい、お家安泰(あんたい)

 なりますものね―――」


今度はギル君とルーチェさんがウンウンと

ジャンさんの言葉にうなずく。


そこでメルが片手を挙げて、


「ちょい待ってギルド長。

 ゴールドクラス級の両親って?


 シンやアルちゃんはわかるんだけど」


「いやお前もそうだよ。


 だいたい戦績を見てみろ。

 シンと一緒にどれくらいの魔物を狩った?


 個人戦では今や二代目ワイバーン部隊隊長と

 なった男と、互角以上に戦った事もあるし、

 模擬戦では魔族とも渡り合った。


 そんなお前がゴールドクラス以下であるわけ

 ないだろうが」

(■53話 はじめての ごくひいどう

■91話 はじめての ひきわけ参照)


『あちゃー』という顔になるメルを、どう(なぐさ)めて

いいかわからず、


「え、ええと……

 それで言い訳って事ですけど、成長が遅いと

 どう良い事が?」


私が誤魔化すためも含めて話を元に戻すと、


「いやそりゃ、いつまで経っても赤ちゃんじゃ、

 婚約した方が困るだろ。


 そういう意味で、言い訳にゃちょうどいいって

 話だ」


なるほど、と全員でうなずき合う。


そりゃあ、相手がいつまで経っても

成長しないんじゃ―――

自分だけ年齢を重ねていくのはたまった

ものじゃないだろう。


「だからまあ、今度俺からドーン伯爵サマに

 言っておくよ。


 しばらくは様子見した方がいいってな」


「あ、ありがとうございます」


私がペコリと頭を下げる。


「ああ、それと……

 私からもシンさんにお礼を」


老夫婦のようにギルド長と隣り合っていた、

リベラ所長が頭を下げて来て、


「??

 何かしましたっけ?」


そこで彼女は周囲をいったん見回した後、


「このお誕生日会ですよ。


 ここには孤児も多いので、自分が産まれた

 年すらわからない子もたくさんいます。


 それがこうして、みんなと一緒に祝って

 もらえるんですから」


ああ、そういえば―――

孤児の子供たちも一緒に、と提案した時、

そもそも産まれた月日すら不明の子も

たくさんいると言われて、


『それなら、この児童預かり所に来た日を

誕生日とすればどうですか?』

と勧めたんだっけ。


「みんな1人1人、同じようにプレゼントを

 もらって……

 すごく喜んでおりますわ。


 ここはみんな分け(へだ)てなく育てている

 つもりですけど、それでも実の親がいないと

 自覚せざるを得ない時はありますから」


子供を捨てたり、奴隷として売ったりするのは

すごく減少したと聞いてはいるけど―――

現代日本ですら根絶出来なかった事だ。

毎年、かならずそういう子は出てくると

聞いている。


それに、捨てられたり売られなかったとしても、

親が事故や病気で急死したりする事なんかは

避けられないからなあ。


「……それじゃあ、そろそろケーキに

 移りましょうか」


私がそう言うと、子供たち―――

特に獣人族の子供は耳とシッポをピン!

と立て、


ラミア族の子は尾っぽをブンブンと、

ハーピー族の子はバサッと翼を広げ、


「やったー!!」


「ケーキだー!!」


「やりー!!」


とみんなが大喜びし、


「はいはい。

 じゃあみんな席についてねー」


リベラさんの号令で、子供たちは自分の席に

座っていった。




「おいしいー!!」


「何コレ、ふわふわするー!!」


「甘ーい!!」


今回用意されたケーキは定番の、いわゆる

ショートケーキふうのもので、

子供たちにも好評のようで安心する。


ただ私としては当然ケーキを作った経験はなく、

土台のスポンジを作るのはかなり苦労した。


苦労したのは私が依頼した料理人の方々

なのだが、確か卵白(らんぱく)卵黄(らんおう)を別々にして

かき混ぜ……

その後バターといっしょに両方混ぜて、

素材は完成する。


そこまでは知っていたのだが、問題はどうやって

焼くかという事。

オーブンで焼く、という事らしいので、パン窯を

代用して、


試行錯誤(しこうさくご)の末、やっとスポンジが

出来上がったのであった―――


「クリームは食った事あるッスけど、

 これは新作ッスか!」


「果物の酸っぱさがまた甘さを

 引き立てますぅ~♪」


レイド夫妻もその味を絶賛し、


「また新たなスイーツが出てくるなんて」


「あぁ~、わたしも子供の頃にこの味に

 出会いたかったです~♪」


ギル夫妻も、新たな甘味を堪能(たんのう)する。


「ふおぉおおお……!

 また新たなスイーツの扉が開いたよ、

 レムちゃん!」


「この糖分、体の隅々(すみずみ)までエネルギーとして

 届けます!」


ラッチとレムちゃんが高々とショートケーキを

掲げながらポーズを取り、


「ん?

 ああ、レムはつい最近しゃべれるように

 なったんだっけか」


「あの子たちがドラゴンとゴーレムなんて、

 信じられませんね。

 もうどこから見ても、普通の人間の女の子

 ですよ」


そんな2人を見て、ジャンさんとリベラさんが

目を細める。


「あ、そういえばシンさん」


「?? 何でしょう」


そこで不意にパックさんから話しかけられ、


「以前、マイコニド(人型キノコの魔物)を

 研究素材として頂きましたよね」


「あれで今、興味深い分析が出ていまして。

 多分、シン殿の言われる故郷のものかと」


この2人は私が『境外(けいがい)(たみ)』である事を

知っている。


その2人が私の『故郷』という事は―――


「こらー、シン。

 この場で仕事の話は無ーし!」


「シャンタルもじゃ。

 主役は子供たちなのだから無粋(ぶすい)ぞ?」


と、メルとアルテリーゼから両側のほっぺたを

つねられ、


「で、ではまた後日」


「はい」


バツが悪そうに私とパック夫妻はその話題を

取りやめ、その後はお誕生日会として、

子供たちをきちんと祝った。




「お待ちしておりました」


「ではシン殿、こちらへ」


数日後……

改めてパック夫妻の自宅兼病院兼研究所を

訪れた私は、奥へと案内される。


そして遠された先は―――

現代の研究機関もかくやと思わせるほどの

施設・設備で、


スタッフと思われる人たちが白衣で、

忙しそうに歩き回っていた。


「えーと。

 私、このままでいいんでしょうか」


自分だけ場違い、かつ外部から細菌とか

持ち込んだらどうしようかと思っていると、


「無菌室には立ち入りませんから、

 多分大丈夫でしょう。


 気になるのでしたら、一応」


と、彼は手をかざし、浄化魔法を私へとかける。


「それでは、例の物をお願いします」


通された先で用意した席に座ると、

シャンタルさんの指示で、シャーレのような

器具が運ばれる。


「これは?」


中をのぞくと、カビのような何かと円形の

空白部分があり、


「まだ様々な実験を行っておりますが、

 菌の繁殖を(さまた)げる効果を持つようなのです。


 つまりシンさんの言っていた……」


抗生物質(こうせいぶっしつ)!?」


私は思わず大声を上げてしまい、周囲の

スタッフたちの注目を浴びる。


「し、失礼―――


 ですが、これが本当ならば……

 ものすごい発見ですよ」


「はい。

 後は人体に影響を及ぼさないか、

 薬効が害を上回れば、薬として使っても

 差し支えないかと見ています」


白衣のシャンタルさんが、淡々(たんたん)と述べる。


実は天然の抗生物質というのは存在する。


とあるジャングルの奥深くに住む部族が、

先祖代々、虫歯の治療や鎮痛剤として使っていた

木の根っこがあるのだが、


現代科学で調べたところ、抗生物質である事が

判明した。


また古代エジプトやギリシャで、感染症の治療に

カビを使っていたという記録もあり、


例えば肺炎の治療に使われる青カビ、

ペニシリンも抗生物質である。

(ちなみに青カビそのものではなく、青カビが

生成する物質がペニシリン)


だからこの世界にあってもおかしくないと

思っていたのだが、


「これが、あの魔物から?」


「はい。

 現在は増殖させて、どのような菌に

 効果があるのか、片っ端から実験して

 おります」


慌ただしくスタッフたちが動いているのは、

そのためなのだろうけど、


「しかし、1つ問題が」


「何でしょうか?」


私はパックさんに聞き返す。すると、


「あ、いえ。

 研究がうまくいっていないとか、そういう

 問題ではありません。


 ただここは、浄化水の生産他、様々な研究を

 行っておりますので―――

 少々手狭(てぜま)になってきているんです」


「浄化水については現在、各地に生産拠点を

 増やしておりますが……


 需要に追い付いていないというのが現状です。

 さらに、この抗生物質の研究および生産と

 なりますと」


確かに、重要性としてはこの抗生物質の

優先度は高い。


「研究や再現生産が安定するまでは、

 こちらで作ってもいいのですが、

 恐らくこれは専門の設備を新たに

 作った方がよろしいかと」


パックさんとシャンタルさんは、夫婦そろって

両腕を組んでうなる。


2人ともバカがつくほどの研究者だが、

それでも限界はあるのだろう。


それに安定生産にさえ入れば―――

パック夫妻の手を離れても問題は

ないはずだからなあ。


「つまり、専用の生産施設か工場を、

 別に作りたい、という事ですね」


そこでパックさんとシャンタルさんはうなずき、


「ええ。

 マイコニドの所有権はそもそも、

 シンさんにありましたので」


「一応、それもご相談した方が良いかと

 思いまして」


一番いいのは王都の研究機関に渡す事だろうが、

この時、私は別の考えに達し、


「わかりました。

 専用施設の件につきましては、

 お任せください」


私はそう言うとこの場所を後にし、

そしてある人物の元へと向かう事にした。




「ラジーさん、具合はもう大丈夫ですか?」


「ははは、まあ……

 おかげ様で」


翌日、私はドーン伯爵様の御用商人、

カーマンさんのお屋敷で、


薄いダークブラウンの短髪の、2メートルは

あろうかという長身の男性―――

ラジーさん他、あの時の護衛をしていた

冒険者さん数名と再会していた。


「サンチョさんはお帰りになったんですか?」


私が同席してくれた、御用商人である

白髪混じりの60代ほどの老紳士に話を

振ると、


「はい。

 この公都に3日ほど滞在した後、

 新生『アノーミア』連邦へと。


 シンさんに報酬を残し、くれぐれも

 よろしくと頼まれました」


「こっちは依頼失敗しちまいましたし……

 別の冒険者たちを護衛として雇ったそうです。

 本当に面目ありませんや」


頭をかきながら、元傭兵団『鷹の爪』の

リーダーは語る。


「しかし、ウチらに商談という事でしたが」


「それはどのような」


そこで私は、ずい、と身を乗り出して、


「ラジーさんたちから頂いた―――

 あのマイコニドという魔物がいましたよね?」


「へ、へい。

 というか倒したのはシンさんだと聞いて

 おりやすし、別に文句は」


そこで私は首を左右に振って、


「あれ、金貨1万枚で買い取ります」


「「「ハ?」」」


彼と元傭兵団の部下たちであろう、

メンバーは目を丸くして、


「い、いやいやいやっ!?」


「に、二度も助けて頂いた上に、そんな金はっ」


彼らはブンブンと手を振って固辞(こじ)するも、


「元はと言えば、私が余計な事を言って

 しまったのが原因でもありますし……


 それに無条件ではありませんよ。

 私のお願いを聞いて頂く必要があります」


するとラジーさんたちは姿勢を正して、


「何でも言ってくだせえ!!

 どんなお願いも聞きやす!!」


そこで私はカーマンさんに、


「あの、例の書類を」


「はい、用意してございます」


それが彼らの目の前に差し出されると、


「へ? 申請書?」


「これは、新しい商会の?」


ラジーさんたちは、書面と私の顔へ交互に

視線を移し、


「実は、あのマイコニドという魔物から、

 新しい物質が発見されたと、パックさんと

 シャンタルさんから連絡がありました。


 今までの薬の常識を一変させるかも知れない

 大発見という事で―――」


「は、はあ」


「それがどうして商会に?」


話が理解出来ない、というように彼らは

聞き返してくる。


「その権利関係、および生産を担う商会を

 ラジーさんたちの方で設立して

 頂きたいのです。


 そのための金貨1万枚です」


ラジーさんはその書類にじっと見入って

いたが、


「……でもどうして俺たちに?

 シンさんがやった方が利益もそちらに

 入るんじゃ」


「んー、まあ―――

 ラジーさん、あなたは故郷の村に送金して、

 いろいろ作らせていたと聞いています。


 この公都に骨をうずめると言っていたのに、

 どうしてそこまで?」


そこで彼は視線をいったん下げた後、


「あの村が豊かになりゃあ……


 かつての俺たちのような身寄りの無いガキが

 出たとしても、この公都のように―――

 面倒を見てもらえるんじゃないかと

 思いやしてね」


「うん。

 その人柄に投資しようと思ったわけでして。


 あと私は、その薬をなるべく安く広く普及して

 欲しいと思っています。

 暴利を(むさぼ)らないと約束して頂ければ」


すると彼らはそろって頭を下げて、


「へいっ!!」


「何でも仰ってください!!」


「シンさんの言う通りに!!」


そこで新しい商会設立に同意してもらい、


「では商会の名前ですが、どうしますか?

 一般的には、設立者の名前をつけるのが

 普通なのですが」


カーマンさんの問いに、元傭兵団のメンバーは

顔を見合わせて、


「そりゃあ、俺たちが設立するとなりゃあ……


 『鷹の爪』でよろしくお願いしやす!!」


そして公都に新しい商会―――

『鷹の爪』が誕生したのであった。



( ・ω・)最後まで読んでくださり

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