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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第3章 魔法と科学の新時代
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3-1:魔法学研究学会へ

 カト領へ視察に行ってから数週間。件の事件も私の知らぬ間に粗方片付いたようで、暫くの間忙しなかったティミッド様も落ち着いた様子だった。

 私はと言うと、王宮での生活にも慣れ、本格的にティーレ様の侍従としての仕事を全うしていた。今日も今日とて朝の支度を終えた私は、いつものようにティーレ様の寝室へと足を運び、扉をノックする。


「ああ、開いていますよ。どうぞ入ってくださいな」


 返事を確認して扉を開けると、いつも通り身支度を終えたティーレ様が椅子に腰かけて本を読んでいた。

 ティーレ様は私が入ってくるのを確認すると静かに本を閉じ、微笑みを向けてくる。


「おはようございます、ラリア。今朝もよく眠れましたか?」


 おはようございます。環境が良いのはもちろん、新しいベッドにも慣れたので寝付きはかなりいい方……だと思います。うん。


「それは何よりです。やはり睡眠は大切ですからね」


 そう言いながら、ティーレ様は手に持っていた本を本棚へと戻す。


「さて、執務室へ向かう間に今日の予定についてお伝えしますね」


 私は頷いて、寝室の扉を開けてティーレ様の動線を確保する。このあたりの動きはもう慣れたものだ。

 ティーレ様が部屋を出た後に続く様に部屋を出て、半歩後ろに位置取って歩みを進める。 


「今日の仕事ですが、少し予定を変更することになりました」


 変更? ……何かあったのかな。

 ティーレ様は仕事熱心というか、仕事中毒というのか、とにかく色々な事に手を出していく事が多く、予定が変わったり、新しい仕事が増えたりすることも少なくない。

 もちろん、私もティーレ様のお世話をする傍らでティーレ様の仕事を手伝うのだけど、いかんせんティーレ様の処理速度が速すぎてなかなか追いつけないのが現状である。

 ……まあ、私の経歴を見て「国の発展に使えそう」なんて発想になること自体かなり特殊な人なんじゃないかな……とは思う。


「国の発展を試みることは王の務めでもありますから。このくらいは普通だと思いますよ」


 そうかな……そうかも……。

 とはいえ、私も自分のこのいらない知識が国の発展に使えるなら嬉しい限りなのだけども。


「そう、まさにその件で少し進展があったものですから。今日はその確認に行こうと考えているのです」


 ん、という事はこの前取り寄せた魔石での実験で何か分かったということかな。思っていたよりも早いな。


「その件について文書での報告は頂いたのですが、やはり自分の目で確認して判断するべきだと思いまして。昼頃に実験場へ足を運ぶことにいたしました」


 ……なるほど。じゃあ私はそのお供をすれば良いのかな。


「えぇ、話が早くて助かります。そう言う訳ですので、宜しくお願いしますね」


 そんなやり取りをしながら、私たちは今日の仕事を開始するのだった。



================



 そして同日の昼頃。ティーレ様と一緒に王宮を出ると、馬車に乗って街へと向かう。


「魔石の研究は魔法学研究学会で行われておりまして、その本部がここ、パノ領の最北部に建てられているのです」


 国の北に位置するパノ領の最北部……ということはこの国の最北部ってことか。以前行ったカト領は南だったから、あそことは真逆の寒い地域なんだろうな。

 何なら王宮もデクシア領と比べて大分気温が低いし。雪もここよりもっと多いんだろうな……。


「そうですね。何せ雪山に建てられていますから……雪が多いどころではないですね」


 そ、そんなところに建ってるの……?

 危なくて研究どころじゃない気もするんだけど、どうしてそんなところに……。


「魔法学はかなり閉鎖的でしてね、厳しい環境に身を置くことで魔法に集中することができる、という理念があるようなのです。脱走防止の役割も持ち合わせているとか」


 そ、そうなんだ……。何か怖い所なのかな、魔法学研究学会……。


「いえ、むしろとても素晴らしい場所ですよ。私が直々に出向いた中ではとても優秀な人材が集まっていましたから。……ただ、まぁ……」


 ティーレ様はそこまで言って口を閉ざす。……ただ、何ですか? すごく不安になるんですけど……。


「あー……いえ、その、私が言うのも何ですが……変わっている方がとても多いので……」


 うわ……。それ絶対すごい人たちの集まりじゃん……。


「……ま、まあ、気にしない方が良いでしょう……。悪い人達ではないんですよ」


 ティーレ様は乾いた笑いを浮かべながらそう言った。あのティーレ様がそんな感想持つレベルにやばい人だらけなのか……。

 これは覚悟が必要だな……。


 ふと窓の方を見ると、雪国を思わせる白い景色が飛び込んでくる。

 本当に雪山なんだな……。やはりというか、カト領の自然豊かな感じとは真逆と言った厳しそうな環境だ。そんな中で暮らしている研究者たちは一体どんな人なんだろう。

 ……そういえば、魔法学を教えてくれていたソルセル先生も学会の人だったっけ。確かに結構キャラが濃かった覚えがあるけど。

 もしかしたら会えるかもしれないな。

 しばらくすると、ガタゴトと揺れていた馬車の動きが止まり、御者が到着を告げる。

 いよいよか。

 私は心の中で一つ深呼吸をして、ティーレ様の後に続いて外へ出る。

 外には一面の銀世界が広がっていた。目の前に広がる白銀の世界に思わず息を呑む。こんな綺麗なのに……ここで暮らすのは大変そうだな……なんて考えていると、ティーレ様が口を開く。


「では、向かいましょうか」


 私はティーレ様の言葉に返事を返し、先導するティーレ様の後ろをついていくのだった。

 雪の積もる小道を暫く進み、狭い獣道を抜けると、巨大な塔のような建物が見えた。


「ここが魔法学研究学会の本部です。……参りましょうか」


 この厳しい環境の大きな建物に、一体どれだけの人が働いているのだろう。

 そして、どれほど変わり者なのだろう。

 興味と不安を抱えつつ、私はティーレ様と共に塔の扉を叩くのだった。

お待たせいたしました。

ここから3章を執筆していきたいと思います。

次回更新は12/24を目途に行います。

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