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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第2章 話せない令嬢と読み取る女王
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2-15:誘拐された令嬢

 怪しいローブの男に袋を被せられてから、暫く歩く。その間に何度か角を曲がったような感じがしたけど、正直あまり覚えていない。ただ、かなり長い距離を歩かされているのでかなり奥まった場所にあるのは間違いなさそうだ。

それからどれくらい経っただろうか。男は立ち止まると、今度は頭から布袋を取り去った。急に視界が明るくなり、思わず目を細める。


「おい、着いたぞ」


 男がそう言うのを聞いて、恐る恐る目を開く。そこは倉庫の小部屋のような場所で、部屋の中央にはテーブルがあり、その上に置いてあるランプが辺りを照らしている。部屋の端には魔石の入った木箱が積み上げられていて、その横には輸送用と書かれた箱が積まれている。

 なるほど、魔石関連の人たちか。……あの鉱山の人かどうかまでは流石に分からないけど。


「そこに座れ」


 言われるままに椅子に腰かけると、手を掴まれて椅子の後ろに回される。その手をロープで縛られ、身動きが取れないようにされる。

 ついでにいつも持ってる辞書も没収された。まあ、こういう時持ち物は大抵没収されるか。

 これは、典型的な人質とか捕虜の扱いだな……。


「……さて、それじゃあ取引をしようじゃないか」


 取引? 

 唐突に言われた言葉の意味が分からずに、私は呆然としてしまう。


「お前がカト領主の従者でない事は分かっている。王宮に勤めているらしいこともな」


 えっ……!? どうしてそれを……。

 私の反応を見て、男はローブから口元を覗かせてニヤリと笑みを浮かべた。


「まぁ、それは今はいいだろう。重要なのは、お前が奴にとって大事な人間だという事だ」


 大事……。確かに、私の事を心配してくれてはいるみたいだけど……。


「だから、お前をエサにすればこちらの要求を飲むはずだ。そうだろう?」


 いや、そんなことは無いんじゃないかな……。ティーレ様、人心掌握とか心理戦とかはめっぽう得意だろうし。

 それに、私を人質にしたところでどうにかできるとは思えないし……。


「まぁ、すぐに分かるさ。大人しくしていろよ」


 ……そう言われても。いやまぁ、何もできないんだけどね……。

 私が黙っていると、男は一度鼻を鳴らしてそのまま扉の向こうへと消えていった。一人残された私は、どうしたものかと考える。

 隙を見て逃げ出そうにも、私は力もないし武器もないし、難しいな……

 そんなことを考えていると、ローブの男が何人か別の人を連れて戻ってくる。他の人ももれなくローブを身に着けていて、顔は良く見えない。


「こいつがそうなのか」

「ああ、間違いない」


 そんなことを口々に言っている。そして、そのうちの一人が私の方へと歩み寄ってくる。


「さて、お前を連れてきた理由が分かるか?」


 ……いや、分からないけど。取引とか言ってたっけ? 魔石関連の取引と言えば、多分デンシャ絡みのことだろうけど……。


「まあ、この場所を見れば大方予想はつくだろう? お前の飼い主……この国の女王サマがこの国の新しい事業の為に魔石を大量に集めているそうじゃないか」


 確かに、デンシャを動かす動力源の案として魔石を使う事を提案していて、その為に魔石を集めてはいる。


「困るんだよなぁ。この国から輸入される魔石の供給量が減ったらやっていけなくなるんだよ」

 

 その言葉を聞いて、私は少しだけ眉をひそめた。つまり、この人達はこの国で商売をしている商人というわけだ。

 それで、魔石の輸出量が少なくなると困ると……。


「そこでだ、お前に頼みたいことがある。簡単だろ?」


 交渉のエサ……ねぇ……。

 何をさせる気なんだろう。誘拐あるあるだとしたら「お前の従者は預かった。返してほしければ……」みたいな手紙を送るとか……?

 でも、私ってばそもそも攫われたことにすら気づいてもらっていないような気がするんだが……。いや、流石にもう気付いてもらってるか?


「お前の直筆の手紙を出せば、流石の女王も焦るだろうよ」


 ……え?

 あー……、ソウデスネ……。

 思わず目を逸らす私。そら、貴族が字を書けないなんて思いもしないだろうな……。そうだよな……。


「さて、それじゃあさっそく書いてもらうか」


 簡素な机が目の前に運ばれてきて、そこにペンとインク、紙が用意される。手を縛っている縄が解かれて、とりあえず自由に動けるようにはされる。


「おっと、下手な事はするなよ?」


 けど、傍にナイフをチラつかせられたら下手に動けない。

 ……さて、どうするかなぁ。このまま書かないでいても碌な事にならないだろうし、かといってあの謎の文字を生成するのはとてつもなく嫌だ。絶対ふざけてると思われるし。

 とりあえずペンは持つ。持つけど……。


「おい、早く書け。それとも内容が思いつかないか?」


 そんな事を言われたところで書ける訳がない。内容があっても書けない。


「仕方がないな。では言った通りに書け。いいな」


 ……よくない。全然よくないんだ。

 とか思ってるうちに、男が手紙に書く文章をつらつらと言い始める。あー、もう仕方ないか……ここで動かなかったら相手の神経逆撫でしそうだ。

 しぶしぶ私は文字を書こうとする……が、案の定読めない謎の文字が生成されるだけだった。

 この文字? を書いたのは以前文字を書こうとして失敗した時以来なのだが、なんというか、悪化している気がする。暫くペンを持ってなかったからかもしれない。

 ホントあの女神……覚えとけよ……。


「なんだ、これ……? 見たことのない言語だな」


 当然のように不審そうな顔をされる。いや、本当に書いた本人ですら意味不明だから。


「どういうことだ? 王宮で使われてる暗号か?」

「だとしたら、何を伝えられるか分からん。……おい、ちゃんと書け」


 うるせー! 私だってちゃんとした文字書きたいわ!

 ローブの人たちが私の書いた文を見ながらあれこれ話しあいながら、その紙を取り上げてビリビリに破いた。


「いいか? きちんとこの国の言葉で書け。いいな」


 だからよくないんだわ。気付いてくれ。こんな事実知られたくないけどこのまま反抗してるみたいに思われて痛い思いする方が嫌なんだけど。

 何とかなんないのか、これ。


「おい、いい加減にしろ。ふざけてるのか?」


 ふざけてないんだ。無理なんだ、察してくれ。そう思いながらぶんぶんと首を振る。


「……こいつ、もしかして字が書けないのか?」


 ローブの一人がまさかといった感じでそう言った。


「嘘だろ? 貴族だし王宮勤めだぞ? そんなわけ……」


 うぐっ、その通りだし気付いてくれて助かったけど純粋に心に刺さる……!

 そうだよ! 書けないんだよ!

 悪かったな!!


「チッ、なら仕方ない。手紙は諦めよう」


 よかった……。これで解放されるんだな。


「今時字も書けない貴族が居るなんてな。……まあいい、では別のネタを用意するか」


 ……別のネタ?


「女王の秘密や弱みだよ。奴の近くにいるお前なら知っているだろう。吐け」


 こ、今度は尋問かぁ……。それも私にはできない相談なんだよな……。なんせ喋りたくてもしゃべれないし。

 あれ、もしかしなくても私人質としての適性低くない? いや、人質としての適性って意味わからんけど。


「だんまりか。……なら、喋れるようにしてやろう」


 ……これが本当に喋れるようにする方法なら逆に助かるんだけどさ、これ、拷問とかそっちの奴だよね……。

 辞書も取られてるから、本当にどうにもならないんだよな……。

 拷問とか、本当に勘弁してほしい。何されても物理的に話せないから100%無駄だし。無駄に私が大変に痛い思いするだけじゃん。


「……チッ、手間をかけさせる」


 舌打ちをされたかと思うと、椅子ごと乱暴に床に倒される。

 そのままうつ伏せに押さえつけられる形で拘束されてしまい、身動きが取れなくなる。

 まって、この時点で大分痛い。身体滅茶苦茶打ったし押さえつける力が強すぎる。


「おい、あれ持ってこい」

「わかった」


 屈強なローブ男が私を押さえつけながら言う。

 これから何されるの私。え、どうしよう……どうにもできないけど、抵抗はして……も、力が足りないから振りほどける気配もないよこれ……。

 ローブの一人が何か薬瓶のようなモノを持ってくる。中にはいかにもやばい色をした液体が入ってて……これを飲ませる気なの!?


「ほら、大人しくしろ」


 ぐい、と髪を掴まれてうつぶせのまま頭を持ち上げられる。薬瓶のコルクが外されて、口元へ持って来られる。

 ちょ、ホントに待って……。

 口をこじ開けられて、液体をそのまま……。


 と、その瞬間、隣の部屋から騒音と悲鳴が響いた。


「な、なんだ!?」


 口元から離される薬瓶。……た、助かった!

 扉が勢いよく開け放たれ、底からぞろぞろと武装した兵士たちが入ってくる。あ、この人たちってもしかして、カト領の警察組織……?


「そこまでだ。大人しく投降しろ」

「な、もう見つかっただと!?」


 狼狽えるローブの男たちを、兵士たちが次々と取り囲んでいく。そして、その奥からティミッド様が現れる。


「あまりうちの警察組織を舐めないで頂きたいですね」

「チッ……」


 ローブ男は私をぐっと地面に押し付けると、叫ぶように言う。


「こいつに傷をつけられたくなければお前らこそ大人しく――っ!」

「さっさと彼女の上から退いてくれませんか?」


 男が言い切る前に、ティミッド様が剣の切っ先を首元に突き付けていた。早い。武力特化の侯爵家の名は伊達ではなかった。


 そうして、ほどなくしてローブの男たちは兵士たちに拘束され、連行されて行った。

 まさか誘拐されるとは思わなかったし、かなり危ない事をされそうになったわけだけど、助かってよかった……。


「申し訳ありません……。僕が至らないばかりに危険な目に遭わせてしまって……」


 ティミッド様が申し訳なさそうに頭を下げる。

 確かに危なかったけど、間一髪で助かったし大丈夫……うん。そう思いながら取り上げられていた辞書を引いて「大丈夫」だと伝える。


「本当に、間に合ってよかった……。ともかく、今日は屋敷に戻りましょう。後の事はこちらで対処しますので」


 こうして、唐突に始まった誘拐騒動はとりあえずの終息を迎えるのだった。

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