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251・はじめての よめさがし

|д゜)電気代、安くなったなぁ

(寒い分には平気な体質)



「こ、これは!?」


「いったい何があったんですか?」


キノコ採取から戻って来た冒険者たちが、

意識の無い少年を見て次々に疑問を口にする。


同行して来たテン君―――

狐耳狐目の男の子だが、


こちらに来る時は小学校低学年くらいの

背格好をしていたのに、それが今や中学生

くらいに成長したからな……

驚くのも無理はない。


「ほら、以前沼精霊(スワンプ・スピリット)様が、

 公都『ヤマト』で精霊化した事が

 あったでしょう?


 恐らく、それと同じ事が起きたのでは

 ないかと」


「シンさんの言う通りだと思います。


 以前から、彼には精霊化の兆候(ちょうこう)が見られたの

 ですが、故郷に戻って来た事でそれが

 加速したのではないかと思います」


私とエメラルドグリーンの瞳を持つ土精霊(アース・スピリット)様が、

交互に説明すると、


「じゃあテン君は精霊様になったのか?」


「何の精霊になるんだ?」


今度は別方面の疑問を冒険者たちの間で出る。


「我が子が精霊に―――」


「どのような力を得たのでしょうか」


平安時代の貴族のコスプレのような衣装を

身にまとった、


白髪の男性とグレーに近い白い髪の女性、

テン君の両親が心配そうに、眠っている

我が子を見つめる。


「多分ですが、山精(さんせい)というか……

 複合的な自然の精霊になったのではないかと。


 土は元より、木、川、大気に至るまで、

 それらの性質を兼ね備えた気配があります」


あー、山といえば自然の集合体だし―――

様々な木々もあれば川や滝もある。

場合によっては池や湖だってあるだろう。

季節が変われば、雪だって氷だって生じる。


「でもそれって、かなり強力な精霊に

 なりませんか?」


言ってみれば、水とか土とか氷とか、特定のもの

だけではなく……

それらの力を持ったという事になる。


すると土精霊様は軽く首を左右に振って、


「いえ、それぞれの特性を少しずつ、という

 ところでしょうか。


 水も氷も土も使えるでしょうが、ボクや

 氷精霊(アイス・スピリット)のような―――

 強力な力は使えないと思います」


なるほど……

万能タイプではあるが特化型ではないと。


「う~……ん……」


と、そこで当人のテン君が目を覚まし、


「あ、父様、母様」


「テン!」


「良かった、目を覚ましたのね」


彼の両親―――

特に母親は心配だったのか、上半身を起こして

抱き寄せる。


「テン、大丈夫?

 どこか痛いところとか無い?」


「う、うん。

 特にどこも……って」


そこで自分の体の変化に気付いたのか、

私が鏡を持って来て見せると、


「えっ!?

 だ、誰コレ!?」


「お、落ち着いてテン君。

 コレは君なんです」


「僕ー!?」


そこでまた、説明に時間を要する事となった。




「精霊化って、成長するものなんですか?」


三十分ほどしてようやく落ち着いた彼は、

自分の手を確かめるようにグーパーさせる。


「そもそも精霊化に立ち会う事自体、

 珍しいので―――

 よくわかりません」


土精霊様が申し訳なさそうに語り、


「沼精霊様の時とは違いますか?」


そう私がたずねると、


「彼は、フロッガーの状態からの精霊化でした

 からね。


 それに引き換え、テン君はすでに人間の姿にも

 なれましたし……

 別方面の変化を引き起こしたものと考えられる

 のですが」


まあ元が違うのと状況も異なるし、

何より例が少な過ぎるのだから判断も

難しいのだろう。


「ですが―――

 これで精霊化は終わった、という事で

 よろしいのですな?」


山の主夫婦の、夫の方が話しかけて来て、


「あなた」


そして妻の方はそれをたしなめるような

感じで声を上げる。


特に儀式や何らかの縛りはないと、そう

事前に説明を受けていたはずだけど。


「何かあるのでしょうか?」


私が聞き返すと、夫の方が両目を閉じて、


「いや、これでテンは一人前となりました。


 であるならば……

 一人前の男になったという事。


 当然、嫁も(めと)らなければならぬ、

 という事です」


「はい?」


「ええっ!?」


私の後に、土精霊様がより大きな声で驚き、


「で、ですがまだ早いと思うのですが」


「以前のテンの体なら私もそう言って

 いただろう。


 だが今のテンなら早過ぎるという事はない。


 一人前の男が嫁もおらずにどうする。

 主の交代も視野に入って来た以上、

 これはしなければならぬ事だ」


なるほど。

一人前になる=結婚しなければならない、

という風習は地球(あちら)でもあちこちにあった。


ウィンベル王国基準でも、十五才で成人に

なるという話だったし……

それに外見で決めるのなら、今のテン君は

彼ら基準で十分成長したと見ているのかも

知れない。


「で、でも―――

 急に嫁なんて言っても、どこかにいい人でも

 いるかしら?」


どうも母親の方は消極的なようだ。

それに精霊化の時も、どこか心配そうにして

いたし……

まだまだ手元に置いておきたい、という

親心もあるのだろう。


「結婚しなければならない、という事は理解

 しましたけど、相手がいないとどうにも

 ならないのでは。


 それに条件などは無いのですか?

 山の主の跡継ぎになる、という事ですよね?

 同じ種族、もしくは精霊に限るとか」


私の方からも、すぐにどうこう出来る話では

ないだろうと助け船を出す。すると、


「これといった制限は無いと思う。

 私と妻もこの山の出身だが、主となったのは

 (つがい)となってから大分経ってからの事だし、

 出身や種族は関係無いはずだ」


うーん。

二人は結婚してから山の主となったのか。

そしてそれ以前は動物というか獣だったと

いうのなら―――

それなら、主を継ぐにあたっての条件は

あまり無いのかも……


「まあでも、相手あっての事ですから―――


 テン君は誰か好きな人っていたりします?」


そこで土精霊様が、お嫁さん候補はいるのか

いないのかという話題に切り替わる。


「ぼ、僕ですか!?


 う、うーん……」


そりゃいきなりそんな事言われても困るよね。

急に成長した上に結婚しなさい、なんて

言われた日にゃ。


「とにかく、今日のところはいったん

 その話は置いておくのはどうでしょうか?


 こちらももう公都に帰らなければ

 なりませんし」


と、何とか話をまとめようとしていたところ、

ボソッ、とテン君が何かつぶやき、


「……ちゃん」


「え?」


思わず聞き返してしまい、次はハッキリと、


「パチャママちゃん!!」


その答えに、山の主夫婦がまず顔を見合わせ、


「パチャママちゃんって、あの鬼人族の娘か?」


「あら、まあ」


次いで周辺の冒険者たちも、


「あの鬼っ子かあ」


「そういえば、この山にも来た事が

 あったっけ」


そうだった。

確かその時は、布ゴーレムに襲われて

いたような記憶がうっすらと―――

(■190話 はじめての おに参照)


「いったいいつの間に仲良く……

 同じ児童預かり所にいたとはいえ。


 しかし今、パチャママさんは海の向こう

 ですよ?」


「む、そうなのか?」


「ね、あなた。

 とにかく一度、向こうにもこちらの意思を

 伝えてからにしましょう」


山の主の夫の後に妻が続き―――

結局話は現時点で保留のまま、いったん

公都へ戻る事となった。




「ほーん、そういう事があったんだ」


「あの子とパチャママがのう」


「まー、組み合わせとしちゃ悪くないんじゃ

 ないのー?」


黒髪黒目の童顔の妻、そして同じ黒髪ながら

西欧風の目鼻立ちの妻……

そして黒髪ショートの真っ赤な瞳を持つ娘が

それぞれ感想を口にする。


日暮れと共に公都に帰った私は―――

まず冒険者ギルドに報告、その後帰宅して

家族と情報共有していた。


「精霊になったと思ったら、いきなり嫁取りの

 話になるなんて、予想もしていなかったよ」


やれやれ、と私は食事を口に運びながら話す。


「それにしてもテンちゃん、山精(さんせい)だっけ?

 何かふわっとした精霊になったね」


「土精霊様の話だと、山に関する自然全般の力を

 使える代わりに……

 他の精霊様のような、強力な力は使えない

 らしい。


 まあそもそも、精霊という定義自体

 あいまいだから」


メルの問いに答え、飲み物を口につけると、


「パチャママのご両親―――

 ヤマガミさんとシャーロットさんで

 あったか?

 向こうはこの事を?」


「いや、知らないだろう。

 こちらの大陸じゃないから、魔力通信機で

 伝える事も出来ないし。


 『ゲート』は鬼人族の里と通じているから、

 あいさつがてら伝えに行こうかと思って

 いるよ」


続けてのアルテリーゼの質問に答えた後、

一息入れる。


「いつくらいに行くのー?」


「んー、そうだなあ……

 まあ緊急の案件では無いけれど、あちらの

 事情も考えると、本格的に冬になる前の方が

 いいだろうね」


ラッチの疑問に答えて、次の料理に手を

伸ばそうとした時、再び娘が、


「んで?

 おとーさんはどっちの味方ー?」


「んぶっ!?」


料理を口に入れたまま驚き、思わず

妙な声を上げてしまう。


「いや、どっちって……

 テン君とパチャママさんの事か?

 私は別にどちらの味方でもないよ。


 というか、敵味方に分かれるような

 事でもないだろう」


ゲホゴホと咳をしながら話すと、


「甘いねー、シン」


「パチャママの父上は確かヤマガミ殿で

 あったな?


 娘を溺愛(できあい)していたであろう。

 この話をすれば、確実に荒れるぞ?」


妻二人の話を聞いて、あー、それもあるかと

うなずく。

私もラッチの事になると少々見境(みさかい)がつかなく

なるし―――


「う~ん……

 私としては、なるべく2人の意思を尊重して

 あげたいんだけどなぁ」


天井を見上げながら私がそう言うと、


「ま、そーゆー事であれば」


「我らが一肌(ひとはだ)脱ごうかのう」


メルとアルテリーゼの言葉に驚き、


「えっ?

 で、でも2人とも体が」


「少しは動きなさいと、産婆(さんば)さんにも

 言われているからねー」


「それにヤマガミ殿の事じゃ。

 同性の説得はまず聞くまいぞ。


 我らも母親になるのじゃ。

 意見を無下(むげ)にはするまいよ」


そう妻二人に言われ―――

ラッチも含めて、家族で鬼人族の里へ向かう

予定を、頭の中で立て始めた。




「おお、シン殿!

 よくぞ来られた」


「お二人とも、すっかりお腹が大きく

 なられましたなぁ。

 御身(おんみ)、お大事にしてくださりませ。


 そちらの娘がラッチちゃんですかぇ?

 これはまた、ずいぶん可愛らしゅう

 なられましたなぁ」


座っていてもその巨大な長身がわかる、

二本の角に真っ赤な顔をしたヤマガミさんと、


同じく長身の、ショートヘアーから二本の

角を出したシャーロットさんが頭を下げる。


数日後、私たち家族はテン君を連れて、

『ゲート』を通ってクアートル大陸の

鬼人族の里へとやって来ていた。


もっとも、『ゲート』の件は一握りの者しか

知らないトップシークレットなので、

夜間に訪ねて来た、という事にしている。


「ラッチちゃん、人間の姿になったんだね!

 とっても可愛いよー!」


「ありがとー、パチャママちゃん!」


鬼人族の(おさ)夫婦の娘……

十才前後に見える肌の赤い二本の角を持った

少女が、ラッチを喜んで迎える。


「して、今日はどのようなご用件かな?」


ヤマガミさんが姿勢を崩して聞いてくる。

そして本命のテン君を前に出すと、


「おぉ、美形さんの獣人の(わらし)やねぇ。

 眼福(がんぷく)とはこの事ですなぁ」


まず美少年である事が長夫婦の妻の目に止まり、


「おー……

 しかも鬼人族にそっくりな衣装、それに

 顔立ちもどこかこっち側なのー」


娘も異性としてか、テン君にくぎ付けとなる。


確かに、着ている物はどこか和風だし、顔も

狐目狐耳の和風だからなあ。


「え、えっと……

 パチャママちゃん?」


「え……っ!?

 あ、あちきの事知っているの!?

 どこかで会った事あるのー!?」


美形に名前を呼ばれたからか、もともと赤い顔を

さらに真っ赤にして彼女は聞き返す。


そこで私はコホンと咳払いして、


「あー、そこにいるのはテン君です。


 この前、精霊になった事で―――

 人としての見た目も成長したようで」


正確には人ではなく狐系の亜人、獣人の

姿だが……

よく漫画やアニメに出て来る、稲荷系の

キャラにそっくりで、


「はぅえっ!?

 テ、テンちゃんなのー!?」


「何、パチャママの知り合いであったかぇ?

 ウチの娘も(すみ)に置けまへんなぁ」


驚くパチャママさんとコロコロと笑う

シャーロットさん。


そして父親のヤマガミさんはというと、


「シン殿の娘御(むすめご)が人の姿になったというのも

 驚いたが―――

 さらにワシの娘の知り合いが精霊になった、

 というのもまた。


 今回来られた件は、それに関わりがあるという

 事だろうか?」


長としての威厳を保ちつつ、話の先を

促してくる。


「ええ、まあ。


 そのテン君ですが、実はある山の長夫婦の

 一人息子なのです。


 そして今回精霊になったという事で、

 後を継ぐ資格が出来ました」


さて、この後だ……

いかにして、穏便に嫁探しの事を伝えるか

思案していると、


「それでねー?

 山の長夫婦に、一人前になったと

 認められたんだけどー」


「一人前の男になったのであれば、

 嫁も必要であろう?

 という話になってのう」


私の代弁というようにメルとアルテリーゼが

説明してくれた。

それを鬼人族の長夫婦はふむふむと

聞いていたが、


「で、テン君に好きな人いるのー?

 って聞いたら、


 『パチャママちゃん!!』

 って言ったんだよー!」


「おふぇえっ!?」


最後にラッチが直球ストレートを投げ込むと、

パチャママさんが目を丸くして声を上げる。


「へ? えっ?

 で、でもテンちゃんってもっと小さくて

 可愛らしくて……

 と、年上とは思ってなくてっ!?」


うん、まあその反応は理解出来る。

この前まで小学校低学年くらいの男の子が、

いきなり中学生くらいに成長して、さらに

イケメン美少年になって求婚してきたら、

そりゃあ……


「あらあら。

 じゃあ断るん? パチャママ」


「ちっ違うの!

 そーじゃないのー!!」


恥じらいと困惑が入り混じった表情になる

娘を見ながら、母親は微笑む。


だがやはりというか、父親であるヤマガミさんが

立ち上がり―――


「うぬぅ、テンとやら!!


 パチャママちゃんを嫁にしたければ、まずは

 このワシを倒してからにするがよい!!」


どこかで聞いたようなセリフを言いながら、

その筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体でポーズを決める。


「シンと同じだねー」


「シンと同じじゃのう」


妻二人の指摘に私は黙り込み、


「ごふっ!!」


「あなた、落ち着いておくれやす」


シャーロットさんが立ち上がり、夫である

ヤマガミさんの頭にチョップを入れ……

ひとまず事態は収拾した。




「パチャママ様の婿殿(むこどの)が?」


「これはめでたい!」


「精霊様という話だが―――」


一連の騒ぎを聞きつけて、他の鬼人族の人たちも

加わって……

三十分もすると、半ば宴会のような体になって

しまっていた。


「ま、まだ何も決まっておらぬわ!」


鬼人族の長は(がん)として否定するが、


「え? そうなのですかパチャママ様」


「それなら私が―――」


「だっ、ダメなのー!!」


テン君はというと、複数の鬼人族の女性たちに

囲まれており……

それをパチャママさんがガードするという光景が

繰り広げられていた。


「そっそれはそうとテンちゃん。

 もう獣の姿にはなれないのー?」


話を変えるためか、彼女は婿候補に質問すると、


「いえ、まだ出来ると思うけど……

 ただ以前より大きくなってしまって」


「そうなの?」


「見たい見たーい!」


鬼人族の女性陣がはやし立て、困った顔の

テン君がチラと私の方へ視線を送る。


「そこの中央なら大丈夫じゃないかな?

 確かに大きくはなったけど、この屋敷よりって

 わけじゃないし」


「そ、そうですか。では……」


おずおずと彼は鬼人族たちが囲んで座る、

中央へと出て来て、


「で、では」


遠慮がちにそう言うと、彼の姿は―――

大きな狐の姿となる。


大きさとしては、フェンリルの

ルクレセントさんと……

魔狼(まろう)の間くらいになるだろうか。


だがその姿は精霊化したためか、うっすらと

光をまとっているようで、


「おお、これは……!」


「何と神々しき姿だ―――」


「もしパチャママ様の婿ともなれば、

 鬼人族はますます安泰(あんたい)というもの」


と、方々から賞賛(しょうさん)する声が上がり、

狐の姿となったテン君はその背を沈めて、


「パ、パチャママちゃん」


そして声と共に彼女に視線を送る。


「あ、あちき……

 乗っていいの?」


コクリと巨大な狐はうなずき、鬼の少女は

彼の背に乗る。


するとテン君はそのまま立ち上がり、

背中のパチャママさんを見せつけるようにして

ぐるりとその場で一周し、


「おお……!

 まるで天の使いじゃ!!」


「キャー! テン様ー!!

 後でアタシも乗せてー!!」


鬼人族の評判は上々で、どんどん外堀から

埋められている。


「うぬぅ……」


それを見た長は苦々(にがにが)しくうなるが、


「精霊様に見初(みそ)められるなんて、

 ウチの娘は果報者(かほうもの)ですなぁ。


 どうですか、あなた。

 彼以上の良縁(りょうえん)はおらへんと思うのですが」


さらにシャーロットさんから追撃が入り、

ヤマガミさんは眉間にシワを寄せる。


いくら長といえども、奥さんまで賛成に回って

いる以上―――

反対するのは難しいだろう、と思っていると、


「わかった!

 ワシも鬼人族の長や、二人の仲は認めよう」


トップが了承した事で、宴会からワッと

歓声が上がる。


「しかしだ」


と、次の言葉でそれはかき消され、


「ワシの後を継ぐというのならば、それなりに

 手柄、実績が必要だろう。


 鬼人族はこの周辺、大小数十の村や里の治安を

 守っておるのだ。


 精霊という名前だけで、果たして庇護下(ひごか)

 者たちは納得するか?」


さすがに組織の頂点としての言葉は重く、

鬼人族たちも顔を見合わせる。


「まあ、そりゃそうだね」


「鬼人族の中だけで納得しても……

 実際にテン君を見ていなければ、不安になる

 者もいようぞ」


メルとアルテリーゼも同調するように語る。


「でも、実績って何をすればいーの?」


そこですかさずラッチが解決策を問う。


そういう事か、上手いなー。

同意するように見せかけて、じゃあそのためには

何をすればいいのかと、話を進めていく。


「そうですなぁ、あなた。

 テン君は何をしたら認められるんやろ?」


それに乗っかって長の妻も夫に問い質す。

するとヤマガミさんは両腕を組んで、


「そうだなあ。


 ワシらの庇護下にある漁村だが―――

 揉めているところがあってな。


 一つ、それを解決してみろ。


 それならワシの跡継ぎとなっても、

 誰も文句は言わんはずだ」


それを聞いたテン君は背を低くして

パチャママさんを降ろすと、獣人のような

姿に戻り、


「ではそれを解決すればいいのですね?

 僕1人で、でしょうか?」


課題を受け入れると同時に、彼は条件に

ついても聞く。


「そりゃあもちろん……」


そう長が話しかけた途中で、


「それならあちきも行く!

 だってこれは、テン君だけの問題じゃ

 ないんだから!


 それに誰か案内する人が必要でしょ!?」


娘の突然の提案に、ヤマガミさんは目を

丸くして、


「い、いやそれは―――」


「ええんじゃないですか?

 確かに道案内は必要ですさかい。


 力比べ、ちゅうわけでもあらへんし、

 能力でも人脈でも何でも、持てる力を全部

 使うんは何も悪い事やあらしまへん」


ピシャリとシャーロットさんから断言され、

夫の長は黙り込む。


「まあ一応、シンが護衛として行けば、

 パチャママちゃんの身に何があっても

 守れるんじゃない?」


「そうじゃのう。

 我らは今、身重なのでな」


妻たちの言い分に長夫婦は顔を見合わせ、


「む、そ、それなら……」


「どうぞよろしゅうに」


そう言うと二人は頭を下げ、村同士の争いを

止める事になった。




「しかし―――

 村同士の争いって、何でしょうね」


翌日の朝、私はパチャママさんと一緒に

巨大な狐と化したテン君の背に乗って、

問題の村へと向かっていた。

(ラッチはメルとアルテリーゼのお世話を

してもらうためと称し、残ってもらった)


「漁村って言ってたから、多分漁場(ぎょじょう)の事で

 揉めているんじゃないかなー。


 いい漁場ってあんまり無いんだよね。

 魔物とかにも気を付けなければならないしー」


彼女の話に、ああ、確かに……

と思う。


この世界には魔物がいるのだ。

魚が多く獲れる、という条件に加えて、

安全性の確保も重要になる。


「それなら取り敢えず双方の村の言い分を―――

 ってアレ?」


どうやら目的地の漁村が見えてきたっぽいの

だが、十人ほどの人たちが、二手に分かれて

対峙している。


その手にはそれぞれ、弓矢や武器を持っていて、


「ヤバ、何かもう始まっちゃってるー!?」


「周囲は私が『抵抗魔法(レジスト)』で何とかします!

 テン君はこのまま、双方の勢力の間に割って

 入ってください!」


テン君は私の指示が聞こえたのか、争っている

最中の中へと突入する。


「私の半径5メートル以内の範囲において―――

          ・・・・・

 魔法による攻撃などあり得ない」


そうつぶやき、周辺の魔法を無効化させる。

よし、これで魔法は大丈夫だと安心していると、


「あっ」


「!!」


一方からちょうど放たれた弓の先……

そこへ突入する事になってしまい、


しかもその位置は、私とパチャママさんの

高度へ―――


マズい! と思って彼女を抱き寄せるが、


「……あれ?」


「……?」


確かに弓矢は飛んで来たが、それは私たちの

目の前でクルクルと矢じりを下にして回転

していて、


それが強力なつむじ風のようなものによるものと

理解するまで、数秒ほどかかり、


「……もしかして、これ、テンちゃんの力?」


そこでやっと双方は乱入者に気付いたのか、

攻撃はいったん止まり、


「パ、パチャママ様!?」


「そ、その巨大な狐はいったい―――」


次いで、誰がやって来たのかわかると今度は

混乱し始め、


やがて私と彼女がその背中から降りると、

彼も狐の獣人のような姿となり、


「と、とにかくいったん争いを

 止めてください!」


テン君の言葉に、争っていた両方がポカンと

口を開けていたが、


「いや、誰だ?」


「パチャママ様の知り合いか?」


初対面の少年に対し―――

漁師らしき筋肉質のガタイの良い男たちは

ざわつき始める。


するとパチャママさんが彼の腕にしがみついて、


「テンちゃんはあちきの婚約者です!


 あちきの父親の命によって、この騒ぎについて

 解決するよう一任されました!


 まず双方から話を聞くので、争いは

 止めなさい!」


すでに戦いらしきものは停止していたが、

彼らは大人しくその言葉に従い……

近くの村で話を聞く事となった。




( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

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― 新着の感想 ―
(*ゝω・*)つ★★★★★  これがホントの鬼嫁w
このままでは器用貧乏で終わりかねません。 何かを突出させるか、あるいは全てを他の精霊の能力近くまで上げるか。それとも他の何かか。 このままでは如何ともし難い。
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