172・はじめての かいせん(らんどるふていこく)
|д゜)仕事が立て込んで来た
(忙しくなるほど小説のペースは落ちない不思議)
「おおー!
飛んだー!!」
「ぬう、かわされたか!」
「ピュッピュー!!」
冒険者ギルド支部の訓練場―――
そこで家族が中央の『リング』を見ながら
熱狂する。
催されているのは、獣人族による『神前戦闘』だ。
ドラゴンの巣の拠点造り開始から十日後……
その作業は一段落していた。
また今まではアルテリーゼ・シャンタルしか
物資輸送はしていなかったのだが、今回から
ワイバーンが加わった事で、
これまでとは比較にならないほど、頻繁に
食料その他が届けられるようになった。
そしてようやく、私たちには日常が戻りつつ
あったのである。
「そういえばさー、シン。
会場に来ている選手たちの中に、
包帯巻いている人がいたけど」
アジアンチックな人間の方の妻が、リングの下、
セコンドのように控える選手に視線をやる。
そこにはあからさまに治療中というような、
手足に包帯を巻いた獣人族が二・三人おり、
「注意を促すために来てもらったんだ。
鍛えている選手たちでも、このようにケガをする
事がありますよーって」
実際、彼らはケガはしておらず……
またケガをしたとしても、治癒魔法があれば
たいていは回復してしまう。
ただ治癒魔法の使い手は希少であり、公都には
パックさんがいるが―――
彼のスケジュール次第ではなかなか治療の手が
回って来ない事もある。
その場合、応急処置や薬、物理的な治療に
なるのだが、肝はそこではなく、
要はやはりというかプロレス技の真似をする
子供たちが出てきたので、それに対する警告と
して彼らに協力してもらったのである。
「目に見える方がわかりやすいからのう。
言っても聞かぬのが子供じゃからなあ」
「ピューイ」
西欧モデルのようなプロポーションを持った
ドラゴンの方の妻が、ラッチを抱えながら
同意する。
「おっ!? 今のを返すか!」
「しかしもうどちらも体力が残っておらぬ。
気力勝負になってきたのう」
「ピュー!」
当初は選手五人ほどで始めた『神前戦闘』
だったが―――
今では二十人を超える選手がおり、
いつ行うかわからない模擬戦とは異なり、定期的に
開かれるので……
娯楽の一つとして定着し、最近ではこれ目当てで
公都に来る人も多いのだという。
こうして私は家族と一緒に、『神前戦闘』の観戦を
最後まで楽しんだ。
「シンさん!
ここにいたッスか!」
「ん? レイド君、どうかしたんですか?」
訓練場から出てくると、同時に血相を変えた
褐色肌の青年が駆け付けてきた。
「何かあったの?」
「ただごとではないようだが」
妻二人も気色ばんで返すが、
「と、とにかく支部長室までお願いするッス!」
そこで私たちは訓練場から、そのまま隣接する
ギルド支部の建物へと向かう事になった。
「100隻以上の船団……ですか」
「王宮からの緊急連絡だ。
哨戒中のワイバーン航空管制が、
所属不明のワイバーンライダーを発見。
それが2時間ほど前にあったと」
ウィンベル王国東海岸に作った拠点―――
そこを中心に、範囲索敵を使える人間を乗せた
ワイバーン航空管制騎が交代で飛んでいる。
その哨戒網に引っかかったらしい。
「100隻……ですか。
想像もつかないですね」
丸眼鏡のショートヘアの女性……
ミリアさんが感想を漏らす。
「ただランドルフ帝国が攻めてきたとすれば、
中途半端な戦力だ。
本気なら千を超える船を用意出来るくらいの
軍事力はあるだろうし。
だから王宮では、威嚇か脅しの類と考えて
いるようだ」
ガリガリとジャンさんが、白髪交じりの
髪をかきながら語る。
「まー友好的にはほど遠いよね」
「あれだけ歓待してやったのにのう」
メルとアルテリーゼが軽くため息をつく。
「王宮の言う通り、本気ではない可能性が
高いでしょうね。
ただ対応しないわけにはいかないでしょう」
「この事はあの魔力通信機を経て、
もう各国へ伝わっている。
ライシェ国は元より、アイゼン王国、
魔族領からもすでに戦力を海岸の拠点へ
送ったとの事だ」
アラクネのラウラさんの糸を使った魔力通信は
主要各国の間で設置されており、情報はほぼ
リアルタイムで共有されている。
となると―――
航空戦力にワイバーンと魔族、そして
人魚族はすでに向かっていると見ていいか。
「仕方がありません。
打ち合わせ通り、ラミア族、ロック・タートルの
オトヒメさんと共に現場に向かいます」
「おう。
判断はシン、お前さんに任せるとよ」
私は妻二人に向き合うと、
「それじゃ、さっさと行って済ませましょ」
「この暑いのに、向こうもご苦労な事よ」
わざと軽く明るく対応する彼女たちに、
自分も苦笑で返し、
三十分後には準備を済ませ―――
私たちはアルテリーゼの『乗客箱』で
空へと飛び立った。
「シンさん!」
「お疲れ様です、シンさん」
東海岸の拠点でまず私たちを出迎えたのは、
アリス・ドーン伯爵令嬢と―――
ニコル・グレイス伯爵子息。
アリス様は航空管制騎に乗り込み、
物体浮遊魔法で四方に糸電話のように
通信機を浮かせて対応、
ニコル様は範囲索敵持ちで、海上の不審な対象
発見の任にあたっていた。
「さっそくだけど今回の詳細を教えて欲しい。
大方のところは公都で聞いたけど……」
すると女性の方からブラウンのショーカットを
かきあげ、
「はい!
今回、哨戒していた東の沖合で、ニコル様が
所属不明のワイバーンライダーを感知しました。
そこで拡声器にて、予めシンさんに
指示されていた確認を―――」
そこでアリス様はその時の状況を説明し始めた。
――――――数時間前――――――
『こちら、ウィンベル王国所属航空管制、
ウィンベル王国所属航空管制!
所属不明のワイバーンライダーに告ぐ!
応答してください!!』
いきなり空で呼びかけられた、ランドルフ帝国の
ワイバーンライダーは面食らったが、
自分に声をかけたそれが、大きな箱を抱えた
ワイバーン、そしてその両側を護衛するように
さらに二騎のワイバーンが飛行しているのを見て
驚きを隠せなかった。
さらに彼は索敵専門であり、攻撃するにしろ
三騎を相手に勝ち目は薄く……
どうしたものかと悩んでいるうちに、小さな
筒のようなものが目の前で浮かんでいる事に
気付き、
『あーあー、聞こえますか?
応答はこちらにお願いします』
魔力通信機は、先に使者として帰ってきた
ティエラ一行によって帝国にももたらされて
おり、また航空戦力の存在も彼は把握していたが、
実際に空中で運用されているのを見て、
しかもそこから聞こえてくるのが女性の声と
いう事に、二重三重にカルチャーショックを
受ける。
だが帝国でもワイバーンライダーとして訓練
されるのは、エリート中のエリートであり―――
彼も気を取り直して対応する。
「自分はランドルフ帝国に所属する
ワイバーンライダーである!
現在、遠洋訓練のため飛行中!」
所属と任務を軍人として伝えると、
『あなたの後方に100隻からなる大船団を
すでに確認しています。
我が国の近海に接近しているため、
方向転換を要求します』
「自分はそちらからの命令を受ける立場に無い!」
彼はアリスからの要請を一蹴するが、
『私は所属と目的をあなたに伝えました。
であるならば、あなたも上官にこの事を伝え、
指示を仰ぐべきでは?』
「……了解。
この場で待機願う」
彼はそう答えると、自軍であろう方向へ
高度を落としていった。
「ウィンベル王国の航空戦力と接触しただと?」
帝国武力省・副将軍ゾルタンは、哨戒から
戻って来たワイバーンライダーの一人から
報告を受けていた。
「それで、何と言ってきたのだ?」
「ハッ!
ウィンベル王国沿岸に接近し過ぎている、
との事で―――
引き返すようにと」
アリスから言われた事を彼は伝えるが、
「バカバカしい。
何でそのような要求を受け入れねばならん。
訓練は我が帝国の当然の権利だ。
ましてや、正式に国交の無い国の戯言など
聞く耳もたん」
腹の突き出た体形をしたその男は吐き捨てる
ように言うと、
「では、どのように返答いたしましょうか」
「そうだな……」
そして彼は上官の答えを受け取ると、
再び空へと上がっていった。
――――――そして現在――――――
「それで、ランドルフ帝国からの回答は、
『誰にも我々の訓練を止める権利は無い』
『他国に対する示威や侵略的意図は無い』
『もし訓練を妨害するつもりなら、断固たる
行動で応じる』
との事でした」
アリス様からの説明に私は頭を痛める。
百以上からなる船団で他国の海域に近付いて、
わざわざ示威や侵略的意図は無いと言い切る、
その鋼のメンタルに、だ。
シルバーヘアーの少年が婚約者に続き、
「よくて挑発行為だと思うんですけれど。
本気なんでしょうか」
範囲索敵を使える彼に取っては、
その戦力を直に確認出来るだけあって―――
言葉にため息が混じっていた。
「それで、例の条件は通達しましたか?」
「はい。シンさんに言われた通り……
もし戦闘に入った場合、船の航行の完全停止を
もって戦闘停止を認める、と。
もっとも、返答は返って来ませんでしたが」
ふむふむ、と私はうなずいて、
「十分です。
こちらの要望は全て伝えたはずですから。
常駐していたラミア族は?」
「はい。
間もなく戻ってくる頃かと―――」
索敵は上空から行っているが、少しでも異常が
発見されると、交代で拠点に待機している彼らが
即座に動く。
そして海中から、詳細な情報を持ち帰るのだ。
私は彼らが返って来るのを待って情報共有を行い、
それから動く事にした。
「およそ200隻の船団です。
あの速度であれば、一両日中にはこちらの
海岸へ到着するかと」
「ただ、恐らく夜間航行は危険だと思いますので、
正確には2日ほどかかるでしょう。
となると、明日中に片付けるのが好ましい
でしょうね」
偵察してきたラミア族の報告に、私は敵の
進軍速度と対応予定を補足する。
「200隻とは……やれやれだ」
「それでシン殿―――
自分たちはどう動けば?
マギア様より、シン殿の指示に従えと
言われておりますれば」
ライシェ国、アイゼン王国から代表として来た
ワイバーンライダー、それに人魚族に混じり、
茶色の短髪に細マッチョという感じの青年と、
さらに細身の、横に細い眼鏡をかけた青髪の
男性が加わる。
魔族・『対鏡』のノイクリフさんに、
『永氷』のグラキノスさんだ。
「最悪の場合、お2人に動いてもらう事に
なりますが―――
私がこれから直接、敵戦力の視察に向かい
ますので。
後は相手の動向次第で、敵方の制圧もしくは
救助に回って頂くかと」
「わかったぜ」
「承知いたしました」
二人ともうなずき、それを見た周囲はやや
驚いた表情になる。
そこで私は身長190cmはあろうかという、
パープルの長いウェービーヘアーをした女性に
向かい、
「ではオトヒメさん、行きましょう。
ラミア族、人魚族からは現場を把握するため、
何人か同行をお願いします」
「わかりました」
ロック・タートルのオトヒメさんが立ち上がり、
次いで複数のラミア族、人魚族もそれに続く。
「あ、あの……シンさんが直に?」
アリス様が不安そうな声で聞いてくるが、
「水中からの偵察です。
危険は無いでしょう。
後はまあ、仕上げといいますか」
私は最後の言葉だけボソっとつぶやくと、
それを聞いたメルとアルテリーゼは、
納得したような表情となり、
「気を付けてねー、シン」
「油断するでないぞ」
妻二人に見送りの声をかけられ、私は拠点の外、
灼熱の砂浜へと足を踏み出した。
「フン、つまらんな。
あれから向こうのワイバーンライダーとやらに
出会わないではないか!」
翌日昼頃―――
旗艦である軍船の先頭で、ゾルタンは不満を
吐き捨てるように話す。
「このままでは明日にでも、あちらの大陸に
到着してしまいますが……」
「いっその事、海岸まで押し寄せてやるか。
そこでこの訓練を見せてやれば、連中も
震え上がるだろう」
部下の言葉に、真の目的である恫喝を隠そうとも
せずに語る。
「まったく。
ティエラ王女様といえどしょせんは女。
この世界は実力が全てなのだ。
見ろ! 現に連中は最初の接触以外、
我が軍を避けておるではないか!
この情報を持ち帰れば―――
対等な立場で交渉しようなどという
臆病者はいなくなるであろう!!」
大きな腹を揺らし、彼は笑う。
そこへ一騎のワイバーンライダーが急降下
して来るのが見え、
数分後、そのワイバーンライダーからであろう
情報がゾルタンに報告された。
「ウィンベル王国のものと見られる、
ワイバーン部隊が接近中!
その数、およそ20!!」
帝国でさえ五騎、しかもほぼ単独での
運用というのに―――
部隊で運用されているという事実に、
軍人たちの間に動揺が走るが、
「来おったか!
ご自慢のワイバーン騎士隊とやらが!
信号弾を上げろ!
偵察に出しているワイバーンライダーを
引き上げさせるのだ!
『訓練』に巻き込むわけにはいかんからな……
グフフフ……!」
ゾルタンの命令はただちに実行に移され、
空にいた哨戒用のワイバーンは、全て
船へと戻って来た。
「あれが……!」
「4隊に別れているぞ!
それぞれ、5騎で1つの班として運用
されているのか」
「ワイバーンを手足のごとく扱うと
聞いていたが、これほどまでとは」
■
■ ■
■ ■
彼らの言う通り、上記のように先頭を中心として
その後方に四騎のワイバーンが編隊を組む。
それが四つ、一糸乱れぬ飛行を見せ―――
ランドルフ帝国の船団の視界に入ってきた。
軍人たちは相手の戦力を分析して、
口々にその練度の高さに称賛とも呼べる
感想を漏らす。
「グフフ……
固まって飛んで来てくれるのであれば
好都合……!」
彼はその重そうな体を反転させ、
命令を下そうとしたところ、外からの
大きな声がそれを止めた。
『こちら、ウィンベル王国及び連合各国、
ワイバーン騎士隊です!
あなた方の船団は我が国の海岸に
近付き過ぎています!
こちらの指示に従ってください!
停船しない場合、攻撃を加えます!!』
アリスの声が拡声器を通し、ランドルフ帝国の
船団に伝えられる。
「対空専門の全船に告ぐ!!
まずは3発ほど対空飛翔体を試射せよ!!」
ゾルタンはこれが答えだというように、
命令を発する。
「グフフ、3発とはいえ150隻からの
一斉発射だ。
新型の対空飛翔体の威力―――
たっぷりとその目で確認するがいい!」
手旗信号や光の反射を利用した連絡が、
全船へ行き渡り、
四百五十発の飛翔体が上空へ向かって
打ち上げられる……
その予定が、代わりに静寂と波の音を
返して来ていた。
「な、何だ?
ここに来て命令拒否か?
それとも故障?」
何も変わらない状況に、帝国武力省副将軍は
うろたえ、不気味な静けさがそれを加速させる。
そして命令を受けた各船上は、混乱の極みに
あった。
「だ、だめです!
対空飛翔体発射しません!」
「1発でもいいから打ち上げろ!!
どうした!?」
「各飛翔体を発射させようとしておりますが、
だめです!
全弾、作動せず!!」
その船の上官は周囲の船を見渡し―――
この状況が、自分の船だけに起きている事では
無いと嫌でも思い知る。
人の喧騒は聞こえてくるが、どの船からも
飛翔体が発射される音が聞こえて来ないからだ。
「い、いったい何が……起きているのだ……」
理解出来ない状況に、彼はただ顔色を
青ざめさせる事しか出来なかった。
「コイツがシン殿が言っていた、
『仕上げ』か」
「兵器であれ何であれ―――
魔力を使用する魔導具なら、
無効化出来ますからね」
ワイバーン騎士隊の後方に位置していた、
ノイクリフとグラキノスは、その眼下の光景を
気の毒そうにながめていた。
シンが言っていた『仕上げ』―――
それは彼が水中からランドルフ帝国の船団に
近付き、かつて誘導飛翔体を無効化した時の
ように……
「魔力によって飛行する人工物など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやいてくる事だった。
当初は人魚族やラミア族に、船底に魔導爆弾を
仕掛けさせる訓練をしていたが―――
あれはあくまでもシンがいなくても対応出来る、
能力に頼らない戦法として考えられたもので、
いざやる段階になったらシンが『能力を使う』
という事は、各国上層部では共有されていた。
これについては、シンがいなくても対応出来る
体制を整えておくのと同時に、
何せ帝国とは戦力が桁違いに少ないので、
こちらの犠牲を最小限にするという意図もあった。
この作戦を行うにあたって、もちろんシンは
最新の潜水服のような装備を身に着けての
作業だったが、
それもある程度訓練して、水中越しでも
効果があるのは確認していたため―――
二人は悠々と構えていた。
ただ、シンの能力については一部と
上層部以外には知られていないので、
表向きは『抵抗魔法』を使った事にされ、
人魚族、ラミア族の確認の合図を以て、
近付く段取りになっている。
「ど、どうしますかゾルタン副将軍!
このままでは……」
「対空兵器が発射出来ないとあれば、
我々はただの海上に浮かぶ標的です!」
部下たちから責められるように、彼は
次の指示を求められていた。
「い、一発もか!?
ただの一発も発射出来ないのかっ!!
そんな事があってたまるかあぁああっ!!」
発狂に近い叫びを上げる上官に、部下たちは
手が付けられず、
困り果てているところ、そこに状況を変える
音が聞こえて来た。
「今の音は?
ようやく対空飛翔体が発射されたのか?」
船内から外を見渡す。
しかし、その音の元は空へ一直線に上る
複数の煙。
「あれは?
何の信号弾だ?」
「わ、我が帝国にあんな信号弾は無いぞ!」
「いったいどこから―――」
発射元を探そうとした一人の視界に海面が映り、
「ひ、人!?」
「あれはラミア族か!?
ラミア族が、海中から何かを
打ち上げている!」
船上の混乱を確認したラミア族、人魚族が、
シンの『抵抗魔法』が効いている、との
合図を送ったのだ。
それを見た航空管制担当のアリスから、
各ワイバーン騎士隊へ通達が行く。
『ランドルフ帝国の飛翔体の無力化を確認!
繰り返す、飛翔体の無力化を確認!
各ワイバーン騎士隊は高度を落として
ください』
その命令に従い、アリスが率いる隊以外の
三つのワイバーン編隊は、ゆっくりと降下して
いった。
「す、水中にも敵がいるぞ!!」
「ラミア族だけじゃなく、半人半魚の
亜人もいた!!」
「まさか飛翔体が発射出来なくなったのは、
あいつらが何かして!?」
すでにラミア族も人魚族も、信号弾を
打ち上げると再び水中に没したが……
一度でもそれを見た兵士たちは、絶望的な思考を
加速させていく。
「ど、どうすりゃいいんだよ!
水中には亜人の戦力が、空からはワイバーンが
迫って来ているんだぞ!!」
「旗艦からは何の連絡も無いのか!?」
彼らが狼狽している間にも、ワイバーン編隊は
死神の鎌のごとく高度を下げていき、
「もっ、もうだめだぁああ!!」
「うわあぁあああっ!!」
と、その時―――
編隊飛行をして来た三つの隊は、左右と中央から
ランドルフ帝国の船団の頭上へ迫っていたが、
両側からはクロスするように、中央はそのまま
えぐり込むように船団の上をかすめて行き、
またある程度上昇すると、編隊を崩さずにそこで
ホバリング状態で停止した。
そして上空に残っていたアリスの隊から―――
『停船しなさい!!
繰り返します、停船しなさい!!
こちらの指示に従うのであれば、
手荒な真似はしません!!』
と、改めて警告が彼らに伝えられた。
「あ、あのような統率された編隊から
逃げ切る事は、どうあがいても不可能です!
ゾルタン副将軍、ご決断を!」
ワイバーン騎士隊の動きを見上げていた部下から、
上官に対して提言がなされる。
「なっ、何をだ?」
「全船、停止させてください!!
それが戦闘停止の条件と言っておりました!
このままでは海の藻屑と化します!」
帝国のある大陸にはほど遠く、また相手側の
海岸も船足で一日以上かかる距離。
ここで沈められたら生存は絶望的であり、
部下は必死に生き延びる道を促す。
「こ、この帝国武力省副将軍に降伏しろと
言うのか!?」
「降伏ではありません!
戦闘停止の条件と相手は言っておりました。
ならばその後、交渉次第で切り抜けられる
可能性はございます!」
詭弁もいいところだが、降伏ではないという
部下の言葉に、ゾルタンは一瞬傾きそうになる。
だが、すぐに持ち直し、
「……全速前進!!
その後回頭し、帝国領海まで戻るのだ!!」
「はっ?
か、艦隊はどうするのです!?」
戦線離脱、そして逃げ帰る事を決断した上官に、
部下の一人は思わず聞き返す。
「全船、散り散りに進路を取れと伝えろ!!
幸い敵の数は多くない!
どちらに攻撃したらいいか、これで迷う!
何としてでも今回の情報を持ち帰る義務が、
この私にはあるのだ!!」
つまり、自分が逃げ帰るため―――
残りの艦船はオトリになれ、と言っているのだ。
副将軍とはいえあまりの言い様に、部下たちは
茫然とするが……
そうしている間にも船の速度は上がっていく。
友軍を残し、距離を開けていく旗艦。
やがて回頭し、もう少しで180度の角度が
取れるかと思ったその時―――
「うおおっ!?」
「なっ、何だ!?」
「何かにつかまれ!!」
激しい揺れに見舞われたかと思ったら、
段々と傾斜していき……
やがて横倒しになり、自力では回復出来ない
だろう、という角度まで船体は倒れ、
「副将軍! ゾルタン副将軍!」
横倒しの衝撃で気を失った彼は、部下からの
呼びかけに応じる事は無かった。
それだけ船体はほとんど垂直を保って
いなかったのだ。
それでもなお船が沈まない事に、部下が
疑問を持っていると、
「な、何かに乗っかっている……?」
「こ、甲羅が見えるぞ!
まさか」
そこで彼らはやっと、自分たちが乗る旗艦が
巨大な亀の背中に乗る形で支えられている事を
知った。
「あれは……ロック・タートルか……?
あんなものまでいるなんて」
「旗艦がやられた……」
「……これ以上の抵抗は無意味だ。
船を停止させろ」
それを見ていた残りの船も、次々と停船し―――
戦闘停止を受け入れたのであった。
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
本作品は毎週日曜日の16時更新です。
休日のお供にどうぞ。
みなさまのブックマーク・評価・感想を
お待ちしております。
それが何よりのモチベーションアップとなります。
(;・∀・)カクヨムでも書いています。
こちらもよろしくお願いします。
【ゲーセンダンジョン繁盛記】
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