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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第1章 おしゃべり伯爵の御令嬢は無口少女
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1-5:無言令嬢、ダンスを踊る

「とても魅力的ですわ、お嬢様」


 パーティ当日の朝、私はドレスアップをしていた。淡い桃色のドレスに身を包み、普段は下ろしている髪を編み込んでドレスヘアにする。

 豪華な衣装に身を包んだ私に、ラフィネが優しい笑顔でこう言った。


「私が侯爵令息でしたら求婚しているところです」


 そ、そうかな? と照れ混じりに裾をつまんでポーズをとってみる。鏡に映った自分を改めて見つめて、小さく嘆息する。

 アッシュブロンドの髪はシンプルで綺麗に纏まっており、桃色の少し装飾の多いドレスに光を落としている。少し蒼っぽい金髪に桃色がよく合っていた。身体を少しひねると、動きに合わせてふわりと裾が浮く。


「後は……パーティが始まった時にどうするか、ですね」


 パーティ前日、私は父上に言われたのだ。


「話せなくなった、という事を外部に漏らさないように」


 と。

 アミティにもこの件については内密に、と念を押してある。話すことができない令嬢と結婚するよりも話せる令嬢と結婚する方が良いに決まっている。だから侯爵令息達に私が話せない事を気付かせずに何とか出来ないかと悩みまくっているのだ。

 ……となると、私は無口キャラを演じるしかない。『喋れない』のではなく『喋らない』と思わせなくてはならないのだ。

 無理がある作戦だが、仕方がない。他に思い付かなかった。大々的に周りに教えてしまってはそれこそ私の人生が終わるし。


「私が御傍に居られる間は私が代わりにお話しできますが、ダンスが始まってしまったら私はお嬢様について回ることはできませんので……」


 男性と一対一で踊っているときに横にメイドが居たら不自然極まりないというもの。なので喋れないなりに無口キャラとしてコミュニケーションをとる必要があるのだ。

 あの日から今日までに沢山の身振り手振りを覚えている私なら行ける。大丈夫。……そう思わないとやってられない。

 しかし、普段だったら楽しみで仕方のないパーティのはずなのに、話せないというだけでとてつもなく憂鬱である。どうしてこうなった。


「頑張ってください、お嬢様。私も出来る限りの助力は致します」


 私が頷くと、ラフィネは笑顔で私の頭を撫でた。

 泣いても笑っても、喋れない状態でこのパーティに臨まないといけないのだ。腹をくくるしかあるまい。

 そんな思いと共に、開催までの時間は過ぎていった。


======================


「今宵ははこの祝いの宴にお集まり頂き、誠にありがとうございます」


 主催である母上……ロージュ・バヴァ・ロクァースの挨拶でパーティは始まりを告げる。あっさりとした挨拶が終わると、次は私が会場に出て来て挨拶をする番になる。ラフィネに連れられて会場入りした私は、裾をつまみ上げて会釈をする。

 先日までに作っていた台本通りに私の挨拶の言葉をラフィネが言うと、乾杯の音頭と共にパーティが始まる。私は主催席の方へ進むと、母上の隣で立ち止まり、視線を送った。


「ラリア、分かっていますね」


 私は頷く。少なくとも、今回のパーティで婚約まではいかなくとも、誰かとお近づきになっておかなければならない。

 母上は私が頷いたのを確認すると、ふっと微笑みを作り、私の頭を撫でる。


「今宵はお前の為のパーティなのですよ。いい顔でいなさい」


 母上は気丈な人だ。勿論私がああなった時は多少取り乱していたが、父上ほどではなかった。父上の方が取り乱し過ぎていたというところもあるのだが。

 彼女はそんな父上のサポート役にもってこいの人材だ。私もこの性格に助けられたことが多々ある。

 私は母上に言われた通りに笑顔を作ると、会場の方に目を向ける。

 音楽がかかり、ダンスが始めるまでの間、客人たちは談笑し、ペアを作る。今回呼ばれた客人の中には、ロクァース家の令嬢が将来結婚することになる5つの侯爵家それぞれの令息が含まれている。

 一つ目、北のパノ侯爵家。王宮のある一番大きな領地を抱えている侯爵家。

 二つ目、南のカト侯爵家。侯爵の中で二番目に強い勢力を持つ、武力に特化した侯爵家。

 三つ目、西のアリステラ侯爵家。唯一領地に海を面した面があるため漁業が盛んになっており、外交も盛んに行っている侯爵家。

 四つ目、東のデクシア侯爵家。最も多くの国と隣接している地域であるため国境の監視、他国との貿易、情報交換と国の情勢に関しては右に出るものがいないとされる侯爵家。

 五つ目、中心地のメスィ侯爵家。五つの侯爵家を取りまとめている侯爵家で、権力は一番強い。

 この五つの侯爵家の令息が、私の家がある領地を取り仕切っているデクシア侯爵に連れられて今回このパーティに出席しているのだ。デクシア侯爵とは何度か面識があるが、その令息と他の侯爵家の令息とは初対面である。

 相手側も私が今回11歳を迎えるこのパーティの主役だ、という事は分かっているはずだが、私も待ちの姿勢ではいられない。そう決心すると、私は一人歩きだして、一人の少年の前に立つ。


「今晩は、レディ・ラリア。11歳のお誕生日、おめでとう。……さて、最初の相手は僕で宜しいのかな?」


 栗色の髪を持つ緑眼の少年がそう口にする。私はそれに笑顔で頷きを返し彼の手を取った。

 程なくして音楽が流れ始めると、少年は私をエスコートするようにゆっくりと動き始めた。私もそれに合わせて踊り出す。本格的にダンスパーティが始まった。


「僕の事はもうご存知かな。うん、僕はデクシア侯爵長男、レフレッシ・エピメイリス・デリゲンス。君の事は父から聞いているよ」


 情報通であるデクシア侯爵の御令息、レフレッシ様が踊りながら私に自己紹介をしてくる。私が肯定の意を込めて頷くと、彼は優しく微笑んで言葉を続けた。


「父から君は見た目に合わずお喋りな子だと聞いていたけれど、見た目通りとても物静かな方のようだ。貴方のその群青の瞳を見つめていると吸い込まれてしまいそうだよ」


 初対面で良かった。私は心底そう思った。……まあ、そうか。デクシア伯爵と会った事があるのだから当然その息子は私がどういう人間か聞いていたわけか。

 でも、話し方や表情を見た感じ、変には思われていないようだ。むしろ、無口な娘の方が好きらしい。

 くるり、くるりと踊る。彼はエスコートをするのが得意なようで、私が動きやすいような立ち振る舞いで踊っていく。私もそれに合わせて足を踏み出す。

 曲もそろそろ終盤と言った所で、レフレッシ様が私に言う。


「一度でいい。最後に貴方の声を聞かせては頂けないだろうか」


 ……さて、どうしよう。困った。

 喋らないのであれば、当然本来は喋ることができる。無理な作戦の無理な部分である。ここで変に声を出そうとすれば喋れないことがバレてしまう。

 短時間で物凄く考えて、私は、苦し紛れに口元に人差し指を立てた。


「そうか、残念だ。……いつか、また貴方にお会いするときの楽しみにしておくよ」


 よし、何とか誤魔化せたな……!

 パーティの為に無言でやり過ごす方法を色々考えた甲斐があった。次に会う口実も作れたし、上場だろう。……次に会ったときの事は考えない事にする。

 いつかバレてしまう事だろうけど、結婚するまでの間に状況が好転すれば何とかなるはずだ。そう、魔法だって学ぶわけだし。

 奏でられていた曲が終わり、一旦休憩に入る。私とレフレッシ様は互いに会釈をする。そうしてまた別のパートナーを見つけようと距離を取った時、横から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「ラリア様」


 見ると、他の侯爵令息と共にアミティが私の元にやって来ていた。黒髪の短髪に赤い目を持った背の高い少年だ。ええと、彼は何処の侯爵令息だったか。


「ロード・メスィ。彼女がアナトレー伯爵令嬢にございます」


 アミティの紹介に合わせて、


「ああ、先程この家の召使が紹介していたな。私はディグニ・マクロ・クレメンス。このルラシオン王国の侯爵家を取りまとめるクレメンス家の跡取りである」


 ふむ、そういうタイプの人間か。プライドが高いとは聞いていたが、これはなかなかやりにくいぞ。

 ディグニ様は自己紹介を一通り終えると、私の顔をまじまじと見始める。


「ところで、お前は先ほどから全く話さないが、何のつもりなのだ? 口が聞けぬ訳ではなかろう?」


 本当に口が聞けないんだけど、そう答えるわけにもいかない。しかし否定してしまえば喋らないといけない状況に陥る。そうなったらどうにもならなくなる。

 どうしようかと私が思い悩んでいると、アミティが横からそっと口を挟んだ。


「ラリア様は言葉に頼らないコミュニケーションこそが本当に通じ合える方法だとお考えなのですわ、ロード」


 ……お?


「ほう? どういう事だ?」

「『目は口ほどにものを言う』と言います。 言葉のやり取りで行き違う危険性を考えれば、言葉に頼らず心を通わせる方法を使う事の意味はお判りになられますでしょう?」


 すごい、今思いついたとは思えない説明だ。

 私はその助け舟に乗るように微笑みながら会釈をする。それを見たディグニ様が口元に手を当て目を細める。


「……成程な」


 そう呟くと、ディグニ様は私の方に手を差し伸べる。私はその手を取ると小さく頷いた。


「言葉に頼らないのであれば、踊りで私を楽しませてみろ。その位の事は出来るであろう?」


 にやりとディグニ様が笑うと、2曲目が始まりを告げる。

 ふとアミティの方を見ると、彼女はこちらを見て笑顔で手を振ると、さっき私が一緒に踊っていたレフレッシ様の手を取り踊り出す。

 彼女が友人で良かった。私一人ではきっとどうにもならなかった。この巡り合わせに関しては感謝するべきかもしれない。誰に感謝すればいいのかは分からないけど。

 私は踊りが好きで、稽古の時間以外でもよく練習をしていたから踊りには自信がある。もちろん、メスィ侯爵家でのレベルがどのくらいか私には分からないから過信はできないけど。

 裾を踏むだとか、躓くだとか、そんな失敗、一体誰がするのだろう。そう思えるほどに、私は危なげなく踊っていたし、彼の動きも綺麗なものだった。流石と言うべきか、足取りも、息の合わせ方も美しかった。

 こういうのも何だが、レフレッシ様よりも上手い。……まあ、ダンスの教養が全てではないし、権力的に上の侯爵の方がダンスの教養があるというのはおかしな話ではない。

 私は踊り続ける。

 曲はあと3曲残っている。……とすれば、会うべきは残りの侯爵令息たちだ。

 音楽は続く。

 このダンスの様に、危なげなく。私は残りの令息たちに会い、関係を作らなければ。そう、人脈を作るのだ。婚約を果たすため、果たせなかったとしても、私の今後を運命づけるために。

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