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本当の俺を見つけて  作者: @山氏
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第3話 夢と恋と見慣れた風景

「ただいま」

 返事はない。それもそのはず、俺は高校生になるのを機に一人暮らしをしている。親父曰く「一人での生活も慣れておけ」とのことだ。

 親から家賃などの仕送りをもらっているため、俺はバイトもしていない。葵の家の手伝いをたまにやっているが、そんなに頻繁に行っているわけでもないため、生活できるくらいの金額は稼いでいない。ホントに小遣い稼ぎくらいのものだ。

 俺は家に帰るとカバンを置いて制服を着替えた。脱いだ制服はしっかりと伸ばしてハンガーにかけておく。

 俺は夕飯の用意をするべくキッチンへ向かう。一人暮らしを始めて、少しだけ料理をするようになった。自分の好きなものを選んで食べれるのは嬉しいが、毎日作ることを考えると、めんどくささの方が勝る。

 一人暮らしする前は栄養バランスをしっかり考えてちゃんと料理するぞ、なんて息巻いていたが、いざ一人暮らしを始めたらそんな余裕はなかった。バイトをしていたらもっと余裕なんてなくなるだろう。

 今日の晩御飯は白米とみそ汁、そしてキャベツの千切りにドレッシングをかけただけのものだ。

 俺は手早く晩御飯を食べ終え、机に向かった。

 ノートを広げ、課題を進めていく。

「こんなもんか」

 ある程度終わったところで、俺は一息ついて携帯を取り出した。

 まだ寝るには早い時間だ。すると、携帯に通知が来た。

 葵からだ。「今日はありがと」と簡素なメッセージが表示されていた。葵からメッセージが来るだけで少し嬉しくなる。

 俺は「バイト代もらってるし、気にしないで」と返し、軽く伸びをした。

「はぁ……」

 葵のことは好きだ。葵と初めて会ったのは春陽が話しかけに行き、俺はその場に居合わせただけだった。葵とその時何か話したわけでもない。

 それから少しずつ話すようになり、その影響か他のクラスメートとも普通に話せるようになった。

「告白、か」

 実際、告白する気はない。今までの関係を壊したくないし、断られた時に立ち直れそうもない。

 俺はノートを閉じ、布団に潜りこんだ。

 

 

 

「ねえ、夏休みはどこに行く?」

 隣で葵がこっちを向いて言った。手を繋いで、まるでカップルがデートの予定を決めるように。

「海とか行きてえよな。葵の水着も見たいし」

 俺は恥ずかしげもなく葵に言うと、葵は顔を赤らめて小さく「恥ずかしい」と呟いた。

「遥も行くだろ?」

 振り返って俺は言った。後ろには、俺たちの様子をぼーっと眺めている俺、一瀬遥がいた。

「俺はいい。二人で楽しんで来いよ」

 俺は無理やり作ったような笑顔をこっちに向ける。

「そっか。じゃあ二人で行こうぜ、葵」

 これは夢なんだと自覚した。

 なぜか俺は春陽になっていて、葵と付き合っているようだ。

 葵と付き合ってみたいという願望が生み出した夢なのだろうか。

 なんで俺じゃないんだよ、と心の中で文句を言った。確かに俺よりも春陽の方がお似合いだろうが、夢くらい幸せな気分を味合わせてくれてもいいじゃないか。

 


 

 目が覚めると、俺は起き上がり、頭を掻いた。

 体のあちこちが痛い。いつの間にかベッドから落ちていたのか、床で寝ていたようだ。

 洗面所に向かい、顔を洗った。寝ぼけた頭に冷たい水が心地いい。俺はタオルで顔を拭いて、歯を磨くべく歯ブラシを取ろうと手を伸ばした。

「あれ、ここに置いてなかったっけ……」

 いつも置いてある場所に歯ブラシはなかった。それどころか、洗面所に置いてあるものに見覚えがあまりない。

「あれ……?」

 考え込んでいると、鏡に映った茶色の髪が目に入る。

「……?」

 鏡には、春陽の姿が映し出されている。

「…………」

 思考が止まった。

 洗面所から出て、慌てて自分の部屋に戻る。

 昨日までいた俺の部屋ではない。散らかった部屋。つけっぱなしのテレビから漏れる音。勉強する気が微塵も感じられないもので溢れかえった机。

 布団の上には充電ケーブルに繋がった携帯があった。俺はそれを手に取り、画面を開いた。

 待ち受け画面には二人の女の子に挟まれた春陽の写真が写っていた。

 俺はロックを指紋認証で解除し、受話器のマークを押す。遥と書かれたところを押して、電話をかけた。

『んあ、どうした? 遥……』

 数回のコール音のあと、眠そうな声が聞こえる。

「おい起きろ! そんで鏡見てみろ!」

『何意味わかんねえこと言ってんだよ……』

 ガサガサと電話越しに春陽が起き上がる音が聞こえた数秒後。

『……なんのドッキリだ? これ』

 春陽の乾いた笑いが聞こえた。

「俺にもわかんねえよ……」

『夢でも見てるんじゃねえか? 俺たち』

「とりあえず、お前の家に行くから待ってろ!」

 俺は着替えることすら忘れて家を飛び出した。

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