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転生令嬢は喋れない  作者: どりーむぼうる
第2章 話せない令嬢と読み取る女王
23/34

2-7:現実とは大抵残酷なもの

遅くなってしまい申し訳ありません。

「レディ・ラリア。お待ちしておりました」


 特訓の日々を終え、私は再び王宮へ赴きティーレ様の前に立っている。

 メーシス様と共にやってきた馬車に乗り、一人で王宮へ向かうと、流れるように応接室へ通される。


「申し出を受け入れて頂き本当にありがとうございます。歓迎致しますわ」


 あ、ありがとうございます。と、私は深々と頭を下げる。


「あら、そんなに畏まらないでください。これからは共に過ごすのですもの。仲良くいたしましょう?」


 そんなことを言われても、やっぱり女王の前となると平常心ではいられない。どうしても緊張してしまう。


「ふふっ、初々しくて大変可愛らしいですわ」


 ……褒められているのかな、これ。まあいいか……。

 改めて部屋を見渡す。相変わらず豪華な部屋だ。天井にはシャンデリアが飾られ、煌びやかなテーブルクロスのかかった大理石のテーブルにはこの前と同じように紅茶と茶菓子が置かれている。窓際には観葉植物が置かれ、金色の装飾が光を反射していて部屋が一段階明るく感じる。

 そんな明るい部屋に、ティーレ様の黒髪がよく映えていて思わず息を飲む。煌びやかな黒髪の事を緑色と表現したりするらしいのだけど、それはこういう色の事を言うのかな、等と思った。


「ふふ、ありがとうございます。貴方の白銀の髪もとても綺麗ですよ。羨ましいくらい」


 私の視線に気付いたのか、はたまた私の心を読んでか、彼女は自分の髪を撫でながらそんなことを言う。

 綺麗で、羨ましいくらい。そう言われると少し恥ずかしい気がして少し恐縮してしまう。


「あら? また畏まってしまいましたか?」


 クスクス笑うティーレ様。心を読まれていることが分かっているのでやりにくさを感じつつ、難なくコミュニケーションができるという有難味もあり、何だか複雑な気分だ。


「さて、挨拶もそこそこにして、本題に入りたいと思います。おかけになってください」


 そう言って、ティーレ様は私をソファに座るように促し、自らも向かいのソファに腰かけた。私が言われた通りに腰かけたのを確認すると、改まったように表情を引き締めて私を見る。その雰囲気の変化に思わず背筋が伸びてしまう。


「……単刀直入に聞きますが、王宮で働くことに異論はありませんか?」


 ……正直なところ、かなり迷いがあったし、それを捨てきれている訳ではない。でも、あのままくすぶってもどうにもならないし、王宮で働くことで何かが見えてくるかもしれない。そんなことを考えながら、私は頷く。


「なるほど。……いえ、ディグニから話は聞いていましたので、予想はしていました。貴方が呪いを解くことを諦めないであろうことは分かっています。ですから、その部分については私も異論はありません」


 そこまで分かっているのならわざわざ聞く必要は無いんじゃないかと思うけど、念のため確認ということだろうか。


「ただ、貴方が呪いを解きたいと願う気持ちは分かりますが、解呪は簡単なものではないでしょう。特に、今の現状では」


 確かにそうだ。現状、本当にこの呪いが魔法の類なのか、あの女神に出会えるのか、出会った所で解呪できるものなのか、そのすべてが分からない状態なのだ。言うなれば真っ暗な迷路をノーヒントで進もうとしている訳で、闇雲に動いたところで解決には程遠いだろう。


「それに、これは脅しになりますが……」


 ティーレ様が声のトーンを下げる。

 脅し? どういう事?


「貴方の呪いが解ければ、私は貴方を王宮に招く理由がなくなります。……それどころか、貴方は私達一族の秘密を洩らしかねない危険人物へ一瞬で早変わり」


 ……ちょ、突然怖い事を言うなぁ! というか、秘密を教えてくれたのは他でもないティーレ様なのにどうしてそんな仕打ちを……。


「もちろん、理不尽にお思いになるでしょう。私の勝手で貴方に色々な事を教えてしまいましたからね」


 そ、そうですよ女王。それはあまりにもあんまりですよ。


「ですが、私も何も考えず貴方にこのような待遇を与えたわけではありません。貴方の状況、この国の発展、様々な利点と欠点を考えての決定です」


 ……さ、流石に何も考えてない訳ではないとは思ってたけど、じゃあ、どうして……。


「貴方に呪いをかけたであろう女神……広義的には天使と言われる種族の生命体の事です」


 その言葉に、私は思わず目を見開く。もしかしてその女神について何か知ってるの……?


「いえ、知っている……というほどのものではありませんが、私も一国の王ですから、様々な情報を仕入れているのです。……それで、ですね。彼らが住む世界についてだけは何度か耳にしているのです」


 天使たちが住んでいる世界……? え、それが分かれば辿り着くのは難しくないんじゃ……。

 私がそう考えていると、ティーレ様は無言で上を指さした。……上? 上……えっと、あの世……? やっぱり死なないといけない場所って事……?


「それは半分正解で、半分間違いと言った所でしょう。彼らが住んでいるのは空の上、雲のもっと上にある結界に囲まれた天界に住んでいると言われています」


 雲の上……。それは、こう、物理的に空を飛ぶとか、そう言う事をしないといけない的な奴だろうか。そもそも空なんてどうやって飛ぶんだ。いや、魔法で空を飛んだりできるというのは聞いたことがあるけども。


「いえ、例え空が飛べても、地上の生物には視認ができない世界だとも言われています。つまり、文字通りの天上人であるという事です」


 そう言ってティーレ様は一度言葉を切り、私の目を真顔で見つめた。圧が凄い。 


「さて、そんな状況でどうやって彼らに会いに行きましょうか? 他の国のどこかにはもしかしたらその天界へ行く術があるかもしれませんが、そう簡単に見つかるものでしょうか。そして天界へ上手く行けたとして、貴方に呪いをかけた女神に会うことはできるのでしょうか」


 …………。そう言われると、本当に絶望的に思えてくる。正直さっきの脅しより全然効いたぞ、今の。


「少し意地悪な事を言ってしまったかもしれませんが、私の知る限り地上の生物が天界に行くことはできません。ですから、現実的ではないと言わせて頂くのです」


 そう……そうかぁ……。どうしよう、私もう話すことも文字を書くことも出来ないのかな……。そう思うと急に体の体温が奪われたような気分に襲われる。なんだか、いつもあっさりと望みが打ち砕かれてしまっている気がする。


「……ですから、そんな無謀な事をせずに、ここで不自由ない生活を送りませんか? 私にとっても貴方の知識は有益です。互いに利のある提案でしょう?」


 そう、なのかもしれない。また自分の進むべき道が分からなくなってきた。上手く言いくるめられてるだけのような気がしなくもないんだけど、彼女の言ってることはおそらく嘘ではない。

 それなら、やっぱり彼女の言う通り王宮で過ごすのが一番なのだろうか。


「すみません。また困らせてしまいましたね。……ですが、貴方の望みを叶えるのは難しい事です。貴方を一族の秘密を知る危険人物扱いする可能性があっても、貴方にこの役割を与えたのは合理性を考えての事なのです」


 ……分かった。うん、完全に納得というか、諦めることは出来てないけど。でもティーレ様の意図は分かったし、現状それが合理性のある選択であることも分かった。だから、私がここにいるのも正しい選択なはずだ。うん。


「……ありがとうございます。分かって頂けて嬉しいです」


 ティーレ様の言葉を聞いて、私は大きく息を吐く。これで良かったんだと自分に言い聞かせながら。


「勿論、貴方の呪いを解く手段について何か明確な進展があれば、その時はまた改めて話し合いの場を設けましょう」


 私はそれに小さく返事をして、お茶を口に含む。すっかり冷めてしまった紅茶はそれはそれで美味しいのだけど、美味しさを感じられるような余裕は今の私にはなかった。


「さて、では今後の話をしましょう。まず、貴方にはこれから王宮に住み込みで働いて貰います。私の側近として、身の回りの事を中心に行って頂きますが、その他にももう一つ。貴方の前世の知識を私に色々と教えてください。天上人が貴方に呪いをかけてまで口封じをした東洋の知識。これは私達一族にしか開くことのできないパンドラの箱なのですから」


あー……。確かにそうだった。その事を忘れていた訳じゃないけど、ティーレ様に言われてしまうとやっぱり思い出してしまう。


「……どうしました? 何か問題でもありましたか」


ティーレ様が不安げにこちらを覗き込んで来る。……これは誰にも伝えてなかった……いや、伝えられなかった事だから当たり前なのだけど。前世の私の記憶は、こう、あまり思い出したいモノではないのだ。だから出来るだけ思い出そうとしてこなかったわけなのだけど。


「辛い過去だったのですね。……成程。技術革新の為にできれば聞きたかったのですが、思い出すのに苦痛を伴うのであれば強要は出来ませんね……」


 あ、いや……。思い出したいモノでは確かにないんだけど、いつかは向き合わないといけないモノでもあるのかなとも思っていたから、今がその時なのかな、とも思うんだよね。

 だって、この記憶のせいでこんなに苦労してるのに、それに蓋をしたら本当にタダの足かせにしかなってないし……。


「そうですか……? それでしたら、有り難く覗かせて頂きます。……もしかしたら、共有することで少しは楽になれるかも知れないですしね」


 ティーレ様が微笑みながら言う。なるほど、共有か。確かにそう考えれば、あの黒歴史に近い前世も多少見れたものになるかもしれない。


「……とはいえ、それはまた別の機会に致しましょう。今日は移動もあってお疲れでしょう? 今日はゆっくりお休みになって、明日からお仕事をお願い致しますね」


 私はその言葉に素直にうなずく。ティーレ様はそんな私の様子を見て満足そうに笑う。


「それでは、また明日から宜しくお願い致します」


 そう言って、部屋の外にいるメーシス様に声をかけ、メーシス様が部屋に入ってくる。


「では、ラリア様。部屋までご案内いたします」


 案内に従って、私は席を立った。ちらりとティーレ様の方に視線を向けると、ティーレ様は微笑みながら小さく手を振った。

 明日から王宮で働くのか。何だか未だに実感が湧かない。多分暫くはそうなんだろうな……。そんなことを考えながら、私は応接室を後にした。


 王宮での生活が始まる。

遅くなり大変申し訳ありません。

8/15までには更新します。

宜しくお願い致します。

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