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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第2章 話せない令嬢と読み取る女王
28/34

2-12:令嬢、採掘場へ行く

ガタガタと揺れる馬車に乗って、私はディグ二様から言われた通りに魔石の採掘場へと向かっていた。


「すみません、ご同行するのがディグニ様でなく僕で……」


 そんな少々卑屈な言葉を発する緑がかった黒髪の青年が私の向かい側に座っている。

 彼はカト侯爵家の後継ぎ、ティミッド様である。初めて出会ったダンスパーティの日から変わらずおどおどとした印象を受ける幼さの残る青年だ。

 前も思ったけど、武力特化の一族なのにどうしてこうも弱々しい印象なんだろうか。これでも戦いにおいてはかなりの実力を持っていると聞くので、実際に戦いや稽古となると違うのかもしれないけども。

 私は気にしなくてもいい、ご一緒できて嬉しいと本を指し示して伝える。


「……そうですか? 良かった。実は今回向かう〇〇鉱山はカト領の土地でして、土地勘があって顔が効くからと僕に白羽の矢が立った、ということでして」


 地図を見せてもらった時になんとなく察しはついていたけど、やはりカト領の土地だったわけか。

 カト領は国の南部に位置しているため、王宮のあるパノ領とは正反対の位置に存在する。つまるところかなりの遠出になるので、遠征費や荷物がめちゃくちゃ多かったりする。遠征費といわれて差し出された金額にはびっくりさせてもらった。


「表向き、僕が視察と取引をする立場で、ラリア嬢は僕の臨時の世話係という立場ではありますが、有事の際は僕が全力でお助け致します」


 と、ティミッド様は胸に手を当てて笑みを向けた。

 先ほどのおどおどとした様子とは打って変わって自信ありげな表情だ。戦いに関しては自信があるようだ。少し安心した。

 笑顔に応えて私が笑みを返すと、ティミッド様は嬉しそうに「任せてください!」と告げる。そんな姿がちょっと可愛いなと思いつつ、そういえば侯爵令息の中で最年少だったな、ということを思い出す。弟っぽさがあるのはそのせいかもしれない。

 ふと窓を覗くと、道なりに植えられている木々が新緑の装いを見せていた。パノ領は北にある為年間通して気温が低いのだが、南のカト領は反対に年中暖かい気候となっている。青々とした木々を眺めていると、少しずつ南に向かっていることを感じさせられる。


「そういえば、レディはカト領へ来るのは初めてですか?」


 ティミッド様の問いかけに、私は肯定の意を込めて頷く。

 それを確認したティミッド様は懐からメモ帳を出すと、サラサラとメモをし始めた。


「ティーレ様にデンシャを配備するにあたって専用の道路を作る必要があると聞いたので、余裕ができたらカト領を回って道路を作成できる土地を模索しようかと考えていたのですが、レディが初めてと仰るのでしたら、各地の案内も一緒にさせて頂いた方が良さそうですね」


 そう言いながらティミッド様はメモを書き連ねていく。予定でも書いているのだろうか。なんだか楽しそうだ。


「さて、到着までまだまだありますし、ゆっくりと雑談でもしながら向かいましょうか」



=====================



 何泊か宿に泊まりながら南へ向かい、馬車が目的地へ到着する。


「採掘場に到着したようですね。降りましょうか」


 窓からはゴツゴツとした岩肌が見える。かなり大きな鉱山のようだ。

 馬車から降りて辺りを見渡す。遠くの方では作業員らしき人達が作業をしているのが見えたが、それ以外の人の姿は見当たらない。

 ティミッド様によるとこの採掘場はカト領の収入源の一つらしく、産出量が多いこともあってそこそこ有名な場所らしい。

 私はティミッド様の後に付いていき、作業員の中でまとめ役のようなことをしている男性の元へ歩いていく。


「これはこれはティミッド様! 今日は何の御用で?」


 そう言って男性は作業の手を止めてこちらに寄ってきた。どうやら顔見知りの様子だ。


「こんにちは、ヴァリさん。今日は視察と取引に来たんです」


 ヴァリと呼ばれた男性は、その言葉を聞いてああ、と小さく声を上げる。

 がたいの良い中年の男性だ。日に焼けた褐色の肌が特徴的で、黒い髪が日焼けで少し茶色がかっている。


「視察と取引……ああ、例の件ですね。分かりました、詳しいお話は作業小屋の中で聞きましょう。どうぞお入りください」


 ヴァリさんが踵を返して歩き出す。

 ティミッド様が後ろを振り返り、私に着いてきて欲しいという仕草を見せたので、私はそれに素直に従う。ティミッド様がヴァリさんの背中を追いかけるような形で歩を進め、その後ろを私が追いかける形で作業小屋へと足を踏み入れた。

 小屋の中には所狭しと道具や採掘した鉱石が入った木箱が並んでおり、様々な種類の道具が壁にかけられたり地面に置かれていたりと物置状態になっている。

 ヴァリさんは私達に椅子に座るように促すと、自分もその向かい側に腰かけた。


「さてと、自己紹介が遅れてしまいましたね。私はヴァリ・バリエ・ナポス。ここテレ採掘場で現場監督をしております」


 ヴァリさんは私の方に向き直り、そう言って自己紹介を行う。私はそれに対して深々と礼をする。私もちゃんと自己紹介できたらいいんだけど、話せないからなぁ。

 すると、それを察してくれたのか、ティミッド様が私の分も挨拶をしてくれる。


「改めまして、視察と魔石の大量供給に関するお取引の件で参りました、当代カト侯爵のティミッド・ウィレー・パロスです。こちらは世話役のラリア。この度は忙しい中ご対応いただきありがとうございます」


 ヴァリさんはティミッド様の言葉を聞くと、一度うなずいた後で口を開いた。

 ちなみにティミッド様は、普段の弱々しい雰囲気からは想像できない程しっかりした受け答えをしている。こういう時はちゃんとしてるんだなーと思いながらその様子を眺めていると、ヴァリさんがティミッド様に質問を投げかける。


「ある程度のお話伺っておりますが、改めてお話を伺わせて頂いて宜しいでしょうか?」


 ティミッド様はあらかじめ用意していた書類を取り出し、目を通し始める。


「テレ採掘場の管理人からお話は来ているとは思いますが、今後の安定供給が必要となる可能性を考慮して採掘場から直接納品できるラインを整備したいとのことで、その下準備の為の視察を兼ねて、ということになります」


 そう言いつつティミッド様は書類を一枚捲り、これから行う予定のことについて続けた。新しい交通手段を作成する際に、魔石を努力源として利用する試みがあるため、魔石を輸入品としてだけでなく国内でも安定して供給できる仕組みや環境を作れるようにしたい、ということを説明する。

 それを聞いたヴァリさんは腕を組んで考えるようなポーズを取ると、なるほど、と一言呟いた。


「それはまた随分と大規模な計画になりそうですね。分かりました、その辺りについても今後調整を進めて行きましょう」

「よろしくお願いします」


 ヴァリさんは立ち上がると部屋の奥にある棚へと向かう。そこには大量の採掘されたであろう鉱石が積まれており、そこからいくつかの小さな袋を取り出すと、こちらへ戻ってきた。


「それから、別件で承っていたこちらの魔石の方です」


 そう言って、ヴァリさんは袋をティミッド様に手渡した。


「ありがとうございます。確認させて頂きますね」


 ティミッド様は預かった袋の口を開くと、中に入っている小さな魔石をいくつか確認して袋に戻した。

 私がその様子を見ているのに気が付くと、ティミッド様は私に微笑みを向ける。


「魔石を使用した魔法の発動や変化についてラリア様にお教えするように仰せつかっていまして、これはそのために別途用意して頂いたものなのです」


 と、ティミッド様は小さな声で私に囁いた。

 私が直接この採掘場に来た理由の一つがそれだった。侯爵であるティミッド様は国民の中でも魔力が強い方だし、見たことない魔法を見ることができるかも。

 なんて、少し期待してしまう。


「はい、確かに受け取らせて頂きました」

「そういえば、視察の方も行うという事でしたよね。領主自らが視察に来られるなんて早々ない事ですから奴らはびっくりするかもしれませんが、あまり気にしないでください」


 ヴァリさんが苦笑いを浮かべて言った言葉に、ティミッド様は笑顔で返す。


「えぇ、もちろん。自然な姿が見られれば僕としても助かりますので」


 そんなやり取りをしたのち、さて、と言いながらヴァリさんが席を立つ。


「それでは、採掘場の中をご案内いたしますね。どうぞこちらへ」


 ヴァリさんが部屋の奥へと歩いていくので、私達もそれに続いて歩いていく。作業小屋を出て案内に沿って進むと、山肌をそのまま利用して作られた通路が見えた。

 洞窟のような見た目をした通路を進んでいくと、採掘した魔石を運ぶための手押し車があちこちに鎮座している。

 さらに奥へと進むと、今度は大きな広場に出た。広場の中心には採掘された魔石が入った木箱がいくつも置かれている。木箱の大きさは様々だが、どれも大人一人分が入れるくらいのサイズだ。木箱の上には大きな布がかぶせてあるので中身は見えないようになっている。

 作業員の1人がこちらに気がついてわ、と小さく声を上げるが、ヴァリさんが人差し指を立てて口に当て「静かに」と制止すると少し狼狽えたように作業に戻った。

 しばらく作業を見守った後、私達は来た道を戻って先ほどの作業小屋まで戻ってくる。再び椅子に腰かけるように促すと、ヴァリさんはコップに水を注いでこちらに差し出してきた。

 私とティミッド様がそれを受け取ったのを確認すると、ヴァリさんは深々と頭を下げる。


「お疲れさまでした。大体こんな所ではありますが、他に回りたい場所などはございますか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「お役に立てたのなら良かったです。今後輸出以外の用途でこちらの魔石を利用する事になった際にはまたやり方を変えたり設備を整え直す必要があるかとは思いますが、それは次の機会にお願いできればと思います」

「そうですね、まだ正式に魔石の利用が決定したわけでもありませんので。今回お願いした分の魔石は後日使いの者が受け取りに参りますので、宜しくお願い致します」


 ティミッド様がそう言うと、ヴァリさんが再び頭を下げる。


「承知致しました。今後ともどうぞ、宜しくお願い致します」


 こうして、私の初めての視察は無事に終了した。

 その後、私達は採掘場を出ると、近くの宿へと向かった。もうすっかり日が落ちている。

 馬車の中で、ティミッド様は私にヴァリさんから受け取った袋を渡してきた。促されるまま私は袋を開け、中の魔石を一つ取り出す。

 透き通った蒼色の綺麗な石だ。採掘場で見かけた物と比べるとやはり小さい。小石程度の大きさだ。

 私が魔石を眺めていると、ティミッド様が魔石について説明をしてくれる。


「ご存知かとは思いますが、魔石は魔素が固まってできたものです。いわば魔法の発動を補助してくれる媒体ですね。今回は説明の為に頂いたものなので輸出に適さない小さなものを頂いてきたわけですが、これでも目に見えるくらいの変化はします」


 なるほど、と頷きながら私は魔石を袋に戻してティミッド様にお返しする。


「明日、僕の屋敷に戻ったらその効果と魔法について詳しくご説明させて頂きますね。……とはいえ、あまり専門的なご説明はできませんが」


 私自身は魔法が使えないし、あまり魔法を使うところを見る機会は無かったからちょっと楽しみだな。カト侯爵の屋敷も初めて訪問する事になるし、明日も色々と学ぶことが多そうだ。


 魔石の使用方法についてもそうだけど、ティーレ様の考えるデンシャの確立がどんな形になるか、まだまだ見当が付かないな。これからどうなっていくんだろう。

 宿に着き、部屋のベッドに横になりながら私はそんなことを考えるのだった。

お待たせして大変申し訳ありませんでした。

次回は10/2の更新を目指しています。

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