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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第1章 おしゃべり伯爵の御令嬢は無口少女
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1-8:令嬢は魔法が使いたい

 パーティから数日経った。11歳を迎えた私は新しく作られたスケジュールに目を通して、ある項目を確認する。


《魔法学》


 そう、魔法だ。確かに前世で私が見ていた空想上の魔法とは違う、しょぼい魔法ではあるけど、魔法が使えること自体ワクワクする事ではあるし、魔法を使うという事が貴族のアドバンテージのひとつなのだ。

 それに、空気の流れを変えるだけの風魔法でも極めれば空を飛ぶこともできるらしい。

 私は心を躍らせながらカレンダーに丸を付けた。


「あ、お嬢様……」


 嬉しそうに魔法学を学ぶ日付に丸を付ける私を見て、ラフィネが小さく声を上げる。なんだかすごく気まずそうだけど……何だろう。


「い、いえ……。その、何でもありません。ごめんなさい、お嬢様」


 なんだ? この気まずい空気は。魔法学を学ぶ日が何かあるのかな。……え、もしかして他の予定が入ってて学べないとか? いや、それならちゃんと教えてくれるはずだし。

 カレンダーに丸を付け終えた私は椅子に腰かけて机にスケジュール表を置く。ラフィネはその様子を目で追いながら、うーん、と悩むような様子で声を上げていた。


「あの、お嬢様……」


 おずおずとラフィネが私を呼ぶ。私は顔だけ彼女の方に向けて首を傾げた。


「お嬢様は、その……魔法を学ぶのが楽しみでいらっしゃいますよね……?」


 そうだけど……え? 何か不都合でも?

 とてつもなく申し訳なさそうな表情で私を見るラフィネ。視線を泳がせながら、とてつもなく長い間を置いて彼女は言葉を紡いだ。


「ええと。大変申し上げにくいのですが……」


 それからまた間を置いて。


「お嬢様は魔法が……使えません」


 え?


「いえ、もしかしたらお嬢様でも使える魔法があるのかもしれませんが、伯爵家が学ぶ魔法で、今のお嬢様に使えるものはありません」




 …………えっ?




=======================


「こんにちは、初めましてぇ。今日から貴方に魔法学について教えるソルセル・ヴィヴ・マズニと申しますぅ」


 衝撃の事実からまた数日。私は初めての魔法学の授業を受けていた。自室の机には魔法学の本が数冊置かれ、横には新しく招かれた魔法学の先生がいる。

 にっこにこの先生とは裏腹に、私と後ろに立っているラフィネの表情は暗い。ラフィネに至っては「ついにこの日が来てしまいました」と朝に嘆いていた。


「それではぁ、まず魔法の概念について勉強致しましょうねぇ。『魔法のしくみ』の5ページ目を開いてくださいね」


 言われた通りに私は本を開いた。

 魔法が使えない、その事を聞いてしまったせいで正直やる気は駄々下がりだが、学ぶことはしっかりと学ぼうと思う。

 私が魔法を使えない理由についてまではラフィネは話してくれなかったので、その理由を探るために勉強する価値はあると踏んだのだ。

 話してくれてもいいじゃん。と思ったが、滅茶苦茶気まずそうな表情を見ると、それ以上詮索するのも気が引けたのでしょうがない。


「まず、魔法というものはですねぇ。私達の身体の中にある魔力リソースを使用し、空気中の『魔素』に反応させて様々な効果を発揮させる力です」


 ふわふわとした口調でソルセル先生が語る。


「魔素と言うのはですね、魔力に反応して動くものと定義されていましてぇ、生き物なのか、精霊のような魔法生物なのか、そもそも生き物ですらないのか、実はまだわかっていない部分も多いのです。ですからぁ、魔法学研究学会では魔素についての研究が今でも行われている、という事なのですねぇ」


 つまり、前世の知識でいえば魔力はガソリンで魔素がエンジンという訳か。魔力があれば魔素を動かすことができる。うん。ここまではいい。まだ私にもできる余地がある。

 しかし、魔素って何なんだろう。少なくとも空気中にあるんだから目に見えない何かってことなんだろうけど。


「魔素については今回はここまでにしておいて、魔法発動の仕組みに移りましょう。15ページを開いてくださいねぇ。」


 ページを開いてみる。魔法発動の仕組みについて図表でわかりやすく記載してある。

 呪文を起点として、魔力を動力源にして魔素を動かし、空気中の酸素に反応させて火を起こす。……というのが炎魔法の仕組みのようだ。ふわっとして解り難いが、呪文がエンジン起動の為の操作というわけだ。

 前世でも鍵を回したらエンジンがかかる、までの詳しい仕組みは良く知らないのだが、その仕組みがこの世界では呪文というものに置き換わってると。

 11歳までの知識と前世の知識で考えられるのはとりあえずここまでか。うーん、ふわふわしてるなぁ。


「呪文を唱えた際の空気振動によって魔素に影響を与え、魔法が発動するんですねぇ。魔素は呪文それぞれの振動によって作用を変えますから、あとはその作用の対象となる物質……炎魔法なら酸素、水魔法なら水分、風魔法なら空気……があれば魔法が発生する要素が成立して発動する、というわけです」


 呪文を唱えたときの空気振動……空気振動? そんな微弱な振動で魔法が発動するの? すごいな魔法。いや、魔法なんてそんなものか。


「この魔法が発動する現象を『小さなバタフライ効果』と呼ぶ学者もいますねぇ。小さな動きが一つの大きな力になる現象の事です。とはいえ、呪文は魔法発動の切っ掛けにしかなりませんから、魔力を持つものが呪文を唱えなければ魔法は発動しません」


 魔素がどうやって発動者の魔力を吸い上げてるのかとか、その辺りの事はよく解らないがとにかくここまでが魔法の仕組みらしい。

 ……で、だ。ここまでの話を聞いた後で私が懸念しているのが呪文な訳だだが。呪文を唱えたときの空気振動が発動条件ってことは、発言しても声が出ない私は……そう言う事か畜生!


「あの、ソルセル様」

「はぁい、どうしました?」


 ラフィネが小さく手を挙げて質問をする。

 多分、喋れない私が魔法を使えるかの確認なんだろうなぁ。私が魔法を使えない理由が明確になったら希望が薄くなるから怖いんだけども。


「もし、何らかの理由で声が出ない状態になったら魔法は使えなくなるのでしょうか」

「そうですねぇ、声が出なくなれば魔法も使えなくなりますねぇ。ですから魔法を使う機会の多い方は喉を大事にしないといけませんよ」


 はい、解散。

 もうさぁ、本当にさぁ! どれだけ枷多いのよ! あの女神の有難迷惑のお陰で本当に何もできない貴族になりかけてるんだけど!

 喋れない、文字も書けない、魔法も使えないって。これもう庶民よりスペック低いんじゃないの?


「呪文を唱えずに魔法を使う方法はないんですか?」

「ん? んー、そうですねぇ。少なくとも私達、魔法学研究学会の資料には存在していませんねぇ」


 専門家でも分からないんじゃもう絶望的なんだけども。どうすればいいんだ、私。


「あぁ、でもですねぇ。王族にしか伝えられていない魔法というのも存在していまして。学会でもそういう存在がある事しか伝えられていないんですねぇ。私達が使うのは不可能に近いとは思いますが、もしかしたらその中には呪文を唱えなくても魔法を使う方法があるかもしれないですねぇ」


 王族だけが使える魔法、かぁ。知る機会はないんだろうなぁ。

 会う機会がそもそも少ないし……初めて謁見するのは成人式だ。会えるだけまだ希望があるけど……ううん。


「それでは、今日のおさらいをしましょうか」


 ソルセル先生が今日の振り返りに入る。

 魔法は呪文によって魔力を使い魔素を動かすもの、そして呪文は言葉にすることで魔素に影響を与える。

 魔法学の基礎をザックリとまとめると、先生は本を閉じて一礼する。


「次からは簡単な魔法の呪文を学んでいきましょうねぇ」


 覚えても使えないのはかなりつらいものがあるけど、話せるようになった時に使えるようになるはずだし……その時用に覚えておくか。

 先生には早めに事情を伝えておく必要があるのも正直憂鬱だけど、仕方ない。

 先生が部屋を出てから、私は改めてテキストに目を通す。

 あぁ、困った。これだけ出来ないことが多いと改めてこの先が心配になってくる。パーティで色々と良い感じになったとは思ったんだけどなぁ。根本的な問題が解決しないとどうにもならないな、これ。


「お嬢様……」


 ラフィネが申し訳なさそうに私の顔を見る。

 まあ、仕方ない。全てはあの女神が悪いのだ。……どうにかして奴の居場所を割り出さなくては。

 この状態じゃ何年かかるか分かったもんじゃないが。

 私とラフィネは顔を見合わせて沈黙した。

 軽い御通夜状態になっている部屋に、ノックの音が鳴り響く。


「はい、どうぞ入ってください」


 ラフィネが返すと、ドアノブが捻られて扉が開く。メイドが中に入ると、軽く一礼をしてから私とラフィネに手紙を渡した。


「これは……?」

「デクシア侯爵様とそのご子息様からのお手紙です」


 どうぞ、ご確認ください。と言い残してメイドが退室する。差出人を確認すると、達筆な文字で『レフレッシ・エピメイリス・デリゲンス』と書かれていた。

 この前のパーティで出すと言っていた手紙か。屋敷に招待する、と言っていたからきっとその関係なんだろうけど。

 何が書かれているのか期待半分不安半分で私は封を開いた。


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