291・はじめての けっぴょう
|д゜)結氷=けっぴょう。
湖や池の水面、もしくは流水が凍る事。
「おお!
久しぶりですわねぇ、公都『ヤマト』!」
鉄道の『駅』に降り立った、リーゼントのような
髪型をした青年・タクドルは、その場で片足を
軸に立つと、クルクルと回る。
「相変わらず冗談みたいな都市ですね……」
「そこかしこに亜人・人外の子供たちが
駆け回っているし、空にはワイバーン―――
さて今回は、どんな物が見られるやら」
彼らは辺境大陸に派遣されて来た、ザハン国の
官僚とその部下たちであり、
ウィンベル王国国王・ラーシュ陛下に謁見した
後、お土産を求めてやって来ていた。
「ティエラ王女様はご同行なさらなかったの
ですか?」
ふと部下の一人が上司に質問すると、
「何でも、王都・フォルロワでウィンベル王家と
お話があるようでしてねぇ。
まあ、わたくしたちと一緒だと話せない事も
あるんでしょうよ。
一応、後から来るみたいですけど」
タクドルたちは、クアートル大陸の
ランドルフ帝国経由でやって来ており、
『暴風姫』の異名を持つ
ティエラ王女が乗る船は、彼女の風魔法が動力の
特急船で、帰りもまた彼女と共に帝国まで
送ってもらう事になっていた。
「でもま、ラーシュ陛下から教えて頂いた、
新たなお酒!
をまず入手しましょうか。
もしかしたらこれが最後のお仕事になるかも
知れないし、高く売れそうなものを漁って
いくわよー♪」
「縁起でもない事を言わないでくださいよ……」
「でも、間違いなくフラーゴル大陸まで
持ち帰れば、一攫千金になりそうなもの
ばかりですからねえ」
「ティエラ王女様が来られるまで時間はあるで
しょうし、本場の『神前戦闘』も後で
見に行きましょう!」
そして彼らは物見遊山の観光客の気分で―――
公都内へと繰り出したのであった。
「ふーん。
あのザハン国の官僚一行、公都まで
来ているんですか」
一方、私は冒険者ギルド支部で……
彼らが来たという報告を受けていた。
その件は前もって知らされていたので、
さほど驚く事は無かったが、
『ラーシュ陛下がお土産にお酒を勧めた
ようでな。
後でティエラ様も行って彼らを回収するから、
まあ、問題は起きないと思うが』
魔力通話機の向こうから、ライさんが説明する。
「しかし土産ってなぁ」
「何しに来たんスかね」
アラフィフの現ギルド長と、褐色肌の
次期ギルド長の青年が怪訝な声を上げる。
『そりゃ、伝えるだけは伝えるために
来たんだろうよ。
しかも今回は単独での判断ではなく、
上からの命令を受けての事だしな』
「というか、官僚であればそれが本来の
姿だと思うんですけどね―――
まあ前回みたいにしばらく滞在、という
事でもないでしょうし、顔を合わせる
必要もありませんよね?」
魔力通信機の向こうの本部長に私が
聞き返すと、
『交渉しに来たわけでもないから、
少なくとも数日以内に帰るだろう。
公都内で会う事もあるかも知れんが、
その時は適当に対応してくれ。
じゃあな』
そこで魔力通信機は切れ、ジャンさんと
レイド君に向き合い、
「公都と言っても広くなったからな。
そうそう会う事もないと思うが」
「ま、一応って事ッスかね」
「でも前回、普通に鉢合わせしちゃって
いますからねえ。
あの時のような緊急性は無いですけど」
(■275・はじめての あどばいす参照)
私の言葉に二人は苦笑し、
「そろそろ昼メシだが、宿屋『クラン』は
止めておくか?」
「じゃあ新しい店の開拓でもするッスか?
俺は屋台でもいいッスけど」
「そうですね。
ちょっと歩いてみましょうか」
そうして私たちは、ちょうど鳴ったお昼の鐘を
合図に、支部を後にした。
「おお、シン殿!」
「あ、カプレさん。
あなたもお昼ですか?」
屋台を渡り歩いていると、ちょうどそこで
ダークブラウンの短髪をした青年と出会った。
彼は……
元遊牧民の出で、この前、乳児のミルク用にと
牛や羊を入手したのと同時に、料理人として
同行してもらった方だ。
(■287話 はじめての とくてん1参照)
「よう、どうだい?
公都にはもう慣れたか?」
「はい!
最初は驚きの連続でしたけど、
ようやく慣れて来たという感じです」
ジャンさんが気遣ってか声をかけると、
カプレさんも返し、
「まあここに来て驚くなっていう方が、
無理があるッスからねえ。
でも、カプレさんが作る料理も
こちらでは驚かれるでしょ?」
「確かに、馬乳酒やヨーグルトなどは
こちらには無かったと聞いておりますが。
ですが、バターや簡易的に作るチーズなども
すでにあったので―――
他にも遊牧民が来ていたのでしょうか?」
続けてのレイド君の言葉に彼は答える。
そういえばカッテージチーズもどきやバターは、
私が作っていたしなあ。
(■122話 はじめての らくのう
■127話 はじめての くわいこく参照)
すると現ギルド長と次期ギルド長は私の方へ
視線をよこし、
「あー、それは私が作ったんですよ。
ですがヨーグルトとか、あと本格的な
チーズは、カプレさんが来てからようやく
作られたものです。
もちろん馬乳酒なども……
おかげで乳製品がすごく充実してきて
いますよ!
カプレさんのおかげです!」
私は握手するようにして彼の手をつかむ。
「い、いえ!
故郷では当たり前のようにやっていた
事なので―――」
謙遜しながら彼はそう答えるが、特にチーズを
作る事が出来るようになったのは、彼の力が
大きい。
子羊か子牛の胃から取り出す酵素が必要
だったのだが、当然その代償としてその
子たちは死ぬわけで……
彼は故郷からその胃を持ち込んでおり、
今はパック夫妻の手で『培養』を
お願いしている。
味噌の麹や、醤油、日本酒の麹などは
ある程度維持管理が出来ており、
培養にも成功していたので、同じ要領で
酵素を増やせないか研究してもらった結果、
チーズやヨーグルトの酵素や酵母の培養に成功。
安定的なチーズ生産にこぎつける事が
出来たのである。
「そういえば、お前さんはお昼、
もう食べたのか?」
ジャンさんが話を昼食に戻すと、
「いえ、何を食べようか迷っていたところ
でして」
そうカプレさんが答えた時に、ボーロ―――
カレーのいい匂いがして来て、
「アレにするか」
「そうッスね」
「そうしましょうか」
「ええ」
と、全員で意思統一が図られ……
吸い寄せられるように、その屋台へと
足を向けた。
「では出航します。
冬の海での移動になるのと、わたくしの
風魔法でまた、一気にランドルフ帝国まで
戻りますのでご注意を―――」
パープルの長髪に、前髪を眉毛の上で綺麗に
揃えた女性……
ティエラ王女がザハン国の官僚たちに話す。
「ありがとうございますわ、ティエラ様」
タクドル以下部下たちも頭を下げると、
「それにしても―――
ずいぶんとお土産の量が多いような気が
するのですが」
彼らが買い込んだであろう荷物の山を見て、
彼女はため息をつく。
「そう言わないでくださぁい♪
何せ前回の件でやらかしちゃっているんでぇ、
もしかしたらこれが最後のお仕事って事に
なっちゃうかもしれませんのよぉ。
この機会に高く売れそうな物を購入して、
本国でひと稼ぎさせて頂きますわ♪」
正直に話す彼にティエラ様も微妙な
表情となり、
「……まあ、わたくしもかなり買い込み
ましたので、人の事は言えないのですが」
「ホントーにあそこは別世界ですからねぇ。
各種族の飲食物や工芸品、衣装もありますし。
考えてもみれば、そんな国が手付かずで
ずっと他国の侵略も受けず、残っている
はずはないのに。
あの時の自分はどうして、そんな事にも
気付かなかったんでしょう」
タクドルはしみじみと、後悔とも回想とも
つかない表情を見せる。
「それで、今後はどうするんですか?」
彼女の問いにザハン国の官僚は両目を閉じて、
「後は上層部の判断とやらにお任せしますわぁ。
その前に、ザハン国の強硬派どもを
どうするか、というのもありますけど。
頭が痛いわよぉ」
「さすがに数万隻の大船団出動とかに
なったら、ランドルフ帝国としても
黙ってはいませんわよ?
すでに四大国同盟もなされているし、
クアートル大陸及び辺境大陸対、
フラーゴル大陸―――
という大戦にならないようお願いします」
「善処しますわぁ……」
こうして、やや疲れたタクドルとその部下たちを
乗せて―――
船は一路、帝国へ向かって走り続けた。
「ふーん?
じゃあこの前来た人とは、
別に会わなかったんだ?」
「まあ今の公都は広いからのう。
不思議ではないが」
アジアンチックな童顔の妻と、欧米スタイルの
顔立ちの妻二人が、料理に手をつけながら話す。
夕食時、自分の屋敷兼自宅で……
私は家族と共に食事をしながら、
情報を共有していた。
「でもこの時期って海が荒れているんでしょ?
よく船で来たねー、その人たち」
黒髪ショートに真っ赤な瞳の娘が、母親に
続いて語る。
「もしかしたら、戦争になるかならないかの
瀬戸際だからね。
そりゃ季節がどうこうとは言っていられない
だろう」
私はラッチの疑問に答える。
「それで?
いったんは様子見?」
「一応、何やら裏では動いておるのだろう?
だがそれだけで止まるかのう」
メルとアルテリーゼが、それぞれシンイチと
リュウイチを膝の上に抱えながら、心配そうに
聞いてくる。
確かに、『見えない部隊』が裏工作はしている。
だが、それだけでザハン国が止まるかというと、
心もとない。
「もちろん、同盟諸国としても動いている。
戦争にならないようにするだけなら、
手はあるしね」
「とゆーとー?」
私の言葉にラッチが聞き返して来て、
「ザハン国は海の向こうにある。
という事は当然、船でしかこちらに来る
移動手段は無いわけだ」
するとメルが、
「ファルコン部隊持っていたよね?
あれは?」
「ドラゴンの我でもあの距離は飛べん。
やはり船である程度こちらに近付かなければ
無理ではないか?」
彼女の発言を、すかさずアルテリーゼが
否定する。
「んで、その船をどうするの?」
娘が再び質問に入ると、
「その船が出航出来なかったら……
当然、こっちまで来る事は出来ない。
つまり戦争にはならないよね?」
私の答えを聞いた3人が不思議そうな顔になる。
「そりゃまー、理屈では」
「それが出来ないから苦労しているのでは
ないか?」
「何をするつもりなのー?」
と、口々に言いながら家族は私に注目し、
「ウィンベル王国も同盟諸国も、
何も手をこまねいているだけじゃ
ないよ。
実は今、魔族のグラキノスさんと極秘で
演習している。
それが成功すれば、多分ほとんど彼1人だけで
何とかなると思うよ」
そこで私は家族に、とある計画が動いている事を
明かした。
「お久しぶりです、シン殿」
「お疲れ様です、グラキノスさん」
数日後、公都『ヤマト』に、一人の魔族が
訪れた。
魔王軍幹部の一人―――
『永氷』のグラキノスさんだ。
青色の短髪に横に細長いタイプの眼鏡をかけ、
それを片手でクイ、と直すと、
「例の演習は成功に終わりました。
いつでも出撃出来ますよ」
「お疲れ様です。
ですが、かなり広範囲になったと聞いて
おりますが……
魔力は大丈夫なのですか?」
すると彼はフッ、と微笑み、
「数万隻の大船団を半円状の氷で囲め、
と言われたら困難でしたが、
すでにある水を凍らせるだけでしたら、
あの程度は問題になりません」
以前からグラキノスさんには氷のドームを
作ってもらった事が何度かあったが、
いかに異名を持つ魔族とはいえ、さすがに
ドームでは不可能だとこっちも思っていた。
ただ今回は船の進行を妨害すればいいだけ
なので、その案で彼に要請したのだ。
「そういうものなのですか?
最初から媒体があったとしても、
魔力を相当使うのでは」
「それでも、ゼロから作る事に比べれば
簡単です。
ただあるものを、それも水を凍らせる
だけでしたら……
自分にしてみれば何の苦もありません」
頼もしいというか、やはり人間とは魔力が
桁違いに多いんだろう。
「それで、今日はどんなご用件で自分を
呼んだのですか?
演習については魔力通信機ですでに通達済みと
伺っているのですが」
「あ、これについてはまったくの私事です。
申し訳ないのですが―――
報酬は望む限り出させて頂きますので」
そして私は彼を連れて、亜人・人外専用居住地へ
向かった。
「ここは……」
「ラミア族やロック・タートルの住む
人工池です」
池、というにはかなりの大きさだが、
グラキノスさんはそこを見渡して、
「それで、自分に何をして欲しいのでしょうか」
そこへラミア族の、狐のような顔立ちをした
女性・タースィーさんと、
パープルの長いウェービーヘアーをした、
身長190cmくらいの背の高い女性―――
ロック・タートルのオトヒメさんが現れ、
「ええと、この2人に相談されたのですが、
この湖を凍らせてもらう事は可能で
しょうか」
「ん?」
そこで、私と三人を交えて……
話し合いが始まった。
「なるほど。
今の時期、確かにこのままでは
危ないかも知れませんね」
「夏は誰かしら見張っていますし、
落ちたとしてもラミア族や自分の子たちが
すぐに駆け付けます。
でも今は冬なので―――」
そう、オトヒメさんがまず説明する。
この二人の相談というのは……
冬になってもちらほらと池に遊びに来る
子供たちがいるので、
落ちないように、完全に湖の表面を凍らせる事は
出来ないか、という事だった。
「でもこんなに寒くなっても、子供たちが
湖に近付く事なんてあるんですか?
ところどころ凍っていますけど」
グラキノスさんが首を傾げると、
「ここにはラミア族が住んでいますし、
地上から入る事の出来る入口もありますから」
基本、ラミア族の住処は水中にある。
彼女たちの故郷もそうだが、水中洞窟ともいうべき
横穴があって、水没していない地下空間で生活して
いるのだ。
また、そこは極めて外の温度変化を受けにくく、
暑さ寒さの厳しい季節は結構人気があるらしい。
「なるほど―――
しかし、水面を凍らせて欲しいという事
ですよね?
ラミア族はそれでいいとしても、ロック・
タートルのみなさんはどうなります?」
次いで魔族男性が質問を続けると、
「自分たちは、冬の間はほとんど池に
近付きません。
体質のせいか、寒くなると体が動きにくく
なってしまいますので……
今の季節、人間の施設でお世話になる事が
ほとんどなのです」
これも相談された時にわかったのだが、
ロック・タートルはいわば亀。
冬眠とはいかないまでも、動きが鈍くなって
しまうのだという。
なので、すでに人間の姿になれるという事も
あって―――
児童預かり所や、面倒を見てくれる家に
居候しに行くとの事。
冬の間は人間もあまり外出しなくなり、
そこへ来てずっと大人しくしている子供と
いうのは、特に高齢者に人気で、
老夫婦やすでに隠居した祖父・祖母などの
相手として、富裕層の家に預けられる事が
多いのだという。
まあオトヒメさん、子供が33人いるんだし、
預け先が多いに越した事はないだろう。
「ふむ。では……
完全に凍らせても問題ない、という事ですね。
わかりました。
ではもう実行しても構いませんか?」
「はい。仲間には水面には出ないよう
通達してありますので―――
お願いします」
タースィーさんが同意して、グラキノスさんが
手をかざしたかと思うと、
ピキンッ! と甲高い音が聞こえ……
「えっ!?」
「こ、こんな一瞬で!?」
彼女たちが驚きの声を上げる。
さすがに『永氷』の異名を持つグラキノスさん。
その実力はダテじゃない。
完全に結氷し、表面が一面全部凍っている。
その厚さもかなりのものだ。
「さすがですね。
実は先に、氷魔法の使い手にお願いして
みたんですけど。
池を一目見て、『絶対無理!!』と断られて
しまいまして」
一応、グラキノスさんよりも前に、公都の
氷魔法の使い手―――
ファリスさん・スーリヤさん・ラムザさんに
話を持っていってみたのだが、
『容量として大き過ぎる』と、まあ当然の事を
言われ……
そこでグラキノスさんが例の演習に参加している
事を思い出し、来てもらったのである。
「その方は人間ですか?
まあ、それなら仕方の無い事かと。
それでシン殿。報酬の方なのですが」
「あ、はい。
可能な限りご用意します。
仰ってください」
私がそう言うと、彼は両腕を組んで目を閉じ、
空を仰ぐようにして、
「例の―――
納豆や発酵食品で、各種族が新たな能力に
目覚めているという話ですが。
それをシン殿から直接、オルディラに
伝えてやってくれませんか?
どれだけ狂喜乱舞するか、我々では
受け止め切れないと思いますので……
これは、魔王・マギア様からも出来ればと
言われておりますれば」
付き合いが長い彼らにそう言わせるなんて、
どれだけなのか。
確かにオルディラさん、発酵食品関係については
『ストッパー解除!!』になる人だけどさ。
「ま、まあそんな事で良ければ」
「では!!
すぐに行きましょう!!」
待ってましたと言わんばかりに、私は
グラキノスさんに手をつかまれ―――
「い、いやその!
今からですか!?
妻たちにも話してこないと」
すると同行していた女性、ラミア族と
ロック・タートルのお二人が、
「それはまあ、こちらから伝えておきますので」
「行ってらっしゃいませ」
そして公都にある『ゲート』で、私はそのまま
魔族領まで連れて行かれ……
オルディラさんに発酵食品で各種族が
覚醒している事を伝えたのだが、
予想通りハイテンションになった彼女から、
数時間に渡り発酵食品について熱く語られ、
さらに公都に加わったチーズ・ヨーグルト・
馬乳酒なども話した事で、
解放される頃には深夜となっており―――
魔王・マギア様からは『大義であった』と、
逆にお土産まで渡され、
ある意味疲労困憊して、私は帰宅したので
あった……
「お疲れだったね」
「まったくですわよぉ。
とにかく、仕事はこなして来ましたわ」
ザハン国のとある政治機関の施設の一室―――
そこでタクドルは、上司に任務完了を報告
していた。
「疲れただろう、ゆっくり休んでくれ。
報告書は後でいい。
出来れば時間をかけて……な」
初老の男性が力なくそう言うと、
「あらぁ?
もしかして、連中の説得失敗?」
数万の軍船を準備している強硬派の話は、
彼が辺境大陸に行く前に知らされていたが、
どうやら不調に終わったらしい。
「メナスミフ自由商圏同盟からの属国化要請も、
どうせ蹴られたのだろう?
こちらや上層部に取っては想定内だが、
連中がそれをどう見るか」
ため息をつきながら語る上司に、
「そんなにマズい状況なんですか?」
「一応、例のクアートル大陸四大国同盟が
正式に締結された事で、表面上は大人しく
なったよ。
さすがにザハン国だけであの四大国全てを
相手には出来ないからな―――
だが、自由商圏同盟の要請を拒絶したと
なれば、同盟全体の関わりとして動いても
問題無いと思ってしまったら?」
「あー……
自分たちが動けば、メナスミフ自由商圏同盟も
戦争に乗り出してくれると思っていると?
そんな単純な話ではないのに―――
困った子たちですわねぇ」
眉間にシワを寄せるタクドルに上司は、
「その困った連中が軍に多いのが問題なのだよ。
何か思いとどまらせる……
もしくは出撃を再考させる材料があれば
いいのだが」
そこで部下である官僚は、ラーシュ陛下から
渡された書面を思い出して、
「報告書の作成をどんなに遅らせても、
せいぜい3日くらいですわねぇ。
ところで、ラーシュ陛下から個人的に
頂いた書類があるのですが―――」
タクドルは上司にそれを手渡す。
「……うむ?
軍の要所や重要人物の邸宅などが
書かれているようだが。
これはいったい?」
「いえねぇ、ウィンベル王国の陛下に、
跳ねっかえりがいる事もお伝えしたん
ですよぉ。
そうしたら陛下が、これを彼らに見せて
判断させればいいって」
上司はその書面をまじまじと見つめ、
「使いようによっては劇薬にもなりそうだが、
何もしないよりはマシ、か?
わかった、預かっておこう。
下がるといい」
「はぁ~い♪」
軽やかなステップでタクドルは退室しようと
したところ、
「あ、ところでお土産は?」
「ちゃあんとご自宅に送り届けて
ありますわぁ~♪
職場でお酒はマズいでしょう?」
そこで上司は苦笑すると、そのまま部下は
部屋を後にした―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
本作品は毎週日曜日の16時更新です。
休日のお供にどうぞ。
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それが何よりのモチベーションアップとなります。
(;・∀・)カクヨムでも書いています。
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